142 / 702
分岐・山ノ内瑛
カフェテリアにて(side千晶)
しおりを挟む
華ちゃんの話に、わたしは思わず掴んでいたフルーツサンドを落とすところだった。
「ごめん、ちょっと怒涛の展開すぎて」
「なんかごめんね、話に付き合ってもらっちゃって」
小さく肩をすくめる華ちゃんは、なんだかひどく華奢に見えた。元から細い子だけど、なんだかちょっと痩せたかな。
わたしは少し心配になって眉をひそめた。
華ちゃんいきつけのカフェ。いちばん奥の窓側の席で、わたしたちは話し込んでいる。
窓の外は酷い雨で、真夏なのに肌寒い。
「……樹くんは?」
そう聞くと、華ちゃんは困ったように眉を下げた。
「ほっぺ撫でられた」
「ん?」
「私にもよく分からないんだけど」
華ちゃんは、とりあえず樹くんには報告したらしい。すると、何も言わずに、ただ頬を撫でられた、と。
(どんな風に)
思ったんだろう、とは思う。大好きな華ちゃんから、"好きな人ができた"という話を聞いて?
「それだけ?」
「うん」
華ちゃんは俯いた。
「なんかもー、あれだね、私、前世はバリバリの、なんていうかいわゆる庶民だったけど、自由だったなぁって」
「ああ」
わたしは同意してうなずいた。
「選択肢はあったよね」
「いまないんだなー」
華ちゃんは目を伏せる。
「アキラくんといると、安心できたんだけど……離れてひとりだと、なんかもう、どうしていいか分からなくなってきてて」
「うん」
1人になると考えちゃうよね、と思う。
「そもそもアキラくん、ほんとは高校からなんじゃないかな、青百合。やっぱ。中学で転校とか……したくなかったんじゃないかな」
「それは分からないよ、本当に"ゲーム"でもそういう事になってたのかも、なんだし」
華ちゃんは、ゆるゆると首を振った。
「だけど、でも……私、やっぱり諦めたほうがいいのかなって。そうしなきゃ、アキラくんの人生メチャクチャにしてるんじゃないかって不安で。私、こんなに誰かに執着するタイプじゃなかったはずなんだけど」
華ちゃんは責任を感じているみたいだった。でも、こういうのって誰かが責任感じなきゃいけないことかな?
(中学生同士が、ただ惹かれ合ったってだけで?)
わたしはそう思う。
「諦めて……樹くんと許婚続けて、それで樹くんがいつか好きな人できたら、その時はお互い様だから、そこで解消して。それが一番波風立たないのかな~とか、思ってきちゃって」
「自己犠牲はなにも生まないよ、華ちゃん」
わたしは言う。
「樹くんもきっとそれは望まない」
そう言いながら、わたしは首をかしげる。
「でも、敦子さん、なんでそんなに華ちゃんと樹くんとの婚約にこだわるんだろ?」
「知りたぁい?」
わたしはぎくりと固まった。聞き慣れた声。生まれてから毎日聞いてる、その声の持ち主、ーーお兄様はにこりと笑って、華ちゃんの横に座った。わたしはお兄様をにらみつける。華ちゃんはただただ驚いた目でお兄様を見つめていた。
「なんでいるんです! というか、そこをどいてお兄様! せめてわたしの横に」
「んー? 僕の横がいいのかい千晶? まったく、ふふ、甘えん坊さんめ」
「違うけどそれでいいです、もう……っていうか、なんでここに、いつから」
「自己犠牲がどうののところ?」
「そ、ですか」
前世云々は聞かれてなくて少し安心する。
わたしの横に座ったお兄様は、優美に手を上げてウェイターを呼ぶ。
「アッサムを」
「ミルクでよろしいですか?」
「ここミルクティー用のしかない?」
「いえ」
「じゃあストレートで」
「かしこまりました」
注文を終えて、お兄様はにっこり微笑む。
「ちゃんとした茶葉おいてるみたいで良かった」
「そうですか」
どうでも良かったので、わたしはふう、と息を吐きながら答えた。
「あの、婚約にこだわる理由って」
華ちゃんは意を決したようにお兄様に言う。
「教えてください」
「いいよ、今機嫌がいいから」
お兄様はわたしのフルーツサンドを勝手に1つ食べて、笑う。
「あのね、キミのお母さん、ホントは僕らの父親と結婚するはずだったんだよ」
「え」
わたしもそれほ初耳で、思わずお兄様を見上げる。
「10歳近く違ったのかな? 僕らのオトーサマのが年上で。だけどね、子供の頃に決められた許婚」
お兄様は目を細める。
「でもね、結果的に君の母親は恋人と駆け落ちしちゃったわけだ。お腹には既にキミがいたらしいよ? 常盤としてはもうどうしようもないからさ、勘当してカタつけて、あとまー、何かしらの補填もあったみたいだけど、僕はそれが何か知らない」
「それと、華ちゃんたちの婚約となんの関係があるんです?」
「ふっふ、急かすねぇ千晶」
お兄様は笑う。
「敦子サンはねぇ、自分の死んだ後のことを考えたんだと思うよ?」
「え?」
華ちゃんはキョトンとした。
「だってね、君のこと、最初は御前が引き取ろうとしたんだよ」
「御前って、……敦子さんのお兄さん?」
わたしが聞くと、華ちゃんがうなずいた。
「そしてねぇ、僕らのオトーサマに嫁がせようとしたんだよ」
「……は?」
わたしはあまりのことに、頭の回転が追いつかない。オトーサマって、……わたし達の、お父様?
