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空手少年と関西弁少年(side健、瑛)
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空手の道場からの、帰り道。
前カゴに道着を帯で巻いたやつをポイっといれてチャリで走っていると、少し前に見慣れた背中が見えた。
「秋月」
「あ、タケちゃん」
野球の練習着姿の秋月は、ロードバイクを止めて振り返る。
エナメルバッグとバットケースを背負っていた。良くカゴもないチャリなんかに乗るなぁ、と見るたびに思う。
「よお、いま帰りか」
「うん。タケちゃんもお疲れぇ」
幼馴染同士で息が合ってるのか、俺たちは特に相談することもなく、いつも通りに近所のコンビニにチャリを止めた。
成長期は、すぐに腹が減るのだ。
「俺、新作の角煮まんにしようかな」
「羽振りがいいじゃねえか」
「お小遣いもらったばっかなんだよね」
機嫌が良さそうな秋月と、レジ横のホットスナックコーナーでどれを食べるか悩んでいると、見た顔がコンビニに入ってきた。
「……オイ、秋月。あいつ」
「? どうしたの、タケちゃん」
不思議そうな秋月に、くいっとアゴでその男をしめす。
「……、あ、あいつ。ひよりちゃんの塾の。えっと、久保だっけ」
「まぁ覚えてねぇと思うけど、絡まれたらめんどくせえ。隠れてようぜ」
なんでもクビになった、とか聞いた。俺たちも虫型オモチャでアイツとは因縁がある。
俺たちはこっそり、パンコーナーに身を潜めつつ、レジを伺い久保を観察した。
久保はペットボトルの水とお茶を数本買おうと、レジに並んだ。
その時だ。
尻ポケットから財布を取り出した久保は、一緒に何かを落としたのだ。
(……お守り?)
久保は気付かず、そのまま自動ドアを抜けていった。
俺はサッと近づいてそれを拾う。
「あ、それ」
秋月は俺より先に、それに気づいたようだった。
「華ちゃんのお守りじゃん。なんで久保が持ってたの」
確か、ひより情報だと世界に1つしかないお守り、だったか。
「……なんでだ?」
慌てて2人でコンビニを出る。
久保が乗り込んだ車は、駐車場を出て行こうとしている時だった。
「秋月」
「覚えた!」
ギリギリで、なんとか2人とも車のナンバーを見ることができた。
「どうしよタケちゃん、警察行った方がいいかな? でも勘違いかな、拾っただけ、とか」
「勘違いで設楽が無事だって分かれば、それでいいだろ」
俺たちはすぐ近くの交番に走り込んだ。
だが。
「……お守り、ね」
「そうなんです! はやく捕まえてください」
机に身を乗り出して言う秋月に、警官の態度は冷ややかなものだった。
「君たち、その女の子が車に乗せられるとことか、見たの?」
「いえ、それはっ」
(時間の無駄だな)
警官の目は、めんどくさそうに細められるばかりで、とりあってくれる様子すらなかった。
「秋月、行くぞ」
「でもタケちゃん」
「いいから」
俺は秋月を交番から連れ出した。
「いいのっ、タケちゃん!?」
「良くねぇよ、良くねぇけどよ、オトナが頼りになんねぇなら俺らでなんとかするしかねぇだろうがよ」
「え?」
「スマホ出せ」
「え、え、え? 何するの?」
戸惑う秋月に、俺は自分のスマホを振ってみせる。
「子供は情報戦に強ぇんだってとこ見せんだよ」
片頬を上げて、にやりと笑ってみせる。
そうしないと、嫌な予感に押しつぶされそうになっていたからだ。
(何事もなく、俺らの勘違いで済めばそれでいいんだ)
それを心から願っていた。
☆☆☆
新横浜駅。
「焼売、焼売なぁ」
山ノ内瑛は駅弁屋の前で腕を組んでいた。
「美味いんかなぁ」
「だから美味しいって」
弁当屋のおばさんも呆れ顔だ。かれこれ五分ほど迷っている。
「せやけどやな」
「これにしときな、一番人気」
おばさんは一番シンプルな焼売弁当を指差した。
「一番人気」
瑛はその言葉を繰り返した。それから何度か頷いて「一番人気なら間違いないやろな」と小さく言った。
「ほんならそれもらおか!」
「はいはい」
おばさんにお弁当を包んでもらい、ベンチに座り新幹線を待つ。
彼の家族は一足先の新幹線に乗っており、今からしばしの一人旅なのだ。
瑛は上機嫌でスマホを取り出し、しばし眺めた後、急に驚いたような顔になった。何度か確認するように、スマホを凝視する。
それから、瑛は口を引き結び立ち上がった。
「どうやら焼売は後回しらしいでっ!」
瑛は弁当の袋を抱えて、階段を改札に向かって駆け下りていく。「うおおおおお」という叫び声付きだ。
それを弁当屋のおばさんはしばらく眺めて、それから「忙しい子だねぇ」と少しだけ面白そうに呟いた。
前カゴに道着を帯で巻いたやつをポイっといれてチャリで走っていると、少し前に見慣れた背中が見えた。
「秋月」
「あ、タケちゃん」
野球の練習着姿の秋月は、ロードバイクを止めて振り返る。
エナメルバッグとバットケースを背負っていた。良くカゴもないチャリなんかに乗るなぁ、と見るたびに思う。
「よお、いま帰りか」
「うん。タケちゃんもお疲れぇ」
幼馴染同士で息が合ってるのか、俺たちは特に相談することもなく、いつも通りに近所のコンビニにチャリを止めた。
成長期は、すぐに腹が減るのだ。
「俺、新作の角煮まんにしようかな」
「羽振りがいいじゃねえか」
「お小遣いもらったばっかなんだよね」
機嫌が良さそうな秋月と、レジ横のホットスナックコーナーでどれを食べるか悩んでいると、見た顔がコンビニに入ってきた。
「……オイ、秋月。あいつ」
「? どうしたの、タケちゃん」
不思議そうな秋月に、くいっとアゴでその男をしめす。
「……、あ、あいつ。ひよりちゃんの塾の。えっと、久保だっけ」
「まぁ覚えてねぇと思うけど、絡まれたらめんどくせえ。隠れてようぜ」
なんでもクビになった、とか聞いた。俺たちも虫型オモチャでアイツとは因縁がある。
俺たちはこっそり、パンコーナーに身を潜めつつ、レジを伺い久保を観察した。
久保はペットボトルの水とお茶を数本買おうと、レジに並んだ。
その時だ。
尻ポケットから財布を取り出した久保は、一緒に何かを落としたのだ。
(……お守り?)
久保は気付かず、そのまま自動ドアを抜けていった。
俺はサッと近づいてそれを拾う。
「あ、それ」
秋月は俺より先に、それに気づいたようだった。
「華ちゃんのお守りじゃん。なんで久保が持ってたの」
確か、ひより情報だと世界に1つしかないお守り、だったか。
「……なんでだ?」
慌てて2人でコンビニを出る。
久保が乗り込んだ車は、駐車場を出て行こうとしている時だった。
「秋月」
「覚えた!」
ギリギリで、なんとか2人とも車のナンバーを見ることができた。
「どうしよタケちゃん、警察行った方がいいかな? でも勘違いかな、拾っただけ、とか」
「勘違いで設楽が無事だって分かれば、それでいいだろ」
俺たちはすぐ近くの交番に走り込んだ。
だが。
「……お守り、ね」
「そうなんです! はやく捕まえてください」
机に身を乗り出して言う秋月に、警官の態度は冷ややかなものだった。
「君たち、その女の子が車に乗せられるとことか、見たの?」
「いえ、それはっ」
(時間の無駄だな)
警官の目は、めんどくさそうに細められるばかりで、とりあってくれる様子すらなかった。
「秋月、行くぞ」
「でもタケちゃん」
「いいから」
俺は秋月を交番から連れ出した。
「いいのっ、タケちゃん!?」
「良くねぇよ、良くねぇけどよ、オトナが頼りになんねぇなら俺らでなんとかするしかねぇだろうがよ」
「え?」
「スマホ出せ」
「え、え、え? 何するの?」
戸惑う秋月に、俺は自分のスマホを振ってみせる。
「子供は情報戦に強ぇんだってとこ見せんだよ」
片頬を上げて、にやりと笑ってみせる。
そうしないと、嫌な予感に押しつぶされそうになっていたからだ。
(何事もなく、俺らの勘違いで済めばそれでいいんだ)
それを心から願っていた。
☆☆☆
新横浜駅。
「焼売、焼売なぁ」
山ノ内瑛は駅弁屋の前で腕を組んでいた。
「美味いんかなぁ」
「だから美味しいって」
弁当屋のおばさんも呆れ顔だ。かれこれ五分ほど迷っている。
「せやけどやな」
「これにしときな、一番人気」
おばさんは一番シンプルな焼売弁当を指差した。
「一番人気」
瑛はその言葉を繰り返した。それから何度か頷いて「一番人気なら間違いないやろな」と小さく言った。
「ほんならそれもらおか!」
「はいはい」
おばさんにお弁当を包んでもらい、ベンチに座り新幹線を待つ。
彼の家族は一足先の新幹線に乗っており、今からしばしの一人旅なのだ。
瑛は上機嫌でスマホを取り出し、しばし眺めた後、急に驚いたような顔になった。何度か確認するように、スマホを凝視する。
それから、瑛は口を引き結び立ち上がった。
「どうやら焼売は後回しらしいでっ!」
瑛は弁当の袋を抱えて、階段を改札に向かって駆け下りていく。「うおおおおお」という叫び声付きだ。
それを弁当屋のおばさんはしばらく眺めて、それから「忙しい子だねぇ」と少しだけ面白そうに呟いた。
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