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分岐・山ノ内瑛
保健室にて(side小西)
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いちおうは華様護衛のメンバーの責任者である、というかまぁ簡単に言うとリーダーの相良さんが、華様と山ノ内くんのことを報告していないので安心する。
「なんで」
相良さんは不思議そうに言う。放課後の保健室、他には誰もいない。
わたしはデスクに座って、相良さんは入り口近くの壁に腕組みをして立っていた。
「だって相良さん、華様にご執心ですし? 引き離すかと」
「しねーよ」
呆れたように相良さんは言う。
「あんなさぁ、可哀想なくらい切なそうな顔見てて、引き離すとかできる?」
相良さんはひとつ、ため息をつく。
「そもそもね、俺らの仕事は護衛であって、監視じゃねぇの。契約書にンなこと一言も書かれてないからね」
「まぁ……その通りです」
先日、華様は敦子様に「監視をやめろ」と直談判したらしい。
そもそも監視のつもりではないのだけれど、華様からしたらそう思われても仕方はない、と思う。
敦子様は「分かった」と返事をしたらしいが、現状、護衛は今まで通りだ。わたしは仕事を失わず済んで安心しているけれど、華様の心境たるや、だ。
「あー」
わたしの複雑な気持ちを知ってか知らずか、相良さんは気だるい声でそう呟く。
「また見守り隊かぁ」
「また、ってなんです、またって」
「なんでもない~」
ぷい、と相良さんは顔をそらして、子どもみたいに口を尖らせた。
「はぁ、まぁ興味ないんでいいんですけど」
「ひどっ。まぁ今回は黒田も一緒だからな、見守り隊。がんばろ」
む、とわたしは相良さんを睨む。
まだ身の程が分かっていないらしい、この三十路。
「あのですね、相良さんと黒田くん、いっしょにしないでもらえます? 黒田くんはまだまだチャンスありますし、というか」
わたしはじっとりと睨みつける。
「やっぱりそんな目で華様を、このロリコン」
「ちーがーいーまーすぅ、ロリコン違います」
眉をひそめる相良さんを無視して、わたしは話を続けた。
「しかし、特捜ですか」
「お忙しいことで」
肩をすくめて相良さんは言った。
山ノ内くんのお父上は、東京地検特捜部への異動、だったらしい。通称「8階」、不敗神話を誇る検察庁の花形。
「10年近く前ですかね、京都であった、資格試験絡みの背任事件。山ノ内検事が当時捜査に当たられてました。あれ指揮してたのが今の特捜部長で、当時は京都地検の特刑部長だったみたいです。その絡みで引き抜きがあったみたいで」
その頃わたしはまだ学生だったので、詳しい人間関係については分からない。
「ふうん? じゃあまた似たような事件扱うのかな」
「さあ、大きな案件になりますと、それだけ捜査に時間もかかりますから」
京都の事件だって、起訴から判決までだけで、まる3年かかっている。
「そりゃそうだねえ。何年がかりになるのかね」
それからふう、とため息をついて「花に嵐のたとえもあるぞ、か」と呟いた。
「さよならだけが、人生だ」
「多分解釈間違ってますよ? 激励の意味の詩です、もともと」
「いーんだよ、無粋だなぁ。知ってるけどさ、ラスト二行だけの味みたいなのもあるでしょ」
「はぁまぁ、……どうでもいいですけど」
わたしがそう言うと、相良さんはやっぱり笑って答えた。
「ひどっ」
「なんで」
相良さんは不思議そうに言う。放課後の保健室、他には誰もいない。
わたしはデスクに座って、相良さんは入り口近くの壁に腕組みをして立っていた。
「だって相良さん、華様にご執心ですし? 引き離すかと」
「しねーよ」
呆れたように相良さんは言う。
「あんなさぁ、可哀想なくらい切なそうな顔見てて、引き離すとかできる?」
相良さんはひとつ、ため息をつく。
「そもそもね、俺らの仕事は護衛であって、監視じゃねぇの。契約書にンなこと一言も書かれてないからね」
「まぁ……その通りです」
先日、華様は敦子様に「監視をやめろ」と直談判したらしい。
そもそも監視のつもりではないのだけれど、華様からしたらそう思われても仕方はない、と思う。
敦子様は「分かった」と返事をしたらしいが、現状、護衛は今まで通りだ。わたしは仕事を失わず済んで安心しているけれど、華様の心境たるや、だ。
「あー」
わたしの複雑な気持ちを知ってか知らずか、相良さんは気だるい声でそう呟く。
「また見守り隊かぁ」
「また、ってなんです、またって」
「なんでもない~」
ぷい、と相良さんは顔をそらして、子どもみたいに口を尖らせた。
「はぁ、まぁ興味ないんでいいんですけど」
「ひどっ。まぁ今回は黒田も一緒だからな、見守り隊。がんばろ」
む、とわたしは相良さんを睨む。
まだ身の程が分かっていないらしい、この三十路。
「あのですね、相良さんと黒田くん、いっしょにしないでもらえます? 黒田くんはまだまだチャンスありますし、というか」
わたしはじっとりと睨みつける。
「やっぱりそんな目で華様を、このロリコン」
「ちーがーいーまーすぅ、ロリコン違います」
眉をひそめる相良さんを無視して、わたしは話を続けた。
「しかし、特捜ですか」
「お忙しいことで」
肩をすくめて相良さんは言った。
山ノ内くんのお父上は、東京地検特捜部への異動、だったらしい。通称「8階」、不敗神話を誇る検察庁の花形。
「10年近く前ですかね、京都であった、資格試験絡みの背任事件。山ノ内検事が当時捜査に当たられてました。あれ指揮してたのが今の特捜部長で、当時は京都地検の特刑部長だったみたいです。その絡みで引き抜きがあったみたいで」
その頃わたしはまだ学生だったので、詳しい人間関係については分からない。
「ふうん? じゃあまた似たような事件扱うのかな」
「さあ、大きな案件になりますと、それだけ捜査に時間もかかりますから」
京都の事件だって、起訴から判決までだけで、まる3年かかっている。
「そりゃそうだねえ。何年がかりになるのかね」
それからふう、とため息をついて「花に嵐のたとえもあるぞ、か」と呟いた。
「さよならだけが、人生だ」
「多分解釈間違ってますよ? 激励の意味の詩です、もともと」
「いーんだよ、無粋だなぁ。知ってるけどさ、ラスト二行だけの味みたいなのもあるでしょ」
「はぁまぁ、……どうでもいいですけど」
わたしがそう言うと、相良さんはやっぱり笑って答えた。
「ひどっ」
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