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分岐・鍋島真
はつこい(side???)
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鍋島とは初等部以来の付き合いだけど、知ってる限りこれがコイツの初恋だと思う。
「誰だよ、花火見えるレストランで告ったらヒャクパーうまくいくなんて言ったやつは」
たまたま一緒に通ってる予備校の教室に、文句を言いながら入ってきた鍋島は、怒っているのにその仕草さえなんか「きまって」いた。こいつは多分、人にどう見られてるか常に意識してるんだよなぁ。意識してるのか、無意識下なのか、それは分からないけれど。
「知らねーよ」
「でも浴衣可愛かったからヨシ」
自慢げに見せつけられたスマホ、その写真はものすごく不服そうな顔をして写真に写る美人。4つ下らしいけど、美人だからかもう少し上に見える。
「浴衣着てきてくれてんじゃん」
「花火だから~らしいよ可愛いヨネ」
「フられたの?」
鍋島は答えず、ただ(なぜか)自慢げにふふん、と笑っただけだった。
「ところで大学決めた?」
俺が聞くと「あー」と鍋島は珍しく悩んだ声を出した。
「考えてるよ」
にこり、と上品に笑う仕草は、ウチの親なんかにも好評(よく爪の垢を飲ませてもらえと言われる)。でも実のところ、こういう笑顔の時は何か隠してるか、逆になんの感情も抱いていないかの二択だ。さすがに10年以上付き合いがあるので分かる。
「その反応、アレだな、外部受けんの」
「んー……華にね」
「ああ、その子ね」
俺はスマホに目線をやる。浴衣姿のきれいな人。
「なんで宇宙関係の大学受けないんですかって言われて」
「え、ごめん話ついていけてない」
「いや、僕気持ち悪いくらい宇宙好きでしょ」
「知らない知らない。え?」
「キミじゃん、天体望遠鏡見せてくれたの」
俺はぽかんとした。
「え、あれ? お前だっけ、ウチに観に来たの」
「そうだよ、ひどいな忘れたの」
「いやぁ」
そういやあの天体望遠鏡、どうしたかな。家のどこかにはあるんだろうけど。
「まぁそんなだからさ……なに」
「いや?」
10年以上の付き合いがある俺にも積極的には見せてない部分を見せてるというのは、なんというか、なあ。
ふ、と鍋島はお手本のような笑顔で俺の頬に手を当てた。
「心配しなくても僕の親友はキミだけだよ」
きゃあ、と同じクラスの女子から黄色い声が上がった。俺はため息ひとつ、その手を払う。
「あれー」
「テキトー言いやがって」
「テキトーじゃないよ。ていうか、僕ほんと信用ないなぁ」
「過去の言動を省みろ」
「それ華にも言われた」
ケタケタ笑う鍋島を見て、俺は華ちゃんに同情した。こいつに執着されたらもうお終いだ。ヒグマみたいなやつだぞ。
「つーか、今から進路変更なんて可能なのかよ」
「どうかな~」
鍋島は首を傾げた。
「数Ⅲは一応やってるから」
「え、そうなの」
うちの高校は、文系クラスは数Ⅲはさわりだけしかしない。受験勉強にシフトするからだ。
「なんでわざわざ?」
法学部志望の鍋島も同じだったはずだ。受験科目に数Ⅲはないはず。
「興味」
「……あ、そ」
常々変わってるやつだなとは思ってたんだ。
「でもそんな学部選んだら、学費でないかもネ~」
「え」
すっごい気楽な感じで鍋島はニヤニヤ笑う。
「趣味に出す金は無いとか言いそう」
「趣味ぃ?」
俺はぽかんとした。
「ウチのオトーサマはシャーナシで僕を跡取りにしたからね」
ふふ、と微笑む鍋島の感情は読めない。
「僕が逃げちゃったらどーすんだろ」
「千晶ちゃんに婿とらせるんじゃね?」
「それはない、それは」
鍋島は軽く手を振った。
「第一にオトーサマは千晶に興味がないし、第二に僕が逃げるとしたら、千晶も連れて逃げるから。少なくとも、オトーサマの手の届かないところには連れて行く」
「……ふーん」
相変わらず、伏魔殿みたいな家らしい。
「どーしよ、っ、か、なー」
鍋島はうっすら微笑んで目を閉じる。それから笑った。目を開ける。優雅に。
「……なんてね」
「?」
「決まってるんだ。国立大の文一受ける」
「あ、そうなの?」
となると、法学部だ。唐突な切り替えに、俺は少し驚きながら聞き返した。
「そう。そんで官僚になってオトーサマ追い詰める」
「相変わらずだな」
「そうしなくちゃね、僕はおちおち星も眺めてらんない」
鍋島はそう言って、また目を閉じた。そして、小さく笑う。
「ふふ、あの子のお陰で、少しだけ夢を見られたよ」
俺はどういう意味だ、と聞き返そうとして、やめた。こいつが自分の将来をかけて父親を潰そうとしているのは、ただ妹が自由に生きられるようにするためだ。
(もし、君が嫌でないのなら)
心の中で、俺は会ったこともない華ちゃんへ勝手なお願いをする。
(どうか、このバカを支えてやってはくれないだろうか)
結構俺は真剣に考えてやっていたのに、目の前のバカはうっすら目を開けて「なに? 見惚れてた?」なんて聞くから俺は眉間にデコピンをお見舞いしてやった。
