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分岐・鍋島真
目覚め
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目を覚ますと、千晶ちゃんがいた。
「あれ?」
「起きた?」
っていうか、私、寝ちゃってたのか。
真さんがとってくれたホテルの部屋。
「あれー?」
「おはよ、ってもう9時だけど」
「夜の、だよね」
私はもぞりとベッドから起き上がり、窓の外を見た。とっぷりと暗闇。なんやかんや、疲れてたのかな。
「千晶ちゃん、どうしているの?」
「お兄様に華ちゃんのこと聞いて」
千晶ちゃんはふう、とため息をついた。
「え、ごめん、心配かけた?」
「そういう訳ではないんだけどね」
千晶ちゃんはそっと私がいるベッドに腰掛けた。
「何もされてない?」
「何もって?」
聞き返すと、千晶ちゃんは少し安心したように笑った。
「歩く性欲人間だから、あの人」
「え、そうかな」
私は首をかしげる。
「そういうの、感じないけど」
千晶ちゃんはぽかんとして私を見つめた。
「単に私、真さんのそういう対象じゃないんじゃない?」
事あるごとになぜか告白はされているけれど、あれはやっぱりオフザケというか、もしくは何らかの悪巧みのためなのだろう。
(あれ?)
そう思ってたし、思ってるし、きっとそうなのに、胸がちくりと痛んだ。
(なにゆえ?)
うむむ、と1人悩んでいると千晶ちゃんは「まぁ、あのひと、今女遊びしてないらしいから」と呟いた。
(受験だからかなぁ)
なんて思う。さすがにね、遊んでる暇ないよね。
「敦子さんにはわたしから連絡してるよ」
「あ、うそ、ごめん。ありがと」
「いいの」
「てか、今日学校行ったんだよね? 大丈夫だった?」
千晶ちゃんの顔を覗き込む。
「うん、わたしは特に被害なかったし。ひよりちゃんはお休み」
「だよ、ね。おうちまでお土産渡しに行こう……って、千晶ちゃんお土産あるよ」
私はベッドの横に置かれていた紙袋から生八ツ橋を取り出す。
「どーぞっ」
「ありがと」
千晶ちゃんは少し嬉しそう。甘いもの好きだからなぁ。真さんは苦手みたいだけど。
「あ、でね、どうする? 今から帰る? それともここ泊まる?」
「あ、いや、帰るよ。明日は学校行きたいし」
「……大丈夫なの」
千晶ちゃんは少し心配気な声で言う。
「あんなことされて」
「でもまぁ、ちょっと押し倒されたくらいで」
「ちょっとじゃないよ」
千晶ちゃんは眉を寄せる。
「男の人が怖くなっても仕方ないレベルだよ」
「あ、うん、それは」
怖い、のだけれど。
(あ、そっか)
今日会ったあの変な男の人、あの人に上手く抵抗できなかったのは、それもあったのか。
……あのどろりとした目を思い出す。あの目は、そうだ、ひよりちゃんのイジメ現場で私を組み敷いた、あいつの目と似ていたんだ。
今更ながらにゾッとして、私は俯く。
「ごめん、思い出させた」
「ううん、大丈夫」
背中を優しくさすってくれる千晶ちゃんに微笑んでみせる。
(でも)
真さんは怖くなかったなぁ、と思う。ずうっと至近距離で、手を繋いでいたけれど。
(そういう目で見られてないから?)
そうかもしれないな、と思うと、なぜかやっぱりすこし胸がぎゅっとなった。
「華ちゃん?」
「いやその、」
私は手を振った。
「そういえば、帰りに男の人に絡まれちゃって」
帰りにおきた顛末を話す。
「真さんに叱られちゃったよ」
「お兄様がまともな対応を……!」
え、そこ感動する?
「てかさ」
私は苦笑した。
「なんでこういうの、多いんだろ」
言いながら悲しくなってくる。
「1年の時もプールでからかわれるしさー」
「今後さ、そういうことを仄めかしレベルでも言ったやつは僕に報告してくれない?」
唐突な声。真さんだった。
「お兄様いつのまにッ」
「ノックしたよー?」
「絶対ウソですっ」
相変わらず兄妹仲が良い。……いいのか?
