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とある少女の夏の思い出(side???)
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ウチが山ノ内くんを初めてちゃんと見たんは、小5になる直前の春休みやった。
ウチは女子バスケで、山ノ内くんは男子バスケで、それぞれ別の学校やけど、学校のクラブに入っていて。
ほんで、初めて県選抜に選ばれた時やった。同じクラブの女子が騒いでて、なんやろと思ってみたらえらいイケメンが楽しそうにバスケしよった。
「あれが噂の山ノ内くんか」
友達がそういうので、まじまじと見つめる。あんなに整った男の子、初めてみた。
「ほんまにイケメンやん」
思わずそう言った。
「めっちゃかっこいい」
「6年に負けとらんやん」
大体試合に出るのは6年生なのに、山ノ内くんは4年から試合に出てるとか聞いた。
「ほんまやなあ」
その時は、その男の子に恋するなんて、思ってもなかった。
だって山ノ内くんは遠い世界の人だったし。常に女子にキャーキャー言われて、嫌がるそぶりもなく上手く受け流して(上に年が離れたお姉さんが3人いるから女性の扱いが叩き込まれてる、とかも聞いた)なのに男子からも人気があって。
(絶対に好きになったら辛いやんな、こんな人)
そう思っとったのに、ウチはこの直後、まんまと山ノ内くんに恋してしまうのだ。
しかも、その自覚と失恋はほぼ同時におきて、なんや人生ってままならんなぁ、なんて思ったりする。ちょっとは他の子みたいに、片思いでもいいからキャアキャア言うてみたかったわ。ほんまに。
「イルカやん」
「知らんかったやろ?」
夏休み何日目かの朝、お母さんに「浜にイルカ見に行くで」と連れ出されて、なんやねんなんのことやねんと思ってたら、水族園のよこの砂浜やった。そこの海に、浮きで区切ったプールがあって、その中をイルカたちが気持ちよさそうに泳いでいた。
「うん」
「無料やでこれ、夏休みの間だけやけど」
「へぇー」
水族園、こんなことしてたんかぁ。
近所なのに知らんかった。
それ以来、暇があるとなんとなくイルカを見に来るようになったのだ。
夏休み中ということもあり、お昼間なんかは人でごった返したりしとったけど、まぁ朝の10時前とお昼の3時くらい以降は、比較的空いていた。
やから、その日の午後3時くらいやったと思う。練習終わって、一旦家に帰ったウチは、着替えて波打ち際まで行って、割と近くでイルカを眺めていた。ショーでもなんでもない、普段のイルカたちは飼育員さんに甘えている。
(イルカも甘える時はお腹出すんやなぁ)
面白い発見をした、そう思った次の瞬間。
「あ」
ウチは、濡れた砂浜に足をとられて、見事に転倒してしまった。
「やば」
寄せては返す塩水に、服も濡れていく。
(最悪やぁ)
そう思って、立ち上がろうとした時。
「どないしたん」
上から声が降ってきた。
見上げると、山ノ内くんだった。
(や、山ノ内くん)
海に反射する太陽に照らされて、いつもよりキラキラ30パーセント増し。
「こけてもうたん?」
山ノ内くんは、手を差し出しながらそう言った。
「え、あ、うん」
反射的に手を出してしまって、支えながら立ち上がらせてもらう。
「あ、ありがとう」
「ええで! つか、知ってる顔やな。県選抜おった?」
「あ、うん」
ウチは顔に熱が上がるのを感じた。
「SFの子やろ。めっちゃ上手いよな、足速い」
「そんなことない、山ノ内くんこそ、有名、で」
「ほんまに? サンキュー」
眉毛を下げた、少し大人びた笑顔。
(か、かっこいい)
そう思ってしまうのは、女子として仕方ない、そう思う。
「てか、服大丈夫なん」
「あー」
腰から下がもうべしょべしょだ。
「家近いから大丈夫」
「ほんま? でも歩かれへんよな」
「え?」
見ると、履いていたビーチサンダルの片方が、波にさらわれて、どこかへ行ってしまっていた。
「え、あ、うわ、気づかんかった」
「ツレが持ってるわサンダル、借りたらええ」
「え?」
「元々俺のやねん。今日貸してんねんけど、そのうちどっかの試合で会った時にでも返してくれたらええから」
そう言って山ノ内くんはウチを、お姫様抱っこ、した。
「数ヶ月で鍛えられるもんや」
謎の山ノ内くんの言葉にも、混乱して何が何だかわからなくて。
「え、なになに!?」
「だって歩かれへんやろ?」
「や、やけど」
「ええやんそこまでや、こうなっとる子ほっとけんし」
山ノ内くんはサクサクと砂浜を歩いて、遊歩道のベンチに座らせてくれた。
(う、うわぁぁあ)
コレで恋せえへん女の子なんか、おる?顔が真っ赤なのがわかる。
(暑くて赤いと思ってくれますように……!)
