上 下
74 / 702
5

悪役令嬢は先生を叱る

しおりを挟む
 翌朝は晴天。

「うわぁ華ちゃん見て、駅まで可愛いっ」
「あ、ほんと」

 伏見稲荷駅は駅からして千本鳥居っぽくなっている。朱色の柱が並んでいて、すごく雰囲気があった。

「京都感すごい~」

 ひよりちゃんは大はしゃぎだ。秋月くんもスマホでぱしゃぱしゃ撮ってるし(さりげなくひよりちゃんを入れている角度なのは見逃してないぞお姉さんは)黒田くんも面白そうな顔でみている。

 修学旅行2日目の今日、終日(と言っても、17時にはホテルに戻らなくてはいけない)自由行動の日なのだ。
 清水寺は明日みんなでまわるので、今日はそれ以外、ということで伏見稲荷大社。

(見てみたかったんだよねー、千本鳥居)

 ガイドブックとか見てもきれいだし、いなり寿司美味しそうだし、ひよりちゃんが喜ぶと思われる「お願いが叶う石」的なのもあり。

(あとは美味しいスイーツでもあれば、……ん?)

 改札を出たところで、手を振る相良先生がいた。
 誰かと電話をしていたらしいが、すぐに何かを言って通話を切っていた。

「あれ、相良先生」
「俺たちが先に出たのに」

 不思議そうなひよりちゃんと秋月くん。
 相良先生は少し笑った。

「君たち、地下鉄からの乗り換えで迷ってたでしょ? その時に追い抜いたんだ」
「えー、言ってくれたらスムーズに来れたのに」

 口を尖らせるひよりちゃん。

「だめだめ、迷うのも自由行動の醍醐味」

 そう言って笑う相良先生は、相変わらずビジネスバッグを持っている。個人情報満載の、マズイやつ。

(今日は肩にかけないのかな?)

 私の視線に気づいたのか、相良先生は眉を下げて「や、これ、金具が壊れちゃって」と言い訳するように言った。

「あ、ほんとだ」

 ショルダーベルトを付ける部分が、折れていた。

「ほんと気をつけてくださいね?」
「うんうん、大丈夫大丈夫」

 にこにこと笑う相良先生。

「てか、なんで先生ここに?」
「あは、秋月くん聞いてませんでしたね?」

 先生は指をぴんと立てて言った。

「生徒さんたちが多く訪れるスポットは、先生たちが見回ってますからね、って言ったでしょ」
「あ、そういえば」

(やっぱり先生ってたいへん)

 改めてそう思いなおした、その時。
 改札から出てきた男の人が、先生にぶつかった。少し蒸し暑いくらいなのに、きっちり三つ揃いのスーツ、それにサングラス。
 2人のカバンが地面に落ちる。どちらも似たようなビジネスバッグ。

「あ、すみません」
「や、こちらこそ失敬」

 急いでいたらしく、男の人はサッとカバンを拾い上げて行ってしまった。

「え、先生大丈夫? パソコンでしょ中身」

 私は少し慌てて言った。

「大丈夫大丈夫、丈夫なケースにいれてあるから」
「一応中身確認したほうがいいんじゃないスか」

 黒田くんも少し心配そうだ。

(何せ、ほんとに先生っておっちょこちょいだからなぁ)

「そう? じゃあまあ、一応」

 先生はカバンを開けて、それから目をこれでもかと見開いて、男の人が行ってしまったほうを見て、またカバンの中身を見た。

「え、先生……?」

 その時、私は気づいてしまった。

(カバンの金具、壊れてない!)

 つまり。

「カバン……入れ違っちゃった、みたい」

 先生は呆然としながら言った。

「ウッソだろおい、俺追いかけてくるわ」

 黒田くんが駆け出す。秋月くんも慌てたように続いた。

「……何が入ってたの?」

 ひよりちゃんは不思議そうに私と先生を交互に見た。
 相良先生は、しばらく目をぱちくりしたあと「やっちゃったなぁ……」とのんびり呟いた。

(まったくこの人は!)

 一度はっきり言ってやらないと、と手を腰に当て先生に向き直る。

「先生」
「……はい」
「今回は、おっちょこちょいじゃ済まされませんよ」
「せやせや」
「だいたい、管理の仕方にも問題がありましたよね?」
「ほんまやで、何か知らんけど」
「個人情報を……ん?」
「どないしたんや華」
「どないした、て」

 声の方を振り返る。

「……、アキラくん?」
「せやで! よっしゃ、気づかんかったやろ!?」
「なんで!?」
「いや、みかけたから。地下鉄の三条で。付いてきてん」
「えぇ……!?」
「ビックリさせよ思て」

(そもそもなぜ神戸市民のはずのアキラくんが京都に……!?)

 色々と混乱して二の句が継げない私に、ひよりちゃんが「何このイケメン、華ちゃんの友達!?」と少しばかりテンションを上げて聞いてくる。

「え、あ、うん。神戸の友達……って、なんで京都に!?」
「ばあちゃんちが京都や言うたやろ。ばあちゃんち、商売やってんねんけど、今日の夜でっかいイベントみたいなんやんねん。その手伝いでガッコ休んで来てん」
「え、あ、そうなの」

 呆然と返事をする。

「あの、こんにちは?」
「おう、華の友達さんめんそーれ京都」
「それ沖縄……って、ひよりです。大友ひより。よろしくね」
「ひよりちゃんか、華の友達なだけあって美人さんやなー、やっぱ」
「単刀直入に聞きます。何年?」
「5年」
「あー、年下かぁっ」

 ものすごく悔しそうに頭をかかえるひよりちゃん。

「なに、年下あかんの?」
「うん、同じ歳か上じゃないとダメなのわたし」
「えー、そうなん、そら残念やわ」

 ジーンズのポケットに親指だけを突っ込んで、からからと笑うアキラくん。

「華は?」

 それから私の方を見て少し首を傾げた。

「なにが?」
「年下、あかん?」
「? ううん、別に。好きならいいんじゃない」
「せやんなー、愛があればええやんなー」

 アキラくんはものすごく嬉しそうに笑った。

「あ」

 ひよりちゃんがぽん、と手を叩く。

「そういうこと?」
「そーゆーことやで」

 謎に会話が成り立っている。

(え、なにが?)

 私が首をひねってる間にも、2人は会話を進めていく。

「協力してくれへん?」
「残念、先約済み」
「まじか。健クン?」
「あ、タケル知ってんの? イトコ、あいつ」
「まじかー、そらあかんわ。しゃあない」

 アキラくんは肩をすくめて私を見て、「一人やけど諦めんと頑張るわ、俺」と笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした

黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん! しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。 ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない! 清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!! *R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

未来の記憶を手に入れて~婚約破棄された瞬間に未来を知った私は、受け入れて逃げ出したのだが~

キョウキョウ
恋愛
リムピンゼル公爵家の令嬢であるコルネリアはある日突然、ヘルベルト王子から婚約を破棄すると告げられた。 その瞬間にコルネリアは、処刑されてしまった数々の未来を見る。 絶対に死にたくないと思った彼女は、婚約破棄を快く受け入れた。 今後は彼らに目をつけられないよう、田舎に引きこもって地味に暮らすことを決意する。 それなのに、王子の周りに居た人達が次々と私に求婚してきた!? ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...