「まったく僕はいつか華チャンをどこかに閉じ込めて他人のキッタナイ視線に晒させないようにしなきゃなのかなぁ」
「軟禁です犯罪です絶対ダメ」
千晶ちゃんは「ぎゃあ」って顔をして言った。
「華が望んでも?」
「いや私望みませんから」
「ザンネン」
くすくす、と真さんは笑う。
「てか、なぜ来たんです? はっもしや華ちゃんを手篭めにッ」
「しないよ。同意がない行為はしない主義なんだ」
ちらりと真さんは私を見て肩をすくめた。
「……ところで、どうするの? 帰る? 泊まる?」
「や、あ、帰ります」
私がそういうと、真さんは「そうかなと思って」とスタスタとベッドサイドに近づいた。
「車まで運ぶよ」
「え!?」
ふわり、と持ち上げられた。またお姫様抱っこ!
「いや、あの、歩けます」
「ダメダメ、もう今日は歩かない方がいいよ」
ちらりと助けを求めて千晶ちゃんに目をやると、千晶ちゃんは真さんを呆然と見るばかり。
(と、止めてよ~!)
千晶ちゃん。真さんの暴走ストッパー。動く気配がない。
諦めて力を抜いた。
「おやイイコ」
「はぁ、まぁ」
いい子というか、諦めたというか。千晶ちゃんは驚き顔のまま、付いてくる。
「どうしたの千晶ちゃん」
「……ううん、なんでも」
千晶ちゃんは並んで歩きながら、真さんを仰ぎ見た。
「本気なのですね」
「見たらわかるデショ」
千晶ちゃんははぁ、とため息をついて私に笑いかけた。
「華ちゃん、諦めた方がいいかも」
「えっ、ちょ、なに、なんなのその不穏な会話」
怖すぎるんですけど……?
まぁ少なくとも今は諦めモードだ。まだ眠いし。
なんなら真さんに抱きかかえられてあったかいし、気がつけば私はまたすこしウトウトしてしまっていたのでした。
「あれ?」
「起きた?」
っていうか、私、寝ちゃってたのか。
真さんがとってくれたホテルの部屋。
「あれー?」
「おはよ、ってもう9時だけど」
「夜の、だよね」
私はもぞりとベッドから起き上がり、窓の外を見た。とっぷりと暗闇。なんやかんや、疲れてたのかな。
「千晶ちゃん、どうしているの?」
「お兄様に華ちゃんのこと聞いて」
千晶ちゃんはふう、とため息をついた。
「え、ごめん、心配かけた?」
「そういう訳ではないんだけどね」
千晶ちゃんはそっと私がいるベッドに腰掛けた。
「何もされてない?」
「何もって?」
聞き返すと、千晶ちゃんは少し安心したように笑った。
「歩く性欲人間だから、あの人」
「え、そうかな」
私は首をかしげる。
「そういうの、感じないけど」
千晶ちゃんはぽかんとして私を見つめた。
「単に私、真さんのそういう対象じゃないんじゃない?」
事あるごとになぜか告白はされているけれど、あれはやっぱりオフザケというか、もしくは何らかの悪巧みのためなのだろう。
(あれ?)
そう思ってたし、思ってるし、きっとそうなのに、胸がちくりと痛んだ。
(なにゆえ?)
