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【高校編】分岐・相良仁
ピアス
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シャワーを浴びながら、その傷に触れた。傷というか、ピアスホール。
じんじんとした痛み。
(なんだろ)
痛いのに嬉しい。
(へんなの)
私はくすっと笑った。
洗面所で消毒した後、透明なピアスをつけ直す。
リビングに戻ると、樹くんが来ていた。圭くんと何か本を見ていた。画集かな?
「遅くにすまん」
私に気づいた樹くんが言う。
「ううん」
私は微笑んだ。
「どうしたの?」
聞きながらも理由は分かってる。昨日のイースターのダンスパーティー。
「少し2人で話せるか」
「、うん」
部屋行こうか、と言うと圭くんが不服そうな顔をした。
「こんな時間に女性の部屋に上り込むの?」
私は時計を見た。21時。
「そんな顔をするな、すぐ出るから」
苦笑する樹くんに、圭くんは少し考えてから頷いた。
「何かあったら叫んでねハナ」
「大げさだなぁ」
私は肩をすくめた。
部屋で、私は樹くんに椅子をすすめた。自分はベッドに座る。
「華」
樹くんは真剣な目で言う。
「好きな人とは誰だ?」
「好きな人じゃないよ」
私は首を振る。
「好き"かも"しれないヒトがいるって言ったの」
だから手は繋げないと、私は昨日言ったのだ。ダンスパーティ(とはいえ踊っていないけど)、そのあとで。
「……俺は華を縛りたくはない」
「うん」
樹くんは、優しいからそう言ってくれるだろうなと思ってた。
「しかし、すでに俺たちの婚約、それ前提で物事は動き出している」
「……うん」
それもわかってる。家同士の色んなことも含んだ婚約なんだってことくらい、さすがにもう分かってる。
「華はどうしたいんだ?」
「……樹くんは?」
「俺は」
樹くんは目を伏せた。
「このまま、華と結婚したい」
「でもきっと、それが一番皆が幸せになる方法なんだろうね」
樹くんは、既に会社の色んな手伝いなんかも始めているから、私より色んなことが見えてるんだろう。
樹くんに好きな人が今いても、これからできても、樹くんは同じ選択をするのかな。"ゲーム"では簡単にされちゃった婚約破棄、現実ではそうすることが酷く難しい。色んなしがらみとかが見えてしまっている分。
「……常盤コンツェルンは」
「うん」
「ほとんど御前の独裁で成り立っている」
「……うん」
御前。敦子さんのお兄さん。
「そこに敦子さんが切り込んで行っていて、それをウチがサポートしている形だ。ウチとしても悪い話ではない、というか正直喉から手がでるほど欲しい、というのが実情だろう」
樹くんは一拍おいて、それから首を振った。
「長い話になるから、また場を改めよう」
圭に怒られる、と樹くんは肩をすくめた。
「うん」
「華に思う人がいても……正直、俺は華との婚約を破棄するつもりはない」
今度は私が肩をすくめた。"鹿王院としても喉から手が出るほど"の事業に関わるのだ、私たちの婚約は。
(私は人質的なものなのかな)
戦国時代じゃあるまいし、とは思うけれど、生き馬の目を抜くような競争社会において、結局はこういう形が一番、信用を置きやすいのかもしれない。
「まぁ、私も"かもしれない"だから」
「華、俺を好きになる努力をしてくれないか」
樹くんは真摯な目をしていた。
「俺と、恋する努力を」
「恋する努力?」
私は聞き返す。
「俺も、そのための努力をするから」
私はぱちくりと目を見開いた。
(お互い、好きになる努力?)
ふふふ、と私は笑う。真面目な樹くんらしい!
