145 / 702
分岐・山ノ内瑛
銀杏の葉
しおりを挟む
ちょっとずつ、肌寒い季節になってきている。
私とアキラくんは、やっぱり裏門近くの、人が来なくてあまり風の当たらないところにくっついて並んで、金色に光る銀杏の葉を眺めながら昼休みを過ごしていた。
秋の高い青空と濃い黄色のコントラストはとても綺麗で、ついボケーっと眺めてしまう。
「あんな」
「なに?」
アキラくんが口を開いて、私は首を傾げた。
「健クンがやな」
「うん?」
黒田くん?
「俺んとこ来たんや、こないだ。放課後に」
「え、なんで?」
「大事にせえ言われたわ」
「? なにを?」
私の質問には答えず、アキラくんはただ笑った。
「……大事にしとるわって答えたわ」
「ふうん?」
「華は気にせんでええよ。一応言っとこ思うただけ」
「ふーん?」
「ええねん」
アキラくんはただ笑って、私の手を握った。それから、また空を見上げる。
「せやけど、イチョウって漢字やと銀って入るけど、金色やんな」
全然違う話。もうさっきの話はおしまい、ってことなんだろう。
「あ、ほんとだね」
「謎やわ~。調べてみよ」
アキラくんはスマホをぽちぽちと触り、私はそれを覗き込む。
「あ」
「あー、なんや、ギンナンの方な」
「確かにあれは銀色、といえば銀色」
そして顔を見合わせて、くすくすと笑いあう。ほんと下らないことしてると思うけど、アキラくんとなら何だって楽しい。
ふと検索サイトのニュース一覧を見て、私は首をかしげる。うちにはテレビも新聞もないので、ニュースをよく知らないのだ。
「女子中学生連続失踪事件?」
「あー。これな。おとんの話やと、九州から始まって関西、中部と来て神奈川らしいわ」
夏あたりから始まったらしい。
「なんでだろうね?」
「気をつけなあかんで華」
心配気なアキラくん。
「ん、大丈夫」
私は微笑む。
(だって、護衛の人たち、まだいるらしいからね)
圭くんいわく、だけど。
とはいえ、敦子さんとは、なんとなく普段通りの雰囲気になってきている。
ギスギスしてるのはやだし、敦子さんが私のことを思ってくれているのも、分かる。……分からないではない、くらいの感覚だけど。
情緒的には、なんだか中学生寄りな昨今だけど、それでも大人の分別はまだ、ちゃんとある。
真さんの話も合わせると、要は大人の世界のゴタゴタに巻き込まれちゃったわけか、と思う。
(駆け落ち、かあ)
アキラくんはそう言ってくれてる。今は現実感ないけど、……ほんとにそうしなきゃいけない日も、来るのかもしれない。
(巻き込んじゃっていいのかな)
好きだから、だからこそ離れなきゃいけないこともあるのかな、とも思う。傷つけたくないから。
ふと黙り込んだ私の手を、アキラくんがにぎる。
「? アキラくん」
「なぁ、華、俺のこと巻き込みたくないとか思うとらん?」
「え、あ」
「華」
アキラくんはその手を私の頬に添える。
「巻き込まれたいんや、俺は。部外者で指くわえて見てるより、華と一緒に傷つきたいんや」
おでこに唇を落とす。
「あかん? 俺、その方が幸せなんやけど」
「でも、アキラくんに傷ついて欲しくないってのは私の本心なんだよ」
「そんなんしらーん」
アキラくんの唇は色んなところに降ってくる。頬、こめかみ、頭、鼻。
「勝手だよ」
私は少し赤くなりながら言う。勝手なのは、巻き込んでおきながら、それに甘えてる私自身、なんだけど。
「勝手やで俺は。自分勝手なんや」
「そんなこと、ないと思うけど。勝手なのは、私の方」
「華、もうな、あんま抵抗すなや。無駄やで、俺は俺の好きなようにしかせえへん」
そう言った唇は、私の唇にふと触れて、すぐに離れた。
「……なぁ、その顔反則やで華」
「どうして」
「そんな寂しいって顔されたら、またちゅーしてまうやん」
そう言いながら、もう一度、アキラくんはそっと唇を寄せた。今度は、ほんの少しだけ深く。
「華の甘えたさん」
からかうように言う言葉に、私は笑って頷く。
「うん」
「ほんま可愛い」
こつん、とおでこを合わせてアキラくんと微笑みあう。
「俺も甘えたさんやから、甘えてええ?」
「うん」
頷くと、アキラくんはぎゅうっと私を抱きしめた。
「幸せなろうなぁ、華。今もじゅうぶん幸せやけど、もっともっと幸せなろうな」
「……うん」
私もぎゅうっとアキラくんを抱きしめ返す。
(こういうとこ、好きだな)
幸せにする、とかじゃなくて、幸せになろうなって言ってくれるところ。
うまく言葉じゃ表現できない。
アキラくんの肩越しに、銀杏が光る。
青空とのコントラストのせいだろうか。その葉は、やたらと眩しく光って見えて、あまりに綺麗で、私は目を離せなくなる。
私とアキラくんは、やっぱり裏門近くの、人が来なくてあまり風の当たらないところにくっついて並んで、金色に光る銀杏の葉を眺めながら昼休みを過ごしていた。
秋の高い青空と濃い黄色のコントラストはとても綺麗で、ついボケーっと眺めてしまう。
「あんな」
「なに?」
アキラくんが口を開いて、私は首を傾げた。
「健クンがやな」
「うん?」
黒田くん?