そう祈っていたら、遊歩道の反対側、水族園の方から、綺麗な声が聞こえた。
「アキラくん、お待たせ」
鈴を転がすような声、ってこういうの言うんやろか、と思わずウチはその子を見た。
(うっわ、お人形さんみたい)
透けるような白い肌、サラサラのショートボブの真っ黒い髪、白のノースリーブの丈が長いワンピースに、麦わら帽子。足元はシンプルなヒールの低いミュール。
微笑むくちびると頬は、暑いせいか赤く色づいて。
「華」
その子を呼ぶ、嬉しそうな山ノ内くんの声。まるで、彼女の名前を呼ぶことそのものが幸福です、と言わんばかりの。
「どうしたの?」
「ちゃうねん華」
山ノ内くんは急に気づいたように焦り出した。
「この子がな、海でこけとって」
「え、そうなの? 大丈夫?」
女の子はウチの前にまわって、しゃがみこんで「ケガはなさそうだね」と微笑んで見上げてきた。
(かっ……わいい)
衝撃や。世の中にこんな子、おるんや。芸能人か、モデルさんでもおかしくない。
その子は肩に下げていた籠バッグからタオルを取り出す。
「どうぞ、使って」
「え、いや、悪いです、そんな」
「だめ」
女の子は勝手にウチの身体を拭き始めてしまった。
「あわ、や、じゃ、借ります、借りますんで自分で」
「あは、そう?」
「華、悪いけどさっき貸したビーチサンダル、この子に貸してあげてもええ?」
「いいよ、あ、サンダル流されちゃったんだ」
大変だね、と眉を寄せて、ビニール袋に入っていたそれを貸してくれた。
「あ、あの」
ウチはなんとか声を出す。
「タオルも、洗って返しますんで」
「華、この子バスケの知り合いやねん」
「あ、そうなんだ」
女の子は立ち上がりながら、また笑った。
「いいな」
女の子はそう言った。
(なにが、かな)
この子みたいな、なんでも持ってる子がウチを羨む要素、ないと思うんやけど。
ウチが迷っている間に、「ほな俺らもイルカ見よか」と山ノ内くんが言う。
女の子は「うん」と頷いて、浜の方に歩き出す。
ウチが「ありがとうございましたー!」と声をかけると、女の子と山ノ内くんは振り返って手を振ってくれた。
(あ)
そこで気づく。
(あの子のミュールじゃ、砂浜歩きにくいじゃん!)
だから山ノ内くんはサンダルを貸していたのだ。
(申し訳ないな、大丈夫かな)
そう思って見つめていると、やはり歩きにくかったみたいで、立ち止まっている。アキラくんは迷うことなく、軽々とその子をお姫様抱っこして、海辺に向かって歩いて行ってしまった。
女の子は少しびっくりしたあと、楽しそうに笑っていた。
「王子様やんあんなん」
思わずひとりごとが漏れた。
「あの子はお姫様やし」
視界がにじむ。涙、だ。
「うー」
まさか、恋自覚したと同時に失恋する、なんて。
「ウチも見つけよ」
ウチのこと、お姫様にしてくれるステキなウチだけの王子様。
夏休み明けてすぐ、ウチの学校の男子バスケが練習試合する、ということで体育館はギャラリーでザワザワしていた。
「山ノ内くん来るんやろ」
「楽しみやなぁ」
天井から下がった緑色の網で区切った反対側コート、こっちで練習している女子バスケメンバーも、少し気もそぞろって感じ。
(なんとか返さんと)
練習試合のことを聞いて、カバンに詰め込んだサンダルとタオル、あとお礼に2人ぶんの、小袋のお菓子。
キャアキャア声がして、山ノ内くんたちが入ってきた。
ウォーミングアップしている山ノ内くんがこっちに近づいてきた時に、網越しに話しかける。
「山ノ内くん、こないだはありがと」
「あ、ここやっけか、学校」
「うん。今返してもええ?」
「ええで、待っとる」
私たちの会話を聞いて、他の女子部員がキャアを通り越してギャアと叫ぶ。
「なんなんアンタなんなん、山ノ内くんとなんなん!?」
「えっえっ説明して!」
ウチは肩をすくめた。ギャリーの女の子たちからは、射殺すような目で見られている。怖っ。
やから、少し大きい声で言った。ギャリーの女の子たちにも、聞こえるくらいに。
「ちゃうねん、ウチ、山ノ内くんの彼女さんからタオル借りててん」
