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【高校編】分岐・鍋島真
戀(こい)(side真)
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ハラワタが煮えくりかえる、ってのを久々に感じていた。
(冗談?)
関係ない、と僕はバイクを飛ばす。もう2年近くは乗ってる中型バイク。難なく動かして、車列を追い越していった。
赤信号にひっかかり、いらつく。
(華にあんな、)
本気で怖がってる声。あんな思いをさせて!
そもそも、だから秋田さんに近づいて欲しくなかったんだ。
もれなく岩手さんが付いてくるーーあの人はなんていうか、メンドクサイ人だ。僕と親しくしようとするし(下心とかはなさそうだけど)だからいつも、てきとーに流してる。
試合が終わって(負けたので、終わってしまって、のほうがいいのかもしれない)華を探しに行ったけど既にいなかった。スマホに連絡しても、電源が切られていた。
探し回ってロッカールームに戻って、そこでスマホ越しの華の声を聞いたーー背筋が凍った。比喩ではなく、冷たくなった。
目的地にたどり着いて、乱暴にオートロックの自動ドア、その解除キーを押す。
開いた自動ドアをすり抜けて、その先にもう一つの自動ドア、こっちはーー鍵が必要だった。舌打ちしながら部屋番号を押す。
『はーい』
のんびりした華の声。
ふと、気が抜けた。
『先にお邪魔してますよ~』
「……そう」
開いた自動ドアから入って、エレベーターに乗り込んだ。
ふと、自分が剣道着のままだと気がつく。臭いだろうなぁ。試合後だしな。まぁいいか、なんて思った。
秋田さんの部屋のドアを乱暴に開けると、同時にクラッカーが鳴った。数人の部活関係者。中央にいるのは華で、にっこにこしながらクラッカーを握っていた。
「お誕生日おめでとうござむぐっ」
思い切り、華を抱きしめる。
(別にさ、)
無事なのは分かってたんだよ。ちゃんと大丈夫なのは知ってたんだよ。
(でも、あんな声を聞いて、あんな姿を見て)
平静でいられるほど、僕はカシコイ人間じゃないんだーー。
「ま、ままま真さん!?」
「岩手さん、僕マジで怒ってますよ」
華を腕に閉じ込めたまま、僕は言う。
「えー、でも楽しかったよね? 華ちゃん」
「あ、はい! 楽しかったです! 料理もたくさん作って」
僕はぴくりと肩を揺らした。
「料理?」
「? はい、岩手さんと秋田さんと、色々作りました」
にっこり、と僕を見上げる華。その頬には赤味がさしていて、……僕に抱きしめられてるからか、はたまた今日が本当に楽しかったからか。
「……岩手さん、今日は華が楽しかったみたいなので、今日の件に関しては判断を保留します」
「許してくれるわけじゃないのね~。ま、いいか! ほら入って入って」
腕の中から華を離さずに(半分引きずるみたいに)リビングへ向かう。
ソファの前、大きめのローテーブルの上に、所狭しと並べられた料理たち。
「どれを作ったの? 華」
「えーと、作り方教えてもらいながらですけど、あのキッシュと」
「他の人は絶対に食べないでください」
「!? なんでですか!?」
華は心外だ! という顔で僕を見上げた。
「僕はね、好きな子のものはなんでも独占したいタイプなの」
ひゅう、と声が上がった。ていうか、岩手さんだけど。ほんとめんどくさいなほんと。軽く睨む。
「す、すすすすすすす好き」
華はひとりで赤くなったり青くなったり忙しそうだった。無視して、僕はローテーブルのキッシュの前にあぐらをかいて座って、その膝の上に華を乗せて後ろから抱きしめる。
他の人はなんだか妙な顔をしながら、ぞろぞろと同じように座った。
「あのう、そろそろ離してもらえませんか」
「嫌だ」
つん、と僕は言う。
「僕は死ぬかと思った。あんな華見せられて」
「あんな?」
不思議そうに、華は首を傾げた。ちょうど秋田さんが注いでくれたオレンジジュース、そのグラスを持って僕は飲み干した。喉が渇いていたことに、いまやっと気がついた。
「写真ですか?」
「動画だったよ。助けて、って」
かああああ、と華はまた赤くなる。
「あは、茹で蛸。タコ華」
「へ、へんな呼び方をしないでくださ、あ、あれ動画!? 動画だったんですかぁ!?」
情けない声で華は言う。
「どこからどこまで!? あああああ記憶から消して! 消してください!」
華はさらに真っ赤になって顔を覆う。
「え、助けて真さんって」
「いやああああ」
華は僕の膝の上で小さく丸まってしまった。
「むり……もう無理、帰ります」
「外もうくらいからね、送るよ。あとで。キッシュ食べ終わったら」
「ううう」
僕はもうほんとにこの子が愛しくてたまらない。なにそれ嘘でしょ何なのその反応。期待していいの? するよ?
