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【高校編】分岐・黒田健
遭遇
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横浜で気になってたカフェには小上がり席、っていうかベッドみたいになってる席があって、そこにぺたんと座ってお茶をいただく。
「……女子はこんなん好きなのか」
「うんめっちゃ楽しい」
えへへと笑うと、黒田くんは「飯食いづらい」と神妙な顔をして言った。まぁそれはたしかに!
「晴れてよかったな」
「ね!」
黒田くんが居心地悪そうだったからカフェは早めに出て、2人でのんびり海を眺めながら歩いた。
黒田くんは部活帰りのジャージで(学校名が入ってるやつ)私はシンプルなワンピースで(精一杯のおしゃれ)手を繋いでのんびり過ごす。超幸せ。
「あ」
「あ、先輩」
駅方面に歩いていたら、鹿島先輩と遭遇した。
「こんにちは」
先輩は私に向かってにこりと笑った後、黒田くんを見て少し悲しそうな顔をした。
「話は聞いてるけど、キミ、いい人そうなのにあの高校なんだね」
「? いい人ですよ黒田くんは」
「染まっちゃダメだよ」
先輩は意味深に言う。
「設楽さんだけ大事にしてあげてね」
「? うっす」
返事を聞くと、先輩はほんの少し微笑んだ。
「あ、黒田、デートかよ」
その声に振り向くと、黒田くんと同じジャージの集団。
(空手部のひとたち)
この間お邪魔したので、私はぺこりと頭を下げた。
「そう言いましたけど」
「いいご身分だな~、オイ」
黒田くんと楽しそうに話すのは、こないだ黒田くんと組手してた先輩。
「お疲れさまです」
とりあえずご挨拶。
「やー、彼女さん、黒田に飽きたらいつでもオレ空いてるから、ね……」
その先輩の言葉の語尾が霞むように消えた。鹿島先輩が冷たい目でみていたから。
「え、ヒトミ」
鹿島先輩は下の名前を呼ばれて、ものすごく嫌そうな顔をする。
「あ、ごめん、鹿島……さん。ご無沙汰してます」
「相変わらず軽薄そうで何よりだわ、水戸くん」
「いやそんな、はは」
水戸くん、と言われた先輩は頭をかいた。
「じゃあ設楽さん、わたし行くわね、また明日」
「あ、はい」
先輩はさっさと踵を返して歩いていく。普段は三つ編みにしてる黒髪がサラリと揺れた。
「知り合いっすか」
「いや、昔、色々……」
水戸さんは「やっちゃった」って顔をしてしゃがんでしまった。
「オレは本当にタイミングが悪い男なんだ……」
「……なんとなくお察しします」
なにがあったか分からないけれど、多分、水戸さんは鹿島先輩が好きなんだろうなぁと思う。
鹿島先輩は毛嫌いしてそうだったけど。
「ねぇ設楽さん、鹿島さんっていまフリー?」
「え、分かんないです……けど」
私は正直なところを言う。
「そちらの高校のことは、野蛮だと」
「あー、まじで? うん」
水戸さんは頭を抱えた。
「ごめん、ほんと反省してるって伝えてもらっていい……?」
「お伝えする分には」
「よろしくね……」
水戸先輩の肩をぽん、と別の先輩が叩いた。
「そろそろ諦めろお前、いつまでもウジウジウジウジと」
「うう、だってまさか」
「縁がなかったんだよ」
「いやだあ」
部活の人たちは「またな」と挨拶して、駅方面に歩いて行った。水戸さんは半分引きずられていたけど。
「なんか、……憎めない感じの人だね」
完璧に鹿島先輩には嫌われてそうだけど。
「空手は強いんだけどな」
黒田くんは意外そうな顔をして、水戸さんの背中を見つめていた。
「つーか」
「ん?」
黒田くんは、ぽん、と私の頭に手を置いた。
「寝不足か?」
「え、わかる?」
「ん」
黒田くんはぶっきらぼうに頷く。
「少しクマできてる」
「んー」
私は下まぶたを指で触れる。
「なーんかね」
寝つきが悪くて、なんて言うけど実は違う。何度も起きてしまうのだ。
(夢見が悪い、っていうのかな)
最近、やけに生々しい夢を見るのだ。
(生々しい、っていうか……"記憶"が戻る前の、華の記憶っていうか)
あの、小学五年生直前の春休み、神戸の病院で目覚める前の記憶。設楽華の記憶。
(しかも、一番多く見るのが……"事件"の前くらいからの記憶)
起きた時、はっきり記憶に残っていることもあれば、普通の夢みたいにすぐ忘れるものもある。
(雪が降ってた)
"事件"ーー華のお母さんが殺された日。まだ夜明けまでは時間がある、そんな暁前。ガタガタと音がして目を覚ますと、リビングで男の人が"お母さん"に馬乗りになっていた。包丁が薄暗闇できらりと輝いて"華"は小さく悲鳴をあげた。
(……そんな夢)
夢っていうか記憶?
(本当に起きたことなんだろうか)
少し考えこんでしまって、心配気な黒田くんと目線が合う。
「悩み事でもあんのか」
「……あのね」
黒田くんは知ってる。私の"お母さん"が殺されたこともーー。
「調べたいことがあるの」
「分かった、付き合う」
「何かって聞かないの?」
「なんでもいーよ」
黒田くんは少し頬を緩める。
「設楽がそれで眠れるようになるなら」
なんだか不思議な言い回しで、私は首をかしげる。黒田くんは笑った。
「お前は幸せにメシの夢見てるくらいでちょうどいいんだ」
「……女子はこんなん好きなのか」
「うんめっちゃ楽しい」
えへへと笑うと、黒田くんは「飯食いづらい」と神妙な顔をして言った。まぁそれはたしかに!
