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分岐・山ノ内瑛
救出
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男の信者さんは私たちを応接室(?)のような部屋に通して、勝手に説明を始めた。簡素な応接セット。向かい合わせのソファ。
「じきに破滅が来るのはご存知ですね? ハルマゲドン」
のっけからノストラダムス的なのキタ!
(99年7の月にアンゴルモアは来なかったのに!)
ほんと、まーだ言ってるのかこの人たちは。流行遅れだぞ、なんて言ってやりたくなるけどグッと我慢。
「ヨハネの黙示録に、こうあります……"日の出る方から来る王たち"と。"東方の日出づる国"は、ヘブライ語で"ミズホラ"と呼ぶのです。日本の古名は、豊葦原瑞穂の国。さらに"大和"は"ヤ・マト"であり、神の民をあらわすのです」
「ほえーん」
アキラくんがちょっと興味深そうにするので、私は慌てて肘でアキラくんをつつく。な、なに感心しちゃってんの!?
「このように、日本とは選ばれた地なのです。さらに、禁教時代に耐え忍び信仰を守った隠れキリシタンの裔たる我々の教祖さまは」
「すみませんお手洗い借りていいですか」
唐突に、真さんはにっこりと微笑んで言った。
「……ならば案内を」
話を遮られて鼻白む男に連れられ、真さんは部屋を出て行く。
(なにか考えがあるんだろうけど)
「石宮はどこ行ったんや?」
「分かんないけど、あ、アキラくん! 千晶ちゃんの居場所が分かったって」
「多分やけどな。三階の」
「西側の部屋だろ? 窓が少なかった」
「ん?」
「なーんや、センセも気づいたったんか。いやな、華。ここの建物、1階はともかくとして2階も4階も等間隔に窓あんのに、3階の西側だけバラバラやねん。多分隠し部屋みたいなんがあるわ」
私はぽかんと2人を見た。よく見ている!
「じゃ、じゃあすぐにでも」
「どーなんやろここ、見張りとか」
アキラくんは「おるんかな」と続けようとしたみたいだけど、その声は火災報知器のけたたましいベルでかき消された。
「なんだ?」
仁が廊下をみるけど、異変はなさそうだった。そして私たちをふりかえって「行くぞ」と言う。
「これ、鍋島兄だろ。このタイミングは。何したんだか知んねーけど」
「せやな、行くで華」
アキラくんは私の手を握る。
「うん!」
私は頷いて部屋を飛び出した。
「こっちや」
アキラくんが階段を見つけて駆け上がる。
「この辺りなハズやけどな」
「壁だね」
2人が立ち止まったところには、白い壁。
「両隣、どちらかの部屋にはドアがあるかもたけど」
仁が片方の部屋のドアノブを回すが、ガチャガチャと音がするだけだ。反対側の部屋のドアノブもアキラくんが回す。
「こっちもあかん」
私は壁を叩いた。
「千晶ちゃん!」
「華、あまり騒ぐな」
仁がそう言った時、壁の中から返事があった。
「……華ちゃん!?」
壁越しの、くぐもった小さな声。
「千晶ちゃん!」
「ビンゴやったな」
アキラくんが眉をひそめて言って「なんかないんかな」と呟いた。
「どうするの?」
「この壁、突き破ろう思って」
「で、できる?」
私の質問に答えたのは仁だった。
「薄いし、できると思うけど。多分元のドアを外して、そこをベニヤ板かなんかで塞いで上から壁紙貼ってあるだけ」
「じゃあそうしよう! 手分けして何か探して」
「その必要はないよ」
真さんが微笑んでいる。
「……その、手にお持ちのそれは」
「んー? 通称、バールのようなもの」
「バールですよねそれ」
どこから見つけてきたんだ!? と真さんを見つめていると、真さんはゆっくりと壁に近づいた。
「千晶ー?」
「お、お兄様!?」
「壁を壊すから、少し離れて」
「か、壁って、……分かりました! みなさん、離れて」
後半は別の誰か、それも複数人に対しての言葉だった。
「他にもおるんかいな」
アキラくんが言う。私も頷いた。
(もしかして、連続女子中学生失踪事件の、その子たち?)
