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【高校編】分岐・黒田健
確信(side健)
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新聞報道によると、設楽の親父さんが亡くなったのはもう11年前ーー設楽がまだ4歳だった時の話、らしい。となれば、俺も4歳なんだけれど。
「オレねー、11年前か。その時まだ交番勤務だったんだけど」
リビングの机の上、新聞記事を前に、親父は言う。
「京都であった国際会議の警備の応援に、こっちから派遣されたわけ」
そこで、設楽の親父さんと知り合ったらしい。
「良い人だったよ。交通機動隊のエース格の人で、白バイびゅんびゅん乗るの」
「設楽には似てねーな」
チャリすらゆっくりしか乗らない。
「身体も大きかったし、……お母さんがどちらの方だったのかなぁ、ハーフのイケメンでね」
「じゃあ華ちゃん、クォーターなのね。通りで色白美人さん」
北欧とか、そっち系なのかもな、と俺は思う。だから強い日光に弱いのかもしれない。
「まぁその会議からしばらくして、オレもこっちに戻ってきててーー非番の日だったから、家でゴロゴロしてたわけ。お前幼稚園で、かーさんお仕事でいなくて」
「おう」
「そしたらさ、京都な、お花見中継やってたんだよ。テレビで」
「あー」
たまに見かける。
「そのうちに、悲鳴なんか聞こえてきてーー日本刀持った男が、次々と人を斬りつけて」
「なんだそれ、しらねー」
「お前、小さかったからなぁ」
ニュースとかも見てないと思う、と親父は言う。
「普通日本刀って、3人くらいしか斬れないんだけどね、まぁちゃんと斬ってるわけじゃなくて振り回りてるだけだったから」
それでも、と親父は続けた。
「責任能力どうの、って後で問題になったけどなーー明らかに、女性と子供だけ狙ってて」
俺は舌打ちをこらえた。「誰でも良かった?」なら、ヤクザの事務所にでもカチコミしたらいい。女子供狙ってる時点で、「誰でもいい」んじゃなくて「自分より弱いのを殺したかった」んだろーがよ、と思う。
「そこにね、非番の設楽さんがたまたま居合わせたんだって。ご家族で……奥さんとお子さんーーこれ、華さんなんだろうね、3人で」
俺は黙って続きを待つ。
「設楽さんは奥さんと華さんに逃げるように指示してから、自分は男に向かっていったらしい。結局、もみ合った末に設楽さんが確保したんだけど、その時日本刀で思い切り刺されたみたいでね……」
親父は黙った。俺は頷く。
「華さんは知ってるのかな?」
「いや、しらねーと思う」
言うべきなのだろうか?
(設楽のばーさんが、俺が警官になるっつった時の反応の理由が分かった)
たしかに、死ぬ確率は一般の人より高いと思う。けれど、でも、俺は警官になりたいと思う。それが、俺にとってとても自然なことだから。
「まぁ、言うか言わないかは任せるよ」
「……おう」
そう返事をして、それからお礼を言ってから俺は部屋に戻った。
机の上のスマホを見る。設楽からのメール。
『そういえば、水着買いに行ったんだよ』
添付された写真。俺はやっぱり設楽が可愛すぎて眉間を深くした。
ただでさえ色白なのに、普段日に当たっていない腹や足は余計に白い。
「……これ、あいつらに見せたくねーなー……」
あいつら、だけじゃねーな。
……根岸たちだけじゃなくて、海にいる他のオトコ共全員だ。誰にも見せたくない。
相変わらずの独占欲、どうしたって設楽を独り占めしておきたい。
水着姿なんか、絶対見せたくない。
(けどなぁ、)
せっかく選んで買ったやつなんだしなぁ、上からTシャツなんか着たくねーだろうなぁ。中学の時は着せてしまったけれど……。
(あんまりにも視線が酷かったら着せよう)
俺はそう思う。
なんだか設楽はやたらと綺麗だし、スタイルもいい(という言い方でいいのか分からないが、俺はほかに語彙の持ち合わせがない)ので普段からヒトの視線が集まるのだ。
本人は鈍感なのか、もう慣れてしまっているのか、ほとんど気づく素振りすらない。
露骨なものは、さすがに嫌がっているとは思うけれど。
とりあえずは返信する。
『似合ってる。可愛い』
とにかく語彙量が少ない。もっと褒め方もあるだろうに、と思うけれど、ストレートにしか言えない。
(ほんと、なんで俺なんだろ)
時々不思議になる。
超をいくつ重ねても足りないくらいのお嬢様で、キレーで頭もいいのに。いや、ぼーっとはしてるけど。
(そこもいいんだけど)
俺は思う。まぁ設楽の「素敵」なとこは、そんな表面的なものじゃない。もっと中身。人間性? 性格? うまく言い表せられないけれど。
ふと、思い出す。この間のこと。
"私が全然別の誰かになっちゃっても"
変わらないだろう、俺はそう思う。
関西弁の設楽。これから先、昔の記憶を、取り戻して、そうしたら、そんな言葉遣いになるんだろうか? ……なんだか似合わねーな。
