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分岐・相良仁

背中の暖かさ

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 背中で華がおとなしくしている。さすがに反省しているのだろうと思うし……、というか、反省してもらわなければ。

(ナカミはいいトシしてる癖して)

 妙なところで意地張りやがってこのザマだ、ほんとバカ。
 さんざん小言は言ってやったので、あとは黙って林道を歩く。

「ごめんね」

 ぽつりと背中で、華は言う。

「いーよ。まあ無事で良かった」

 いつものトーンで言ってやると、華は少し安心したように息をついた。

「てか、すごいね、人背負って崖登れるんだ?」
「まぁ割と足場があったから」
「ニンジャみたい」
「はは」

 軍隊時代も言われたことあるな、それ。

「山岳部とかだったの? ボルダリングが趣味?」
「いやぁ昔取った杵柄というか」
「あれ、華ちゃん?」

 川遊び組の最後尾だろうメンバーに追いつく。大友が不思議そうに駆け寄ってきた。

「どうしたの?」
「あー。コケたみたいだよ」

 俺が笑って言うと、華は背中で余計にしゅんとした。

「え、大丈夫?」
「捻挫してるみたいで」
「小西先生呼ぼうか」

 俺はぎくりとした。いや、何も悪いことはしてないぞ俺は。

「ううん、宿舎で見てもらうからいいよ」

 華が断って、俺はホッとする。
 宿舎に戻って、小西に堂々と華を引き渡す。

(何もしてないぞ俺は)

 そういう気持ちをこめて小西を見たが、その目は(女子中学生背負えて良かったですねロリコン野郎)と語っている……だから、違うんだって。

「設楽、大丈夫か」

 黒田が救護室を覗きに来た。

「うん、大丈夫」

 華も少しホッとしたような顔をする。え、なんだ、ほんとにフったフられたの関係なのか? ……だよね?
 すぐに鍋島も入ってきたので少しホッとする。

(俺もいちいち中学生相手に何ヤキモチ妬いてるんだか)

 ……いや、中学生相手だから、なのか。 華と堂々と恋愛できる立場だから。
 俺はこっそり息を吐いて、考えをリセットする。教師としての仕事だってあるのだ、俺は。

「……じゃあ小西先生、頼みました」
「はぁい」

 含みのある返事を聞き流しつつ、宿舎から出る。これからカレーの準備なのだ、火傷とか続出しそうだし、魚捌くのはどうなんだ、大騒ぎしそうだ、と、ちょっとうんざりする。
 だいたい飯盒炊爨なんか何のためにするんだ。アウトドアだ? レーションを食べろクソまずいレーションを。とりあえず腹は膨れる。
 黒田も鍋島もすぐに自分の班に合流して調理を開始する。鍋島は包丁持てないしどうかなと思ったが、自ら洗い物係になってしのいでいた。
 一度救護室にもどる。もう、暗いので華は外に出たがらないだろう。というか、出られないと思う。

「あ、相良先生」
「どうです、足は」
「軽い捻挫、みたいです」

 小西の前だしこんな会話になる。

(なんかこっそり付き合ってるカップルみてー)

 秘密の共有って、なんか、いいな。
 俺はちょっとニヤつく。

「? 気持ち悪いですよ?」

 小西に素で言われた。

「……失礼な。ええと、どうしますか設楽さん、外には出られないでしょう」
「えーと、千晶ちゃんがカレー持ってきてくれるらしいんで、食堂で食べます」

 華は笑って言う。宿舎の食堂で食べるのは元からの予定だったが、あんなだだっ広いところで1人でメシはさみしーだろうなぁ、と思う。

「酷くなるようなら、明日病院行った方がいいと思います、今のところは湿布で様子見ましょう」

 小西がそう言って、首をかしげる。

「どうする? 食堂まで歩ける?」
「えっと、……相良先生」

 華はじっと俺を見上げた。

「歩いてみますけど、無理そうなら手伝ってもらっていいですか?」
「もちろん」

 じいっと小西に見つめられるけど、これ華に頼まれたんだもんね~だ。
 救護室を出て、階段を上がるけど途中で華はへばる。

「あー、むりそ」
「無理すんな」

 俺は華を肩に担ぐ。

「え、ちょっと、仁」
「怪我してんだから足バタつかせんじゃねーよ」
「うう」

 華は大人しくじっとして「前はさぁ」と呟いた。

「そんなに肉体派って訳じゃなかったよねぇ?」
「あー、まぁ、たまたま」
「たまたまねぇ。筋トレでもしてるの」
「まぁな」
「へんなの!」

 華はケタケタ笑うけど、それも仕事のため、つかお前の護衛が俺の仕事なんだけど。まぁ教えないけどね。
 誰もいない食堂の窓際の椅子に座らせる。窓の外では楽しそうに皆はしゃぎながらカレーを作っているのが見えて、なんていうか、華は少し寂しそうに見えた。

「この後さぁ、キャンプファイヤーでしょ」
「おう」
「いいなぁ」
「あー」
「踊るんでしょみんな」
「まぁな」
「定番のアレを」

 華は上半身だけで踊る仕草をした。練習だけは、華も参加していたから。そしてクスクスと笑う。

「好きな子と当たると緊張するんだよね」
「あー、わかる」
「でしょ」

 華の笑顔を見ながら、俺は固まる。
 前世の話、として聞いて相槌まで打ったけど、……え、もしや今だったりする?
 俺は「ごめん、それ今の話? 前世じゃなくて?」なんて聞いてしまう。

「え、いや、前世」
「そうか」

 あからさまにホッとしてしまって、俺はちょっとシマッタと思う。恐る恐る華の様子を見ると、何か考えてる顔をしていた。

「……華?」
「あのさ、仁」
「なに」

 返事をしながら、俺はどきどきしてる。まさか、バレた?

「仁って、小西先生と付き合ってるの?」
「は?」
「違う?」

 俺は一瞬、言われた意味が分からなくてぼうっとした後、大きく否定する。

「違う違う違う、なんでそんな誤解を」
「え、だってなんか雰囲気、仲よさそうっていうか、そうだな」

 うーん、と華は首をかしげる。

「もしくは、何か秘密を共有してるかんじ?」

 俺は一瞬、びくりとするけど「とにかく付き合うとか絶対ない」と全力で否定しておく。
 別に誰に誤解されてもいいけど、華にだけはダメだ。ダメというか、嫌だ。

「そー?」
「絶対」
「ふーん?」

 まだ少し疑っている華に、俺はつい、言ってしまう。

「だって俺、好きな人いるもん」

 告白もできないくせに、こういうところは素直に言っちゃうんだからホント俺ってバカだよね。バカオブバカだよ、ほんとにもう。
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