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悪役令嬢、(自称)ヒロインに出会う
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「ほんで、その時ユウキが余計なこと言うてん。先生マジブチ切れやって、死ぬか思うたわ」
「あはは! でもそれ、アキラくんも悪いんじゃん」
「せやけどさぁ」
すっかり日課になってきた、アキラくんとのおしゃべり。院内のコンビニでお菓子買って、イートインコーナーで食べながら。結構楽しい。
アキラくんと過ごしている時だけ、現実に対する違和感のようなものが緩和される。
(息が、ちゃんとできる気がする)
人に(それも、小学生に!)頼らずとも、現実に対して折り合いをつけていかなくては、とは思うのだけれど。
ぱくり、と一口サイズのチョコをつまんで口に放り込む。
はー、美味しい。チョコ美味しい。甘いは正義。チョコ甘くした人天才じゃない……?
「華、ここの池、鯉おるの知っとる?」
「え、そうなの」
そういえば駐車場の横に小さい池があったんだよな、確か。
「探検しよって見つけてん」
「……アキラくんって、入院中なのにアグレッシブだよね?」
「あー、俺ほんまは入院せんでも良かってん。けど、家おったらケガしとんのに遊びまわるやろ? せやから入院になってん」
(……アキラくんのお母さん、アキラくん入院してるのに遊びまわってますよ~~)
頭の中で見知らぬアキラくんのお母さんに告げ口してみる。
「でな、見に行かへん? 運が良かったら餌やらせてくれるで、オッチャンがおったらやけど」
「オッチャン?」
「うん、なんやたまに餌やってるオッサンやねん。管理人かなんかやみたいなこと言うてたで」
「へぇ」
そう誘われて、2人でコンビニを出た。
のんびり歩きながら、池を目指す。
(そういえば。明日、アキラくんは退院するんだよね。うう、さみしい……)
「華はいつまで入院なん」
「わかんない……」
意識が戻って、かれこれ1週間は経つ。
検査検査検査で何がなんだか分からないけど、ひとつ言えることは。
(ほんっっと、誰もお見舞いに来ない)
お見舞いどころか、様子も見にくる気配はない。
(まぁ、ゲーム知識で華に"おばあちゃん"以外、身寄りはないってのは知ってるんだけど)
ゲームでの設楽華は、そのおばあちゃん(テンプレ通り、お金持ち)に甘やかされるだけ甘やかされて、とんでもワガママお嬢様に育っていた。
ふう、とため息をついて、今更なことに気がついた。
「ねぇアキラくん、今更なんだけど、ここどこ?」
「どこて……あー、記憶ないんやっけか。神戸やで」
「神戸」
「神戸は分かるんや?」
「あ、うん、あー。個人的なこと以外なら覚えてるよ」
「ほーん」
(神戸。神戸かぁ。前世では観光に来たことがあるくらい、かなぁ)
あまり縁のなかった土地だ。
(中華街の肉まん、美味しかったよな。あとごま団子……、けどほんと、これからどうなるのかな)
唯一の身寄りのはずのおばあちゃんすら、姿を見せない。
「あ、せや、華も退院したら遊ぼうや」
にかっ! と笑うアキラくん。
「あ、うん! 遊びたい」
できれば中華街を食べ歩きしませんか。
脳内で、そう返事したときだった。
どん、と背中を押されたのだ。
「きゃ」
「華っ」
アキラくんは支えようとしてくれたが、何せ松葉杖の身、私は一人でころんと廊下に転がった。
(む、むしろ支えてくれなくて良かった……! ケガ悪化したら大変だもの)
「ちょ、大丈夫か!?」
「う、うん大丈夫大丈夫」
私はすぐに起き上がった。安心させるようにアキラくんに向かって微笑んで見せる。
(いたたた、急に何が……)
振り返ると、そこには女の子が立っていた。
(うぇ、か、かわいい)
押されたことなど、つい忘れてしまいそうなくらい、可愛らしい女の子だった。
年の頃は同じくらい、か……?
艶やかなツインテールの栗色の髪、色白なのに健康的な血の色が透けているような肌、ぱっちりとした二重の目。
「おいコラ、急になにしてくれてんねん」
アキラくんは、その女の子を強く睨みつける。しかし、女の子は意に介すことなく、低い声でこう続けた。
「設楽華。なんであんたが、アキラくんといるワケ?」
憎々しげなその声に、私とアキラくんは顔を見合わせた。
(……誰?)
可愛らしいかんばせを、つい感心して眺めてしまう。が、その瞳には明らかな敵意が満ち満ちていて、思わず一歩引いてしまった。
(怖い)
「華、知り合いか?」
「ううん、……あの、えっと、どこかで会ったことがありましたっけ?」
「は? 会ったことお? 無いわよ」
(無いのかよ!)
脳内ツッコミ。
「無いけど、設楽華。アンタみたいな性悪女が、どうしてアキラくんといるのかって言ってるのよっ」
「しょ、しょーわる」
「あ!? 何やさっきからキーキーキーキーわめきよって、自分なんやねん」
アキラくんは私を庇うように、私と女の子の間に立った。
「や、アキラくん!? そ、そんな女を庇うことないわよ」
「そんな女て何やねん、お前が華の何を知っとるいうんや。会ったことも無い言うてたやないか」
きっ、と女の子を睨みつけるアキラくん。
女の子は困惑したように首を捻った。
「……どういうこと? この2人、幼なじみ設定とかあったっけ?」
女の子は小さく、ポツリと呟いた。
(……、幼なじみ"設定"? もしかして、この子も記憶持ち?)