「何を仰ってるんです?」
「だから、この子の母親が果たせなかった"婚約"を、この子に果たさせようとしたんだって」
絶句する。華ちゃんもさすがに顔の色を失くしていた。
「せ、世間がそれを認める、とでも」
何歳差だと思ってるんだ!
「あのね、千晶」
お兄様は眉をほんの少し、寄せて言う。
「オトーサマは大変に見目麗しくてらっしゃるだろ? 僕を見ても分かるように。遺伝的に」
「は、はぁ」
「何しろただの県議会議員なのに、なぜかファンクラブがあるくらいだから。街頭演説となるとわざわざ他県からもおばさま達が大挙してやってくるくらいに。外面いいから、マスコミ受けもいい」
ちょうどアッサムティーが運ばれてくる。お兄様はウェイターさんに微笑み、ウェイターさんは少し赤面した。同性にも通じる色気みたいなのが、お兄様にはある。
「そんなオトーサマに、例えばだけど、選挙ボランティアに来ていた女子大学生が懸想することもあるだろう?」
「……まぁ」
あるかもしれない。わたしはうなずいて、華ちゃんは「モテるんだねお父さん」とわたしに言う。父親モテても何も嬉しくない。独身なので好きにしたらいいとは思うけど。
「しかもその女子大学生は、幼い頃に父親を失くしているためか、年上の男性に惹かれる傾向があった。オトーサマにもアピールしまくる」
「はぁ」
「でもオトーサマはそこにはなびかず、女子大学生はやがて卒業してオトーサマの事務所で働くようになる」
「……?」
「そして1年だか2年だかが経って、結局その頃にはオトーサマも絆されて真剣交際、ゴールイン、みたいな?」
「は?」
「そういう世間受けしそうな筋書きが世間に発表されるんじゃない? まぁこれは僕がテキトーにいま考えたやつだけど」
「って、その女子大学生って華ちゃん!?」
「え、え、私!?」
「だから仮にね、仮の話だってば、もー」
お兄様は笑う。
「まったくせっかちだなぁ」
「せっかちっていうか、」
「これがね、脂ぎったオッサンなら嘘つけ! ってなるかもだけど、オトーサマだよ。あの無駄に顔面だけはとても凝った作りをしているオトーサマだよ。中身はうんこでも、見た目だけは彫刻のようなオトーサマだよ? 結局見た目なのさ、世間は。美しいおとこが、若い奥さんをもらったって、ウラヤマシーで終わるのさ。世知辛いねぇ」
お兄様はクスクスと笑う。
「オトーサマがキミとの婚約乗り気になったとすれば、それは……そうだな、復讐だね」
「復讐?」
華ちゃんは聞き返す。
「そー。駆け落ちなんかされて、恥かかされてるし。そもそも結構執着してたみたいだからね、キミの母親に。死んだ人に復讐して何になるか分かんないけどさ。ねちっこいよねー、やだね」
お兄様は華ちゃんを見て笑う。
「キミは父親そっくりみたいだからね」
華ちゃんは、少し目を見開いた。
「だからね、敦子サンはそれがイヤだったんだろーね、35歳上のオッサンに、それも復讐するつもりでいるオッサンに嫁がせるくらいなら、同じ年の樹クンのがいいだろうし? 自分が生きてる間ならなんとか守れても、もし早くに死ぬこととか考えたら、さっさと樹クンと婚約させとくがキチでしょ?」
「でも、鹿王院側になんのメリットが」
「単にウチと常盤サン家がくっついて、あんま力をつけて欲しくないだけ」
「あ」
「それとね、歴史っていうか、由緒正しいっていうか、鹿王院ってそんな家デショ? もと華族の家柄。財閥系ではあるけど、常盤ほどじゃない。一方でウチなんかは旧華族でもあるし、代々政治家でございま~すみたいな顔しちゃっててさ」
