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【高校編】分岐・山ノ内瑛
風紀委員の憂鬱
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イースターってなんでしょね。
「いまいち日本人には馴染みがないかもな」
「僕たちは幼稚園から毎年しているからなぁ」
私の質問に、樹くんと、樹くんのお友達の如月くんはそう言って顔を見合わせた。
高等部のカフェテリア。ゲームと違って部活優先のスポクラ(あくまで通称。基本的には普通科らしい)に進学した樹くんと、こちらも普通科だけど通称「青百合組」と呼ばれる内部進学組のクラスに進学してる、如月くん。
昼休み、大村さんとカフェテリアでスイーツを堪能していたら2人がやってきたのだ。
「ところでそっちのお友達はどうしたの?」
如月くんがそう言って、大村さんを覗き込む。
「ひぇ、いや、その、えっと」
きょときょとと大村さんは挙動不審だ。体調でも悪い?
「大村さん?」
「い、いやそのっ」
その時、ふと樹くんが時計を気にした。
「すまん、次体育なんだ」
「スポクラの体育ってレベル高そうだよな」
「そうでもないぞ」
「いや絶対そうだから」
2人は立ち上がる。
「じゃあ華、また連絡する」
「はーい、でもほんと気を使わないでね」
なんでも樹くんがイースターにドレスを買ってくれるらしく……。
(申し訳ないしなぁ)
あっても使わないし。レンタルにする気満々だ。
「そう言うな」
樹くんは優しく笑って、如月くんと連れ立って行った。
「……ほんとに許婚なんだ」
「え、知ってるの?」
「うん、噂で」
大村さんが言う。
「かっ……こいいよねぇ、いいなぁ」
「あは、かっこいいよねぇ樹くん。でも形だけだよ、私たち」
私はカフェオレボウルを(学校のカフェのくせにそんなものがある)両手で持って言った。
「え、そうなの? 仲よさそうだけど」
「仲はいいよー。小学校からの付き合いだし」
「えー?」
大村さんは首をかしげる。
「多分高校か、大学までじゃないかな?」
私は淡々と言う。嘘じゃない。
(大学を出たら)
私は、きっともう日本にいない。
一瞬暗い顔をした私に不思議そうな視線を向けた大村さんに、私は笑って肩をすくめた。
「それに、釣り合ってないでしょ、私たち」
「え!?」
大村さんは目を瞬かせた。
「釣り合ってない? 誰と誰が」
「私と樹くん? 樹くんがすごい人すぎて」
悪役令嬢(中身は残念な享年アラサー)と、頭も良くて顔も良くて運動までできる(年齢別代表に呼ばれるレベルで)の樹くんと。
(ま、アキラくんとも釣り合ってないと思うけど)
私。
でも、アキラくんはそういう問題じゃない。好きすぎる。釣り合ってなくても、なんでも構わないからあの人は私のものだって強く思う。
「そんなことないと思うけど」
「あるよ、あはは」
「そうかなー」
大村さんはそれでも何度も首を捻ってくれた。いい人だ。それか、まだ残念な中身がバレ切ってないか、かな。
「そういえば、設楽さんって風紀委員なんだよね」
「うん」
じゃんけんで負けたのです。
「図書委員が良かったな~」
「明日からしばらく風紀チェックするんでしょ」
「やだな」
私は口を尖らせた。
「ただでさえ私、第一印象良くないのに」
校門前で中等部、高等部問わずひたすら服装チェックだ。
「この学校って、女子にやたら厳しいよね」
大村さんがふ、と息を吐く。
「まぁ元々が別の学校だったらしいから」
「え、そうなの?」
「うん、明治あたりからあった女子校と男子校が戦後統合されたんだって」
「へえ」
「風紀に関する校則は、元の学校のままほとんど改正されてないから」
元から厳しかった女子校の校則と、自立を重んじていた男子校の比較的自由な校則が同じ学校の中に混在している感じだ。
「男子校のほうは、服装の規定とかほとんどなかったみたい。だから、男子は髪染めとかもオッケー」
らしい。うん、ズルイ気はするけど、……それでゲームのアキラくんは金髪だったわけだ。
(でも金髪、さすがに浮くよね?)