体育館が、しん、とした。
ウチは堂々と袋を渡す。
「お、サンキュー。お菓子までついてるやん」
山ノ内くんは少し嬉しそう。
「送っとくわ」
「? うん、彼女さんによろしく」
「おう……あ」
「なに?」
山ノ内くんは声をひそめた。
「これ内緒やねんけど、まだ彼女ちゃうねん、押してるとこやねん」
「あ、そうなの」
ウチは笑った。
「でもイケると思うで、見てたけど」
「せやろ!? やっぱな。ほな」
元の大きさの声でそう言って、荷物を置きに自分のエナメルバッグへ走る山ノ内くんの後ろ姿は、やっぱかっこよくて。
(でも、送っとくわ、って何やろ)
「あー、そういや山ノ内くん噂あったな。遠恋中やって」
「マジやったんか~、くそー」
後ろで友達がそう言うのが聞こえる。
(遠距離かぁ)
だから、送る、のか。
と、ここに至って、あの子の「いいな」がどういう意味なのかやっと分かった。
(あの子は、山ノ内くんがバスケしてるとこ、あんま見たことないんかも)
見てたいやんなぁ。
(あの子も切ない気持ち、たくさんしとんのやろか)
そう思うと、あの子もウチと変わらへん、ただの女の子なんやなって、なんとなく身近に思ってしまった。
(がんばれ、遠距離恋愛)
ウチは山ノ内くんの背中にむかって心でエールを送る。
「ウチもがんばろ」
そうひとりごとを言うと、友達は妙な顔をして「彼女どんな子やった?」と聞いてくるのだった。
ウチは女子バスケで、山ノ内くんは男子バスケで、それぞれ別の学校やけど、学校のクラブに入っていて。
ほんで、初めて県選抜に選ばれた時やった。同じクラブの女子が騒いでて、なんやろと思ってみたらえらいイケメンが楽しそうにバスケしよった。
「あれが噂の山ノ内くんか」
友達がそういうので、まじまじと見つめる。あんなに整った男の子、初めてみた。
「ほんまにイケメンやん」
思わずそう言った。
「めっちゃかっこいい」
「6年に負けとらんやん」
大体試合に出るのは6年生なのに、山ノ内くんは4年から試合に出てるとか聞いた。
「ほんまやなあ」
その時は、その男の子に恋するなんて、思ってもなかった。
だって山ノ内くんは遠い世界の人だったし。常に女子にキャーキャー言われて、嫌がるそぶりもなく上手く受け流して(上に年が離れたお姉さんが3人いるから女性の扱いが叩き込まれてる、とかも聞いた)なのに男子からも人気があって。
(絶対に好きになったら辛いやんな、こんな人)
そう思っとったのに、ウチはこの直後、まんまと山ノ内くんに恋してしまうのだ。
しかも、その自覚と失恋はほぼ同時におきて、なんや人生ってままならんなぁ、なんて思ったりする。ちょっとは他の子みたいに、片思いでもいいからキャアキャア言うてみたかったわ。ほんまに。
「イルカやん」
「知らんかったやろ?」
夏休み何日目かの朝、お母さんに「浜にイルカ見に行くで」と連れ出されて、なんやねんなんのことやねんと思ってたら、水族園のよこの砂浜やった。そこの海に、浮きで区切ったプールがあって、その中をイルカたちが気持ちよさそうに泳いでいた。
「うん」
「無料やでこれ、夏休みの間だけやけど」
「へぇー」
水族園、こんなことしてたんかぁ。
近所なのに知らんかった。
それ以来、暇があるとなんとなくイルカを見に来るようになったのだ。
夏休み中ということもあり、お昼間なんかは人でごった返したりしとったけど、まぁ朝の10時前とお昼の3時くらい以降は、比較的空いていた。
やから、その日の午後3時くらいやったと思う。練習終わって、一旦家に帰ったウチは、着替えて波打ち際まで行って、割と近くでイルカを眺めていた。ショーでもなんでもない、普段のイルカたちは飼育員さんに甘えている。
(イルカも甘える時はお腹出すんやなぁ)
面白い発見をした、そう思った次の瞬間。
「あ」
ウチは、濡れた砂浜に足をとられて、見事に転倒してしまった。
「やば」
寄せては返す塩水に、服も濡れていく。
(最悪やぁ)
そう思って、立ち上がろうとした時。
「どないしたん」
上から声が降ってきた。
見上げると、山ノ内くんだった。
(や、山ノ内くん)
海に反射する太陽に照らされて、いつもよりキラキラ30パーセント増し。
「こけてもうたん?」
山ノ内くんは、手を差し出しながらそう言った。
「え、あ、うん」
反射的に手を出してしまって、支えながら立ち上がらせてもらう。
「あ、ありがとう」
「ええで! つか、知ってる顔やな。県選抜おった?」
「あ、うん」
ウチは顔に熱が上がるのを感じた。
「SFの子やろ。めっちゃ上手いよな、足速い」
「そんなことない、山ノ内くんこそ、有名、で」
「ほんまに? サンキュー」
眉毛を下げた、少し大人びた笑顔。
(か、かっこいい)
そう思ってしまうのは、女子として仕方ない、そう思う。
「てか、服大丈夫なん」
「あー」
腰から下がもうべしょべしょだ。
「家近いから大丈夫」
「ほんま? でも歩かれへんよな」
「え?」
見ると、履いていたビーチサンダルの片方が、波にさらわれて、どこかへ行ってしまっていた。
「え、あ、うわ、気づかんかった」
「ツレが持ってるわサンダル、借りたらええ」
「え?」
「元々俺のやねん。今日貸してんねんけど、そのうちどっかの試合で会った時にでも返してくれたらええから」
そう言って山ノ内くんはウチを、お姫様抱っこ、した。
「数ヶ月で鍛えられるもんや」
謎の山ノ内くんの言葉にも、混乱して何が何だかわからなくて。
「え、なになに!?」
「だって歩かれへんやろ?」
「や、やけど」
「ええやんそこまでや、こうなっとる子ほっとけんし」
山ノ内くんはサクサクと砂浜を歩いて、遊歩道のベンチに座らせてくれた。
(う、うわぁぁあ)
コレで恋せえへん女の子なんか、おる?顔が真っ赤なのがわかる。
(暑くて赤いと思ってくれますように……!)
そう祈っていたら、遊歩道の反対側、水族園の方から、綺麗な声が聞こえた。
「アキラくん、お待たせ」
鈴を転がすような声、ってこういうの言うんやろか、と思わずウチはその子を見た。
(うっわ、お人形さんみたい)
透けるような白い肌、サラサラのショートボブの真っ黒い髪、白のノースリーブの丈が長いワンピースに、麦わら帽子。足元はシンプルなヒールの低いミュール。
微笑むくちびると頬は、暑いせいか赤く色づいて。
「華」
その子を呼ぶ、嬉しそうな山ノ内くんの声。まるで、彼女の名前を呼ぶことそのものが幸福です、と言わんばかりの。
「どうしたの?」
「ちゃうねん華」
山ノ内くんは急に気づいたように焦り出した。
「この子がな、海でこけとって」
「え、そうなの? 大丈夫?」
女の子はウチの前にまわって、しゃがみこんで「ケガはなさそうだね」と微笑んで見上げてきた。
(かっ……わいい)
衝撃や。世の中にこんな子、おるんや。芸能人か、モデルさんでもおかしくない。
その子は肩に下げていた籠バッグからタオルを取り出す。
「どうぞ、使って」
「え、いや、悪いです、そんな」
「だめ」
女の子は勝手にウチの身体を拭き始めてしまった。
「あわ、や、じゃ、借ります、借りますんで自分で」
「あは、そう?」
「華、悪いけどさっき貸したビーチサンダル、この子に貸してあげてもええ?」
「いいよ、あ、サンダル流されちゃったんだ」
大変だね、と眉を寄せて、ビニール袋に入っていたそれを貸してくれた。
「あ、あの」
ウチはなんとか声を出す。
「タオルも、洗って返しますんで」
「華、この子バスケの知り合いやねん」
「あ、そうなんだ」
女の子は立ち上がりながら、また笑った。
「いいな」
女の子はそう言った。
(なにが、かな)
この子みたいな、なんでも持ってる子がウチを羨む要素、ないと思うんやけど。
ウチが迷っている間に、「ほな俺らもイルカ見よか」と山ノ内くんが言う。
女の子は「うん」と頷いて、浜の方に歩き出す。
ウチが「ありがとうございましたー!」と声をかけると、女の子と山ノ内くんは振り返って手を振ってくれた。
(あ)
そこで気づく。
(あの子のミュールじゃ、砂浜歩きにくいじゃん!)