だとすれば、一気に事件も解決だ、と思っていると真さんはバールを仁に渡した。
「ん?」
訝しむ仁に、真さんは笑いかけた。
「一番手慣れてるデショ? 僕は連絡係」
真さんはそう言ってスマホを取り出した。
「ケーサツ呼びまぁす」
「……食えねーガキ」
仁はバール片手に壁に近づく。手で壁を確認しながら、少し声を張り上げた。
「離れたか、鍋島!?」
「せ、先生っ? は、はい」
「じゃあいくぞ、せーのっ」
がごん! という音を立てて壁には簡単に穴があいた。
「ありゃ、足でもいけたかなこれは」
気が抜けたように仁は言う。
「まーいーか、もいっちょ」
さらにもう一押し、ふた押し、でかなり大きな穴が空いた。仁はそれをさらに足で蹴り壊す。
穴の向こうに、何人かの女の子が見えた。庇うように前に立っているのは、やはり千晶ちゃんだった。
「千晶ちゃん!」
「華ちゃん」
「と、気をつけろよ」
仁が蹴り広げてくれた穴から、私は部屋に入る。殺風景な部屋に、女の子が20人くらい……?
「もう大丈夫!」
私は何もしてないんだけど、でも安心させようとしてそうシッカリと言う。
「警察も来るし!」
「……なんということをしたのです!」
女の子の1人が、私に掴みかかろうとしてきた。
「、え」
「華っ」
部屋に入ってきていたアキラくんが、私を引き寄せる。女の子は憎々しげに私たちを睨みつけた。
「なんやねんアンタ」
「何もかもお終いです! 地球は滅びてしまう!」
「何言うてんの」
「教祖様が警察などに連れていかれたら、もうイエス様が産まれない!」
激昂するその子に刺激されたかのように、他の子たちが次々と泣き出した。嗚咽をもらして、近くにいる子と抱き合うように。
私たちは困惑して目線を交わした。
(一体、何が起きてるの……?)
「じきに破滅が来るのはご存知ですね? ハルマゲドン」
のっけからノストラダムス的なのキタ!
(99年7の月にアンゴルモアは来なかったのに!)
ほんと、まーだ言ってるのかこの人たちは。流行遅れだぞ、なんて言ってやりたくなるけどグッと我慢。
「ヨハネの黙示録に、こうあります……"日の出る方から来る王たち"と。"東方の日出づる国"は、ヘブライ語で"ミズホラ"と呼ぶのです。日本の古名は、豊葦原瑞穂の国。さらに"大和"は"ヤ・マト"であり、神の民をあらわすのです」
「ほえーん」
アキラくんがちょっと興味深そうにするので、私は慌てて肘でアキラくんをつつく。な、なに感心しちゃってんの!?
「このように、日本とは選ばれた地なのです。さらに、禁教時代に耐え忍び信仰を守った隠れキリシタンの裔たる我々の教祖さまは」
「すみませんお手洗い借りていいですか」
唐突に、真さんはにっこりと微笑んで言った。
「……ならば案内を」
話を遮られて鼻白む男に連れられ、真さんは部屋を出て行く。
(なにか考えがあるんだろうけど)
「石宮はどこ行ったんや?」
「分かんないけど、あ、アキラくん! 千晶ちゃんの居場所が分かったって」
「多分やけどな。三階の」
「西側の部屋だろ? 窓が少なかった」
「ん?」
「なーんや、センセも気づいたったんか。いやな、華。ここの建物、1階はともかくとして2階も4階も等間隔に窓あんのに、3階の西側だけバラバラやねん。多分隠し部屋みたいなんがあるわ」
私はぽかんと2人を見た。よく見ている!