お兄様は紅茶を飲む。
「常盤はね、旧財閥系でも、正直影響力はダントツでしょ。でも幕末に造船で財を成さなかったら、ただの庶民なわけじゃん。だから家柄コンプレックスは凄いわけ」
「コンプレックス?」
「そーそー。だからね、敦子サンの常盤内での政治力はぐんと上がったと思うよ、キミが樹クンと婚約してることで?」
「そ、ういうものでしょうか」
華ちゃんは眉を下げた。
しらなぁい、とお兄様は笑った。
「予測だもん。予想。多分ね。でもだいたい合ってると思うなぁ」
お兄様は楽しそうに笑った。
「だからさぁ、華? 僕と婚約しちゃえばオールオッケー万事解決だよ?」
「え?」
「だって僕はキミが誰とお付き合いしてようが気にならないし、敦子サンの政治力も変わらない。前も言ったけど、キミは千晶と仲がいいからお嫁さんに最適だし」
まだ言うかこのクソ兄貴、と睨み付けると、お兄様はヤレヤレという顔をした。ムカつく。
「それに、さぁ」
お兄様は本当に嬉しそうに笑う。
「オトーサマが欲しかったもの、僕が手に入れたら、あのオトコどんな顔すると思うー?」
クスクス、と嬉しそうなのでわたしは呆れる。
「そんな理由で、妹の友達に手を出さないでいただけます……!?」
「わー、怖。妹、怖」
お兄様はクスクス笑う。
窓の外は相変わらずの酷い雨で、わたしは複雑な気持ちで華ちゃんを見つめる。
華ちゃんは無言で、ただ窓の外を眺めていた。
「ごめん、ちょっと怒涛の展開すぎて」
「なんかごめんね、話に付き合ってもらっちゃって」
小さく肩をすくめる華ちゃんは、なんだかひどく華奢に見えた。元から細い子だけど、なんだかちょっと痩せたかな。
わたしは少し心配になって眉をひそめた。
華ちゃんいきつけのカフェ。いちばん奥の窓側の席で、わたしたちは話し込んでいる。
窓の外は酷い雨で、真夏なのに肌寒い。
「……樹くんは?」
そう聞くと、華ちゃんは困ったように眉を下げた。
「ほっぺ撫でられた」
「ん?」
「私にもよく分からないんだけど」
華ちゃんは、とりあえず樹くんには報告したらしい。すると、何も言わずに、ただ頬を撫でられた、と。
(どんな風に)
思ったんだろう、とは思う。大好きな華ちゃんから、"好きな人ができた"という話を聞いて?
「それだけ?」
「うん」
華ちゃんは俯いた。
「なんかもー、あれだね、私、前世はバリバリの、なんていうかいわゆる庶民だったけど、自由だったなぁって」
「ああ」
わたしは同意してうなずいた。
「選択肢はあったよね」
「いまないんだなー」
華ちゃんは目を伏せる。
「アキラくんといると、安心できたんだけど……離れてひとりだと、なんかもう、どうしていいか分からなくなってきてて」
「うん」
1人になると考えちゃうよね、と思う。
「そもそもアキラくん、ほんとは高校からなんじゃないかな、青百合。やっぱ。中学で転校とか……したくなかったんじゃないかな」
「それは分からないよ、本当に"ゲーム"でもそういう事になってたのかも、なんだし」
華ちゃんは、ゆるゆると首を振った。
「だけど、でも……私、やっぱり諦めたほうがいいのかなって。そうしなきゃ、アキラくんの人生メチャクチャにしてるんじゃないかって不安で。私、こんなに誰かに執着するタイプじゃなかったはずなんだけど」
華ちゃんは責任を感じているみたいだった。でも、こういうのって誰かが責任感じなきゃいけないことかな?
(中学生同士が、ただ惹かれ合ったってだけで?)
