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分岐・山ノ内瑛
お風呂あがり
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先にお風呂をいただいてしまって、ありがたいやら申し訳ないやらでささっと身体を洗ってお風呂を出た。
(てか、ほんとみんないい人だぁ……)
光希さんは写真で見ただけの私に声をかけてくれたし、ほかの家族の皆さんもめちゃくちゃ優しい。
(アキラくんがあんな風に育つわけだよなぁ)
なんとなく納得しちゃう。
買ってきた下着と伊希さんが貸してくれたTシャツとジャージを着て、ドライヤーもお借りして髪を乾かした。
(……、髪、短くて良かった)
短いのですぐ乾く。
「すみません、お先にいだだきました」
「あら、ゆっくり入ったら良かったのに」
「や、もう十分ゆっくりさせていただいて」
アキラくんのお母さんにそう言って笑うと、「そう?」とお母さんも笑ってくれた。
(あ、笑い方似てる)
アキラくんはあんまりご両親に似てない気もしてたけど、こうしてみると親子だなと思う。表情がそっくりだ。
そのアキラくんはリビングには見当たらない。
(? どこかな)
和室に入ると、アキラくんは光希さんと何か話していた。
「看護師さんをそんな目で」
「見とらんわ!」
どんな目でしょう。
てか、今日病院行ったってこと?
「ケガでもしたの?」
心配になって聞くけど、元気らしくてぴょんぴょんと飛び跳ねてくれた。元気ならいいんだけど。
ストレッチを始めたアキラくんの横に座って「看護師さんがなぁに?」と聞いてみる。
「……華似合いそうやんな」
「ナース服? でも血が苦手だからなぁ」
あんなカッコいい仕事は私には難しそうだなぁ、と首を傾げていると光希さんに声をかけられた。
「華ちゃん、紅茶好き?」
光希さんが首をかしげる。
「あ、はい」
「今からケーキにしよ。紅茶淹れるな」
「あ、手伝います」
さすがにそれはさせてほしい。
「いいていいて。キッチンそんな広くないし。まってて」
にこにこ笑いながら光希さんは去ってしまう。
私は続けてストレッチをしているアキラくんに「みんな優しいねぇ」と言った。
「せやろか」
「うん。アキラくんが育った環境ってかんじ。あったかい」
そう言って笑うと、アキラくんも少し嬉しそうに「そんなもんやろか」と口を尖らせた。ふふ、照れてる。
ふとアキラくんはストレッチをやめて、私の横にあぐらをかいて座りなおした。
「試合どうやった?」
「え、かっこよかった。面白かった」
「せやろ? かっこよかったやろ」
にっ、と笑うアキラくん。
「明日も見て帰ろうかな、せっかくだから」
「ほんま!? それめっちゃ嬉しい」
「応援する」
「めっちゃ気合い入ったわ」
アキラくんはなんでか、私の髪をまたぐちゃぐちゃにしだす。
「うう、やめてよう」
「華が可愛いからあかんねん、意地悪したなんねん」
「なにそれ! 変なの」
そう言って目線をあげると、ふと真剣なアキラくんの顔があった。
(……?)
「あんな」
「うん」
「華の、修学旅行覚えてる?」
「京都の?」
「うん。そん時にな、痛いことせえへん言ったの覚えてる?」
「うん」
伏見稲荷の、階段のとこ。
「……その続き、してもええ?」
私はぱちくりとアキラくんを見つめて、そしてその目に、小学生の時にはなかった熱、みたいなのを見つけてしまった。熱、というか、欲、というか。
(……え、あれ?)
するり、と手が頬に寄せられて、見つめられて。
アキラくんのその熱に当てられたように、私の頬も熱くなる。
(え? え? え?)
なにこれ。なにこれ。なんでこんなドキドキしてるの、アキラくんのこんなの、いつものことなのに。
「華」
優しいような、安心したような、焦るような、苦しいような、そんな声。
「やっと意識してくれたん?」
「え、あ」
意識?
意識してるの? 私? アキラくんを?
