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【高校編】分岐・鹿王院樹

本当に怖いよヒロインちゃん

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「な、ななななんでここにいるの設楽華っ!?」

 青花が叫ぶ。うう、耳にキンキンするよう……。

「わ、分かった! 樹くんの拒絶も無視して無理矢理押しかけてるのねっ! 少しは人の気持ちも顧みたらどうなのっ」

 びしり! と指を差された。人を指差しちゃいけないんだよう。
 私は少し気弱になってる。いや、相手がヒロインだから、とか、私が悪役令嬢だから、とか、運命がどうとかではなくて、ですね。

(単純っ、に! この子、怖いよ!)

 なんで樹くんの家知ってるの?
 なに堂々と「イベントがまだだから」とか言えるの? なんでヒトんちの玄関先で喚き倒せるの?

「……あのう、樹くんいないから」

 出直して、も変だよね。もう来て欲しくない。

「二度とうちの敷居を跨がないでください」

 ぽろっと本音が出てしまった。

「……は?」

 たっぷりと間をためて、それから青花はそう言った。

「ウチ? ウチってなに」
「あー、そのー」

 一緒に暮らしてる、ってバラすのはどうなんだろ。余計逆上する……?
 しどろもどろになっていると、背後から少し低い声が聞こえた。

「ねぇ玄関先できゃんきゃん煩いんだけど」
「け、圭くんっ。なんでここに!?」

 青花がキャアと叫んだ。

「ていうか! だ、だよね、この人ウルサイよね!?」

 だからヒトを指差すなというに。
 私は鼻先まで突きつけられた、青花の人差し指から顔をそらした。

「煩いのはそっち。ていうか、ぼく、キミにいつファーストネームで呼んでいいなんて言った?」
「ほえ?」

 ぽかん、とする青花。

「ていうか、ほんと、こないだから何。ほんと誰」
「え? えーと、ほら、わたし」

 青花は少し慌てたように言う。

「圭くんが、お父さん亡くされて、ただでさえ心の傷が癒えてないのに、そこに塩を塗り込むように意地悪をしてくる設楽華を」
「は?」

 圭くんは青花を見下ろした。

「誰が? 誰に?」
「だ、だから設楽華が、圭くんに」
「ねえあんまり煩わせないで。ぼくを名前で呼ぶのやめて。ていうか、ぼくに関わらないで」
「だ、だって、ほら!」

 青花はハッと気がついたように言う。

「お父さんの描かれた白鳥の絵! こ、この人に盗られたじゃない」
「白鳥? これのこと?」

 圭くんの指差す先には、例の白鳥の絵。静子さんが気に入って、お客様がいらっしゃるときなんかは家のどこかに飾られることが多いのだ。今日はたまたま、ここに飾ってあった。

「……あり?」
「ねえ、わかったら帰って」
「いや、えっと? てか、なんで圭くんはここに?」

 圭くんは大きく息を吸った。あれだけファーストネームで呼ぶなと言って、まだ通じないせいかもしれない。
 怒りと呆れと諦めがないまぜになったような、大きなため息をついた。

「ここは、ぼくとハナとイツキの家」
「ふええ?」

 青花が大きな目をぱちくりとさせてそう言ったとき、運転手の佐賀さんが玄関に入ってきた。

「桜澤さま。ご自宅にお送りするよう、樹さまからご指示を賜っております」
「い、樹くんから!? はい、はぁい。ほんとに心配性なんだから~」

 すっかりご機嫌な青花は、佐賀さんに連れられて玄関を出て行く。
 私は、がくりと膝をついた。

「……なんだったの」
「大丈夫、ハナ? また変なのに絡まれてるの?」
「うー、ごめんね、圭くん。巻き込んで」
「いや、それはいいんだけど……イツキに連絡した? チアキ」

 廊下をすうっと、千晶ちゃんが曲がってきた。

「ごめんね、直接顔を出すと返って迷惑かなぁって。あの子逆上して」
「う、うん、ありがと」

 上がり框にへたり込んだまま、千晶ちゃんを見上げる。

「はい」
「?」

 唐突にスマホを渡された。

「樹くん」
「え!?」

 画面は通話中。

「も、もしもし!?」
『華』

 樹くんの声だー。
 私はへにゃりとしてしまう。

『大丈夫か』
「うん、圭くん来てくれて。樹くんもありがと」

 圭くんと千晶ちゃんの会話的に、千晶ちゃんが樹くんに連絡して、樹くんが佐賀さんに青花を回収するよう指示を出したってとこだろうと思う。

『それはいいんだが……何もされてないな?』
「? うん」
『今、あいつの身辺調査をさせている』
「身辺調査!?」
『何か裏があると読んでいるんだが』

 私は苦笑いした。多分、あの子にはそんなのなさそうだよ……。

「あ、てか、いま時間大丈夫!?」

 時差があるから。えーと、イギリスはいまサマータイムかな?

『心配するな、もう朝の7時だ』
「朝ごはん食べるところ?」
『概ね、そんな感じだ』

 電話の向こうから、樹くんを呼ぶ声がする。

「あ、樹くん、呼ばれてる」
『うむ、行かねば……華』
「なあに?」
『愛してる』
「ひゃあ!」
『なんだその返事は。……では、またな。圭と鍋島によろしく』

 忍笑いするように笑って、それから少し楽しそうに言う樹くん。それから通話は切れた。

「もー」
「随分らぶらぶですことね?」
「ち、千晶ちゃん」

 千晶ちゃんにスマホを返しながら私は少し慌てる。き、聴こえてなかったよねぇ? ほっぺた赤くなってないかなぁ、もうう。

「てかハナ、あの子ほんとに知らないんだよね?」
「うん……」

 ゲーム的には、知ってるけど。

「ぼくのことも頼ってよねハナ」

 圭くんは笑った。思わずきゅんと来るような、可愛らしい微笑み。私の横で千晶ちゃんが悶絶している。

(そーだ、千晶ちゃん元々圭くん推しなんだった)

 もちろん、ゲームの話なんだけど。

「ハナは少しボケーっとしすぎてるから、なんか変な奴に目をつけられるんだよ」
「ぼ、ボケーっとはしてない」

 必死で否定したけれど、圭くんにも千晶ちゃんにも「何言ってんの」って顔をされた……え、ウソ。私、シッカリしてるつもりだったんですけど……?
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