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悪役令嬢、失恋話を聞く
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すっかり小学校にも慣れて来て、と同時に街路樹も少しずつ秋を感じさせるものになり始めた、そんなとある日。
朝食を食べたカフェから家に戻ると、ちょうど電話が鳴ったところだった。
ナンバーディスプレイには、ひよりちゃんちの番号。
(どうしたのかな?)
寝坊かな、などと呟きながら受話器をとる。
ひよりちゃんはスマホ持ってるけど、私はお子様ケータイなのだ。通話のみの、メッセージアプリとか使えないやつ。
「はい」
『あ、……はなちゃん』
「ひよりちゃん!?」
電話の向こうのひよりちゃんは、明らかに涙声だった。
「ど、どうしたの?」
『ぐすっ、うう、学校、行ったら話す、けど……ちょっと、遅刻、するから、それ伝えようと思って』
「う、うん、分かった、……無理しないでね?」
『ぐすっ、ありがと、多分2時間目には間に合うからっ』
がちゃり、と受話器を置く音。
(大丈夫かな……)
少し早足で学校へ向かう。
校門の手前で、黒田くんと秋月くんを見つけて、駆け寄った。
「くっくろっ、はぁ、黒田くん、ごめん、ちょっと聞きたいことがっ」
「うおっ設楽、どうした」
「おはよー華ちゃん、どうしたの急いで」
黒田くんと秋月くんは驚いたように振り返った。
「いや、あの、ふう……今日ひよりちゃん遅刻するの知ってる?」
「あ? そうなのか?」
「えっどうしたのひよりちゃん、風邪?」
不思議そうな2人、というか黒田くんにホッとする。なにせ黒田くんはひよりちゃんのイトコなのだから。
「あ、良かった、じゃあ家族が急に入院したとかじゃないんだよね」
「特にうちの母親は何も言ってなかったぞ」
「や、ごめん急に~。ちょっと様子が変だったからさ」
「そうなのか?」
「大丈夫かな?」
心配しつつも、いつも通りに朝は進んでいく。ホームルームが済んで、1時間目の算数の途中で、ひよりちゃんは登校してきた。
「ひっ、ひよりちゃん……!」
クラスは騒然となった。
(目が完全に泣き腫らしてる!)
スポーティー系猫目美少女のひよりちゃんのまぶたは、すっかり腫れぼったくなっていた。
「遅刻、しました……」
「大友さん、大丈夫? 保健室行く?」
先生もさすがに戸惑っている。
「あ、私、付いて行きます!」
私は立ち上がりながら手を挙げた。本当は保健委員の仕事かもだけど、でも。
「そうね、設楽さん、お願い。大友さん、無理はしなくていいからね」
「はい……」
私たちは無言で保健室へ向かう。
(ど、どうしたんだろう)
気まずい。
(親とケンカとか、かなぁ)
保健室にたどり着き、養護の先生に許可をもらい、ひよりちゃんをベッドに寝かせた。
今は、保健室には他に誰もいないようだった。
「体温、測る? 熱はなさそうだけど」
養護の先生は気遣わしげな視線で言った。
「……大丈夫です」
かぶりを振るひよりちゃん。そしてそのまま、私を見つめた。
「ねえ華ちゃん、教室帰らず、話聞いてくれる?」
「うん、大丈夫」
ぎゅうっと、ひよりちゃんの手を握る。
先生は微笑んで「ちょっと職員室行ってくるわね」と部屋を出てくれた。ひよりちゃんの泣き腫らした様子から、気を使ってくれたのだろう。
「あのね、華ちゃん。わたし、……彼氏と別れたの」
「えっ!?」
私は驚いてひよりちゃんを見つめた。
(あの、塾で同じクラスの、他校の男子!? こないだまですごいラブラブだったのに)
お揃いのキーホルダーをランドセルに付けていた。
(アラサーからすると、微笑ましい、可愛らしいお付き合いっていうか、甘酸っぱいっていうか、お似合いだったのに)
そうか。
別れちゃった、のか……。
(それはショックだよね)
よしよし、と私はひよりちゃんの頭を撫でた。
「でね、理由なんだけど」
「うん」
「好きな人が、できたって」
(ありがちだよね、でも一番辛い理由、かも)
私は前世に思いを馳せた。セカンド彼女扱いばかりだった前世。
せっかくフリーの人とお付き合いした、と思っていても、気がつけば「本命の彼女ができたんだけど……どうする?」なんて、言われたりして。
(時間が経った今なら、どうするもこうするもねー! って言えるけど、その時は傷ついて、泣くばかりで)
なにも言えず、ただ私は頷いて、ひよりちゃんの頭を撫で続けた。よしよし。
「そのね、好きな人っていうのが、1ヶ月くらい前に塾に新しく入ってきた子なんだけど、あ、隣の市の小学校の子ね」
ひよりちゃんが通っている塾自体が、隣の市にあるらしい。
「うん」
「なんか、その子、……変なの」
「変?」
私は首を傾げた。
「彼氏とられたヒガミ、って思われるかも知れないんだけど」
「思わないよ。言ってみて」
「あのね、塾のクラスの男子、みんなその子のこと好きになっちゃったの、男子10人ちょっといるんだけど」
私はぽかーんとした。
それは、ちょっと衝撃的すぎない?
