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悪役令嬢、揃い踏み
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桜が咲いて、六年生になって、桜が満開になった頃。
「つ、付けられてる」
「? どうしたの?」
6年生のクラスは5年生の持ち上がりで、今年もひよりちゃんたちと過ごせる。
(もうすぐ修学旅行もあるし!)
ちなみに行き先はど定番、京都奈良、だ。結構楽しみ。
(今週末にはアキラくんも来てくれるし)
どこを案内しようかな、なんて、考えて。
そんなこんなで浮かれていた、ある日の帰り道。もちろん、ひよりちゃんと一緒だ。
私は確かに、後ろをだれかが付いてきているのを感じた。
(ど、どうしよう)
だれだろうか?松影ルナ?
(……ひよりちゃんを巻き込むわけには、いかない)
私は意を決し、ひよりちゃんに「ごめん、忘れ物したから学校戻るね」と告げた。
「え、わたしも行こうか?」
「ううん、大丈夫。今日ピアノでしょ?」
「うん、でも」
「だいじょーぶ、大丈夫! また明日ね!」
「そう? じゃあ、また明日ね! 気をつけてね」
私は手を振り、歩いていくひよりちゃんを見守る。
角を曲がって、すっかり見えなくなってから、私は振り向いた。
「……誰? 付けてるのは分かってるのよ」
できるだけ、低い声でそう言う。
すると、すっ、と人の家の門の影から、女の子が出てきた。
黒髪のポニーテール、ぱっちりしとしたまつ毛。少し大人しめな雰囲気の、女の子。
(えと?)
あ、知ってる子だーーそう思って、一生懸命に思い出す。
(あ)
私は思い出して、ぽん、と手を打った。
「鍋島千晶、ちゃん?」
千晶ちゃんは、照れたように微笑んだ。
話がある、ということで、私たちは近くの公園のベンチに並んで座った。
「ごめんね、急に。どうしても2人で話したくて」
「どうしたの? 元気だった?」
「うん、おかげさまで……」
千晶ちゃんは控えめに笑う。
「あのね、設楽さん」
「うん?」
(名前、教えてたっけ?)
ひよりちゃんに聞いたのだろうか、と首を傾げていると、千晶ちゃんはさらに口を開いた。
「設楽、華ちゃん、だよね? 合ってる?」
「? うん、設楽華です」
「……"ブルーローズにお願い"の、悪役令嬢、設楽華ちゃん、で……合ってる?」
私は、口をぽかんと開いた。
(……え? え?)
「あの、初めまして、てのは変か……えっと、改めまして。"サムシングブルーを探して"の悪役令嬢、鍋島千晶です」
(えええええええええ!?)
私は、思わずベンチを立ち上がった。
「え、えっ、えと、記憶が? ぜ、前世の?」
「うん」
千晶ちゃんは、こくりと頷いた。
「あるよ」
「ええ……あ、そっかあ……そっかぁ」
驚きすぎて、言葉が出てこない。
「ごめんね、驚かせちゃって」
「ううん、いいの」
私は、ゆるゆるとベンチに座りなおす。
「ほんとはあの後、すぐ来ようと思ったんだけど、踏ん切りがなかなか」
あの後、とは例の塾の件だろう。
「ううん……てか、いつ記憶が?」
「お恥ずかしながら」
千晶ちゃんは困ったように笑った。
「元カレに振られた時に、ショックのあまり、わたし、死のうとして」
「えっ!?」
(じ、自殺!?)
私は驚いて千晶ちゃんを見つめてしまった。千晶ちゃんは苦笑して手を振る。
「あ、もう、もちろんそんなこと思ってないよ、大丈夫」
「う、うん」
「前世の記憶が戻ってからね、精神的にもすごく落ち着いたっていうか。大人の記憶があると、なんか違うね、考え方とかも。やっぱり」
その言葉に、とりあえず、一息つく。
「それで、結局まぁ、未遂とも言えないようなものだったんだけど。それなりに痛い思いして。一泊だけど入院もして」
千晶ちゃんは、手首をさすった。
「……うん」
私は、そっと千晶ちゃんの手首から目を離した。
(そんなに、辛かったんだ…….)
「で、その日、思い出して。最初は妄想かと思ったんだけど……、それにしてはリアルで」
「うん」
「で、あの一件。マスクとった華ちゃん見て、髪型こそ違うけど、"ブルーローズの華"だ、って」
(ああ、それで驚いていたのか)
私はあの時の千晶ちゃんを思い返す。
「でも、わたしが知ってる"ブルーローズの華"とは、性格が、かけ離れてるし。ひよりちゃんにも聞いたけど、やっぱり違うし。となると、転生者かなって」
「おお、その通りです」
「でも、わたしには気づかなかった? サムシングブルーの千晶だ、って」
「えっとね」
私は頭をかく。
「私、実はブルーローズ以外はプレイしてなくて」
「え、三部作なのに」
「うん、そのね、失恋してヤケになってる時に、せめてゲームの中だけでも愛されよう、って適当に目に付いたゲーム買っただけなの」
「あ、そうなのか……じゃあ、ひよりちゃんも悪役令嬢ってのも知らないんだね?」
「ひゃい!?」
驚きすぎて、変な声が出た。
「ひひひひひひ、ひよりちゃん!?」
(ひよりちゃんが、悪役令嬢!?)
「つ、付けられてる」
「? どうしたの?」
6年生のクラスは5年生の持ち上がりで、今年もひよりちゃんたちと過ごせる。
(もうすぐ修学旅行もあるし!)
ちなみに行き先はど定番、京都奈良、だ。結構楽しみ。
(今週末にはアキラくんも来てくれるし)
どこを案内しようかな、なんて、考えて。
そんなこんなで浮かれていた、ある日の帰り道。もちろん、ひよりちゃんと一緒だ。
私は確かに、後ろをだれかが付いてきているのを感じた。
(ど、どうしよう)
だれだろうか?松影ルナ?
(……ひよりちゃんを巻き込むわけには、いかない)
私は意を決し、ひよりちゃんに「ごめん、忘れ物したから学校戻るね」と告げた。
「え、わたしも行こうか?」
「ううん、大丈夫。今日ピアノでしょ?」
「うん、でも」
「だいじょーぶ、大丈夫! また明日ね!」
「そう? じゃあ、また明日ね! 気をつけてね」
私は手を振り、歩いていくひよりちゃんを見守る。
角を曲がって、すっかり見えなくなってから、私は振り向いた。
「……誰? 付けてるのは分かってるのよ」
できるだけ、低い声でそう言う。
すると、すっ、と人の家の門の影から、女の子が出てきた。
黒髪のポニーテール、ぱっちりしとしたまつ毛。少し大人しめな雰囲気の、女の子。
(えと?)
あ、知ってる子だーーそう思って、一生懸命に思い出す。
(あ)
私は思い出して、ぽん、と手を打った。
「鍋島千晶、ちゃん?」
千晶ちゃんは、照れたように微笑んだ。
話がある、ということで、私たちは近くの公園のベンチに並んで座った。
「ごめんね、急に。どうしても2人で話したくて」
「どうしたの? 元気だった?」
「うん、おかげさまで……」
千晶ちゃんは控えめに笑う。
「あのね、設楽さん」
「うん?」
(名前、教えてたっけ?)
ひよりちゃんに聞いたのだろうか、と首を傾げていると、千晶ちゃんはさらに口を開いた。
「設楽、華ちゃん、だよね? 合ってる?」
「? うん、設楽華です」
「……"ブルーローズにお願い"の、悪役令嬢、設楽華ちゃん、で……合ってる?」
私は、口をぽかんと開いた。
(……え? え?)
「あの、初めまして、てのは変か……えっと、改めまして。"サムシングブルーを探して"の悪役令嬢、鍋島千晶です」
(えええええええええ!?)
私は、思わずベンチを立ち上がった。
「え、えっ、えと、記憶が? ぜ、前世の?」
「うん」
千晶ちゃんは、こくりと頷いた。
「あるよ」
「ええ……あ、そっかあ……そっかぁ」
驚きすぎて、言葉が出てこない。
「ごめんね、驚かせちゃって」
「ううん、いいの」
私は、ゆるゆるとベンチに座りなおす。
「ほんとはあの後、すぐ来ようと思ったんだけど、踏ん切りがなかなか」
あの後、とは例の塾の件だろう。
「ううん……てか、いつ記憶が?」
「お恥ずかしながら」
千晶ちゃんは困ったように笑った。
「元カレに振られた時に、ショックのあまり、わたし、死のうとして」
「えっ!?」
(じ、自殺!?)
私は驚いて千晶ちゃんを見つめてしまった。千晶ちゃんは苦笑して手を振る。
「あ、もう、もちろんそんなこと思ってないよ、大丈夫」
「う、うん」
「前世の記憶が戻ってからね、精神的にもすごく落ち着いたっていうか。大人の記憶があると、なんか違うね、考え方とかも。やっぱり」
その言葉に、とりあえず、一息つく。
「それで、結局まぁ、未遂とも言えないようなものだったんだけど。それなりに痛い思いして。一泊だけど入院もして」
千晶ちゃんは、手首をさすった。
「……うん」
私は、そっと千晶ちゃんの手首から目を離した。
(そんなに、辛かったんだ…….)
「で、その日、思い出して。最初は妄想かと思ったんだけど……、それにしてはリアルで」
「うん」
「で、あの一件。マスクとった華ちゃん見て、髪型こそ違うけど、"ブルーローズの華"だ、って」
(ああ、それで驚いていたのか)
私はあの時の千晶ちゃんを思い返す。
「でも、わたしが知ってる"ブルーローズの華"とは、性格が、かけ離れてるし。ひよりちゃんにも聞いたけど、やっぱり違うし。となると、転生者かなって」
「おお、その通りです」
「でも、わたしには気づかなかった? サムシングブルーの千晶だ、って」
「えっとね」
私は頭をかく。
「私、実はブルーローズ以外はプレイしてなくて」
「え、三部作なのに」
「うん、そのね、失恋してヤケになってる時に、せめてゲームの中だけでも愛されよう、って適当に目に付いたゲーム買っただけなの」
「あ、そうなのか……じゃあ、ひよりちゃんも悪役令嬢ってのも知らないんだね?」
「ひゃい!?」
驚きすぎて、変な声が出た。
「ひひひひひひ、ひよりちゃん!?」
(ひよりちゃんが、悪役令嬢!?)
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