染髪可でも、さすが品行方正な青百合学園、染めてる男子はほとんどいない。いてもほんの少し茶色くするくらいで、なんとなーく、それくらいがラインになってる。それ以上明るければ、口頭で少し抑えるように注意し続けていく、というのが風紀委員会のマニュアル。たいていは指示に従ってもらえるらしい。
「えー、不公平」
「過去に何度か女子の方も改革案でたらしいんだけどね、OG会の反対で毎回ぽしゃるんだって」
「やだね」
卒業してまでクチ出さないでよね、なんて大村さんは眉を寄せた。
「女子だけほんっと服装厳しい」
「その細かいルールを暗記して、明日朝から口うるさくならなきゃなのよう」
「が、頑張って設楽さん」
「うう」
したくない。髪だけでも結構な規定がある。
少し髪が明るければ「地毛証明書は提出してありますか?」「黒染めはできませんか?」
髪型はお団子、ポニーテール禁止。謎すぎるけど「うなじを出してはいけない」らしい。なんだそりゃ。
千晶ちゃんも青百合に入学したけど、中学までしてたポニーテールは封印してる。今はハーフアップ。可愛いから何でも似合うけど。
パーマも禁止で、天パの子でもストパーをかけなくちゃいけない。痛む。髪もお財布も。
「……納得いかないなぁ」
うん、見逃そう。やる気は出さないでいこう。
「あは、やっぱ設楽さんユルいよね」
「だってさー」
私は片肘をついて頬を乗せた。
「男子も厳しいなら納得いくけど、女子だけだもん」
「オヤには、校則も納得尽くで入学したんでしょ? って言われちゃった」
「えー、でも違くない?」
私は大村さんを見る。
「学校案内のパンフレットにもなかったし、学校説明会でも、女子だけ服装規定がありますとか黒髪ストレート以外は認めませんとか、言われなかったよね」
「それ!」
大村さんはぐっと拳を作った。
「卒業生が身近にいるとかなら情報あるかもだけど」
「だよね」
入学して急に言われるのだ。明日までに髪、黒くしてきて。え、これ地毛なんです先生。地毛でも黒くしてきて。
「まぁ、ここの子たち真面目だし、そんなに違反してる子いないよ」
「まぁね」
今ざっと見る感じでも、違反の子は見当たらない。そもそもお嬢様メインの学校なので、たとえ服装規定が撤廃されようとそこまで変わらないような気もする。
「ま、要は立って挨拶してればいいだけだよね」
「だと思うよ?」
グチって、ちょっと楽になった。ありがたや。
そんな感じで、少し楽観的に迎えた翌日の風紀検査、私はただ呆然と彼を見上げた。ド金髪。
「あの、……、あき、じゃない、キミ。男子でもさすがに金髪はどうかなと」
「なんで? あかんの?」
ちょっと余裕っぽく笑うアキラくんに、私はただ「なんで今日染めてきたのよ!?」と心の中で叫ぶしかなかったのだった。
「いまいち日本人には馴染みがないかもな」
「僕たちは幼稚園から毎年しているからなぁ」
私の質問に、樹くんと、樹くんのお友達の如月くんはそう言って顔を見合わせた。
高等部のカフェテリア。ゲームと違って部活優先のスポクラ(あくまで通称。基本的には普通科らしい)に進学した樹くんと、こちらも普通科だけど通称「青百合組」と呼ばれる内部進学組のクラスに進学してる、如月くん。
昼休み、大村さんとカフェテリアでスイーツを堪能していたら2人がやってきたのだ。
「ところでそっちのお友達はどうしたの?」
如月くんがそう言って、大村さんを覗き込む。
「ひぇ、いや、その、えっと」
きょときょとと大村さんは挙動不審だ。体調でも悪い?
「大村さん?」
「い、いやそのっ」
その時、ふと樹くんが時計を気にした。
「すまん、次体育なんだ」
「スポクラの体育ってレベル高そうだよな」
「そうでもないぞ」
「いや絶対そうだから」
2人は立ち上がる。
「じゃあ華、また連絡する」
「はーい、でもほんと気を使わないでね」
なんでも樹くんがイースターにドレスを買ってくれるらしく……。
(申し訳ないしなぁ)
あっても使わないし。レンタルにする気満々だ。
「そう言うな」
樹くんは優しく笑って、如月くんと連れ立って行った。
「……ほんとに許婚なんだ」
「え、知ってるの?」
「うん、噂で」
大村さんが言う。
「かっ……こいいよねぇ、いいなぁ」
「あは、かっこいいよねぇ樹くん。でも形だけだよ、私たち」
私はカフェオレボウルを(学校のカフェのくせにそんなものがある)両手で持って言った。
「え、そうなの? 仲よさそうだけど」
「仲はいいよー。小学校からの付き合いだし」
「えー?」
大村さんは首をかしげる。
「多分高校か、大学までじゃないかな?」
私は淡々と言う。嘘じゃない。
(大学を出たら)
私は、きっともう日本にいない。
一瞬暗い顔をした私に不思議そうな視線を向けた大村さんに、私は笑って肩をすくめた。
