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【高校編】分岐・鹿王院樹

ジェラート(side樹)

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 華が勝手にホテルを出た、と鍋島から連絡があって、俺はとりあえずひとつ深呼吸をした。

(まずは無事だろう)

 華には(本人は知らないが)護衛が常についている。統括している相良さん本人は来てないにしても。

(だが)

 それとこれとは、話が別だ。警戒心がなさすぎる。初海外で、テンションが上がっているにしても。
 考える前に身体が動いた。スマホで数カ所に連絡を取る。

「あれ、鹿王院どこ行くの?」

 今日は午前練のあと、午後は自由で夕方からミーティングだ。昨日までみっちりのスケジュールだったので、久々の自由時間。
 話しかけてきたチームの先輩、というかなんというか、既にプロで活躍してるDFのその人に、俺は端的に答えた。

「人を叱りに行ってきます」
「え、さっきの紅白戦? なんかしでかしたやついたっけ」
「いえ」

 俺は頭を下げて、早足で合宿所を出た。それと同時に聞こえてきたプロペラとモーターの音。

「え、ヘリコプター? なんでここに?」

 なぜか着いてきた先輩が、ヘリを見上げて不思議そうに言う。
 ヘリはゆっくりと高度を下げ、合宿所の駐車場、そのひらけたスペースに着陸した。

「では行ってきます」
「え!? ごめんヘリうるさくて聞こえない」
「もしかしたら連れて帰ってくるかもしれません」
「だから、ごめん聞こえないって」

 先輩には悪いが、俺はさっさとヘリに乗り込む。驚いたような顔が見えた。

 ヘリの中では仕事をして過ごした。あのバーサンは俺に仕事をまわしすぎだと常に思っている。

 華たちが泊まるホテルの部屋の扉の先では、華が驚いた顔で俺を出迎えた。

「じゃあキッチリお仕置きしてもらってね、華ちゃん。わたし下でお茶でもしてます」
「気を遣わせた、鍋島。礼を言う」
「いえいえ」

 鍋島は柔らかく笑って、部屋をでていく。

「……あの、その、ごめんなさい」

 華は少し憔悴した顔で言った。

「心配させるつもりはなかったんだけど」
「結果、心配させているだろう」
「……ごめんなさい。てか、なんでここに」
「それはいい。なんで1人で出て行った? 鍋島の話だと、危ないところだったらしいな」
「い、いつのまに報告されてたの……」

 華はますます小さくなる。

「ほんとにごめん、んぅ」

 華に口付ける。

「樹く、」
「怒っているわけではない、華」
「……うん」
「心配した」

 強く抱きしめる。細い体。折れてしまいそうだ。

「ひとりで出歩くまではいい。この辺りなら。だが、知らない人間について行くな」

 子供を諭すような言い方だな、と言いながら思う。

(ずっと側にいたい)

 華が嫌な思いをしないように。華が笑っていられるように。
 華が少し震えて、俺の服を掴む。

「ごめんね、ごめんなさい、ごめんなさい」
「……泣いているのか」

 少し身体を離す。華はそのきれいな猫のような瞳から、ぽろぽろと涙をこぼしていた。

「心配かけて、迷惑かけて」
「……もういい。華が無事なのを確認できた。それでいい」
「もうしない……」
「そうしてくれ」

 華を撫でて、ふう、と息をつく。

「ちなみに、どこへ行きたかったんだ」
「ジェラート屋さん……」

 華らしい答えに、思わず吹き出した。

「……なんで笑うの?」
「いや、……今から行こうか」
「え」

 驚いたように俺を見上げる華に、少し微笑んで見せる。

「練習は? 合宿中でしょ?」
「夕方まで自由時間だ。ミーティングまでに戻れば問題ない」
「どうやって……?」
「ヘリ」
「ヘリ!? ヘリで来たの!?」
「うむ」

 頷くと、華はぽかんとした後吹き出した。

「あは、樹くん、もうなんかいちいち大げさだよ!」
「何を言う」

 俺は真剣に伝えた。

「この目で華を見なければ安心できない」
「うう、それはほんとにごめんなさい」
「で、どうする? 行くのか」
「行く!」

 華は嬉しそうに手を挙げた。

(……殺す気か)

 可愛すぎる。バカみたいだ、自分が。無事が分かってるヒトのためにヘリをチャーターして、自由時間を潰して……でも、それに対して何の後悔もない。

(……単に会いたかっただけか)

 それもあるかもしれない。
 もう一度キスをする。柔らかな唇。ほんの少し開いたそこから、ゆっくりと味わうように舌をいれた。
 華の身体がぴくりとはねて、俺の服を掴む。俺はそっと身体を離す。
 華は物足りない、という顔で俺を見上げる。

(煽られている)

 まず間違いなく。
 華をソファに座らせて、一度軽く口付けてから、俺は口を開いた。

「華」
「なあに」

 とろんとした目で俺を見上げる華。

「舌を」
「舌?」
「出してくれ」
「?」

 華は言われるがままに、その小さな舌をぺろりと出す。俺はそれに軽く、ごく軽く、噛み付く。

「ん、」

 ぴくりとはねた華の身体に、脳がどろりとした何かに突き動かされそうになって、俺は慌てて身体を離した。

「樹、くん」
「……危ないところだった」

 今、完全に理性がどこかに行っていた。俺はそっと息を吐く。

「……だめ?」

 可愛らしく首をかしげる華は、またもや俺の理性をどうにかしようとしている。

「だめだ。よし、ジェラートを食べに行こう」
「ちぇー」

 華は少し残念そうに言って立ち上がる。

「何味食べたい?」
「何があるんだ」
「それがね、色々あるみたいでね、」

 嬉しそうに言う華の手を握る。華は嬉しそうに俺を見上げて、俺は少し照れて妙な顔になる。

「樹くん」
「なんだ」
「迷惑かけてごめんなさい」
「それはもういいと」
「でもね」
「?」
「会えて嬉しい」

 はにかむように言う華に、狂おしい感情で胸が痛む。思わず胸のあたりの服を掴む。

「生まれてきて良かった」

 つい漏れた素直な感情に、華は驚いたように「突然どうしたの!?」と面白そうに笑った。
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