上 下
258 / 702
分岐・鍋島真

はつこい(side???)

しおりを挟む
 鍋島とは初等部以来の付き合いだけど、知ってる限りこれがコイツの初恋だと思う。

「誰だよ、花火見えるレストランで告ったらヒャクパーうまくいくなんて言ったやつは」

 たまたま一緒に通ってる予備校の教室に、文句を言いながら入ってきた鍋島は、怒っているのにその仕草さえなんか「きまって」いた。こいつは多分、人にどう見られてるか常に意識してるんだよなぁ。意識してるのか、無意識下なのか、それは分からないけれど。

「知らねーよ」
「でも浴衣可愛かったからヨシ」

 自慢げに見せつけられたスマホ、その写真はものすごく不服そうな顔をして写真に写る美人。4つ下らしいけど、美人だからかもう少し上に見える。

「浴衣着てきてくれてんじゃん」
「花火だから~らしいよ可愛いヨネ」
「フられたの?」

 鍋島は答えず、ただ(なぜか)自慢げにふふん、と笑っただけだった。

「ところで大学決めた?」

 俺が聞くと「あー」と鍋島は珍しく悩んだ声を出した。

「考えてるよ」

 にこり、と上品に笑う仕草は、ウチの親なんかにも好評(よく爪の垢を飲ませてもらえと言われる)。でも実のところ、こういう笑顔の時は何か隠してるか、逆になんの感情も抱いていないかの二択だ。さすがに10年以上付き合いがあるので分かる。

「その反応、アレだな、外部受けんの」
「んー……華にね」
「ああ、その子ね」

 俺はスマホに目線をやる。浴衣姿のきれいな人。

「なんで宇宙関係の大学受けないんですかって言われて」
「え、ごめん話ついていけてない」
「いや、僕気持ち悪いくらい宇宙好きでしょ」
「知らない知らない。え?」
「キミじゃん、天体望遠鏡見せてくれたの」

 俺はぽかんとした。

「え、あれ? お前だっけ、ウチに観に来たの」
「そうだよ、ひどいな忘れたの」
「いやぁ」

 そういやあの天体望遠鏡、どうしたかな。家のどこかにはあるんだろうけど。

「まぁそんなだからさ……なに」
「いや?」

 10年以上の付き合いがある俺にも積極的には見せてない部分を見せてるというのは、なんというか、なあ。
 ふ、と鍋島はお手本のような笑顔で俺の頬に手を当てた。

「心配しなくても僕の親友はキミだけだよ」

 きゃあ、と同じクラスの女子から黄色い声が上がった。俺はため息ひとつ、その手を払う。

「あれー」
「テキトー言いやがって」
「テキトーじゃないよ。ていうか、僕ほんと信用ないなぁ」
「過去の言動を省みろ」
「それ華にも言われた」

 ケタケタ笑う鍋島を見て、俺は華ちゃんに同情した。こいつに執着されたらもうお終いだ。ヒグマみたいなやつだぞ。

「つーか、今から進路変更なんて可能なのかよ」
「どうかな~」

 鍋島は首を傾げた。

「数Ⅲは一応やってるから」
「え、そうなの」

 うちの高校は、文系クラスは数Ⅲはさわりだけしかしない。受験勉強にシフトするからだ。

「なんでわざわざ?」

 法学部志望の鍋島も同じだったはずだ。受験科目に数Ⅲはないはず。

「興味」
「……あ、そ」

 常々変わってるやつだなとは思ってたんだ。

「でもそんな学部選んだら、学費でないかもネ~」
「え」

 すっごい気楽な感じで鍋島はニヤニヤ笑う。

「趣味に出す金は無いとか言いそう」
「趣味ぃ?」

 俺はぽかんとした。

「ウチのオトーサマはシャーナシで僕を跡取りにしたからね」

 ふふ、と微笑む鍋島の感情は読めない。

「僕が逃げちゃったらどーすんだろ」
「千晶ちゃんに婿とらせるんじゃね?」
「それはない、それは」

 鍋島は軽く手を振った。

「第一にオトーサマは千晶に興味がないし、第二に僕が逃げるとしたら、千晶も連れて逃げるから。少なくとも、オトーサマの手の届かないところには連れて行く」
「……ふーん」

 相変わらず、伏魔殿みたいな家らしい。

「どーしよ、っ、か、なー」

 鍋島はうっすら微笑んで目を閉じる。それから笑った。目を開ける。優雅に。

「……なんてね」
「?」
「決まってるんだ。国立大の文一受ける」
「あ、そうなの?」

 となると、法学部だ。唐突な切り替えに、俺は少し驚きながら聞き返した。

「そう。そんで官僚になってオトーサマ追い詰める」
「相変わらずだな」
「そうしなくちゃね、僕はおちおち星も眺めてらんない」

 鍋島はそう言って、また目を閉じた。そして、小さく笑う。

「ふふ、あの子のお陰で、少しだけ夢を見られたよ」

 俺はどういう意味だ、と聞き返そうとして、やめた。こいつが自分の将来をかけて父親を潰そうとしているのは、ただ妹が自由に生きられるようにするためだ。

(もし、君が嫌でないのなら)

 心の中で、俺は会ったこともない華ちゃんへ勝手なお願いをする。

(どうか、このバカを支えてやってはくれないだろうか)

 結構俺は真剣に考えてやっていたのに、目の前のバカはうっすら目を開けて「なに? 見惚れてた?」なんて聞くから俺は眉間にデコピンをお見舞いしてやった。
 こんなアホですが、まぁ根は悪いやつではないと思われないことも無さげな雰囲気が無きにしも非ずなので、ええ。
 よろしくお願いできたら嬉しいです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!

神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう....... だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!? 全8話完結 完結保証!!

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。

完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。

執事が〇〇だなんて聞いてない!

一花八華
恋愛
テンプレ悪役令嬢であるセリーナは、乙女ゲームの舞台から穏便に退場する為、処女を散らそうと決意する。そのお相手に選んだのは能面執事のクラウスで…… ちょっとお馬鹿なお嬢様が、色気だだ漏れな狼執事や、ヤンデレなお義兄様に迫られあわあわするお話。 ※ギャグとシリアスとホラーの混じったラブコメです。寸止め。生殺し。 完結感謝。後日続編投稿予定です。 ※ちょっとえっちな表現を含みますので、苦手な方はお気をつけ下さい。 表紙は、綾切なお先生にいただきました!

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

処理中です...