ちょうどその時、さっき僕に動画を見せてくれちゃった友人が入ってきた。
「うお、鍋島……結局機嫌良さそうだな」
「まぁね」
僕は肩をすくめる。そいつは華をちらりと見て、「あ、どーも」とふつうに挨拶した。華は慌てて頭を下げている。
「なんで膝の上なの」
「逃げるから」
「あ、そー……つか、可愛いな、彼女」
そいつは笑いながらそう言った。腕の中で、華がぴくりと身体を揺らして服を握っていた。胸のところ。相変わらず顔は真っ赤で。
「? どうしたの?」
「いえ、その……最近不整脈的なのが……」
「は!? なにそれ大丈夫なの?」
「ごめんそれ、なんの病気か知ってるよあたし」
缶ビール片手に、岩手さんはニヤニヤ笑う。
「いとしいとしと言う心、なんつって」
「?」
きょとんとする華を、僕はもう一度抱きしめる。ほんとに愛おしくてたまらない。
(冗談?)
関係ない、と僕はバイクを飛ばす。もう2年近くは乗ってる中型バイク。難なく動かして、車列を追い越していった。
赤信号にひっかかり、いらつく。
(華にあんな、)
本気で怖がってる声。あんな思いをさせて!
そもそも、だから秋田さんに近づいて欲しくなかったんだ。
もれなく岩手さんが付いてくるーーあの人はなんていうか、メンドクサイ人だ。僕と親しくしようとするし(下心とかはなさそうだけど)だからいつも、てきとーに流してる。
試合が終わって(負けたので、終わってしまって、のほうがいいのかもしれない)華を探しに行ったけど既にいなかった。スマホに連絡しても、電源が切られていた。
探し回ってロッカールームに戻って、そこでスマホ越しの華の声を聞いたーー背筋が凍った。比喩ではなく、冷たくなった。
目的地にたどり着いて、乱暴にオートロックの自動ドア、その解除キーを押す。
開いた自動ドアをすり抜けて、その先にもう一つの自動ドア、こっちはーー鍵が必要だった。舌打ちしながら部屋番号を押す。
『はーい』
のんびりした華の声。
ふと、気が抜けた。
『先にお邪魔してますよ~』
「……そう」
開いた自動ドアから入って、エレベーターに乗り込んだ。
ふと、自分が剣道着のままだと気がつく。臭いだろうなぁ。試合後だしな。まぁいいか、なんて思った。
秋田さんの部屋のドアを乱暴に開けると、同時にクラッカーが鳴った。数人の部活関係者。中央にいるのは華で、にっこにこしながらクラッカーを握っていた。
「お誕生日おめでとうござむぐっ」
思い切り、華を抱きしめる。
(別にさ、)
無事なのは分かってたんだよ。ちゃんと大丈夫なのは知ってたんだよ。
(でも、あんな声を聞いて、あんな姿を見て)
平静でいられるほど、僕はカシコイ人間じゃないんだーー。
「ま、ままま真さん!?」
「岩手さん、僕マジで怒ってますよ」
華を腕に閉じ込めたまま、僕は言う。
「えー、でも楽しかったよね? 華ちゃん」
「あ、はい! 楽しかったです! 料理もたくさん作って」
僕はぴくりと肩を揺らした。
「料理?」
「? はい、岩手さんと秋田さんと、色々作りました」
にっこり、と僕を見上げる華。その頬には赤味がさしていて、……僕に抱きしめられてるからか、はたまた今日が本当に楽しかったからか。