朝食を食べたカフェから家に戻ると、ちょうど電話が鳴ったところだった。
ナンバーディスプレイには、ひよりちゃんちの番号。
(どうしたのかな?)
寝坊かな、などと呟きながら受話器をとる。
ひよりちゃんはスマホ持ってるけど、私はお子様ケータイなのだ。通話のみの、メッセージアプリとか使えないやつ。
「はい」
『あ、……はなちゃん』
「ひよりちゃん!?」
電話の向こうのひよりちゃんは、明らかに涙声だった。
「ど、どうしたの?」
『ぐすっ、うう、学校、行ったら話す、けど……ちょっと、遅刻、するから、それ伝えようと思って』
「う、うん、分かった、……無理しないでね?」
『ぐすっ、ありがと、多分2時間目には間に合うからっ』
がちゃり、と受話器を置く音。
(大丈夫かな……)
少し早足で学校へ向かう。
校門の手前で、黒田くんと秋月くんを見つけて、駆け寄った。
「くっくろっ、はぁ、黒田くん、ごめん、ちょっと聞きたいことがっ」
「うおっ設楽、どうした」
「おはよー華ちゃん、どうしたの急いで」
黒田くんと秋月くんは驚いたように振り返った。
「いや、あの、ふう……今日ひよりちゃん遅刻するの知ってる?」
「あ? そうなのか?」
「えっどうしたのひよりちゃん、風邪?」
不思議そうな2人、というか黒田くんにホッとする。なにせ黒田くんはひよりちゃんのイトコなのだから。
「あ、良かった、じゃあ家族が急に入院したとかじゃないんだよね」
「特にうちの母親は何も言ってなかったぞ」
「や、ごめん急に~。ちょっと様子が変だったからさ」
「そうなのか?」
「大丈夫かな?」
心配しつつも、いつも通りに朝は進んでいく。ホームルームが済んで、1時間目の算数の途中で、ひよりちゃんは登校してきた。
「ひっ、ひよりちゃん……!」
クラスは騒然となった。
(目が完全に泣き腫らしてる!)
スポーティー系猫目美少女のひよりちゃんのまぶたは、すっかり腫れぼったくなっていた。
「遅刻、しました……」
「大友さん、大丈夫? 保健室行く?」
先生もさすがに戸惑っている。
「あ、私、付いて行きます!」
私は立ち上がりながら手を挙げた。本当は保健委員の仕事かもだけど、でも。
「そうね、設楽さん、お願い。大友さん、無理はしなくていいからね」
「はい……」
私たちは無言で保健室へ向かう。
(ど、どうしたんだろう)
気まずい。
(親とケンカとか、かなぁ)
保健室にたどり着き、養護の先生に許可をもらい、ひよりちゃんをベッドに寝かせた。
今は、保健室には他に誰もいないようだった。
「体温、測る? 熱はなさそうだけど」
養護の先生は気遣わしげな視線で言った。
「……大丈夫です」
かぶりを振るひよりちゃん。そしてそのまま、私を見つめた。
「ねえ華ちゃん、教室帰らず、話聞いてくれる?」
「うん、大丈夫」
ぎゅうっと、ひよりちゃんの手を握る。
先生は微笑んで「ちょっと職員室行ってくるわね」と部屋を出てくれた。ひよりちゃんの泣き腫らした様子から、気を使ってくれたのだろう。
「あのね、華ちゃん。わたし、……彼氏と別れたの」
「えっ!?」
私は驚いてひよりちゃんを見つめた。
(あの、塾で同じクラスの、他校の男子!? こないだまですごいラブラブだったのに)
お揃いのキーホルダーをランドセルに付けていた。
(アラサーからすると、微笑ましい、可愛らしいお付き合いっていうか、甘酸っぱいっていうか、お似合いだったのに)
そうか。
別れちゃった、のか……。
(それはショックだよね)
よしよし、と私はひよりちゃんの頭を撫でた。
「でね、理由なんだけど」
「うん」
「好きな人が、できたって」
(ありがちだよね、でも一番辛い理由、かも)
私は前世に思いを馳せた。セカンド彼女扱いばかりだった前世。
せっかくフリーの人とお付き合いした、と思っていても、気がつけば「本命の彼女ができたんだけど……どうする?」なんて、言われたりして。
(時間が経った今なら、どうするもこうするもねー! って言えるけど、その時は傷ついて、泣くばかりで)
なにも言えず、ただ私は頷いて、ひよりちゃんの頭を撫で続けた。よしよし。
「そのね、好きな人っていうのが、1ヶ月くらい前に塾に新しく入ってきた子なんだけど、あ、隣の市の小学校の子ね」
ひよりちゃんが通っている塾自体が、隣の市にあるらしい。
「うん」
「なんか、その子、……変なの」
「変?」
私は首を傾げた。
「彼氏とられたヒガミ、って思われるかも知れないんだけど」
「思わないよ。言ってみて」
「あのね、塾のクラスの男子、みんなその子のこと好きになっちゃったの、男子10人ちょっといるんだけど」
私はぽかーんとした。
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