こんなアホですが、まぁ根は悪いやつではないと思われないことも無さげな雰囲気が無きにしも非ずなので、ええ。
よろしくお願いできたら嬉しいです。
「誰だよ、花火見えるレストランで告ったらヒャクパーうまくいくなんて言ったやつは」
たまたま一緒に通ってる予備校の教室に、文句を言いながら入ってきた鍋島は、怒っているのにその仕草さえなんか「きまって」いた。こいつは多分、人にどう見られてるか常に意識してるんだよなぁ。意識してるのか、無意識下なのか、それは分からないけれど。
「知らねーよ」
「でも浴衣可愛かったからヨシ」
自慢げに見せつけられたスマホ、その写真はものすごく不服そうな顔をして写真に写る美人。4つ下らしいけど、美人だからかもう少し上に見える。
「浴衣着てきてくれてんじゃん」
「花火だから~らしいよ可愛いヨネ」
「フられたの?」
鍋島は答えず、ただ(なぜか)自慢げにふふん、と笑っただけだった。
「ところで大学決めた?」
俺が聞くと「あー」と鍋島は珍しく悩んだ声を出した。
「考えてるよ」
にこり、と上品に笑う仕草は、ウチの親なんかにも好評(よく爪の垢を飲ませてもらえと言われる)。でも実のところ、こういう笑顔の時は何か隠してるか、逆になんの感情も抱いていないかの二択だ。さすがに10年以上付き合いがあるので分かる。
「その反応、アレだな、外部受けんの」
「んー……華にね」
「ああ、その子ね」
俺はスマホに目線をやる。浴衣姿のきれいな人。
「なんで宇宙関係の大学受けないんですかって言われて」
「え、ごめん話ついていけてない」
「いや、僕気持ち悪いくらい宇宙好きでしょ」
「知らない知らない。え?」
「キミじゃん、天体望遠鏡見せてくれたの」
俺はぽかんとした。
「え、あれ? お前だっけ、ウチに観に来たの」
「そうだよ、ひどいな忘れたの」
「いやぁ」
そういやあの天体望遠鏡、どうしたかな。家のどこかにはあるんだろうけど。
「まぁそんなだからさ……なに」
「いや?」
10年以上の付き合いがある俺にも積極的には見せてない部分を見せてるというのは、なんというか、なあ。
ふ、と鍋島はお手本のような笑顔で俺の頬に手を当てた。
「心配しなくても僕の親友はキミだけだよ」
きゃあ、と同じクラスの女子から黄色い声が上がった。俺はため息ひとつ、その手を払う。
「あれー」
「テキトー言いやがって」
「テキトーじゃないよ。ていうか、僕ほんと信用ないなぁ」
「過去の言動を省みろ」
「それ華にも言われた」
ケタケタ笑う鍋島を見て、俺は華ちゃんに同情した。こいつに執着されたらもうお終いだ。ヒグマみたいなやつだぞ。
「つーか、今から進路変更なんて可能なのかよ」
「どうかな~」
鍋島は首を傾げた。
「数Ⅲは一応やってるから」
「え、そうなの」
うちの高校は、文系クラスは数Ⅲはさわりだけしかしない。受験勉強にシフトするからだ。
「なんでわざわざ?」
法学部志望の鍋島も同じだったはずだ。受験科目に数Ⅲはないはず。
「興味」
「……あ、そ」
常々変わってるやつだなとは思ってたんだ。
「でもそんな学部選んだら、学費でないかもネ~」
「え」
すっごい気楽な感じで鍋島はニヤニヤ笑う。
「趣味に出す金は無いとか言いそう」
「趣味ぃ?」
俺はぽかんとした。
「ウチのオトーサマはシャーナシで僕を跡取りにしたからね」
ふふ、と微笑む鍋島の感情は読めない。
「僕が逃げちゃったらどーすんだろ」
「千晶ちゃんに婿とらせるんじゃね?」
「それはない、それは」
鍋島は軽く手を振った。
「第一にオトーサマは千晶に興味がないし、第二に僕が逃げるとしたら、千晶も連れて逃げるから。少なくとも、オトーサマの手の届かないところには連れて行く」
「……ふーん」
相変わらず、伏魔殿みたいな家らしい。
「どーしよ、っ、か、なー」
鍋島はうっすら微笑んで目を閉じる。それから笑った。目を開ける。優雅に。
「……なんてね」
「?」
「決まってるんだ。国立大の文一受ける」
「あ、そうなの?」
となると、法学部だ。唐突な切り替えに、俺は少し驚きながら聞き返した。
「そう。そんで官僚になってオトーサマ追い詰める」
「相変わらずだな」
「そうしなくちゃね、僕はおちおち星も眺めてらんない」
鍋島はそう言って、また目を閉じた。そして、小さく笑う。
「ふふ、あの子のお陰で、少しだけ夢を見られたよ」
俺はどういう意味だ、と聞き返そうとして、やめた。こいつが自分の将来をかけて父親を潰そうとしているのは、ただ妹が自由に生きられるようにするためだ。
(もし、君が嫌でないのなら)
心の中で、俺は会ったこともない華ちゃんへ勝手なお願いをする。
(どうか、このバカを支えてやってはくれないだろうか)
結構俺は真剣に考えてやっていたのに、目の前のバカはうっすら目を開けて「なに? 見惚れてた?」なんて聞くから俺は眉間にデコピンをお見舞いしてやった。
こんなアホですが、まぁ根は悪いやつではないと思われないことも無さげな雰囲気が無きにしも非ずなので、ええ。
よろしくお願いできたら嬉しいです。
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