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【高校編】分岐・山ノ内瑛

図書館

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 無事に青百合に入学して、1週間ほどが過ぎた。

「あ、華ちゃん」
「ひよりちゃん」

 廊下でひよりちゃんとすれ違った。お友達もいたけど、なぜか驚いたような顔で私とひよりちゃんを交互に見ている。

(?)

 私は不思議に思いつつも会釈する。

「やほー」
「今から実技?」

 ひよりちゃんの持ってる楽譜を見て私は聞く。ひよりちゃんは音楽科なのだ。楽譜見せてもらったことあるけど、よく指がもつれちゃわないなぁって思う。

「そだよー」

 ちらり、と見せてくれた楽譜はやっぱり指が両手でも足りなさそうで、そう言うとひよりちゃんは笑った。

「練習すれば弾けるよ」

 これくらいなら、とひよりちゃんは言う。

「絶対ムリだぁ、私リズム感もないし」
「あは、ないよねー」

 からかうようなひよりちゃんに、私は「もー」と言いながら苦笑いする。

「どうするの、イースターにあるダンパ」
「眺めとくよ、分かんないもんワルツなんか」

 復活祭イースターのダンスパーティー。

("ゲーム"では最初の方で1番大きなイベントだったなぁ)

 その時1番好感度高いキャラクターとイベントが発生する。(華の妨害を避けつつ)花が咲き誇る庭園で、2人きりでダンスできるという、なんか良くある感じのイベント。

(ぜぇぇったいアキラくんとそんなイベント発生させないもんねっ)

 来年の話だけど。

(未来に嫉妬するって、ほんとバカらしいけど)

 妙な顔をしている私を見て不思議そうなひよりちゃんに、私は誤魔化すように笑った。

「じゃあ頑張ってー。また聞かせてね」
「うん」

 手を振って別れる。お友達さんもぺこりと会釈してくれたので、微笑んで会釈し返した。
 昼休み、ここの学校はお昼ご飯の選択肢が結構ある。お弁当、学食、カフェ。私はいつも学食を選ぶ。学食は、中等部と共通だから。
 入学式で話しかけられて以来、なんとなく仲がいい女の子、大村さんと並んで座った。大村さんも高校からの入学組。

「美味しそうだね日替わりランチ」
「親子丼も美味しそう」

 私が日替わりランチで、大村さんは親子丼。

「でも量、多くない……?」
「……あは」

 日替わりランチは基本的に男子向けっていうか、全体的に量が多め。

(で、でも食べておかないと放課後まで保たないんだもん)

 あんまり食べない子たちの燃費ってどうなってるんだろう……。

「なんか」

 ふふ、と大村さんは笑う。

「設楽さんって色々意外」
「え、そ、そう?」
「ごめんね、入学式の時はなんかつめたそーな子だなって勝手に」
「ああ」

 私は苦笑いした。

(悪役令嬢的な?)

「ちょっと目つき悪いもんね、私」

 もっと可愛らしい顔つきが良かったな、なんて言うと大村さんは驚愕の表情を浮かべた。

「えぇ、そのカオでまだ不満が……!?」
「な、なに!?」
「だって美人じゃん設楽さん」
「や、」

 否定しようとして、やめた。唯一の悪役令嬢スペック、整った顔面はさすがに否定できない。謙遜したらイヤミなレベルだ。全然生かせてないけど。

「……でも強そうすぎない?」
「大丈夫、話したらユルイの分かるから」
「ゆ、ゆるい」

 まぁ中身はゆるゆるな人なんですけども。うん。

「ここいい?」
「あ、どうぞ」

 向かいに座ったのは、同じクラスの男子2人。

「さっきの化学、いけた?」
「モル?」

 話しかけられて、答える。

「なんか急に"化学"ってかんじだよな」
「わかる」

 私と大村さんは苦笑した。一気に難しくなる、やっぱり。

「1モルが6.02かける1023個?」
「だからさ、1ダース12個みたいなかんじだろ」
「大雑把だな」
「あは、それわかりやすいね」

 私が言うと、男子たちも笑う。

「設楽さん、なんか意外だよな」
「わかる」
「あ、その話してたんだよ」

 大村さんもくすくす笑う。

「意外にとっつきやすい」
「え、そんなに第一印象悪い……?」

 私は目尻に手を当ててマッサージした。少しはタレ目になれ。

「……なにしてるの?」
「や、目つきがキツイせいかなって」
「だとしてもマッサージしても意味なくない!?」

 3人に笑われて、「もう」と頬を膨らませていると、軽く椅子に誰かがぶつかった。

「あ、さーせん」
「いえ」

 私はその人と目を合わせる。

(……ご機嫌ななめ?)

 私は首を傾げた。

「わ、関西弁だ」
「ここスポーツ留学とかけっこうあるみたいだもんな」

 男子がもぐもぐとカレーを食べながら言った。

「何部だろ。結構背ぇ高いな、中等部なのに」
「うらやましーな」
「な!」

 そう言い合う男子に、私は心の中で少し笑う。あの人はバスケ部で、とっても努力家で、とてもバスケが上手なんだよって。

「ん、そ、そう思ったんだって」
「んー、褒めてくれて嬉しいけどやな華」

 放課後、図書館。水曜日がミーティングだけのアキラくんとこっそり会う、地下の書庫。
 多分ほかに人はいなさそうだけど、小声でひそやかに話す。

「俺にヤキモチやかせてどうにかしたいん? 華は」
「ん、だから」

 たまたま同じテーブルに、って言う声はキスでかき消された。降り注ぐキス。

「あんな可愛いカオ、他のやつに見せよって」
「、そんなカオしてないよ」
「もおオトコと飯なんか食うたらあかんで?」
「でも、クラスの」
「クラスのでもあかん」

 アキラくんは私の耳を軽く噛む。

「シットで死にそう」
「それは」

 私もむう、と口を尖らせた。

「私のセリフだよ。キャーキャー言われて」
「勝手に寄ってくんねん、知ってるやろ?」

 アキラくんは私の手首をとって、そこにもキスを落とす。

「俺には華だけやって」
「私もだよ」

 ほとんど鼻が触れあうような距離でお互いを見つめて、ほとんど同時に吹き出した。

「アホやな俺ら」
「ね、ほんと」

 クスクス笑いあう。

「こっそり練習観に行こうかな」
「俺は嬉しいけど、華目立つで」
「目立つかなぁ」
「自覚ナシかい」

 アキラくんは私の頭をくしゃくしゃにした。

「毎日会いたい」
「俺も」

 私たちは静かに抱き合う。アキラくんの心臓の音だけが聞こえる。
 時間なんか進まなければいいのに、と私は強く思った。
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