だから山ノ内くんはサンダルを貸していたのだ。
(申し訳ないな、大丈夫かな)
そう思って見つめていると、やはり歩きにくかったみたいで、立ち止まっている。アキラくんは迷うことなく、軽々とその子をお姫様抱っこして、海辺に向かって歩いて行ってしまった。
女の子は少しびっくりしたあと、楽しそうに笑っていた。
「王子様やんあんなん」
思わずひとりごとが漏れた。
「あの子はお姫様やし」
視界がにじむ。涙、だ。
「うー」
まさか、恋自覚したと同時に失恋する、なんて。
「ウチも見つけよ」
ウチのこと、お姫様にしてくれるステキなウチだけの王子様。
夏休み明けてすぐ、ウチの学校の男子バスケが練習試合する、ということで体育館はギャラリーでザワザワしていた。
「山ノ内くん来るんやろ」
「楽しみやなぁ」
天井から下がった緑色の網で区切った反対側コート、こっちで練習している女子バスケメンバーも、少し気もそぞろって感じ。
(なんとか返さんと)
練習試合のことを聞いて、カバンに詰め込んだサンダルとタオル、あとお礼に2人ぶんの、小袋のお菓子。
キャアキャア声がして、山ノ内くんたちが入ってきた。
ウォーミングアップしている山ノ内くんがこっちに近づいてきた時に、網越しに話しかける。
「山ノ内くん、こないだはありがと」
「あ、ここやっけか、学校」
「うん。今返してもええ?」
「ええで、待っとる」
私たちの会話を聞いて、他の女子部員がキャアを通り越してギャアと叫ぶ。
「なんなんアンタなんなん、山ノ内くんとなんなん!?」
「えっえっ説明して!」
ウチは肩をすくめた。ギャリーの女の子たちからは、射殺すような目で見られている。怖っ。
やから、少し大きい声で言った。ギャリーの女の子たちにも、聞こえるくらいに。
「ちゃうねん、ウチ、山ノ内くんの彼女さんからタオル借りててん」
体育館が、しん、とした。
ウチは堂々と袋を渡す。
「お、サンキュー。お菓子までついてるやん」
山ノ内くんは少し嬉しそう。
「送っとくわ」
「? うん、彼女さんによろしく」
「おう……あ」
「なに?」
山ノ内くんは声をひそめた。
「これ内緒やねんけど、まだ彼女ちゃうねん、押してるとこやねん」
「あ、そうなの」
ウチは笑った。
「でもイケると思うで、見てたけど」
「せやろ!? やっぱな。ほな」
元の大きさの声でそう言って、荷物を置きに自分のエナメルバッグへ走る山ノ内くんの後ろ姿は、やっぱかっこよくて。
(でも、送っとくわ、って何やろ)
「あー、そういや山ノ内くん噂あったな。遠恋中やって」
「マジやったんか~、くそー」
後ろで友達がそう言うのが聞こえる。
(遠距離かぁ)
だから、送る、のか。
と、ここに至って、あの子の「いいな」がどういう意味なのかやっと分かった。
(あの子は、山ノ内くんがバスケしてるとこ、あんま見たことないんかも)
見てたいやんなぁ。
(あの子も切ない気持ち、たくさんしとんのやろか)
そう思うと、あの子もウチと変わらへん、ただの女の子なんやなって、なんとなく身近に思ってしまった。
(がんばれ、遠距離恋愛)
ウチは山ノ内くんの背中にむかって心でエールを送る。
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そうひとりごとを言うと、友達は妙な顔をして「彼女どんな子やった?」と聞いてくるのだった。
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