わたしはそう思う。
「諦めて……樹くんと許婚続けて、それで樹くんがいつか好きな人できたら、その時はお互い様だから、そこで解消して。それが一番波風立たないのかな~とか、思ってきちゃって」
「自己犠牲はなにも生まないよ、華ちゃん」
わたしは言う。
「樹くんもきっとそれは望まない」
そう言いながら、わたしは首をかしげる。
「でも、敦子さん、なんでそんなに華ちゃんと樹くんとの婚約にこだわるんだろ?」
「知りたぁい?」
わたしはぎくりと固まった。聞き慣れた声。生まれてから毎日聞いてる、その声の持ち主、ーーお兄様はにこりと笑って、華ちゃんの横に座った。わたしはお兄様をにらみつける。華ちゃんはただただ驚いた目でお兄様を見つめていた。
「なんでいるんです! というか、そこをどいてお兄様! せめてわたしの横に」
「んー? 僕の横がいいのかい千晶? まったく、ふふ、甘えん坊さんめ」
「違うけどそれでいいです、もう……っていうか、なんでここに、いつから」
「自己犠牲がどうののところ?」
「そ、ですか」
前世云々は聞かれてなくて少し安心する。
わたしの横に座ったお兄様は、優美に手を上げてウェイターを呼ぶ。
「アッサムを」
「ミルクでよろしいですか?」
「ここミルクティー用のしかない?」
「いえ」
「じゃあストレートで」
「かしこまりました」
注文を終えて、お兄様はにっこり微笑む。
「ちゃんとした茶葉おいてるみたいで良かった」
「そうですか」
どうでも良かったので、わたしはふう、と息を吐きながら答えた。
「あの、婚約にこだわる理由って」
華ちゃんは意を決したようにお兄様に言う。
「教えてください」
「いいよ、今機嫌がいいから」
お兄様はわたしのフルーツサンドを勝手に1つ食べて、笑う。
「あのね、キミのお母さん、ホントは僕らの父親と結婚するはずだったんだよ」
「え」
わたしもそれほ初耳で、思わずお兄様を見上げる。
「10歳近く違ったのかな? 僕らのオトーサマのが年上で。だけどね、子供の頃に決められた許婚」
お兄様は目を細める。
「でもね、結果的に君の母親は恋人と駆け落ちしちゃったわけだ。お腹には既にキミがいたらしいよ? 常盤としてはもうどうしようもないからさ、勘当してカタつけて、あとまー、何かしらの補填もあったみたいだけど、僕はそれが何か知らない」
「それと、華ちゃんたちの婚約となんの関係があるんです?」
「ふっふ、急かすねぇ千晶」
お兄様は笑う。
「敦子サンはねぇ、自分の死んだ後のことを考えたんだと思うよ?」
「え?」
華ちゃんはキョトンとした。
「だってね、君のこと、最初は御前が引き取ろうとしたんだよ」
「御前って、……敦子さんのお兄さん?」
わたしが聞くと、華ちゃんがうなずいた。
「そしてねぇ、僕らのオトーサマに嫁がせようとしたんだよ」
「……は?」
わたしはあまりのことに、頭の回転が追いつかない。オトーサマって、……わたし達の、お父様?
「何を仰ってるんです?」
「だから、この子の母親が果たせなかった"婚約"を、この子に果たさせようとしたんだって」
絶句する。華ちゃんもさすがに顔の色を失くしていた。
「せ、世間がそれを認める、とでも」
何歳差だと思ってるんだ!
「あのね、千晶」
お兄様は眉をほんの少し、寄せて言う。
「オトーサマは大変に見目麗しくてらっしゃるだろ? 僕を見ても分かるように。遺伝的に」
「は、はぁ」
「何しろただの県議会議員なのに、なぜかファンクラブがあるくらいだから。街頭演説となるとわざわざ他県からもおばさま達が大挙してやってくるくらいに。外面いいから、マスコミ受けもいい」
ちょうどアッサムティーが運ばれてくる。お兄様はウェイターさんに微笑み、ウェイターさんは少し赤面した。同性にも通じる色気みたいなのが、お兄様にはある。
「そんなオトーサマに、例えばだけど、選挙ボランティアに来ていた女子大学生が懸想することもあるだろう?」
「……まぁ」
あるかもしれない。わたしはうなずいて、華ちゃんは「モテるんだねお父さん」とわたしに言う。父親モテても何も嬉しくない。独身なので好きにしたらいいとは思うけど。
「しかもその女子大学生は、幼い頃に父親を失くしているためか、年上の男性に惹かれる傾向があった。オトーサマにもアピールしまくる」
「はぁ」
「でもオトーサマはそこにはなびかず、女子大学生はやがて卒業してオトーサマの事務所で働くようになる」
「……?」
「そして1年だか2年だかが経って、結局その頃にはオトーサマも絆されて真剣交際、ゴールイン、みたいな?」
「は?」
「そういう世間受けしそうな筋書きが世間に発表されるんじゃない? まぁこれは僕がテキトーにいま考えたやつだけど」
「って、その女子大学生って華ちゃん!?」
「え、え、私!?」
「だから仮にね、仮の話だってば、もー」
お兄様は笑う。
「まったくせっかちだなぁ」
「せっかちっていうか、」
「これがね、脂ぎったオッサンなら嘘つけ! ってなるかもだけど、オトーサマだよ。あの無駄に顔面だけはとても凝った作りをしているオトーサマだよ。中身はうんこでも、見た目だけは彫刻のようなオトーサマだよ? 結局見た目なのさ、世間は。美しいおとこが、若い奥さんをもらったって、ウラヤマシーで終わるのさ。世知辛いねぇ」