「じゃ、じゃあすぐにでも」
「どーなんやろここ、見張りとか」
アキラくんは「おるんかな」と続けようとしたみたいだけど、その声は火災報知器のけたたましいベルでかき消された。
「なんだ?」
仁が廊下をみるけど、異変はなさそうだった。そして私たちをふりかえって「行くぞ」と言う。
「これ、鍋島兄だろ。このタイミングは。何したんだか知んねーけど」
「せやな、行くで華」
アキラくんは私の手を握る。
「うん!」
私は頷いて部屋を飛び出した。
「こっちや」
アキラくんが階段を見つけて駆け上がる。
「この辺りなハズやけどな」
「壁だね」
2人が立ち止まったところには、白い壁。
「両隣、どちらかの部屋にはドアがあるかもたけど」
仁が片方の部屋のドアノブを回すが、ガチャガチャと音がするだけだ。反対側の部屋のドアノブもアキラくんが回す。
「こっちもあかん」
私は壁を叩いた。
「千晶ちゃん!」
「華、あまり騒ぐな」
仁がそう言った時、壁の中から返事があった。
「……華ちゃん!?」
壁越しの、くぐもった小さな声。
「千晶ちゃん!」
「ビンゴやったな」
アキラくんが眉をひそめて言って「なんかないんかな」と呟いた。
「どうするの?」
「この壁、突き破ろう思って」
「で、できる?」
私の質問に答えたのは仁だった。
「薄いし、できると思うけど。多分元のドアを外して、そこをベニヤ板かなんかで塞いで上から壁紙貼ってあるだけ」
「じゃあそうしよう! 手分けして何か探して」
「その必要はないよ」
真さんが微笑んでいる。
「……その、手にお持ちのそれは」
「んー? 通称、バールのようなもの」
「バールですよねそれ」
どこから見つけてきたんだ!? と真さんを見つめていると、真さんはゆっくりと壁に近づいた。
「千晶ー?」
「お、お兄様!?」
「壁を壊すから、少し離れて」
「か、壁って、……分かりました! みなさん、離れて」
後半は別の誰か、それも複数人に対しての言葉だった。
「他にもおるんかいな」
アキラくんが言う。私も頷いた。
(もしかして、連続女子中学生失踪事件の、その子たち?)
だとすれば、一気に事件も解決だ、と思っていると真さんはバールを仁に渡した。
「ん?」
訝しむ仁に、真さんは笑いかけた。
「一番手慣れてるデショ? 僕は連絡係」
真さんはそう言ってスマホを取り出した。
「ケーサツ呼びまぁす」
「……食えねーガキ」
仁はバール片手に壁に近づく。手で壁を確認しながら、少し声を張り上げた。
「離れたか、鍋島!?」
「せ、先生っ? は、はい」
「じゃあいくぞ、せーのっ」
がごん! という音を立てて壁には簡単に穴があいた。
「ありゃ、足でもいけたかなこれは」
気が抜けたように仁は言う。
「まーいーか、もいっちょ」
さらにもう一押し、ふた押し、でかなり大きな穴が空いた。仁はそれをさらに足で蹴り壊す。
穴の向こうに、何人かの女の子が見えた。庇うように前に立っているのは、やはり千晶ちゃんだった。
「千晶ちゃん!」
「華ちゃん」
「と、気をつけろよ」
仁が蹴り広げてくれた穴から、私は部屋に入る。殺風景な部屋に、女の子が20人くらい……?
「もう大丈夫!」
私は何もしてないんだけど、でも安心させようとしてそうシッカリと言う。
「警察も来るし!」
「……なんということをしたのです!」
女の子の1人が、私に掴みかかろうとしてきた。
「、え」
「華っ」
部屋に入ってきていたアキラくんが、私を引き寄せる。女の子は憎々しげに私たちを睨みつけた。
「なんやねんアンタ」
「何もかもお終いです! 地球は滅びてしまう!」
「何言うてんの」
「教祖様が警察などに連れていかれたら、もうイエス様が産まれない!」
激昂するその子に刺激されたかのように、他の子たちが次々と泣き出した。嗚咽をもらして、近くにいる子と抱き合うように。
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