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【高校編】分岐・鹿王院樹

運命の歪み

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 水着の件で樹くんに大層叱られて、というか「おしおき」されてといいますか、何といいますか……まぁその翌日から、樹くんはーーというよりは、スポクラメンバーの大半は離脱した。

「大変だよね」

 大村さんが朝ごはんを食べながら言う。パンとサラダとフルーツ。

「今日から一週間、練習試合でこの辺まわるんでしょ」
「サッカー部はクラブのユースチームと練習試合だって言ってた」

 私の答えに、大村さんは首を傾げた。

「この辺りってサッカー強いの?」
「強いみたいだよ」

 よくわかんないけど、と思いながら私はエビを食べる。むしゃり。

「……よく、朝からそんなコッテリした味付けのエビがはいるよね」
「?」

 エビは朝昼晩、いつでも美味しいのではと思います。むしゃり。

 ブッフェ朝食で散々エビを食べた後は、バスでイストラ半島まで移動。一昨日と同じガイドさんが街中を歩きながら説明してまわってくれる。石でできた綺麗な街並み。

(樹くんと来たかったなぁ)

 なんて思ってしまった。まぁ、この旅行ではそもそも班が違うんだけど。
 案内されたカフェでお昼をいただいて、別の街も観光してホテルへ戻る。
 夕食へ向かおうとしていると、仁が私を手招きした。

「? なぁに」
「落ち着いて聞け、鹿王院が試合中に頭を打って意識がないらしい」

 私はぽかんとした。いまいち、内容が耳に入らなくて。えっ?

「命に別状はないらしい……って、どこ行くんだお前」
「病院! 当たり前でしょう!」

 私は仁の腕を振り払おうとする。

「どこか知らねーだろが、まったく!」

 はっとして立ち止まった。

(どうしよう、私、パニックだ」

 完全に頭が回ってない。
 仁は私の腕を引く。

「一緒に行く、いいな?」

 私はこくりと頷いた。
 手の先がーーううん、心臓まで冷えてる。こわい。私は震えを止められなかった。

("ゲーム"でこんな展開あったっけ?)

 道中、タクシーの中で私は考える。
 そんな展開は、無かった。そもそも修学旅行自体がゲームでは描かれてなくて……。これは"ヒロイン"と学年が違うから、仕方ないんだけれど。
 でも、と。私は嫌なことを考えてしまう。

("運命"を、乱したから)

 私が"運命"に従わなかったから、その「ゆがみ」もしくは「ひずみ」だろうか……そんな風な物みたいなのが、樹くんにこんなことを起こさせたんじゃないかな、って。
"悪役令嬢"である私ーー設楽華は、鹿王院樹を手に入れられない"運命"なんじゃないか、って。
 そんな風に、考えてしまったのだ。

(やだよ)

 ぎゅっ、と唇を噛み締めた。
 私は樹くんを失いたくない。



「大げさです」
「意識不明としか連絡来てなかったからさー」

 謎の師弟関係(?)である仁と樹くんは気軽な感じで話している。私はすっかり力がぬけて、へなへなとベッド脇の椅子に座り込んだ。
 念のため検査してたらしい。ベッドで普通に座ってジュースを飲んでいた樹くんは、申し訳なさそうに私を見た。
 試合中だったからか、ユニフォームのまま。

「心配かけたな。軽い脳震盪だ。キャッチングの時に相手とぶつかって、空中でバランスを崩したんだ」

 それで頭から落ちた、と樹くんは淡々と言う。

「頭より、首の方が痛い。軽い捻挫だそうだ」

 そう言って、樹くんは首をさする。白い湿布が痛々しかった。

「うー」

 安心すると、涙腺が一気にゆるんだ。ぽろぽろと涙が溢れる。

「まぁ念のため、2、3日安静にだそうだが」
「うう、ぐすっ、よかった」

 樹くんはぽんぽん、と頭を撫でてくれる。

「これからどうすんだ?」

 仁が聞く。

「今泊まっているホテルを延泊して、様子を見ようと思います」

 樹くんが仁に言う。

「そのほうがいいだろうなー。部の監督さんはなんだって?」
「とりあえず4日後に合流しようかと」
「おけ。とりあえずホテル押さえるわ。スマホもないだろ今」
「お手数かけます」

 部屋を出る仁に、ぺこり、と樹くんは頭を下げた。

「……私も残る」
「華?」

 樹くんは首を傾げた。

「せっかくの修学旅行なのに、」
「楽しめないもん!」

 私は樹くんを睨みつける。涙目で。

「全然楽しめないもん!」
「だが、いても詰まらないと思うぞ? ホテルから出ないし」
「楽しいもん!」

 唇を尖らせて、子供みたいにただをこねる。樹くんは苦笑して、それから「じゃあ看病してもらおう」と私の頬に触れた。私はその手に擦り寄るように、そっと目を閉じる。

 樹くんが無事で良かった。何事もなくて、本当に良かった。"運命"なんて関係なくて、良かった。関係、ない、よね?

「華、もう泣かないでくれ」

 樹くんが困った声で言う。

「大丈夫だから、お願いだ」
「……うん」

 ぐすぐす、と鼻を鳴らしながら(格好悪いなぁ、私)顔を上げる。

「ほら、笑ってくれ、華」

 樹くんが言う。

「俺は華の笑い顔が好きだから」

 そう言われて、私はめちゃくちゃぎこちなく微笑んだ。樹くんも、ふ、と笑う。

「場合によっては泣き顔も好きだがな」
「もう!」

 私は樹くんの膝を叩いた。こんな時に、もう!
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