(まぁ、設楽は設楽だ)
関西弁だろうが、英語だろうが、何話してたって構わない。
例えなにがあっても、俺は、設楽は設楽なんだろうと確信している。
「オレねー、11年前か。その時まだ交番勤務だったんだけど」
リビングの机の上、新聞記事を前に、親父は言う。
「京都であった国際会議の警備の応援に、こっちから派遣されたわけ」
そこで、設楽の親父さんと知り合ったらしい。
「良い人だったよ。交通機動隊のエース格の人で、白バイびゅんびゅん乗るの」
「設楽には似てねーな」
チャリすらゆっくりしか乗らない。
「身体も大きかったし、……お母さんがどちらの方だったのかなぁ、ハーフのイケメンでね」
「じゃあ華ちゃん、クォーターなのね。通りで色白美人さん」
北欧とか、そっち系なのかもな、と俺は思う。だから強い日光に弱いのかもしれない。
「まぁその会議からしばらくして、オレもこっちに戻ってきててーー非番の日だったから、家でゴロゴロしてたわけ。お前幼稚園で、かーさんお仕事でいなくて」
「おう」
「そしたらさ、京都な、お花見中継やってたんだよ。テレビで」
「あー」
たまに見かける。
「そのうちに、悲鳴なんか聞こえてきてーー日本刀持った男が、次々と人を斬りつけて」
「なんだそれ、しらねー」
「お前、小さかったからなぁ」
ニュースとかも見てないと思う、と親父は言う。
「普通日本刀って、3人くらいしか斬れないんだけどね、まぁちゃんと斬ってるわけじゃなくて振り回りてるだけだったから」
それでも、と親父は続けた。
「責任能力どうの、って後で問題になったけどなーー明らかに、女性と子供だけ狙ってて」
俺は舌打ちをこらえた。「誰でも良かった?」なら、ヤクザの事務所にでもカチコミしたらいい。女子供狙ってる時点で、「誰でもいい」んじゃなくて「自分より弱いのを殺したかった」んだろーがよ、と思う。
「そこにね、非番の設楽さんがたまたま居合わせたんだって。ご家族で……奥さんとお子さんーーこれ、華さんなんだろうね、3人で」
俺は黙って続きを待つ。
「設楽さんは奥さんと華さんに逃げるように指示してから、自分は男に向かっていったらしい。結局、もみ合った末に設楽さんが確保したんだけど、その時日本刀で思い切り刺されたみたいでね……」
親父は黙った。俺は頷く。
「華さんは知ってるのかな?」
「いや、しらねーと思う」
言うべきなのだろうか?
(設楽のばーさんが、俺が警官になるっつった時の反応の理由が分かった)
たしかに、死ぬ確率は一般の人より高いと思う。けれど、でも、俺は警官になりたいと思う。それが、俺にとってとても自然なことだから。
「まぁ、言うか言わないかは任せるよ」
「……おう」
そう返事をして、それからお礼を言ってから俺は部屋に戻った。
机の上のスマホを見る。設楽からのメール。
『そういえば、水着買いに行ったんだよ』
添付された写真。俺はやっぱり設楽が可愛すぎて眉間を深くした。
ただでさえ色白なのに、普段日に当たっていない腹や足は余計に白い。
「……これ、あいつらに見せたくねーなー……」
あいつら、だけじゃねーな。
……根岸たちだけじゃなくて、海にいる他のオトコ共全員だ。誰にも見せたくない。
相変わらずの独占欲、どうしたって設楽を独り占めしておきたい。
水着姿なんか、絶対見せたくない。
(けどなぁ、)
せっかく選んで買ったやつなんだしなぁ、上からTシャツなんか着たくねーだろうなぁ。中学の時は着せてしまったけれど……。
(あんまりにも視線が酷かったら着せよう)
俺はそう思う。
なんだか設楽はやたらと綺麗だし、スタイルもいい(という言い方でいいのか分からないが、俺はほかに語彙の持ち合わせがない)ので普段からヒトの視線が集まるのだ。
本人は鈍感なのか、もう慣れてしまっているのか、ほとんど気づく素振りすらない。
露骨なものは、さすがに嫌がっているとは思うけれど。
とりあえずは返信する。
『似合ってる。可愛い』
とにかく語彙量が少ない。もっと褒め方もあるだろうに、と思うけれど、ストレートにしか言えない。
(ほんと、なんで俺なんだろ)
時々不思議になる。
超をいくつ重ねても足りないくらいのお嬢様で、キレーで頭もいいのに。いや、ぼーっとはしてるけど。
(そこもいいんだけど)
俺は思う。まぁ設楽の「素敵」なとこは、そんな表面的なものじゃない。もっと中身。人間性? 性格? うまく言い表せられないけれど。
ふと、思い出す。この間のこと。
"私が全然別の誰かになっちゃっても"
変わらないだろう、俺はそう思う。
関西弁の設楽。これから先、昔の記憶を、取り戻して、そうしたら、そんな言葉遣いになるんだろうか? ……なんだか似合わねーな。
(まぁ、設楽は設楽だ)
関西弁だろうが、英語だろうが、何話してたって構わない。
例えなにがあっても、俺は、設楽は設楽なんだろうと確信している。
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