「それに、釣り合ってないでしょ、私たち」
「え!?」
大村さんは目を瞬かせた。
「釣り合ってない? 誰と誰が」
「私と樹くん? 樹くんがすごい人すぎて」
悪役令嬢(中身は残念な享年アラサー)と、頭も良くて顔も良くて運動までできる(年齢別代表に呼ばれるレベルで)の樹くんと。
(ま、アキラくんとも釣り合ってないと思うけど)
私。
でも、アキラくんはそういう問題じゃない。好きすぎる。釣り合ってなくても、なんでも構わないからあの人は私のものだって強く思う。
「そんなことないと思うけど」
「あるよ、あはは」
「そうかなー」
大村さんはそれでも何度も首を捻ってくれた。いい人だ。それか、まだ残念な中身がバレ切ってないか、かな。
「そういえば、設楽さんって風紀委員なんだよね」
「うん」
じゃんけんで負けたのです。
「図書委員が良かったな~」
「明日からしばらく風紀チェックするんでしょ」
「やだな」
私は口を尖らせた。
「ただでさえ私、第一印象良くないのに」
校門前で中等部、高等部問わずひたすら服装チェックだ。
「この学校って、女子にやたら厳しいよね」
大村さんがふ、と息を吐く。
「まぁ元々が別の学校だったらしいから」
「え、そうなの?」
「うん、明治あたりからあった女子校と男子校が戦後統合されたんだって」
「へえ」
「風紀に関する校則は、元の学校のままほとんど改正されてないから」
元から厳しかった女子校の校則と、自立を重んじていた男子校の比較的自由な校則が同じ学校の中に混在している感じだ。
「男子校のほうは、服装の規定とかほとんどなかったみたい。だから、男子は髪染めとかもオッケー」
らしい。うん、ズルイ気はするけど、……それでゲームのアキラくんは金髪だったわけだ。
(でも金髪、さすがに浮くよね?)
染髪可でも、さすが品行方正な青百合学園、染めてる男子はほとんどいない。いてもほんの少し茶色くするくらいで、なんとなーく、それくらいがラインになってる。それ以上明るければ、口頭で少し抑えるように注意し続けていく、というのが風紀委員会のマニュアル。たいていは指示に従ってもらえるらしい。
「えー、不公平」
「過去に何度か女子の方も改革案でたらしいんだけどね、OG会の反対で毎回ぽしゃるんだって」
「やだね」
卒業してまでクチ出さないでよね、なんて大村さんは眉を寄せた。
「女子だけほんっと服装厳しい」
「その細かいルールを暗記して、明日朝から口うるさくならなきゃなのよう」
「が、頑張って設楽さん」
「うう」
したくない。髪だけでも結構な規定がある。
少し髪が明るければ「地毛証明書は提出してありますか?」「黒染めはできませんか?」
髪型はお団子、ポニーテール禁止。謎すぎるけど「うなじを出してはいけない」らしい。なんだそりゃ。
千晶ちゃんも青百合に入学したけど、中学までしてたポニーテールは封印してる。今はハーフアップ。可愛いから何でも似合うけど。
パーマも禁止で、天パの子でもストパーをかけなくちゃいけない。痛む。髪もお財布も。
「……納得いかないなぁ」
うん、見逃そう。やる気は出さないでいこう。
「あは、やっぱ設楽さんユルいよね」
「だってさー」
私は片肘をついて頬を乗せた。
「男子も厳しいなら納得いくけど、女子だけだもん」
「オヤには、校則も納得尽くで入学したんでしょ? って言われちゃった」
「えー、でも違くない?」
私は大村さんを見る。
「学校案内のパンフレットにもなかったし、学校説明会でも、女子だけ服装規定がありますとか黒髪ストレート以外は認めませんとか、言われなかったよね」
「それ!」
大村さんはぐっと拳を作った。
「卒業生が身近にいるとかなら情報あるかもだけど」
「だよね」
入学して急に言われるのだ。明日までに髪、黒くしてきて。え、これ地毛なんです先生。地毛でも黒くしてきて。
「まぁ、ここの子たち真面目だし、そんなに違反してる子いないよ」
「まぁね」
今ざっと見る感じでも、違反の子は見当たらない。そもそもお嬢様メインの学校なので、たとえ服装規定が撤廃されようとそこまで変わらないような気もする。
「ま、要は立って挨拶してればいいだけだよね」
「だと思うよ?」
グチって、ちょっと楽になった。ありがたや。
そんな感じで、少し楽観的に迎えた翌日の風紀検査、私はただ呆然と彼を見上げた。ド金髪。
「あの、……、あき、じゃない、キミ。男子でもさすがに金髪はどうかなと」
「なんで? あかんの?」
ちょっと余裕っぽく笑うアキラくんに、私はただ「なんで今日染めてきたのよ!?」と心の中で叫ぶしかなかったのだった。
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