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【高校編】分岐・鍋島真
夏の海
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高校一年の夏真っ盛り、潮騒はうるさいくらいで、入道雲は目に眩しい。私はそれを足だけ潮水につけて、見つめている。
(ワンピースで良かったな)
白いワンピース。裾を掴めば、膝くらいまで入れるから。ジーンズだったらこうはいかないだろうし。
ところで、何をしているって、何といえばいいんだろう。うん。私、誘拐されています、現在進行形。
「なんだか失礼なことを思われてる気がするなぁ」
私の少し後ろで、やっぱり足だけ海に入った真さんは大変綺麗に微笑んだ。
「イエイエ思ってませんよ」
私はそのうち夕立を降らせそうな、大っきい大っきい入道雲を見つめながら答えた。
(ここどこなんだろ)
見渡す限り、私と真さんしかいない。
砂浜の向こうには、木造のロッジが一軒。
というか、……なんでこんなことになったかと言うと、1時間ほど前にさかのぼる。
塾の帰り道、暑さにやられそうになりながら道をフラフラ歩いていると、プップ、と背後からクラクションを鳴らされたのだ。
振り返ると、水色の、丸いフォルムが可愛らしい外国車。真さんの車だ。
「や」
窓から(左ハンドルなので)真さんの腕がすうっと出てきて、私に手を振った。
「このクソ暑い中何してんの」
「塾帰りですよ……」
「車、きて貰えばよかったのに」
「まぁ来てもらうほどの」
ことではないんで、と、ふと顔を上げた。シャワシャワシャワシャワ、という蝉の声と、照りつける日光と、溶けそうなアスファルト。
「送るよ。乗って」
「え」
私は真さんに視線を戻す。
「でも、あの」
「涼しいよー。クーラー涼しいよー」
その甘言に、ふらりと唆されてしまった。助手席にぽすりとおさまり、ポツポツ会話をしていると、真さんがふと言ったのだ。
「気分が変わっちゃった」
「なんのです?」
「海行こう」
「海!?」
私はぽかんと真さんを見上げると、真さんは楽しげに笑った。
(なーんだかなぁ)
そう思わなくもないけれど、真さんが楽しそうにしてるのは、嫌じゃなかったりする。
「海って、どこの?」
その辺がすでに海なのだ。家からだって見える。
「ヒトが多いとこなんか行きたくない」
真さんは少しだけツンとして言った。
「じゃあどこに」
「ひみつ……ねえ、君の"護衛さん"ってまだいるの?」
「え、やめてもらったはず、ですけど……」
「まだこっそりいたりして」
「えー……やめてくださいよ」
小学生のとき、それこそ誘拐されたのに端を発して、私についてたとかいうボディーガード。相良先生も小西先生もそうだったとかいうからビックリした。
「もう外してもらってるはずです」
「ふうん」
真さんは少し意味ありげに笑う。
「え、いませんよね?」
護衛してもらえるのは有り難い(のか?)けれど、四六時中付いて回られるのはなんかヤダ!
「さあね」
「っていうか、なんで高速です?」
車は高速に乗っていた。なぜに。
「海なんか、ていうか砂浜なんか、その辺にたーくさんあるじゃないですか」
「だからヒトが多いところなんかヤダってば」
「わがままですねぇ!」
そのあとは、車窓から空を眺めながらボケーっとしていた。誘拐されてるなーなんて、思いながら。もちろん冗談だけれどさ。
そうして着いたのが、この砂浜で。
カシャリと写真を撮る音がして、振り向く。真さんはスマホを私に向けていた。
「なんですか」
「いや? ほら、好きな子の写真って持ってたいから」
嬉しそうに言われた。なんだそりゃ。
私はすうっと視線を逸らした。どう反応したらいいか分からない。
(なーんか、妙な感じ、するんだよなぁ)
真さんにそんなことを言われると、心臓が。なんだろこれ。不整脈?
(昔みたいな、嫌悪感みたいなのはないけれど)
うーん、と少し考えていると、背後から急に怒鳴り声がした。おじいさんの、少し嗄れた声。
「こら、何勝手に入っとる! ここは私有地だぞ!」
私はばっと振り向く。
(え、そうなの!?)
