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分岐・鍋島真
ファムファタル(side真)
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僕が華にベタ惚れしてる、ベタ惚れなんて世俗的な言葉で言い表していいんだか悪いんだか分からないけれど、とにかく客観的に見るならばそういうことで、……まあ要は華が異常に可愛く見えるのはそのせいかな? ってこと。いわゆる恋愛フィルター? いや、元々かなりキレイな子ではあると思うんだけど。
(僕にもそんなものが搭載されていたとは)
それでもって、今日は余計に可愛く見える。なんでだろう、と手をつないだ先にいる華を見ると不思議そうな顔をされた。
伊達メガネ越しの目。
透明な視線……で、ふと気付いた。
この子はあんまりフィルター越しにぼくを見てない。
残念ながら恋愛フィルターみたいなのもなければ、そのほかの……例えば僕が政治家一家の長男であることとか、僕の見た目がとてもキレイであることとか(謙遜しても意味がない、事実なんだから)……多分この子にとってはそんなことどうでもいいんだろう。
「僕の見た目どう思う?」
「唐突すぎやしませんか」
華はレンズ越しに大きな目をくりくりとさせる。猫みたい。
「はぁ、とてもお美しいと」
「あは、直裁的だね」
「語彙力があまりないもので……」
華は苦笑いした。
「でも、本当に綺麗ですよ。嫉妬すらできないです」
「嫉妬?」
「はぁ」
華は視線を宙に散らす。それからぼくをもう一度見て笑った。
「あと、黒猫みたいだなと思ってます」
「黒猫?」
僕は聞き返した。猫か。
「はい、とてもキレイな黒猫」
「そう?」
なんだか少し嬉しい。
だって、僕もちょっと華のことを猫のようだと思ってるから。
「さて」
「はい」
僕は華の手を引いて、哲学の道から少し逸れる。
「どちらに?」
「甘いもの食べに」
僕は食べないけどね。絶対。
しばらく住宅街を突き進むと、割と急に二階建ての洋館が現れる。
「え、なにここ、可愛いですね」
「2階はカフェレストラン。今日は1階」
そう告げて、手をつないだまま扉を押しあける。からん、とドアベルが鳴った。
「わ、ぁ」
華が背後で思わず感嘆の声を上げたのがわかった。僕も初めて来たとき、思わずそう言ったから。
磨き込まれた木製のカウンター。コポコポとコーヒーを淹れる音、と漂う香り。テーブル席は無い。
そしてなにより目を惹くのが、所狭しと積み上げられた本、本、本。
「ここって」
「喫茶店、兼、古本屋さん」
「いらっしゃいませ」
マスターは静かに言った。
僕らは並んでカウンターに腰掛ける。ホットを2つ注文して(華はチーズケーキも注文して)本棚を並んで眺めた。昭和の初版本から、最近の本まで。
「本、好きなんですか」
無言でうなずく。
「私、そんなに読まないんですけど」
「そうなの?」
「おすすめあります?」
少し嬉しそうに言う華に、僕は少し考える。
「帰ったら本、貸してあげるよ」
「ほんとですか。ありがとうございます」
嬉しそうな華に、僕は頬が緩みそうになる。なにを貸そう?
「あ、絵本もある」
華が手に取ったのは、有名な猫の絵本。
「この猫、生まれ変わりまくりですよね」
「まぁね」
「……ずうっと記憶あったら辛いですよね」
「華?」
沈んだ声に、僕は華の表情を窺い見た。少し辛そうな顔。
「死んでしまって、また生まれて……でも、前の世で親しくなった人とか、好きだった人とか、……もう、会えないんですもんね。おなじこと、何回も繰り返すんですよね」
華の口調が沈む。
「そう思ったら、……ヒトと深く付き合うとかしないほうが、幸せなんじゃないかって思いませんか」
「華」
僕は華の頬に手を添えた。
「この間も言ってたね。人が死んだらどこへ行くのかと」
「真さんは死んだら終わりだとおっしゃいましたがーー死んでも終わらないかもしれません。何度も続くのかも。それこそ、永遠に。銀河系を何周しても終わらないかも」
「……だとしたら」
僕はあえて微笑む。できるだけ美しくーーでも、暖かく見えるように。
(こんなこと考えたの初めてだ)
そう思いながら、ゆっくりと笑う。
「僕が一緒に生まれ変わってあげる」
「……真さんが?」
「僕、しつこいもん。執念深いもん。華がいない世界なんか興味ないし、そんな世界さっさとぶっ壊して華の世界に行ってあげる」
「……、ぶっ壊して?」
「そう」
僕がそういうと、華はくすくすと笑った。くすぐるように。
「じゃあ、お願いしようかな」
あまり本気ではない口調。大人びた視線。
「世界なんかぶっ壊して、迎えに来てください」
「いいよ」
即答する。
「約束する」
僕はきっと、酷く幼い顔をしているんだろう。
「、……それはそれで怖いですねぇ」
華は軽く頭を振った。さらりと揺れる髪、長い睫毛、揺れる瞳の光は不思議なほどに透明で……神様はよくもこんな人間を作ったものだと思う。