「でも樹くん、恋ってそういうものじゃないんじゃない?」
樹くんは、相変わらず真摯な目のまま私を見ている。
「恋って、いつのまにか落ちてるんじゃないかと思うよ」
「落ちているから困っている」
「?」
私は首を傾げた。
(あ、私がってことか)
自分でもびっくりなんだ。仁を好きかもしれないってこと。単に絆されそうになってるだけかもなんだけど。
「華、」
樹くんがそう口を開きかけた時、どんどん! とドアが叩かれた。
「イーツーキー、もう15分!」
「圭、わかった、わかったから」
圭くんはガチャリと勝手にドアを開けてずんずんと部屋に入ってきた。そして私の前に立ち、じろじろと私を見つめる。
「……うん、何もされてないみたいだね」
「されるわけないでしょ」
「信用されすぎているのもな」
樹くんは冗談めいた口調で言って、圭くんに睨まれていた。
それからリビングで3人でお茶をして、樹くんは帰宅していった。
「早いけど寝るね~」
「おやすみ、ハナ」
「圭くんまだ起きてる?」
「うん」
「敦子さん帰ってきたら、学校からのお知らせ机にありますって伝えてもらっていい?」
「うん。ね、ハナ」
圭くんは立ち上がり、私の前に立った。すこしだけ上にある綺麗な翡翠の目。
さらり、と髪をかきあげられる。
「ピアス」
「あ、うん」
私は思わず少し赤面して、それに触れた。
「開けたの?」
「……変かな」
透明ピアスだし、髪に隠れてるし、気づかれないと思ってたのに。
「似合うと思うよ、きっと」
圭くんは目を細めた。
「……おやすみ」
「うん、おやすみ」
部屋に戻り、クローゼットから仁にもらった紙袋を取り出す。
(結構なハイブランドだよね……)
時計もだったし、こんなにポンポンもらっていいものだろうか。ほんとにお礼しないと。
中の箱を取り出す。オフホワイトのジュエリーボックスに、それは収められていた。小さな花を模した、赤いピアス。ルビーかな?
(誕生石だからかな)
ドキドキしてしまう。
鏡に向かって、ピアスをつけてみる。うまくいかなくて、少しまた血が出たりしたけれど、なんとかつけられた。
髪の毛を耳にかける。
(うん)
自画自賛でアレだけど、似合ってるんではないでしょうか。
嬉しくなって、そのまま布団に入る。そう簡単には外れないと思う。
ピアスを入れ直したせいか、またピアスホールがじんじんと痛む。その痛さがやっぱりなんだか愛おしくて、胸がなんだか高鳴った。
じんじんとした痛み。
(なんだろ)
痛いのに嬉しい。
(へんなの)
私はくすっと笑った。
洗面所で消毒した後、透明なピアスをつけ直す。
リビングに戻ると、樹くんが来ていた。圭くんと何か本を見ていた。画集かな?
「遅くにすまん」
私に気づいた樹くんが言う。
「ううん」
私は微笑んだ。
「どうしたの?」
聞きながらも理由は分かってる。昨日のイースターのダンスパーティー。
「少し2人で話せるか」
「、うん」
部屋行こうか、と言うと圭くんが不服そうな顔をした。
「こんな時間に女性の部屋に上り込むの?」
私は時計を見た。21時。
「そんな顔をするな、すぐ出るから」
苦笑する樹くんに、圭くんは少し考えてから頷いた。
「何かあったら叫んでねハナ」
「大げさだなぁ」
私は肩をすくめた。
部屋で、私は樹くんに椅子をすすめた。自分はベッドに座る。
「華」
樹くんは真剣な目で言う。
「好きな人とは誰だ?」
「好きな人じゃないよ」
私は首を振る。
「好き"かも"しれないヒトがいるって言ったの」
だから手は繋げないと、私は昨日言ったのだ。ダンスパーティ(とはいえ踊っていないけど)、そのあとで。
「……俺は華を縛りたくはない」
「うん」
樹くんは、優しいからそう言ってくれるだろうなと思ってた。
「しかし、すでに俺たちの婚約、それ前提で物事は動き出している」
「……うん」
それもわかってる。家同士の色んなことも含んだ婚約なんだってことくらい、さすがにもう分かってる。
「華はどうしたいんだ?」
「……樹くんは?」
「俺は」
樹くんは目を伏せた。
「このまま、華と結婚したい」
「でもきっと、それが一番皆が幸せになる方法なんだろうね」