不法侵入!?
ぱっと真さんを振り向くと、くすくす笑いながら真さんはその人に「やあ安達、元気そうで安心したよ」と話しかけた。
「え、あ、……真ぼっちゃま!」
「ハタチ超えて"ぼっちゃま"はないんじゃないの」
「いや、ぼっちゃまはぼっちゃまですよ」
ニコニコと笑う白髪のその人に向かってーーたぶん、安達さんって名前だろう、私はぺこりと頭を下げる。
安達さんは少し目を瞠った。
「ぼっちゃまが、女性をここに」
「変な言い方よしてくれる?」
真さんは少し肩をすくめた。そして私に向かって手を差し伸べた。
「少し休もうか、華。安達の淹れるコーヒーは美味しいから」
「おお、真さんが素直に他人を褒めた……!」
「君たち、僕をなんだと思ってるんだろうね?」
少し感嘆しつつも、手を取るか迷っていると勝手に手を繋がれた。手を引かれながら、浜へ向かう。
「はじめまして、ええと」
「設楽華です」
手を繋がれたまま、ぺこりと頭を下げる。安達さんは恐縮してくれた。
「ここ、ウチの土地でね。安達はここを管理してくれてる」
真さんはザッと説明してくれた。管理人さんってことかな?
「突然怒鳴りつけまして」
「いえ、すみません、何もお知らせせず来た方が悪いんです絶対」
「しかし、お綺麗な方ですなぁ!」
安達さんは大げさに褒めてくれた。あんまり真さんと並んで見られたくないんだけどなー、このヒト異様に綺麗なんだもん……。悪役令嬢スペック、霞む霞む。
「でしょう?」
真さんが自慢げに答えた。なぜきみが答える……。
「お式はいつですかな」
「あは、気が早いよ。華はまだ16だからね」
「まだ16でもご結婚できるでしょうに」
「そうだね、法改正前だから。どうする、結婚する? 華」
「しませんっ」
ふんす、と鼻息荒く私は言い切る。
まったく、何を言ってるんだこのヒトたちは!
(ワンピースで良かったな)
白いワンピース。裾を掴めば、膝くらいまで入れるから。ジーンズだったらこうはいかないだろうし。
ところで、何をしているって、何といえばいいんだろう。うん。私、誘拐されています、現在進行形。
「なんだか失礼なことを思われてる気がするなぁ」
私の少し後ろで、やっぱり足だけ海に入った真さんは大変綺麗に微笑んだ。
「イエイエ思ってませんよ」
私はそのうち夕立を降らせそうな、大っきい大っきい入道雲を見つめながら答えた。
(ここどこなんだろ)
見渡す限り、私と真さんしかいない。
砂浜の向こうには、木造のロッジが一軒。
というか、……なんでこんなことになったかと言うと、1時間ほど前にさかのぼる。
塾の帰り道、暑さにやられそうになりながら道をフラフラ歩いていると、プップ、と背後からクラクションを鳴らされたのだ。
振り返ると、水色の、丸いフォルムが可愛らしい外国車。真さんの車だ。
「や」
窓から(左ハンドルなので)真さんの腕がすうっと出てきて、私に手を振った。
「このクソ暑い中何してんの」
「塾帰りですよ……」
「車、きて貰えばよかったのに」
「まぁ来てもらうほどの」
ことではないんで、と、ふと顔を上げた。シャワシャワシャワシャワ、という蝉の声と、照りつける日光と、溶けそうなアスファルト。
「送るよ。乗って」
「え」
私は真さんに視線を戻す。
「でも、あの」
「涼しいよー。クーラー涼しいよー」
その甘言に、ふらりと唆されてしまった。助手席にぽすりとおさまり、ポツポツ会話をしていると、真さんがふと言ったのだ。
「気分が変わっちゃった」
「なんのです?」
「海行こう」
「海!?」
私はぽかんと真さんを見上げると、真さんは楽しげに笑った。
(なーんだかなぁ)
そう思わなくもないけれど、真さんが楽しそうにしてるのは、嫌じゃなかったりする。
「海って、どこの?」
その辺がすでに海なのだ。家からだって見える。
「ヒトが多いとこなんか行きたくない」
真さんは少しだけツンとして言った。
「じゃあどこに」
「ひみつ……ねえ、君の"護衛さん"ってまだいるの?」
「え、やめてもらったはず、ですけど……」
「まだこっそりいたりして」
「えー……やめてくださいよ」
小学生のとき、それこそ誘拐されたのに端を発して、私についてたとかいうボディーガード。相良先生も小西先生もそうだったとかいうからビックリした。
「もう外してもらってるはずです」
「ふうん」
真さんは少し意味ありげに笑う。
「え、いませんよね?」
護衛してもらえるのは有り難い(のか?)けれど、四六時中付いて回られるのはなんかヤダ!