魔性の女というけれど、……そう考えるのも僕の恋愛フィルターのなせる業かもしれない。
それでも構わない。
この子が僕の運命の女であることを、僕は勝手に、独りよがりに、妄信的に確信しているのだから。
(僕にもそんなものが搭載されていたとは)
それでもって、今日は余計に可愛く見える。なんでだろう、と手をつないだ先にいる華を見ると不思議そうな顔をされた。
伊達メガネ越しの目。
透明な視線……で、ふと気付いた。
この子はあんまりフィルター越しにぼくを見てない。
残念ながら恋愛フィルターみたいなのもなければ、そのほかの……例えば僕が政治家一家の長男であることとか、僕の見た目がとてもキレイであることとか(謙遜しても意味がない、事実なんだから)……多分この子にとってはそんなことどうでもいいんだろう。
「僕の見た目どう思う?」
「唐突すぎやしませんか」
華はレンズ越しに大きな目をくりくりとさせる。猫みたい。
「はぁ、とてもお美しいと」
「あは、直裁的だね」
「語彙力があまりないもので……」
華は苦笑いした。
「でも、本当に綺麗ですよ。嫉妬すらできないです」
「嫉妬?」
「はぁ」
華は視線を宙に散らす。それからぼくをもう一度見て笑った。
「あと、黒猫みたいだなと思ってます」
「黒猫?」
僕は聞き返した。猫か。
「はい、とてもキレイな黒猫」
「そう?」
なんだか少し嬉しい。
だって、僕もちょっと華のことを猫のようだと思ってるから。
「さて」
「はい」
僕は華の手を引いて、哲学の道から少し逸れる。
「どちらに?」
「甘いもの食べに」
僕は食べないけどね。絶対。
しばらく住宅街を突き進むと、割と急に二階建ての洋館が現れる。
「え、なにここ、可愛いですね」
「2階はカフェレストラン。今日は1階」
そう告げて、手をつないだまま扉を押しあける。からん、とドアベルが鳴った。
「わ、ぁ」
華が背後で思わず感嘆の声を上げたのがわかった。僕も初めて来たとき、思わずそう言ったから。
磨き込まれた木製のカウンター。コポコポとコーヒーを淹れる音、と漂う香り。テーブル席は無い。
そしてなにより目を惹くのが、所狭しと積み上げられた本、本、本。
「ここって」
「喫茶店、兼、古本屋さん」
「いらっしゃいませ」
マスターは静かに言った。
僕らは並んでカウンターに腰掛ける。ホットを2つ注文して(華はチーズケーキも注文して)本棚を並んで眺めた。昭和の初版本から、最近の本まで。
「本、好きなんですか」
無言でうなずく。
「私、そんなに読まないんですけど」
「そうなの?」
「おすすめあります?」
少し嬉しそうに言う華に、僕は少し考える。
「帰ったら本、貸してあげるよ」
「ほんとですか。ありがとうございます」
嬉しそうな華に、僕は頬が緩みそうになる。なにを貸そう?
「あ、絵本もある」
華が手に取ったのは、有名な猫の絵本。
「この猫、生まれ変わりまくりですよね」
「まぁね」
「……ずうっと記憶あったら辛いですよね」
「華?」
沈んだ声に、僕は華の表情を窺い見た。少し辛そうな顔。
「死んでしまって、また生まれて……でも、前の世で親しくなった人とか、好きだった人とか、……もう、会えないんですもんね。おなじこと、何回も繰り返すんですよね」
華の口調が沈む。
「そう思ったら、……ヒトと深く付き合うとかしないほうが、幸せなんじゃないかって思いませんか」
「華」
僕は華の頬に手を添えた。
「この間も言ってたね。人が死んだらどこへ行くのかと」
「真さんは死んだら終わりだとおっしゃいましたがーー死んでも終わらないかもしれません。何度も続くのかも。それこそ、永遠に。銀河系を何周しても終わらないかも」
「……だとしたら」
僕はあえて微笑む。できるだけ美しくーーでも、暖かく見えるように。
(こんなこと考えたの初めてだ)
そう思いながら、ゆっくりと笑う。
「僕が一緒に生まれ変わってあげる」
「……真さんが?」
「僕、しつこいもん。執念深いもん。華がいない世界なんか興味ないし、そんな世界さっさとぶっ壊して華の世界に行ってあげる」
「……、ぶっ壊して?」
「そう」
僕がそういうと、華はくすくすと笑った。くすぐるように。
「じゃあ、お願いしようかな」
あまり本気ではない口調。大人びた視線。
「世界なんかぶっ壊して、迎えに来てください」
「いいよ」
即答する。
「約束する」
僕はきっと、酷く幼い顔をしているんだろう。
「、……それはそれで怖いですねぇ」
華は軽く頭を振った。さらりと揺れる髪、長い睫毛、揺れる瞳の光は不思議なほどに透明で……神様はよくもこんな人間を作ったものだと思う。
魔性の女というけれど、……そう考えるのも僕の恋愛フィルターのなせる業かもしれない。
それでも構わない。
この子が僕の運命の女であることを、僕は勝手に、独りよがりに、妄信的に確信しているのだから。
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