お兄様はクスクスと笑う。
「オトーサマがキミとの婚約乗り気になったとすれば、それは……そうだな、復讐だね」
「復讐?」
華ちゃんは聞き返す。
「そー。駆け落ちなんかされて、恥かかされてるし。そもそも結構執着してたみたいだからね、キミの母親に。死んだ人に復讐して何になるか分かんないけどさ。ねちっこいよねー、やだね」
お兄様は華ちゃんを見て笑う。
「キミは父親そっくりみたいだからね」
華ちゃんは、少し目を見開いた。
「だからね、敦子サンはそれがイヤだったんだろーね、35歳上のオッサンに、それも復讐するつもりでいるオッサンに嫁がせるくらいなら、同じ年の樹クンのがいいだろうし? 自分が生きてる間ならなんとか守れても、もし早くに死ぬこととか考えたら、さっさと樹クンと婚約させとくがキチでしょ?」
「でも、鹿王院側になんのメリットが」
「単にウチと常盤サン家がくっついて、あんま力をつけて欲しくないだけ」
「あ」
「それとね、歴史っていうか、由緒正しいっていうか、鹿王院ってそんな家デショ? もと華族の家柄。財閥系ではあるけど、常盤ほどじゃない。一方でウチなんかは旧華族でもあるし、代々政治家でございま~すみたいな顔しちゃっててさ」
お兄様は紅茶を飲む。
「常盤はね、旧財閥系でも、正直影響力はダントツでしょ。でも幕末に造船で財を成さなかったら、ただの庶民なわけじゃん。だから家柄コンプレックスは凄いわけ」
「コンプレックス?」
「そーそー。だからね、敦子サンの常盤内での政治力はぐんと上がったと思うよ、キミが樹クンと婚約してることで?」
「そ、ういうものでしょうか」
華ちゃんは眉を下げた。
しらなぁい、とお兄様は笑った。
「予測だもん。予想。多分ね。でもだいたい合ってると思うなぁ」
お兄様は楽しそうに笑った。
「だからさぁ、華? 僕と婚約しちゃえばオールオッケー万事解決だよ?」
「え?」
「だって僕はキミが誰とお付き合いしてようが気にならないし、敦子サンの政治力も変わらない。前も言ったけど、キミは千晶と仲がいいからお嫁さんに最適だし」
まだ言うかこのクソ兄貴、と睨み付けると、お兄様はヤレヤレという顔をした。ムカつく。
「それに、さぁ」
お兄様は本当に嬉しそうに笑う。
「オトーサマが欲しかったもの、僕が手に入れたら、あのオトコどんな顔すると思うー?」
クスクス、と嬉しそうなのでわたしは呆れる。
「そんな理由で、妹の友達に手を出さないでいただけます……!?」
「わー、怖。妹、怖」
お兄様はクスクス笑う。
窓の外は相変わらずの酷い雨で、わたしは複雑な気持ちで華ちゃんを見つめる。
華ちゃんは無言で、ただ窓の外を眺めていた。
0
お気に入りに追加
3,084
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!
神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう.......
だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!?
全8話完結 完結保証!!
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました
toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。
一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。
主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。
完結済。ハッピーエンドです。
8/2からは閑話を書けたときに追加します。
ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。
12/9の9時の投稿で一応完結と致します。
更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。
ありがとうございました!
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。
霜月零
恋愛
私は、ある日思い出した。
ヒロインに、悪役令嬢たるお姉様が言った一言で。
「どうして、このお茶会に平民がまぎれているのかしら」
その瞬間、私はこの世界が、前世やってた乙女ゲームに酷似した世界だと気が付いた。
思い出した私がとった行動は、ヒロインをこの場から逃がさない事。
だってここで走り出されたら、婚約者のいる攻略対象とヒロインのフラグが立っちゃうんだもの!!!
略奪愛ダメ絶対。
そんなことをしたら国が滅ぶのよ。
バッドエンド回避の為に、クリスティーナ=ローエンガルデ。
悪役令嬢の妹だけど、前世の知識総動員で、破滅の運命回避して見せます。
※他サイト様にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる