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分岐・相良仁
赤信号(side相良)
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新学期始まっても、華と黒田はいつも通りだから俺はちょっとイライラする。
(振られてるのに!)
遂に黒田は華に告白したのだ。
前世の俺ができなかったこと、今の俺が簡単にはできないことを(結局ぐるぐる考えている、年齢のことなんかも含めてだ)できちゃう黒田に、正直、俺は嫉妬している。すごいとも思うけど。
華は黒田の告白を断った。あとで聞いたところによると「なんとなく体育祭あたりからそんな気はしてた」とのことだ。ただ、「いっぱい考えたけど違う気がした」そうで、俺は胸をなでおろした。
(しかしまぁ、黒田、お前かっこいいよ)
振られた次の瞬間に、もう黒田は普段通りだった。さすがに身体的接触は減った、気がする。
が、仲良く話すし、相変わらず下校は一緒だ。華が学校に残る日を除いて。
少し距離はあるけど、でも誰も違和感に気づいてない。俺以外は。正確には、俺たち護衛のメンバー以外は。
「まぁ振られてからが勝負ですよね?」
小西は謎の微笑みを浮かべながら言った。だからなぜ俺の家にいる。
護衛の方の同僚からの華の帰宅確認をきっちり受けて、それから学校から帰宅した。そしてマンションの俺の部屋の玄関に、これ見よがしに揃えられた黒いハイヒール。小西来襲だ。
「定期的なチェックです」
「なんの」
「性的嗜好?」
「勘弁してくれよ」
俺はソファに座り込む。小西はパソコンの前のイスで足を組んで、俺をジロジロと見た。
「パソコン、やっとセキュリティ解除できまして」
「怪しいものありましたか」
「いいええ、清廉潔白でございました。逆にアヤシイ」
「なんでだよ、つか、なに? 公安調査庁って鍵の開け方まで教えてくれんの?」
小西は元国家公務員だ。なんで辞めたかとかは知らない。
「いえ、これはわたしの個人的な技術です」
「こえーよ」
個人的ってなんだ、個人的って。
「……、なんだか最近、華様と相良さんの接触が多いような気がして?」
「勉強教えてるだけ! いちいち断るのもアヤシイだろ!」
「いちいち社会科準備室に連れ込んで?」
「人聞きの悪い言い方を!」
「人聞き?」
クスリと小西は笑う。妖艶と言っていいと思う。大抵の男はクラリとするんじゃないか。
「わたしと相良さんの2人きりですよ?」
「やめてくれよー……」
「あら本気で嫌がってますね、据え膳なのに」
「自分で言うなよ……送る」
俺は車のキーを持って立ち上がった。
「いいですよ、わざわざ」
「いいよ、若い女1人で返すほうが罪悪感わくから」
「へー。いい人なんですね。こんな不法侵入してるのに」
「警察行きたいけどね」
「警察なんか行って、ロリコンの証拠見つけられたらヤバイですもんね?」
「ないから! つか次入ったらマジで考えるからな!」
「あら」
小西は笑った。
車で小西のマンションに向かいつつ、話は山ノ内瑛の話題になった。
「まさかこちらに転校してくるとは思いませんでしたね?」
「……親御さんの転勤なら仕方ないだろ」
東京地検に異動になった山ノ内の父親について、母親と瑛とその1つ下の弟で横浜に引っ越してきた。新居が都内でなく横浜になったのは、なんと山ノ内の転校先が鎌倉のバスケ強豪校であるからで。
(華と鍋島の話じゃ、"攻略対象"なんだっけ?)
それにしちゃ、華にベタ惚れだけど。まぁいくらなんでも、こんなに近くに引っ越してきて接触が増えたら、鈍い華でも気持ちに気づくだろう。
(やーだなー)
イケメンだしスペック高いし、惚れても仕方ないと思う。
眉を顰めていると「ロリコン先生」と小西に話しかけられた。
「ロリコンじゃない!」
「あらすみませんつい本音が」
「やめてくれよ……」
「来週はキャンプですね?」
「話の転換が急」
しかしまぁ、確かに来週は二年生の一大イベント、自然体験学習だ。一泊二日。
まぁキャンプといっても、泊まるのは宿舎だし、風呂もトイレもあるし、そんなの全然キャンプじゃないと思うんだよなぁ。
「あ、ここで大丈夫です」
「ハイハイ」
「どーもあざっしたぁ」
「え、なにその口調」
小西は読めない。なんだその口調。スタスタとマンション横のコンビニに入っていく。
ふう、とため息をついてアクセルを踏んだ。
(……バレなくて良かった)
写真に撮っている、というか撮りまくってる華の写真。パソコンにいれてなくて良かった、と赤信号でスマホをスライドする。
社会科準備室で、教科書枕にして寝てる華とか。勉強してる顔とか、普通にピースサインしてるとことか、こっそり撮られてることに気づいて怒る顔とか。
(あーヤバイヤバイ、これハタから見たらロリコンだ)
でもそんなんじゃないんです神様、と俺は大して信じてもない神様に言い訳する。あいつ中身は大人なんですよ一応。好きな人の写真って持ってたいじゃないですか、神様。違いますか。
(でもまさか)
青信号で、アクセルを踏む。
(結構な頻度で、2人きりで話せるようになるとは)
言って良かった前世の記憶。
別に大したことを話しているわけではない。学校であったこととか、塾のこととか。華はとても普通に中学生をしているように思う。
(だからこそ)
俺はまだ踏み出せない。まだ、というよりは「また」。華の「普通の中学生としての暮らし」を壊してしまう気がして。
信号がまた赤に変わる。そして俺は、やっぱりブレーキを踏んだまま動けない。
(振られてるのに!)