「さあね」
「っていうか、なんで高速です?」
車は高速に乗っていた。なぜに。
「海なんか、ていうか砂浜なんか、その辺にたーくさんあるじゃないですか」
「だからヒトが多いところなんかヤダってば」
「わがままですねぇ!」
そのあとは、車窓から空を眺めながらボケーっとしていた。誘拐されてるなーなんて、思いながら。もちろん冗談だけれどさ。
そうして着いたのが、この砂浜で。
カシャリと写真を撮る音がして、振り向く。真さんはスマホを私に向けていた。
「なんですか」
「いや? ほら、好きな子の写真って持ってたいから」
嬉しそうに言われた。なんだそりゃ。
私はすうっと視線を逸らした。どう反応したらいいか分からない。
(なーんか、妙な感じ、するんだよなぁ)
真さんにそんなことを言われると、心臓が。なんだろこれ。不整脈?
(昔みたいな、嫌悪感みたいなのはないけれど)
うーん、と少し考えていると、背後から急に怒鳴り声がした。おじいさんの、少し嗄れた声。
「こら、何勝手に入っとる! ここは私有地だぞ!」
私はばっと振り向く。
(え、そうなの!?)
不法侵入!?
ぱっと真さんを振り向くと、くすくす笑いながら真さんはその人に「やあ安達、元気そうで安心したよ」と話しかけた。
「え、あ、……真ぼっちゃま!」
「ハタチ超えて"ぼっちゃま"はないんじゃないの」
「いや、ぼっちゃまはぼっちゃまですよ」
ニコニコと笑う白髪のその人に向かってーーたぶん、安達さんって名前だろう、私はぺこりと頭を下げる。
安達さんは少し目を瞠った。
「ぼっちゃまが、女性をここに」
「変な言い方よしてくれる?」
真さんは少し肩をすくめた。そして私に向かって手を差し伸べた。
「少し休もうか、華。安達の淹れるコーヒーは美味しいから」
「おお、真さんが素直に他人を褒めた……!」
「君たち、僕をなんだと思ってるんだろうね?」
少し感嘆しつつも、手を取るか迷っていると勝手に手を繋がれた。手を引かれながら、浜へ向かう。
「はじめまして、ええと」
「設楽華です」
手を繋がれたまま、ぺこりと頭を下げる。安達さんは恐縮してくれた。
「ここ、ウチの土地でね。安達はここを管理してくれてる」
真さんはザッと説明してくれた。管理人さんってことかな?
「突然怒鳴りつけまして」
「いえ、すみません、何もお知らせせず来た方が悪いんです絶対」
「しかし、お綺麗な方ですなぁ!」
安達さんは大げさに褒めてくれた。あんまり真さんと並んで見られたくないんだけどなー、このヒト異様に綺麗なんだもん……。悪役令嬢スペック、霞む霞む。
「でしょう?」
真さんが自慢げに答えた。なぜきみが答える……。
「お式はいつですかな」
「あは、気が早いよ。華はまだ16だからね」
「まだ16でもご結婚できるでしょうに」
「そうだね、法改正前だから。どうする、結婚する? 華」
「しませんっ」
ふんす、と鼻息荒く私は言い切る。
まったく、何を言ってるんだこのヒトたちは!
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