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空手少年は疑う(side相良)
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「あれ、先生なんか絡んでますよね?」
俺がボケっと絵馬を眺めつつ、華の動向を気にかけていた時のことだった。
横に立っていた黒田少年が、ぼそりと言ったのだ。
「ん? え? なに?」
「さっきの、消えたキツネとかオッサンっすよ。なんか、先生きなくせー。最初から荷物無くすのありきっていうか、段階踏んでたっつーか? なんて言うんすかね、俺アホなんでわかんねぇっすけど」
(アホ、ねぇ)
俺は内心、舌を巻いた。勘がいい。
(しかしまぁ、ふざけすぎた、かな?)
予算に糸目をつけない、とか言うからどこまでやっていいか、ちょっと試したかったのだ。えへへ。約二億円、俺に請求されたらどうしよ。夜逃げかな。
俺はにやっと笑って「どうだろね?」と首を傾げた。
「……、そっスか」
黒田少年は少し目線を鋭くしつつ、そう答えた。
(うーん、完全に疑われちゃったな?)
護衛が付いてるのが華本人にバレるのは困る。
「黒田くんは、将来なりたいものとかあるの」
話を逸らすべくそう聞くと、少年はほとんど即答する。
「警察官か消防士か自衛官っすかね」
「あ、ぽい」
ここまでイメージ通りだと、逆に驚く。
「よく言われます」
「君は刑事向きかな……」
肩をすくめて言う。
「ですかね。親がそうなんで」
「あ、まじか。なるほどね」
家庭訪問、家での学習と生活の様子くらいしか聞いて回らなかったからなぁ。この子の家庭調査票には「地方公務員」とだけ記載があったんだ、そういえば。
普通の日本の教師は細かく聞いてるんだろうか。失礼に当たらないのかな。
前世の家庭訪問の記憶なんかほとんど覚えてない。
あといろんな家で出されたお菓子て、実は食べて良かったのかな? 教頭センセには、玄関すらあがっちゃダメって言われたんだけど。でもそういや、前世の子供の頃って、先生リビングまで来てたよな。実際、どうぞ上がってくださいこんなところで、って何回も言われたし。
ちょっと悩んでいると、不思議そうにこちらを見る華の視線に気づいた。
俺の護衛対象。
とても不思議なお姫様、だ。
(ひどく子供なようで、大人なようで)
失くした、という記憶が何か関係しているのだろうか?
(なにより、彼女に似ている)
かつて前世で恋い焦がれた、彼女に。
見た目ではない、仕草とか、笑い方とか、怒った顔とか。
(……焦がれすぎて、頭おかしくなったかな)
女子小学生をそんな目で見るなんて完全にアウトだ。
でももしかしたら、という思いが消せない。
(奇跡的に、彼女なんじゃないかって)
まぁ、去年の春より前の記憶がない、ということは前世のことなんかも全く覚えてないんだろうなぁと思う。
(そのうち、思い出したりしないかな)
そう思うが、サブマシンガンで頭をブチ抜かれそうになる経験なんかそうそうないだろうし、まあ期待薄、なのか。
(それでも)
彼女に似てる、彼女かもしれない女の子を守る仕事に就けたのはしあわせなことなのかもしれない。
子供達を駅まで送り届けると、スマホにメッセージが来た。
同僚からの連絡だ。一応目視もしていたけど、きっちり同じ車両で護衛についたらしく、今回の護衛引き継ぎは無事完了。電車が動き出す。
(さて、後は先生のお仕事きちんとしますか)
俺ははしゃぎながら線路を渡ろうとする生徒を目ざとく見つけ、「こら周りをきちんと見なさい!」と大きな声でさけぶ。
「あ、相良先生」
「すんませーん」
楽しそうに笑う子供たちをみていると、柄にもなく幸せな気持ちになって。
(ほんと、案外向いてるのかもな)
少しだけ、そう思う。
俺がボケっと絵馬を眺めつつ、華の動向を気にかけていた時のことだった。
横に立っていた黒田少年が、ぼそりと言ったのだ。
「ん? え? なに?」
「さっきの、消えたキツネとかオッサンっすよ。なんか、先生きなくせー。最初から荷物無くすのありきっていうか、段階踏んでたっつーか? なんて言うんすかね、俺アホなんでわかんねぇっすけど」
(アホ、ねぇ)
俺は内心、舌を巻いた。勘がいい。
(しかしまぁ、ふざけすぎた、かな?)
予算に糸目をつけない、とか言うからどこまでやっていいか、ちょっと試したかったのだ。えへへ。約二億円、俺に請求されたらどうしよ。夜逃げかな。
俺はにやっと笑って「どうだろね?」と首を傾げた。
「……、そっスか」
黒田少年は少し目線を鋭くしつつ、そう答えた。
(うーん、完全に疑われちゃったな?)
護衛が付いてるのが華本人にバレるのは困る。
「黒田くんは、将来なりたいものとかあるの」
話を逸らすべくそう聞くと、少年はほとんど即答する。
「警察官か消防士か自衛官っすかね」
「あ、ぽい」
ここまでイメージ通りだと、逆に驚く。
「よく言われます」
「君は刑事向きかな……」
肩をすくめて言う。
「ですかね。親がそうなんで」
「あ、まじか。なるほどね」
家庭訪問、家での学習と生活の様子くらいしか聞いて回らなかったからなぁ。この子の家庭調査票には「地方公務員」とだけ記載があったんだ、そういえば。
普通の日本の教師は細かく聞いてるんだろうか。失礼に当たらないのかな。
前世の家庭訪問の記憶なんかほとんど覚えてない。
あといろんな家で出されたお菓子て、実は食べて良かったのかな? 教頭センセには、玄関すらあがっちゃダメって言われたんだけど。でもそういや、前世の子供の頃って、先生リビングまで来てたよな。実際、どうぞ上がってくださいこんなところで、って何回も言われたし。
ちょっと悩んでいると、不思議そうにこちらを見る華の視線に気づいた。
俺の護衛対象。
とても不思議なお姫様、だ。
(ひどく子供なようで、大人なようで)
失くした、という記憶が何か関係しているのだろうか?
(なにより、彼女に似ている)
かつて前世で恋い焦がれた、彼女に。
見た目ではない、仕草とか、笑い方とか、怒った顔とか。
(……焦がれすぎて、頭おかしくなったかな)
女子小学生をそんな目で見るなんて完全にアウトだ。
でももしかしたら、という思いが消せない。
(奇跡的に、彼女なんじゃないかって)
まぁ、去年の春より前の記憶がない、ということは前世のことなんかも全く覚えてないんだろうなぁと思う。
(そのうち、思い出したりしないかな)
そう思うが、サブマシンガンで頭をブチ抜かれそうになる経験なんかそうそうないだろうし、まあ期待薄、なのか。
(それでも)
彼女に似てる、彼女かもしれない女の子を守る仕事に就けたのはしあわせなことなのかもしれない。
子供達を駅まで送り届けると、スマホにメッセージが来た。
同僚からの連絡だ。一応目視もしていたけど、きっちり同じ車両で護衛についたらしく、今回の護衛引き継ぎは無事完了。電車が動き出す。
(さて、後は先生のお仕事きちんとしますか)
俺ははしゃぎながら線路を渡ろうとする生徒を目ざとく見つけ、「こら周りをきちんと見なさい!」と大きな声でさけぶ。
「あ、相良先生」
「すんませーん」
楽しそうに笑う子供たちをみていると、柄にもなく幸せな気持ちになって。
(ほんと、案外向いてるのかもな)
少しだけ、そう思う。
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