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悪役令嬢、ハンバーグを食べる
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「俺も行く」
結局、ひよりちゃんが教室に戻ったのは給食の途中だった。
(あの後寝ちゃったんだよね)
ほとんど一晩中泣いてて、あまり寝ていなかったらしい。
そして、簡単にあらましを説明していた給食の時間(私、ひよりちゃん、黒田くん、秋月くんの4人で1つの班だ)秋月くんは真剣な様子で、そう言ったのだ。
ちなみに本日の給食は、おろしハンバーグ。デザートにミカンゼリーまで付いてきた。
(ふふふ、デザートが付くと私のやる気が上がるのよね)
何のやる気だ、と言うのは置いておいて。
「え、なんで?」
首をかしげるひよりちゃん。
「元カレ、シメる!」
秋月くんは断言した。
「……だな」
黒田くんも同意して、腕を組んで目を閉じる。
(シメちゃうの!?)
「暴力的なのはちょっと」
ひよりちゃんも眉根を寄せる。
「お前が良くても、身内に泥ぬられて黙ってるわけにはいかねー」
何だお前が階段から突き落としたっていうのはよ、と黒田くんは、ヤンキー漫画の登場人物のような凄み方をした。
(……ほんとに小学生?)
「いやいや、タケルあんたもうすぐ大会じゃん。問題起こしたらしばらく晩御飯肉抜きだよ、きっと」
ひよりちゃんは呆れたように言った。
(大会? 黒田くん、何かスポーツしてるのかな?)
私が不思議そうにしていると、ひよりちゃんが教えてくれた。
「タケル、コイツさ、空手やってんの。ムダに強いよ。今度県大会あんだってさ」
「無駄ってなんだ、無駄って」
「へえ~」
(空手かぁ。たしかにやってそうかも)
そう考えながら私はハンバーグをひとくち、口に入れた。おいしい。もしや飛騨牛では……!?
「てか、本当にさ、いいって。秋月くんもありがと」
「でもさ」
言い募る秋月くん。
その必死な様子に、私はなんとなくピンときてしまう。
(お? これってもしかして、もしかして)
私はちょっと、にやついてしまった。
(秋月くんって、ひよりちゃんが好き?)
秋月くんはイケメンだし、運動得意だし、なんかちょっと言動に残念イケメンっぽいところはあるけど、良い人だし!
(ここが上手くいけば、いいのになー)
「まぁひより、ツラくらい拝ませろよ、元カレとそのナントカっていう女子の」
「ナントカじゃなくて、ルナ」
「あー、ルナ」
「いいよ。ほんと。みんなに話して、スッキリしたし」
ありがと、と微笑むひよりちゃん。
「…….それでも、行く。本当に殴ったりはしないから。一言くらい、何か言うかもしれないけど」
秋月くんは机の上に置いた手を、ぎゅっと握りしめた。
「俺も行くわ。そのルナとかいう女子は隣の市だからいいけどよ、お前の元カレは中学の校区一緒じゃねーか」
黒田くんの言葉に、ひよりちゃんは、ハッと青ざめた。
「そ、そうだった……やだあ」
私立受験しようかな、とつぶやきながらハンバーグをちょびちょびと食む、ひよりちゃん。
「お前が私立行こうが公立行こうがどっちでもいいけどな、俺は自分の彼女にンなことするようなヤツと間違っても友達にはなりたくねぇからよ、ちょっとツラ確認しに行きたいんだわ」
「ん、でもアイツ本当はいいヤツだよ、ルナちゃん来るまで優しかったし」
「だぁかぁらぁね、ひよりちゃーん?」
私は小首を傾げた。
「そんなヤツが本当はいい人なワケないのー。クソ野郎が良い人の顔の皮被ってただけなのー」
「ちょ、ちょっと華ちゃん、ハンバーグがミンチになってる」
「あら」
無意識のうちに、フォークでハンバーグを突き刺しまくっていたらしい。
「ヤダ怨念が」
「また出た怨念!」
ひよりちゃんは爆笑している。
(まぁひよりちゃんが笑ってくれるなら、いいか)
それにしても、いけない。食べ物を粗末にしては……私としたことが、せっかくの飛騨牛(仮)を。もちろん、残さず食べるけど。
「え、華ちゃんも似たようなことあったの?」
おそるおそる、と言った感じで秋月くんは尋ねてきた。黒田くんはなぜか眉根をものすごく、寄せている。
「それどころかフタマタサンマタ」
「なんか新手のモンスターみたいな名前だね」
秋月くんから良く分からない感想をいただいた。
私は遠い目をしてみる。前世での屈辱たちが走馬灯のように脳裏をよぎっていった。
「どこのなんてヤツだ、そいつ」
黒田くんの低い声で我に返る。
「前の学校のヤツか?」
「え、ちょっとタケちゃん、ヒビ、握ってる牛乳ビン、ヒビ入ってる」
秋月くんの慌てた声。みると、確かにヒビが。
「あ? あー、なんだこれ」
「ビンが古かった?」
私も驚いて口を挟む。そんなことあるのかな?