樹くんは、既に会社の色んな手伝いなんかも始めているから、私より色んなことが見えてるんだろう。
樹くんに好きな人が今いても、これからできても、樹くんは同じ選択をするのかな。"ゲーム"では簡単にされちゃった婚約破棄、現実ではそうすることが酷く難しい。色んなしがらみとかが見えてしまっている分。
「……常盤コンツェルンは」
「うん」
「ほとんど御前の独裁で成り立っている」
「……うん」
御前。敦子さんのお兄さん。
「そこに敦子さんが切り込んで行っていて、それをウチがサポートしている形だ。ウチとしても悪い話ではない、というか正直喉から手がでるほど欲しい、というのが実情だろう」
樹くんは一拍おいて、それから首を振った。
「長い話になるから、また場を改めよう」
圭に怒られる、と樹くんは肩をすくめた。
「うん」
「華に思う人がいても……正直、俺は華との婚約を破棄するつもりはない」
今度は私が肩をすくめた。"鹿王院としても喉から手が出るほど"の事業に関わるのだ、私たちの婚約は。
(私は人質的なものなのかな)
戦国時代じゃあるまいし、とは思うけれど、生き馬の目を抜くような競争社会において、結局はこういう形が一番、信用を置きやすいのかもしれない。
「まぁ、私も"かもしれない"だから」
「華、俺を好きになる努力をしてくれないか」
樹くんは真摯な目をしていた。
「俺と、恋する努力を」
「恋する努力?」
私は聞き返す。
「俺も、そのための努力をするから」
私はぱちくりと目を見開いた。
(お互い、好きになる努力?)
ふふふ、と私は笑う。真面目な樹くんらしい!
「でも樹くん、恋ってそういうものじゃないんじゃない?」
樹くんは、相変わらず真摯な目のまま私を見ている。
「恋って、いつのまにか落ちてるんじゃないかと思うよ」
「落ちているから困っている」
「?」
私は首を傾げた。
(あ、私がってことか)
自分でもびっくりなんだ。仁を好きかもしれないってこと。単に絆されそうになってるだけかもなんだけど。
「華、」
樹くんがそう口を開きかけた時、どんどん! とドアが叩かれた。
「イーツーキー、もう15分!」
「圭、わかった、わかったから」
圭くんはガチャリと勝手にドアを開けてずんずんと部屋に入ってきた。そして私の前に立ち、じろじろと私を見つめる。
「……うん、何もされてないみたいだね」
「されるわけないでしょ」
「信用されすぎているのもな」
樹くんは冗談めいた口調で言って、圭くんに睨まれていた。
それからリビングで3人でお茶をして、樹くんは帰宅していった。
「早いけど寝るね~」
「おやすみ、ハナ」
「圭くんまだ起きてる?」
「うん」
「敦子さん帰ってきたら、学校からのお知らせ机にありますって伝えてもらっていい?」
「うん。ね、ハナ」
圭くんは立ち上がり、私の前に立った。すこしだけ上にある綺麗な翡翠の目。
さらり、と髪をかきあげられる。
「ピアス」
「あ、うん」
私は思わず少し赤面して、それに触れた。
「開けたの?」
「……変かな」
透明ピアスだし、髪に隠れてるし、気づかれないと思ってたのに。
「似合うと思うよ、きっと」
圭くんは目を細めた。
「……おやすみ」
「うん、おやすみ」
部屋に戻り、クローゼットから仁にもらった紙袋を取り出す。
(結構なハイブランドだよね……)
時計もだったし、こんなにポンポンもらっていいものだろうか。ほんとにお礼しないと。
中の箱を取り出す。オフホワイトのジュエリーボックスに、それは収められていた。小さな花を模した、赤いピアス。ルビーかな?
(誕生石だからかな)
ドキドキしてしまう。
鏡に向かって、ピアスをつけてみる。うまくいかなくて、少しまた血が出たりしたけれど、なんとかつけられた。
髪の毛を耳にかける。
(うん)
自画自賛でアレだけど、似合ってるんではないでしょうか。
嬉しくなって、そのまま布団に入る。そう簡単には外れないと思う。
ピアスを入れ直したせいか、またピアスホールがじんじんと痛む。その痛さがやっぱりなんだか愛おしくて、胸がなんだか高鳴った。
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