そう考え出すと、余計にどきどきして仕方ない。
「ま、ええわ、華お子様やしー? はーやっとスタートライン立てた感あんな、俺」
そう言って私の頭に口を寄せた。
「……髪、俺と同じ匂い」
「あ、え、うん、シャンプー同じだから?」
「ねーちゃんズのたっかいシャンプー使えば良かったのに」
「や、あれは申し訳ない…….」
明らかにお高いシャンプーあったけど、確かあれ三千円くらいする。前世的感覚からすると絶対買わなかったシャンプーです。や、今の家では多分もっと高いの使ってるけど、人のうちで使えない……! ワンプッシュいくらとか考えちゃう。消えないド庶民感覚。
「でも俺は同じ匂い、嬉しい」
「あ、え、」
そのまま、首元に顔を埋められた。
「ボディーソープも同じやから、おんなじにおいやな?」
「えっ、あ、うん、そ、そだね?」
多分顔真っ赤。
そのまま耳元に口を寄せられる。
「な、ほんまに続きしてもええ?」
少し低くなった声に、どきりとして、私はぎゅうっと手を握りしめた。
「つ、続き、って」
「分かっとるクセに」
耳元で、ふっとアキラくんが笑っているのが分かる。うう。顔が熱い。
(うわわわわわ)
アキラくんの方、向けない。
固まっていると、ほんの少しだけアキラくんが私の手を握る。
「なぁ、そんなカオされると期待してまうんやけど」
私は前を向いたまま、「き、期待?」と聞き返す。
(期待、って)
目だけでちらりとアキラくんを見上げると、アキラくんも真っ赤になってた。
(あ)
どきどきしてるの、私だけじゃないんだ。そう思うと、少し安心した。安心はしたけどドキドキが減るわけじゃない。
「……華がな」
「……うん」
「華も、俺のこと好きなんやないかなって、期待」
思わず見上げる。
(……"華も"って)
息を吸って、吐いて、口を開けようとした時、後ろから足音がして真っ赤なまま振り向く。
「お茶入ったでー?」
光希さんが笑いながら言って、アキラくんは少し名残惜しそうに私の手を離して立ち上がる。切なそうな目をされて、私の心はぎゅっとなる。
私は離された手を、もう片方でぎゅうっと胸の前で握りしめて、一度深く深呼吸してから立ち上がって、アキラくんに続いた。
(どうしよう)
小学生の時より広くなった背中をちらりと見ながら、私は相変わらずドキドキしている。
(私、恋してる、のかもしれない)
(てか、ほんとみんないい人だぁ……)
光希さんは写真で見ただけの私に声をかけてくれたし、ほかの家族の皆さんもめちゃくちゃ優しい。
(アキラくんがあんな風に育つわけだよなぁ)
なんとなく納得しちゃう。
買ってきた下着と伊希さんが貸してくれたTシャツとジャージを着て、ドライヤーもお借りして髪を乾かした。
(……、髪、短くて良かった)
短いのですぐ乾く。
「すみません、お先にいだだきました」
「あら、ゆっくり入ったら良かったのに」
「や、もう十分ゆっくりさせていただいて」
アキラくんのお母さんにそう言って笑うと、「そう?」とお母さんも笑ってくれた。
(あ、笑い方似てる)
アキラくんはあんまりご両親に似てない気もしてたけど、こうしてみると親子だなと思う。表情がそっくりだ。
そのアキラくんはリビングには見当たらない。
(? どこかな)
和室に入ると、アキラくんは光希さんと何か話していた。
「看護師さんをそんな目で」
「見とらんわ!」
どんな目でしょう。
てか、今日病院行ったってこと?