「古いくらいじゃ割れないよ……」
秋月くんは呆れたように「飲み終わってて良かったね」と言い添えた。
「で、きちんと落とし前はつけてんのか、そいつ」
(落とし前って)
その言い方に、私は少し苦笑しつつ答えた。
「あは、もう会わない人だし、いーの」
世界からして違うしなぁ、と思いながら首を振る。
「それに、私が幸せになるっていうのがなんていうか。一番の復讐? だと思うし、いーの。私幸せになるって決めたから」
(そう! なんか時々忘れかけてるけど、私ちゃんと今世では幸せになるんだから)
改めて、胸に誓う。
「……そうか」
黒田くんは、やや険しい目つきのまま、そう頷いてくれた。
(ていうか、まだ出会って2ヶ月くらいなのにそんな風に心配してくれるなんて、良い人だよなぁ)
お礼の意味もこめて、ちょっとだけ笑いかけてみた。
……目をそらされた。何気にショック。
その時、ひよりちゃんが少し明るい声で呟いた。
「そうだよねっ」
ひよりちゃんはぐっと拳を固める。
「絶対、アイツら見返してやるんだからっ! とりあえず"もっと"可愛くなるっ」
「その意気よ、ひよりちゃん!」
私たちは、グッと手を取り合い、そして握手した。同じような傷を持つもの同士は、強い絆で結ばれるのである。
結局、ひよりちゃんが教室に戻ったのは給食の途中だった。
(あの後寝ちゃったんだよね)
ほとんど一晩中泣いてて、あまり寝ていなかったらしい。
そして、簡単にあらましを説明していた給食の時間(私、ひよりちゃん、黒田くん、秋月くんの4人で1つの班だ)秋月くんは真剣な様子で、そう言ったのだ。
ちなみに本日の給食は、おろしハンバーグ。デザートにミカンゼリーまで付いてきた。
(ふふふ、デザートが付くと私のやる気が上がるのよね)
何のやる気だ、と言うのは置いておいて。
「え、なんで?」
首をかしげるひよりちゃん。
「元カレ、シメる!」
秋月くんは断言した。
「……だな」
黒田くんも同意して、腕を組んで目を閉じる。
(シメちゃうの!?)
「暴力的なのはちょっと」
ひよりちゃんも眉根を寄せる。
「お前が良くても、身内に泥ぬられて黙ってるわけにはいかねー」
何だお前が階段から突き落としたっていうのはよ、と黒田くんは、ヤンキー漫画の登場人物のような凄み方をした。
(……ほんとに小学生?)
「いやいや、タケルあんたもうすぐ大会じゃん。問題起こしたらしばらく晩御飯肉抜きだよ、きっと」
ひよりちゃんは呆れたように言った。
(大会? 黒田くん、何かスポーツしてるのかな?)
私が不思議そうにしていると、ひよりちゃんが教えてくれた。
「タケル、コイツさ、空手やってんの。ムダに強いよ。今度県大会あんだってさ」
「無駄ってなんだ、無駄って」
「へえ~」
(空手かぁ。たしかにやってそうかも)
そう考えながら私はハンバーグをひとくち、口に入れた。おいしい。もしや飛騨牛では……!?
「てか、本当にさ、いいって。秋月くんもありがと」
「でもさ」
言い募る秋月くん。
その必死な様子に、私はなんとなくピンときてしまう。
(お? これってもしかして、もしかして)
私はちょっと、にやついてしまった。
(秋月くんって、ひよりちゃんが好き?)
秋月くんはイケメンだし、運動得意だし、なんかちょっと言動に残念イケメンっぽいところはあるけど、良い人だし!
(ここが上手くいけば、いいのになー)
「まぁひより、ツラくらい拝ませろよ、元カレとそのナントカっていう女子の」
「ナントカじゃなくて、ルナ」
「あー、ルナ」
「いいよ。ほんと。みんなに話して、スッキリしたし」
ありがと、と微笑むひよりちゃん。
「…….それでも、行く。本当に殴ったりはしないから。一言くらい、何か言うかもしれないけど」
秋月くんは机の上に置いた手を、ぎゅっと握りしめた。
「俺も行くわ。そのルナとかいう女子は隣の市だからいいけどよ、お前の元カレは中学の校区一緒じゃねーか」
黒田くんの言葉に、ひよりちゃんは、ハッと青ざめた。
「そ、そうだった……やだあ」
私立受験しようかな、とつぶやきながらハンバーグをちょびちょびと食む、ひよりちゃん。
「お前が私立行こうが公立行こうがどっちでもいいけどな、俺は自分の彼女にンなことするようなヤツと間違っても友達にはなりたくねぇからよ、ちょっとツラ確認しに行きたいんだわ」
「ん、でもアイツ本当はいいヤツだよ、ルナちゃん来るまで優しかったし」
「だぁかぁらぁね、ひよりちゃーん?」
私は小首を傾げた。
「そんなヤツが本当はいい人なワケないのー。クソ野郎が良い人の顔の皮被ってただけなのー」
「ちょ、ちょっと華ちゃん、ハンバーグがミンチになってる」
「あら」
無意識のうちに、フォークでハンバーグを突き刺しまくっていたらしい。
「ヤダ怨念が」
「また出た怨念!」
ひよりちゃんは爆笑している。
(まぁひよりちゃんが笑ってくれるなら、いいか)
それにしても、いけない。食べ物を粗末にしては……私としたことが、せっかくの飛騨牛(仮)を。もちろん、残さず食べるけど。
「え、華ちゃんも似たようなことあったの?」
おそるおそる、と言った感じで秋月くんは尋ねてきた。黒田くんはなぜか眉根をものすごく、寄せている。
「それどころかフタマタサンマタ」
「なんか新手のモンスターみたいな名前だね」
秋月くんから良く分からない感想をいただいた。
私は遠い目をしてみる。前世での屈辱たちが走馬灯のように脳裏をよぎっていった。
「どこのなんてヤツだ、そいつ」
黒田くんの低い声で我に返る。
「前の学校のヤツか?」
「え、ちょっとタケちゃん、ヒビ、握ってる牛乳ビン、ヒビ入ってる」
秋月くんの慌てた声。みると、確かにヒビが。
「あ? あー、なんだこれ」
「ビンが古かった?」
私も驚いて口を挟む。そんなことあるのかな?
「古いくらいじゃ割れないよ……」
秋月くんは呆れたように「飲み終わってて良かったね」と言い添えた。
「で、きちんと落とし前はつけてんのか、そいつ」
(落とし前って)
その言い方に、私は少し苦笑しつつ答えた。
「あは、もう会わない人だし、いーの」
世界からして違うしなぁ、と思いながら首を振る。
「それに、私が幸せになるっていうのがなんていうか。一番の復讐? だと思うし、いーの。私幸せになるって決めたから」
(そう! なんか時々忘れかけてるけど、私ちゃんと今世では幸せになるんだから)
改めて、胸に誓う。
「……そうか」
黒田くんは、やや険しい目つきのまま、そう頷いてくれた。
(ていうか、まだ出会って2ヶ月くらいなのにそんな風に心配してくれるなんて、良い人だよなぁ)
お礼の意味もこめて、ちょっとだけ笑いかけてみた。
……目をそらされた。何気にショック。
その時、ひよりちゃんが少し明るい声で呟いた。
「そうだよねっ」
ひよりちゃんはぐっと拳を固める。
「絶対、アイツら見返してやるんだからっ! とりあえず"もっと"可愛くなるっ」
「その意気よ、ひよりちゃん!」
私たちは、グッと手を取り合い、そして握手した。同じような傷を持つもの同士は、強い絆で結ばれるのである。
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