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【高校編】分岐・黒田健

女子校の生徒(side健)

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「知ってるか今日ミツジョの人たち来るらしいぜ」

 この男子校において、女が校内に入ってくるというのは(先生を除いて)一大イベントらしい。

「マジかよ」
「可愛いかな」

 昼休み。入学してまだひと月も経っていないのに、コイツらテンション高ぇな、と俺はそいつらを眺めた。同じクラスのやつら、けっこういいヤツばっかで楽しく過ごしている。

(設楽に会いてーなとは思うけど)

 それを除いては、かなり充実した高校生活のスタートを切っていると思う。

「黒田、てめーなんかスカした顔しやがって」
「嬉しくねーのかよ、女子だぞ女子」
「いや別に……登校中とか見るだろ女子。なに騒いでんだよ」
「お前はシュギョーソーか!」

 シュギョーソー? うまく脳内変換できなくて一瞬悩む。ああ、修行僧か。なんだそりゃ。

「俺は煩悩の塊みたいな人間だぞ」
「ウッソ、お前ムッツリなのムッツリ」
「好きに言え」

 めんどくさくなって、俺はそう答えた。紙パックのカフェオレを飲む。

「可愛かったら声かけたいなぁ、彼女欲しい」
「欲しいよな、彼女いたらこの潤いのない男子校生活も乗り切れそう」

 俺は黙ってカフェオレを飲む。設楽に会いたい。今頃なにしてんのかな。毎日メールはしてるけど。設楽のスマホは制限が色々あって、メールくらいしかできない。

「……黒田、お前さっきから黙ってるけどまさか彼女とかいねぇよな」

 友達のひとり、森田がそう言って、俺は目線を上げた。

「いるけど」
「はぁ!?」

 周りのやつ数人が立ち上がる。

「裏切り者!」
「裏切ってねえわ」

 どっからそうなる。

「写真! みせろ!」
「嫌だ」

 写真じゃ設楽のことは何も伝わらない。変にカオが整ってるせいで、多分こいつらそこにしか目が行かないし。

「なんだよ照れんなよ」
「美人かブスかだけ教えて」
「てめーら、自分の彼女ブスとか言うやついると思うのか」

 俺は憮然として言う。

「付き合ったことねーからわかんねーよ!」
「しらねぇわ」

 ちょうど予鈴が鳴って、俺たちはめいめいの席に戻る。授業は古典、眠くらねぇように気をつけねーといけない。
 と思っていたのに、少しウトウトしてしまったらしい。はたかれて起きた。
 仲良いやつらがニヤニヤ笑う。

「彼女と遅くまでいちゃついてるからだ」

 森田がこっそり言ってきた。

「いちゃついてねーし」

 2週間くらい会ってねーぞ。

(今週末、会えるけど)

 練習試合の後、コーチがそのまま研修に行くらしくて現地解散だと言われたのだ。少しだけだけど時間できた、と伝えたら速攻でメールが返ってきた。

「黒田、それから宿題忘れたやつ、放課後職員室までプリント取りに来い」

 追加課題だ、と言われて少しげんなりする。森田もげーって顔をしていた。宿題忘れたんだろう。

 放課後、部活に行く準備もして俺たちは職員室へ向かった。

「部活順調?」
「おう」

 厳しいけどやりがいはある。

「野球部どうなんだ」
「人数多いからなぁ、ポジション争いですでにヤバイ」

 森田は野球部で、中学まではエースで四番だったらしいけど高校ではキツイって話をよく聞いていた。

「幼馴染で野球やってるやついて、いま青百合だけど、やっぱポジション争いって大変なんだな」
「あ、青百合も強豪だよなー。なんてやつ?」
「秋月」
「え、もしかして秋月翔? ショートの」
「知ってんのか」
「有名! 身体小さいけど打つよな」

 野球はよくわかんねえけど、どうやらあいつは結構有名人だと知って少し見直した。
 職員室に入ると、森田が固まる。

「あ、あれ、サンジョの子たちじゃん」

 見ると、ブルーグレーのブレザーの、4、5人の女子……、の1人から目が離せなくなる。

「うわ、あの子美人」
「設楽」

 思わず声をかけた。設楽が振り向く。

「あ、黒田くん」

 ふふ、と手を振ってこっちに小走りでかけてくる。

「実行委員、入ったって言ってたなそういや」
「そなの」
「来るなら言えよ」
「びっくりするかなーって」

 もし会えたらって思ったの、と微笑む設楽。
 背後で森田が動いた。

「あ、あの、黒田の友達!? おれ、同じクラスの森田です」
「あ、設楽です」
「森田」

 俺は森田を軽く睨んだ。

「友達じゃねー」
「え、あ、そうなの? 仲よさそうだったから」
「彼女だよ」
「……ん!?」

 森田は軽く叫んで、それから俺と設楽を交互に見た。

「お付き合い!?」
「悪いかよ」
「いや、悪くは……ええ、まじかよ、彼女クソ美人じゃん……」

 俺は森田を無視して「今からどーすんの」と設楽に聞く。

「今から生徒会の皆さんにご挨拶だよ。ちょっとミーティングみたいなのして、そこから帰宅」
「……遅くなったら迎え来てもらえよ」
「うん」

 にこり、と笑う設楽の頭を少し撫でた。

(あー、設楽だ)

 本物だ。目の前にいる。会いたかった。抱きしめたい。

(ほんと俺は煩悩しかない)

 きょとんと俺を見上げる設楽を公衆の面前で抱きしめる前に、手を振って離れた。
 プリントをもらう時に先生にまで「マジで彼女?」と聞かれた。

「……マジっすよ」
「うわぁお前どうやったの」
「いや普通に」

 答えながら俺は自分がイラついていることに気づく。

(見んなよ)

 生徒も教師も、普段女っ気がないからか、悪気なく設楽を見る。じろじろと。
 俺は憮然としながら部活に向かった。相変わらず俺は独占欲が強くて嫌になる。
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