うむむ、と1人悩んでいると千晶ちゃんは「まぁ、あのひと、今女遊びしてないらしいから」と呟いた。
(受験だからかなぁ)
なんて思う。さすがにね、遊んでる暇ないよね。
「敦子さんにはわたしから連絡してるよ」
「あ、うそ、ごめん。ありがと」
「いいの」
「てか、今日学校行ったんだよね? 大丈夫だった?」
千晶ちゃんの顔を覗き込む。
「うん、わたしは特に被害なかったし。ひよりちゃんはお休み」
「だよ、ね。おうちまでお土産渡しに行こう……って、千晶ちゃんお土産あるよ」
私はベッドの横に置かれていた紙袋から生八ツ橋を取り出す。
「どーぞっ」
「ありがと」
千晶ちゃんは少し嬉しそう。甘いもの好きだからなぁ。真さんは苦手みたいだけど。
「あ、でね、どうする? 今から帰る? それともここ泊まる?」
「あ、いや、帰るよ。明日は学校行きたいし」
「……大丈夫なの」
千晶ちゃんは少し心配気な声で言う。
「あんなことされて」
「でもまぁ、ちょっと押し倒されたくらいで」
「ちょっとじゃないよ」
千晶ちゃんは眉を寄せる。
「男の人が怖くなっても仕方ないレベルだよ」
「あ、うん、それは」
怖い、のだけれど。
(あ、そっか)
今日会ったあの変な男の人、あの人に上手く抵抗できなかったのは、それもあったのか。
……あのどろりとした目を思い出す。あの目は、そうだ、ひよりちゃんのイジメ現場で私を組み敷いた、あいつの目と似ていたんだ。
今更ながらにゾッとして、私は俯く。
「ごめん、思い出させた」
「ううん、大丈夫」
背中を優しくさすってくれる千晶ちゃんに微笑んでみせる。
(でも)
真さんは怖くなかったなぁ、と思う。ずうっと至近距離で、手を繋いでいたけれど。
(そういう目で見られてないから?)
そうかもしれないな、と思うと、なぜかやっぱりすこし胸がぎゅっとなった。
「華ちゃん?」
「いやその、」
私は手を振った。
「そういえば、帰りに男の人に絡まれちゃって」
帰りにおきた顛末を話す。
「真さんに叱られちゃったよ」
「お兄様がまともな対応を……!」
え、そこ感動する?
「てかさ」
私は苦笑した。
「なんでこういうの、多いんだろ」
言いながら悲しくなってくる。
「1年の時もプールでからかわれるしさー」
「今後さ、そういうことを仄めかしレベルでも言ったやつは僕に報告してくれない?」
唐突な声。真さんだった。
「お兄様いつのまにッ」
「ノックしたよー?」
「絶対ウソですっ」
相変わらず兄妹仲が良い。……いいのか?
「まったく僕はいつか華チャンをどこかに閉じ込めて他人のキッタナイ視線に晒させないようにしなきゃなのかなぁ」
「軟禁です犯罪です絶対ダメ」
千晶ちゃんは「ぎゃあ」って顔をして言った。
「華が望んでも?」
「いや私望みませんから」
「ザンネン」
くすくす、と真さんは笑う。
「てか、なぜ来たんです? はっもしや華ちゃんを手篭めにッ」
「しないよ。同意がない行為はしない主義なんだ」
ちらりと真さんは私を見て肩をすくめた。
「……ところで、どうするの? 帰る? 泊まる?」
「や、あ、帰ります」
私がそういうと、真さんは「そうかなと思って」とスタスタとベッドサイドに近づいた。
「車まで運ぶよ」
「え!?」
ふわり、と持ち上げられた。またお姫様抱っこ!
「いや、あの、歩けます」
「ダメダメ、もう今日は歩かない方がいいよ」
ちらりと助けを求めて千晶ちゃんに目をやると、千晶ちゃんは真さんを呆然と見るばかり。
(と、止めてよ~!)
千晶ちゃん。真さんの暴走ストッパー。動く気配がない。
諦めて力を抜いた。
「おやイイコ」
「はぁ、まぁ」
いい子というか、諦めたというか。千晶ちゃんは驚き顔のまま、付いてくる。
「どうしたの千晶ちゃん」
「……ううん、なんでも」
千晶ちゃんは並んで歩きながら、真さんを仰ぎ見た。
「本気なのですね」
「見たらわかるデショ」
千晶ちゃんははぁ、とため息をついて私に笑いかけた。
「華ちゃん、諦めた方がいいかも」
「えっ、ちょ、なに、なんなのその不穏な会話」
怖すぎるんですけど……?
まぁ少なくとも今は諦めモードだ。まだ眠いし。
なんなら真さんに抱きかかえられてあったかいし、気がつけば私はまたすこしウトウトしてしまっていたのでした。
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