遂に黒田は華に告白したのだ。
前世の俺ができなかったこと、今の俺が簡単にはできないことを(結局ぐるぐる考えている、年齢のことなんかも含めてだ)できちゃう黒田に、正直、俺は嫉妬している。すごいとも思うけど。
華は黒田の告白を断った。あとで聞いたところによると「なんとなく体育祭あたりからそんな気はしてた」とのことだ。ただ、「いっぱい考えたけど違う気がした」そうで、俺は胸をなでおろした。
(しかしまぁ、黒田、お前かっこいいよ)
振られた次の瞬間に、もう黒田は普段通りだった。さすがに身体的接触は減った、気がする。
が、仲良く話すし、相変わらず下校は一緒だ。華が学校に残る日を除いて。
少し距離はあるけど、でも誰も違和感に気づいてない。俺以外は。正確には、俺たち護衛のメンバー以外は。
「まぁ振られてからが勝負ですよね?」
小西は謎の微笑みを浮かべながら言った。だからなぜ俺の家にいる。
護衛の方の同僚からの華の帰宅確認をきっちり受けて、それから学校から帰宅した。そしてマンションの俺の部屋の玄関に、これ見よがしに揃えられた黒いハイヒール。小西来襲だ。
「定期的なチェックです」
「なんの」
「性的嗜好?」
「勘弁してくれよ」
俺はソファに座り込む。小西はパソコンの前のイスで足を組んで、俺をジロジロと見た。
「パソコン、やっとセキュリティ解除できまして」
「怪しいものありましたか」
「いいええ、清廉潔白でございました。逆にアヤシイ」
「なんでだよ、つか、なに? 公安調査庁って鍵の開け方まで教えてくれんの?」
小西は元国家公務員だ。なんで辞めたかとかは知らない。
「いえ、これはわたしの個人的な技術です」
「こえーよ」
個人的ってなんだ、個人的って。
「……、なんだか最近、華様と相良さんの接触が多いような気がして?」
「勉強教えてるだけ! いちいち断るのもアヤシイだろ!」
「いちいち社会科準備室に連れ込んで?」
「人聞きの悪い言い方を!」
「人聞き?」
クスリと小西は笑う。妖艶と言っていいと思う。大抵の男はクラリとするんじゃないか。
「わたしと相良さんの2人きりですよ?」
「やめてくれよー……」
「あら本気で嫌がってますね、据え膳なのに」
「自分で言うなよ……送る」
俺は車のキーを持って立ち上がった。
「いいですよ、わざわざ」
「いいよ、若い女1人で返すほうが罪悪感わくから」
「へー。いい人なんですね。こんな不法侵入してるのに」
「警察行きたいけどね」
「警察なんか行って、ロリコンの証拠見つけられたらヤバイですもんね?」
「ないから! つか次入ったらマジで考えるからな!」
「あら」
小西は笑った。
車で小西のマンションに向かいつつ、話は山ノ内瑛の話題になった。
「まさかこちらに転校してくるとは思いませんでしたね?」
「……親御さんの転勤なら仕方ないだろ」
東京地検に異動になった山ノ内の父親について、母親と瑛とその1つ下の弟で横浜に引っ越してきた。新居が都内でなく横浜になったのは、なんと山ノ内の転校先が鎌倉のバスケ強豪校であるからで。
(華と鍋島の話じゃ、"攻略対象"なんだっけ?)
それにしちゃ、華にベタ惚れだけど。まぁいくらなんでも、こんなに近くに引っ越してきて接触が増えたら、鈍い華でも気持ちに気づくだろう。
(やーだなー)
イケメンだしスペック高いし、惚れても仕方ないと思う。
眉を顰めていると「ロリコン先生」と小西に話しかけられた。
「ロリコンじゃない!」
「あらすみませんつい本音が」
「やめてくれよ……」
「来週はキャンプですね?」
「話の転換が急」
しかしまぁ、確かに来週は二年生の一大イベント、自然体験学習だ。一泊二日。
まぁキャンプといっても、泊まるのは宿舎だし、風呂もトイレもあるし、そんなの全然キャンプじゃないと思うんだよなぁ。
「あ、ここで大丈夫です」
「ハイハイ」
「どーもあざっしたぁ」
「え、なにその口調」
小西は読めない。なんだその口調。スタスタとマンション横のコンビニに入っていく。
ふう、とため息をついてアクセルを踏んだ。
(……バレなくて良かった)
写真に撮っている、というか撮りまくってる華の写真。パソコンにいれてなくて良かった、と赤信号でスマホをスライドする。
社会科準備室で、教科書枕にして寝てる華とか。勉強してる顔とか、普通にピースサインしてるとことか、こっそり撮られてることに気づいて怒る顔とか。
(あーヤバイヤバイ、これハタから見たらロリコンだ)
でもそんなんじゃないんです神様、と俺は大して信じてもない神様に言い訳する。あいつ中身は大人なんですよ一応。好きな人の写真って持ってたいじゃないですか、神様。違いますか。
(でもまさか)
青信号で、アクセルを踏む。
(結構な頻度で、2人きりで話せるようになるとは)
言って良かった前世の記憶。
別に大したことを話しているわけではない。学校であったこととか、塾のこととか。華はとても普通に中学生をしているように思う。
(だからこそ)
俺はまだ踏み出せない。まだ、というよりは「また」。華の「普通の中学生としての暮らし」を壊してしまう気がして。
信号がまた赤に変わる。そして俺は、やっぱりブレーキを踏んだまま動けない。
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