「晴れてよかったな」
「ね!」
黒田くんが居心地悪そうだったからカフェは早めに出て、2人でのんびり海を眺めながら歩いた。
黒田くんは部活帰りのジャージで(学校名が入ってるやつ)私はシンプルなワンピースで(精一杯のおしゃれ)手を繋いでのんびり過ごす。超幸せ。
「あ」
「あ、先輩」
駅方面に歩いていたら、鹿島先輩と遭遇した。
「こんにちは」
先輩は私に向かってにこりと笑った後、黒田くんを見て少し悲しそうな顔をした。
「話は聞いてるけど、キミ、いい人そうなのにあの高校なんだね」
「? いい人ですよ黒田くんは」
「染まっちゃダメだよ」
先輩は意味深に言う。
「設楽さんだけ大事にしてあげてね」
「? うっす」
返事を聞くと、先輩はほんの少し微笑んだ。
「あ、黒田、デートかよ」
その声に振り向くと、黒田くんと同じジャージの集団。
(空手部のひとたち)
この間お邪魔したので、私はぺこりと頭を下げた。
「そう言いましたけど」
「いいご身分だな~、オイ」
黒田くんと楽しそうに話すのは、こないだ黒田くんと組手してた先輩。
「お疲れさまです」
とりあえずご挨拶。
「やー、彼女さん、黒田に飽きたらいつでもオレ空いてるから、ね……」
その先輩の言葉の語尾が霞むように消えた。鹿島先輩が冷たい目でみていたから。
「え、ヒトミ」
鹿島先輩は下の名前を呼ばれて、ものすごく嫌そうな顔をする。
「あ、ごめん、鹿島……さん。ご無沙汰してます」
「相変わらず軽薄そうで何よりだわ、水戸くん」
「いやそんな、はは」
水戸くん、と言われた先輩は頭をかいた。
「じゃあ設楽さん、わたし行くわね、また明日」
「あ、はい」
先輩はさっさと踵を返して歩いていく。普段は三つ編みにしてる黒髪がサラリと揺れた。
「知り合いっすか」
「いや、昔、色々……」
水戸さんは「やっちゃった」って顔をしてしゃがんでしまった。
「オレは本当にタイミングが悪い男なんだ……」
「……なんとなくお察しします」
なにがあったか分からないけれど、多分、水戸さんは鹿島先輩が好きなんだろうなぁと思う。
鹿島先輩は毛嫌いしてそうだったけど。
「ねぇ設楽さん、鹿島さんっていまフリー?」
「え、分かんないです……けど」
私は正直なところを言う。
「そちらの高校のことは、野蛮だと」
「あー、まじで? うん」
水戸さんは頭を抱えた。
「ごめん、ほんと反省してるって伝えてもらっていい……?」
「お伝えする分には」
「よろしくね……」
水戸先輩の肩をぽん、と別の先輩が叩いた。
「そろそろ諦めろお前、いつまでもウジウジウジウジと」
「うう、だってまさか」
「縁がなかったんだよ」
「いやだあ」
部活の人たちは「またな」と挨拶して、駅方面に歩いて行った。水戸さんは半分引きずられていたけど。
「なんか、……憎めない感じの人だね」
完璧に鹿島先輩には嫌われてそうだけど。
「空手は強いんだけどな」
黒田くんは意外そうな顔をして、水戸さんの背中を見つめていた。
「つーか」
「ん?」
黒田くんは、ぽん、と私の頭に手を置いた。
「寝不足か?」
「え、わかる?」
「ん」
黒田くんはぶっきらぼうに頷く。
「少しクマできてる」
「んー」
私は下まぶたを指で触れる。
「なーんかね」
寝つきが悪くて、なんて言うけど実は違う。何度も起きてしまうのだ。
(夢見が悪い、っていうのかな)
最近、やけに生々しい夢を見るのだ。
(生々しい、っていうか……"記憶"が戻る前の、華の記憶っていうか)
あの、小学五年生直前の春休み、神戸の病院で目覚める前の記憶。設楽華の記憶。
(しかも、一番多く見るのが……"事件"の前くらいからの記憶)
起きた時、はっきり記憶に残っていることもあれば、普通の夢みたいにすぐ忘れるものもある。
(雪が降ってた)
"事件"ーー華のお母さんが殺された日。まだ夜明けまでは時間がある、そんな暁前。ガタガタと音がして目を覚ますと、リビングで男の人が"お母さん"に馬乗りになっていた。包丁が薄暗闇できらりと輝いて"華"は小さく悲鳴をあげた。
(……そんな夢)
夢っていうか記憶?
(本当に起きたことなんだろうか)
少し考えこんでしまって、心配気な黒田くんと目線が合う。
「悩み事でもあんのか」
「……あのね」
黒田くんは知ってる。私の"お母さん"が殺されたこともーー。
「調べたいことがあるの」
「分かった、付き合う」
「何かって聞かないの?」
「なんでもいーよ」
黒田くんは少し頬を緩める。
「設楽がそれで眠れるようになるなら」
なんだか不思議な言い回しで、私は首をかしげる。黒田くんは笑った。
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