「ケガでもしたの?」
心配になって聞くけど、元気らしくてぴょんぴょんと飛び跳ねてくれた。元気ならいいんだけど。
ストレッチを始めたアキラくんの横に座って「看護師さんがなぁに?」と聞いてみる。
「……華似合いそうやんな」
「ナース服? でも血が苦手だからなぁ」
あんなカッコいい仕事は私には難しそうだなぁ、と首を傾げていると光希さんに声をかけられた。
「華ちゃん、紅茶好き?」
光希さんが首をかしげる。
「あ、はい」
「今からケーキにしよ。紅茶淹れるな」
「あ、手伝います」
さすがにそれはさせてほしい。
「いいていいて。キッチンそんな広くないし。まってて」
にこにこ笑いながら光希さんは去ってしまう。
私は続けてストレッチをしているアキラくんに「みんな優しいねぇ」と言った。
「せやろか」
「うん。アキラくんが育った環境ってかんじ。あったかい」
そう言って笑うと、アキラくんも少し嬉しそうに「そんなもんやろか」と口を尖らせた。ふふ、照れてる。
ふとアキラくんはストレッチをやめて、私の横にあぐらをかいて座りなおした。
「試合どうやった?」
「え、かっこよかった。面白かった」
「せやろ? かっこよかったやろ」
にっ、と笑うアキラくん。
「明日も見て帰ろうかな、せっかくだから」
「ほんま!? それめっちゃ嬉しい」
「応援する」
「めっちゃ気合い入ったわ」
アキラくんはなんでか、私の髪をまたぐちゃぐちゃにしだす。
「うう、やめてよう」
「華が可愛いからあかんねん、意地悪したなんねん」
「なにそれ! 変なの」
そう言って目線をあげると、ふと真剣なアキラくんの顔があった。
(……?)
「あんな」
「うん」
「華の、修学旅行覚えてる?」
「京都の?」
「うん。そん時にな、痛いことせえへん言ったの覚えてる?」
「うん」
伏見稲荷の、階段のとこ。
「……その続き、してもええ?」
私はぱちくりとアキラくんを見つめて、そしてその目に、小学生の時にはなかった熱、みたいなのを見つけてしまった。熱、というか、欲、というか。
(……え、あれ?)
するり、と手が頬に寄せられて、見つめられて。
アキラくんのその熱に当てられたように、私の頬も熱くなる。
(え? え? え?)
なにこれ。なにこれ。なんでこんなドキドキしてるの、アキラくんのこんなの、いつものことなのに。
「華」
優しいような、安心したような、焦るような、苦しいような、そんな声。
「やっと意識してくれたん?」
「え、あ」
意識?
意識してるの? 私? アキラくんを?
そう考え出すと、余計にどきどきして仕方ない。
「ま、ええわ、華お子様やしー? はーやっとスタートライン立てた感あんな、俺」
そう言って私の頭に口を寄せた。
「……髪、俺と同じ匂い」
「あ、え、うん、シャンプー同じだから?」
「ねーちゃんズのたっかいシャンプー使えば良かったのに」
「や、あれは申し訳ない…….」
明らかにお高いシャンプーあったけど、確かあれ三千円くらいする。前世的感覚からすると絶対買わなかったシャンプーです。や、今の家では多分もっと高いの使ってるけど、人のうちで使えない……! ワンプッシュいくらとか考えちゃう。消えないド庶民感覚。
「でも俺は同じ匂い、嬉しい」
「あ、え、」
そのまま、首元に顔を埋められた。
「ボディーソープも同じやから、おんなじにおいやな?」
「えっ、あ、うん、そ、そだね?」
多分顔真っ赤。
そのまま耳元に口を寄せられる。
「な、ほんまに続きしてもええ?」
少し低くなった声に、どきりとして、私はぎゅうっと手を握りしめた。
「つ、続き、って」
「分かっとるクセに」
耳元で、ふっとアキラくんが笑っているのが分かる。うう。顔が熱い。
(うわわわわわ)
アキラくんの方、向けない。
固まっていると、ほんの少しだけアキラくんが私の手を握る。
「なぁ、そんなカオされると期待してまうんやけど」
私は前を向いたまま、「き、期待?」と聞き返す。
(期待、って)
目だけでちらりとアキラくんを見上げると、アキラくんも真っ赤になってた。
(あ)
どきどきしてるの、私だけじゃないんだ。そう思うと、少し安心した。安心はしたけどドキドキが減るわけじゃない。
「……華がな」
「……うん」
「華も、俺のこと好きなんやないかなって、期待」
思わず見上げる。
(……"華も"って)
息を吸って、吐いて、口を開けようとした時、後ろから足音がして真っ赤なまま振り向く。
「お茶入ったでー?」
光希さんが笑いながら言って、アキラくんは少し名残惜しそうに私の手を離して立ち上がる。切なそうな目をされて、私の心はぎゅっとなる。
私は離された手を、もう片方でぎゅうっと胸の前で握りしめて、一度深く深呼吸してから立ち上がって、アキラくんに続いた。
(どうしよう)
小学生の時より広くなった背中をちらりと見ながら、私は相変わらずドキドキしている。
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