「……岩手さん、今日は華が楽しかったみたいなので、今日の件に関しては判断を保留します」
「許してくれるわけじゃないのね~。ま、いいか! ほら入って入って」
腕の中から華を離さずに(半分引きずるみたいに)リビングへ向かう。
ソファの前、大きめのローテーブルの上に、所狭しと並べられた料理たち。
「どれを作ったの? 華」
「えーと、作り方教えてもらいながらですけど、あのキッシュと」
「他の人は絶対に食べないでください」
「!? なんでですか!?」
華は心外だ! という顔で僕を見上げた。
「僕はね、好きな子のものはなんでも独占したいタイプなの」
ひゅう、と声が上がった。ていうか、岩手さんだけど。ほんとめんどくさいなほんと。軽く睨む。
「す、すすすすすすす好き」
華はひとりで赤くなったり青くなったり忙しそうだった。無視して、僕はローテーブルのキッシュの前にあぐらをかいて座って、その膝の上に華を乗せて後ろから抱きしめる。
他の人はなんだか妙な顔をしながら、ぞろぞろと同じように座った。
「あのう、そろそろ離してもらえませんか」
「嫌だ」
つん、と僕は言う。
「僕は死ぬかと思った。あんな華見せられて」
「あんな?」
不思議そうに、華は首を傾げた。ちょうど秋田さんが注いでくれたオレンジジュース、そのグラスを持って僕は飲み干した。喉が渇いていたことに、いまやっと気がついた。
「写真ですか?」
「動画だったよ。助けて、って」
かああああ、と華はまた赤くなる。
「あは、茹で蛸。タコ華」
「へ、へんな呼び方をしないでくださ、あ、あれ動画!? 動画だったんですかぁ!?」
情けない声で華は言う。
「どこからどこまで!? あああああ記憶から消して! 消してください!」
華はさらに真っ赤になって顔を覆う。
「え、助けて真さんって」
「いやああああ」
華は僕の膝の上で小さく丸まってしまった。
「むり……もう無理、帰ります」
「外もうくらいからね、送るよ。あとで。キッシュ食べ終わったら」
「ううう」
僕はもうほんとにこの子が愛しくてたまらない。なにそれ嘘でしょ何なのその反応。期待していいの? するよ?
ちょうどその時、さっき僕に動画を見せてくれちゃった友人が入ってきた。
「うお、鍋島……結局機嫌良さそうだな」
「まぁね」
僕は肩をすくめる。そいつは華をちらりと見て、「あ、どーも」とふつうに挨拶した。華は慌てて頭を下げている。
「なんで膝の上なの」
「逃げるから」
「あ、そー……つか、可愛いな、彼女」
そいつは笑いながらそう言った。腕の中で、華がぴくりと身体を揺らして服を握っていた。胸のところ。相変わらず顔は真っ赤で。
「? どうしたの?」
「いえ、その……最近不整脈的なのが……」
「は!? なにそれ大丈夫なの?」
「ごめんそれ、なんの病気か知ってるよあたし」
缶ビール片手に、岩手さんはニヤニヤ笑う。
「いとしいとしと言う心、なんつって」
「?」
きょとんとする華を、僕はもう一度抱きしめる。ほんとに愛おしくてたまらない。
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