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大人たちは話し合う(side敦子)
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いいのしら、と思った。
でも子供のすることだし、とも思った。
すやすやと車で眠る華はどうしても起きそうにない。何よ生クリームって。何の夢見てるのよあなたは。
華を運んでもらう、という段になって、迷わなかったかと言えば嘘になる。
(この子には許婚がいるのに)
他の男の子に身体を触れさせてもいいのかしら、ということ。
(でも子供のすること)
あたしには運べないし、大人の男性に運んでもらうのもなんだか抵抗があるし、数瞬迷ってあたしはこの少年に頼ることにした。
華からよく話は聞いている。ひよりちゃん、黒田くん、秋月くん。信用できる、そう踏んだ。
華を寝かせて、部屋を出る。あたしより少し背が大きいその少年の目を見て、あたしは既視感を感じた。
(いい目だわ)
あの人に会った時も、そう思ったんだった。
送ってくれた黒田一家を玄関で見送り、華に向き直る。
「あなたね」
「はい」
「もう少し自覚を持ちなさい」
「自覚?」
こてん、と首を傾げる華。
あたしは笑ってしまう。
(この子に恋愛なんて、まだまだ早いのかもしれないわねぇ)
妙に大人びたところもある癖に。
樹くんも苦労するわけだわ。
ふと、華のネックレスに触れる。
「これ、樹くんからいただいたやつ?」
「うん、可愛いでしょ」
「似合うわよ」
「えへ」
幸せそうに笑う華。嬉しかったんだろう、と思う。
「せっかく起きたんだから、お風呂入っちゃいなさい」
「はぁい」
華はぱたぱたとバスルームへ向かって行った。
リビングで一息つこうとしていると、スマートフォンが鳴った。
「……まったく」
あたしはそう言いながら電話を取る。
「相良さん。あなたね、気づかれてるんじゃないわよ」
『いやいや、僕じゃないですって僕じゃ』
「でも責任者はあなたでしょ」
『あは、いやぁ』
「……まぁいいけど。本人が気づかなければ、それで」
『いっそ僕が専任で近くで護衛するってのもアリでは?』
そうしたそうな口ぶりだ。
「嫌よ、華にはね、そんなの意識してほしくないの。普通に育って、普通にお嫁に行ってほしいわ」
『あなたの普通は既にあんまり普通ではないような』
「そうかしら」
『そうですよ』
「なんでもいいわ、とにかく華には幸せになってもらわなくちゃ」
『幸せってなんでしょうかね? 結婚イコール幸せ?』
「揚げ足をとらないでくださる?」
『それって鹿王院樹じゃないとダメなんですか?』
「だって他の人には無理だもの」
あたしはハッキリ言った。
「だれが常盤のドロッドロした血筋と思惑からあの子を守れるの? 樹くんと婚約してなきゃ、高校か大学を出てすぐにでも、あの子はどっかのおっさんの後妻にでもされるかもしれないのよ」
『は?』
「そういう人たちなのよ、あたしたちの親戚って」
『……、それはまた』
「最初ね、あたしが華引き取るって話を兄にした時、あの人なんて言ったと思う? そういえば鍋島さんは独身だったな、よ」
『鍋島……真? 独身もなにも、この間高校生になったばかりでは?』
「バカね、父親の方」
『……マジですか』
「マジなのよ」
『……』
流石に絶句したらしい。鍋島さんには華と同じ年の娘さんまでいるのに。
あたしははぁ、とため息をついた。
(新年祝賀会にはさすがに顔を出さなきゃよねえ)
今から冬のことを思い、気が重い。
お陰でつい、グチっぽくなってしまった。
(前回は笑の喪中で不参加にしたけれど……無理よね)
大人のしがらみ、というものは本当に面倒くさい。
(願わくば、華にはそんな苦労をさせたくはないわ)
とにかく常盤とはできるだけ関係を持たせたくない。
(あんな人たち、とは)
『……事情は了解しましたが、まぁいざとなれば僕が華さん連れてどこかへ逃げてもいいですよ』
「は?」
『イギリスかな。まぁ中東も土地勘ありますし、比較的治安の良いところに』
「バカなことを」
相変わらず人を煙にまくのが好きな人だ。あたしは笑う。
『あは。まぁとりあえずは報告書メールしておきました、というご連絡でした、この電話』
「ああ、そう。確認しておきます」
『では』
そう言って、電話が切れる。
「幸せね」
自分で言っておいて、なんと曖昧な言葉だろうと思う。
廊下をパタパタと走る音がして、ガチャリとリビングのドアが開く。
「ねぇ敦子さん、そういえば再来週ね」
髪も乾かさず、楽しそうに話す華にあたしは微笑み返す。
「なぁに?」
「神戸に行ってくる! 日帰りで。水族館行こうって」
「ああ、神戸のお友達ね」
あたしは笑いながら、いつまであたしはそれを許すだろう、と考える。
あなたには許婚がいるのだから、他の男の子と遊んではいけません、といつか言うのだろう。