「俺んとこ来たんや、こないだ。放課後に」
「え、なんで?」
「大事にせえ言われたわ」
「? なにを?」
私の質問には答えず、アキラくんはただ笑った。
「……大事にしとるわって答えたわ」
「ふうん?」
「華は気にせんでええよ。一応言っとこ思うただけ」
「ふーん?」
「ええねん」
アキラくんはただ笑って、私の手を握った。それから、また空を見上げる。
「せやけど、イチョウって漢字やと銀って入るけど、金色やんな」
全然違う話。もうさっきの話はおしまい、ってことなんだろう。
「あ、ほんとだね」
「謎やわ~。調べてみよ」
アキラくんはスマホをぽちぽちと触り、私はそれを覗き込む。
「あ」
「あー、なんや、ギンナンの方な」
「確かにあれは銀色、といえば銀色」
そして顔を見合わせて、くすくすと笑いあう。ほんと下らないことしてると思うけど、アキラくんとなら何だって楽しい。
ふと検索サイトのニュース一覧を見て、私は首をかしげる。うちにはテレビも新聞もないので、ニュースをよく知らないのだ。
「女子中学生連続失踪事件?」
「あー。これな。おとんの話やと、九州から始まって関西、中部と来て神奈川らしいわ」
夏あたりから始まったらしい。
「なんでだろうね?」
「気をつけなあかんで華」
心配気なアキラくん。
「ん、大丈夫」
私は微笑む。
(だって、護衛の人たち、まだいるらしいからね)
圭くんいわく、だけど。
とはいえ、敦子さんとは、なんとなく普段通りの雰囲気になってきている。
ギスギスしてるのはやだし、敦子さんが私のことを思ってくれているのも、分かる。……分からないではない、くらいの感覚だけど。
情緒的には、なんだか中学生寄りな昨今だけど、それでも大人の分別はまだ、ちゃんとある。
真さんの話も合わせると、要は大人の世界のゴタゴタに巻き込まれちゃったわけか、と思う。
(駆け落ち、かあ)
アキラくんはそう言ってくれてる。今は現実感ないけど、……ほんとにそうしなきゃいけない日も、来るのかもしれない。
(巻き込んじゃっていいのかな)
好きだから、だからこそ離れなきゃいけないこともあるのかな、とも思う。傷つけたくないから。
ふと黙り込んだ私の手を、アキラくんがにぎる。
「? アキラくん」
「なぁ、華、俺のこと巻き込みたくないとか思うとらん?」
「え、あ」
「華」
アキラくんはその手を私の頬に添える。
「巻き込まれたいんや、俺は。部外者で指くわえて見てるより、華と一緒に傷つきたいんや」
おでこに唇を落とす。
「あかん? 俺、その方が幸せなんやけど」
「でも、アキラくんに傷ついて欲しくないってのは私の本心なんだよ」
「そんなんしらーん」
アキラくんの唇は色んなところに降ってくる。頬、こめかみ、頭、鼻。
「勝手だよ」
私は少し赤くなりながら言う。勝手なのは、巻き込んでおきながら、それに甘えてる私自身、なんだけど。
「勝手やで俺は。自分勝手なんや」
「そんなこと、ないと思うけど。勝手なのは、私の方」
「華、もうな、あんま抵抗すなや。無駄やで、俺は俺の好きなようにしかせえへん」
そう言った唇は、私の唇にふと触れて、すぐに離れた。
「……なぁ、その顔反則やで華」
「どうして」
「そんな寂しいって顔されたら、またちゅーしてまうやん」
そう言いながら、もう一度、アキラくんはそっと唇を寄せた。今度は、ほんの少しだけ深く。
「華の甘えたさん」
からかうように言う言葉に、私は笑って頷く。
「うん」
「ほんま可愛い」
こつん、とおでこを合わせてアキラくんと微笑みあう。
「俺も甘えたさんやから、甘えてええ?」
「うん」
頷くと、アキラくんはぎゅうっと私を抱きしめた。
「幸せなろうなぁ、華。今もじゅうぶん幸せやけど、もっともっと幸せなろうな」
「……うん」
私もぎゅうっとアキラくんを抱きしめ返す。
(こういうとこ、好きだな)
幸せにする、とかじゃなくて、幸せになろうなって言ってくれるところ。
うまく言葉じゃ表現できない。
アキラくんの肩越しに、銀杏が光る。
青空とのコントラストのせいだろうか。その葉は、やたらと眩しく光って見えて、あまりに綺麗で、私は目を離せなくなる。
0
お気に入りに追加
3,084
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!
神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう.......
だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!?
全8話完結 完結保証!!
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
未来の記憶を手に入れて~婚約破棄された瞬間に未来を知った私は、受け入れて逃げ出したのだが~
キョウキョウ
恋愛
リムピンゼル公爵家の令嬢であるコルネリアはある日突然、ヘルベルト王子から婚約を破棄すると告げられた。
その瞬間にコルネリアは、処刑されてしまった数々の未来を見る。
絶対に死にたくないと思った彼女は、婚約破棄を快く受け入れた。
今後は彼らに目をつけられないよう、田舎に引きこもって地味に暮らすことを決意する。
それなのに、王子の周りに居た人達が次々と私に求婚してきた!?
※カクヨムにも掲載中の作品です。
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
執事が〇〇だなんて聞いてない!
一花八華
恋愛
テンプレ悪役令嬢であるセリーナは、乙女ゲームの舞台から穏便に退場する為、処女を散らそうと決意する。そのお相手に選んだのは能面執事のクラウスで……
ちょっとお馬鹿なお嬢様が、色気だだ漏れな狼執事や、ヤンデレなお義兄様に迫られあわあわするお話。
※ギャグとシリアスとホラーの混じったラブコメです。寸止め。生殺し。
完結感謝。後日続編投稿予定です。
※ちょっとえっちな表現を含みますので、苦手な方はお気をつけ下さい。
表紙は、綾切なお先生にいただきました!
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?
ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる