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【高校編】分岐・鹿王院樹

お友達(side樹)

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「お、お友達はこんなことしないんだよう」
「そうだな、しないだろうな」
「そうだよう、しないよ……」
「しかし、"ラブラブな許婚"なんだろう?」
「て、撤回! 前言撤回! お友達だよ! だから」
「やめない。前言撤回もさせない」
「うう……ひゃっ、お友達はそんなところ触らないよ!」
「そうだな、触らないだろうな」
「うー、うー、もう、樹くん、ずるいよ」
「なにがだ」
「ずるい」
「ずるいのは華だ。こんなに可愛くて、」
「もー、ヤダ」
「嫌なのか?」
「やじゃない、やじゃないけど、ヤダ」
「滅茶苦茶だなぁ、……華が悪い」
「なんで」
「不安になんかなるから」
「や、だって、あ」
「言っているだろう、華以外、見えないと」
「うんっ、分かったっ、分かったからぁ」
「華」

 華を抱きしめる。涙目だった。

「よくよく理解できたか?」
「……はーい」

 軽く頭を撫でる。華は少し、気持ちよさそうに目を閉じた。愛しい華。
 俺の部屋の、ソファの上、そこで俺は岡村に言った「華の身体に教え込む」を実践していた。まぁ、大したことじゃない。多分……。最近感覚が麻痺してる自覚はある。
 華は、急にがばり、と起き上がる。

「どうした?」
「い、樹くん、クロアチアでさ」
「うむ」
「海水浴、あるよね……?」
「あるな」

 うむ、と俺は頷いた。修学旅行はクロアチアとスロベニア、2週間。
 最も俺は、半分は練習試合で華と一緒にいられない。スポクラの生徒はほとんどそうだ。現地の学校やクラブチームとの交流試合や練習試合が組まれていた。
 そもそもクラスが違うので、班すらも違うのだが……まぁそこはなんとか、一緒に過ごしたいとは思っている。

「き、消えるかな? 3日で」

 キスマーク、と消え入るように言う華。

「大丈夫だろう、服で隠れる」
「水着だよ!? ビキニだもん! 見えちゃうよ! 背中どうなってるの今、私!?」

 半分蒼白になって言う華に、にこりと微笑む。白い華の背中ーーというよりは、腰に咲いたキスマーク、数点。
 少しばかり手荒だが、それだけハッキリ教え込まなくてはいけないと思ったのだ。
 俺が誰を見てーーいや、誰しか見えていないのか。

「大丈夫だ、薄くしかつけてないから」

 嘘だ。くっきりとつけたそれは、独占欲の印。華が誰のものか、知らしめるためのもの。

(というか、)

 ビキニか。ビキニなのか。友人とお揃いのにしたんだ、と楽しそうではあったが。

「ほんとー? なら、大丈夫かな」

 華はくるりと振り返った。ちょっとニヤついている。

「ねーねー、理性くんはお出かけ中?」
「頑張っているところだ」

 俺は肩をすくめた。

「ちぇー。最近頑張ってるよね~」
「崩壊気味だがな」
「あ、じゃあもうちょっと?」
「華」

 苦笑して続けた。

「お友達じゃないのか、俺たちは?」
「特別なお友達だからねっ」

 嬉しそうに華は言う。

「そうだろうか」
「そーだよー」

 少し拗ねたような表情。心臓がはねた。

「……結婚したら、な」

 本当は、いつも手を出してしまいたいのだけれど。やはり、「きちん」としたほうがいいと思う。お互いのためにも。

(もし、)

 子供なんてできた時には、どんなに俺が背負いたくとも、リスクもカラダへの負担も、ほとんど華が背負うのだから。

「ねー、もー古風だよねー」

 華はふと笑って、首を傾げた。

「でもそんなとこも、好きかも」
「ではあまり俺の理性を試すようなことはしないように」
「ほんとは歓迎だって言ってたくせにー」
「アレは言葉の綾だ」
「えー」

 くすぐるように笑う華。

「じゃー、やっぱりそれまではお友達だね、そうじゃないと私、樹くん襲っちゃうからね」
「そんなことを言いながら、散々人を煽ってくるくせに」
「えへへー」

 自然に、幸せだと思う。俺は祈る。華に、ほかに思うような人ができてしまわないことを。
 この間、華と書庫を片付けたときーーあの時に出た、華のご両親の話。許婚を捨て、駆け落ちした華のご母堂。

(華に、)

 華にもし、ほかに思う人ができたのなら、華もそうするのだろうか?
 そんなことはありえない、そう思いながらも苦しくなる。

「樹くん?」

 華は俺の顔をのぞきこむ。

「どうしたの? どっか痛いの」

 心配そうな声で言われて、俺は頷く。

「痛い」
「え、どこが? 怪我した? お腹? 大丈夫?」
「胸が」
「胸っ!? どうしたの大丈夫?」

 飛び上がらんばかりにオロオロする華を、そっと抱きしめた。

「樹くん?」
「こうしていたら、治るから」
「ほんとに? ほんとうに?」

 なにか病気とかじゃないよね、そう言ってほとんど涙目になる華。

(ああ、)

 大丈夫だ。俺は少し落ち着く。

(華は俺を好いてくれている)

 そう思うと、ひどく落ち着いた。抱きしめる手に、力をこめた。華のかおり。華のあたたかさ。

(俺はずるい)

 はからずも、さっき華が言った通り、だ。ほかの誰も、華に近づいて欲しくない。幼馴染だったはずの、リュカにさえそれをやめさせた。薄汚い嫉妬心でーー。

「樹くんにもね」

 華は静かに言う。

「分からせてあげなきゃダメかな」
「? 何がだ」
「私が、誰しか見えてないのか」

 思わず華を見つめる。華は優しく笑った。

「なんでだろ、時々不思議だよ」
「なにがだ」
「樹くんみたいな、すてきな人が、私のことなんか好きでいてくれるのが」
「それは逆だ。華が俺を好きでいてくれるのがわからん」

 心の底からそう言うと、華は少し楽しそうに笑う。

「私たち、似た者同士なのかもね」
「そうだろうか。全く似ていない」

 俺の答えに、なぜか華はさらに笑った。ほんとうに面白そうに笑うから、俺もつられて笑顔になった。
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