その時この子は、なんと言うのだろうと、ふと考えた。
でも子供のすることだし、とも思った。
すやすやと車で眠る華はどうしても起きそうにない。何よ生クリームって。何の夢見てるのよあなたは。
華を運んでもらう、という段になって、迷わなかったかと言えば嘘になる。
(この子には許婚がいるのに)
他の男の子に身体を触れさせてもいいのかしら、ということ。
(でも子供のすること)
あたしには運べないし、大人の男性に運んでもらうのもなんだか抵抗があるし、数瞬迷ってあたしはこの少年に頼ることにした。
華からよく話は聞いている。ひよりちゃん、黒田くん、秋月くん。信用できる、そう踏んだ。
華を寝かせて、部屋を出る。あたしより少し背が大きいその少年の目を見て、あたしは既視感を感じた。
(いい目だわ)
あの人に会った時も、そう思ったんだった。
送ってくれた黒田一家を玄関で見送り、華に向き直る。
「あなたね」
「はい」
「もう少し自覚を持ちなさい」
「自覚?」
こてん、と首を傾げる華。
あたしは笑ってしまう。
(この子に恋愛なんて、まだまだ早いのかもしれないわねぇ)
妙に大人びたところもある癖に。
樹くんも苦労するわけだわ。
ふと、華のネックレスに触れる。
「これ、樹くんからいただいたやつ?」
「うん、可愛いでしょ」
「似合うわよ」
「えへ」
幸せそうに笑う華。嬉しかったんだろう、と思う。
「せっかく起きたんだから、お風呂入っちゃいなさい」
「はぁい」
華はぱたぱたとバスルームへ向かって行った。
リビングで一息つこうとしていると、スマートフォンが鳴った。
「……まったく」
あたしはそう言いながら電話を取る。
「相良さん。あなたね、気づかれてるんじゃないわよ」
『いやいや、僕じゃないですって僕じゃ』
「でも責任者はあなたでしょ」
『あは、いやぁ』
「……まぁいいけど。本人が気づかなければ、それで」
『いっそ僕が専任で近くで護衛するってのもアリでは?』
そうしたそうな口ぶりだ。
「嫌よ、華にはね、そんなの意識してほしくないの。普通に育って、普通にお嫁に行ってほしいわ」
『あなたの普通は既にあんまり普通ではないような』
「そうかしら」
『そうですよ』
「なんでもいいわ、とにかく華には幸せになってもらわなくちゃ」
『幸せってなんでしょうかね? 結婚イコール幸せ?』
「揚げ足をとらないでくださる?」
『それって鹿王院樹じゃないとダメなんですか?』
「だって他の人には無理だもの」
あたしはハッキリ言った。
「だれが常盤のドロッドロした血筋と思惑からあの子を守れるの? 樹くんと婚約してなきゃ、高校か大学を出てすぐにでも、あの子はどっかのおっさんの後妻にでもされるかもしれないのよ」
『は?』
「そういう人たちなのよ、あたしたちの親戚って」
『……、それはまた』
「最初ね、あたしが華引き取るって話を兄にした時、あの人なんて言ったと思う? そういえば鍋島さんは独身だったな、よ」
『鍋島……真? 独身もなにも、この間高校生になったばかりでは?』
「バカね、父親の方」
『……マジですか』
「マジなのよ」
『……』
流石に絶句したらしい。鍋島さんには華と同じ年の娘さんまでいるのに。
あたしははぁ、とため息をついた。
(新年祝賀会にはさすがに顔を出さなきゃよねえ)
今から冬のことを思い、気が重い。
お陰でつい、グチっぽくなってしまった。
(前回は笑の喪中で不参加にしたけれど……無理よね)
大人のしがらみ、というものは本当に面倒くさい。
(願わくば、華にはそんな苦労をさせたくはないわ)
とにかく常盤とはできるだけ関係を持たせたくない。
(あんな人たち、とは)
『……事情は了解しましたが、まぁいざとなれば僕が華さん連れてどこかへ逃げてもいいですよ』
「は?」
『イギリスかな。まぁ中東も土地勘ありますし、比較的治安の良いところに』
「バカなことを」
相変わらず人を煙にまくのが好きな人だ。あたしは笑う。
『あは。まぁとりあえずは報告書メールしておきました、というご連絡でした、この電話』
「ああ、そう。確認しておきます」
『では』
そう言って、電話が切れる。
「幸せね」
自分で言っておいて、なんと曖昧な言葉だろうと思う。
廊下をパタパタと走る音がして、ガチャリとリビングのドアが開く。
「ねぇ敦子さん、そういえば再来週ね」
髪も乾かさず、楽しそうに話す華にあたしは微笑み返す。
「なぁに?」
「神戸に行ってくる! 日帰りで。水族館行こうって」
「ああ、神戸のお友達ね」
あたしは笑いながら、いつまであたしはそれを許すだろう、と考える。
あなたには許婚がいるのだから、他の男の子と遊んではいけません、といつか言うのだろう。
その時この子は、なんと言うのだろうと、ふと考えた。
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