「きっとそうなんだわ。幼なじみ設定。知らなかったわ、まだまだね、あたしも」
「何をワケの分からんことを、」
「騙されてるのよ、アキラくん!」
「やから、さっきから何やねんお前!」
「あー、もう! 分からず屋ね! ……ま、いいわ」
女の子は薄く笑うと、こう続けた。
「あたしの攻略対象じゃないし」
(……え?)
どういう意味だ。
全く、分からない。
「とにかく、設楽華! アンタが女王様気取りできるのも今のうちだけなんだからねっ」
「いつ華が女王様気取りなんかしたいうんや」
「するのよ!」
叫ぶように言う女の子。
「あたしはヒロインなんだから、知ってるの」
(ヒロイン……!?)
私はまじまじと女の子を見つめた。
(……違う。私の知ってるゲームのヒロインとは)
髪の色も、目鼻立も、何もかも違う。
それに、さっきの発言。
まるで、複数の"ゲーム"が存在するかのような……
(どういうこと!?)
「ねぇ、あの、あなた」
記憶があるの、と言おうとした声は「ルナー!?」という女の人の声にかき消された。
「あ、ママ」
女の子はさっきまでの憎々しい表情が嘘みたいに、可愛らしく変化した。
「もう、どこいってたの。迷子になるわよ」
「ふふ、ごめんなさい」
「パパ待ってるわよ、急いで」
「はぁい」
2人は背を向けて、反対側へ向かっていこうとする。
「オイ、待てや、華に謝らんかい」
アキラくんは追いかけようとするが、私は彼の腕を掴んで止めた。
(あまり、関わらない方がいい、気がしてる)
混乱して考えはまとまらないけど、もし「あの女の子のゲーム」と、「設楽華が悪役令嬢」のゲームが別のものならば、もう関わりもない、だろうし。
(ない、よね?)
明らかに「設楽華」に悪意がある人間と、積極的に関わるのは恐らく悪手なんじゃないだろうか。
うん、と頷き「私は大丈夫だから」と微笑む。
アキラくんは「……なんやったんや?」と悔しそうな顔をした。
「嵐みたいだったねぇ……」
「まぁ学年に1人はおるよな、ああいうトリッキーなやつ」
「あは……」
いるかな?
「せやけど、なんで俺と華の名前を知ってたんや?」
「ね、それ不思議」
「もしかして、俺のファンいうか、そういう奴かもしれん。俺、他校にもファンおって」
「え、そうなの」
どんだけだ。さすが、自分で「俺はモテる(意訳)」発言するだけはある……。
「ほんで、華のことは……なんでやろ?」
「もしかしたら、記憶なくす前にどっかで関わりあったのかな」
適当に理由をつけてみた。
「あー、そうかもしれんな」
アキラくんは、眉をひそめたままに、すんなりと納得してくれた。
「ね」
「もし、またアイツ変なイチャモンつけてきたら、絶対俺に言うんやで」
「うん、ありがと」
答えながら、ふと考えた。
(少なくとも、この世界は2つの乙女ゲームの世界が混じり合ってる可能性がある、ということ?)
これは一体、どういうことなのだろう?
私は明るい日差しが差し込む病院の廊下に立ったまま、小さく唇を噛みしめるのだった。
「あはは! でもそれ、アキラくんも悪いんじゃん」
「せやけどさぁ」
すっかり日課になってきた、アキラくんとのおしゃべり。院内のコンビニでお菓子買って、イートインコーナーで食べながら。結構楽しい。
アキラくんと過ごしている時だけ、現実に対する違和感のようなものが緩和される。
(息が、ちゃんとできる気がする)
人に(それも、小学生に!)頼らずとも、現実に対して折り合いをつけていかなくては、とは思うのだけれど。
ぱくり、と一口サイズのチョコをつまんで口に放り込む。
はー、美味しい。チョコ美味しい。甘いは正義。チョコ甘くした人天才じゃない……?
「華、ここの池、鯉おるの知っとる?」
「え、そうなの」
そういえば駐車場の横に小さい池があったんだよな、確か。
「探検しよって見つけてん」
「……アキラくんって、入院中なのにアグレッシブだよね?」
「あー、俺ほんまは入院せんでも良かってん。けど、家おったらケガしとんのに遊びまわるやろ? せやから入院になってん」
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頭の中で見知らぬアキラくんのお母さんに告げ口してみる。
「でな、見に行かへん? 運が良かったら餌やらせてくれるで、オッチャンがおったらやけど」
「オッチャン?」
「うん、なんやたまに餌やってるオッサンやねん。管理人かなんかやみたいなこと言うてたで」
「へぇ」
そう誘われて、2人でコンビニを出た。
のんびり歩きながら、池を目指す。
(そういえば。明日、アキラくんは退院するんだよね。うう、さみしい……)
「華はいつまで入院なん」
「わかんない……」
意識が戻って、かれこれ1週間は経つ。
検査検査検査で何がなんだか分からないけど、ひとつ言えることは。
(ほんっっと、誰もお見舞いに来ない)
お見舞いどころか、様子も見にくる気配はない。
(まぁ、ゲーム知識で華に"おばあちゃん"以外、身寄りはないってのは知ってるんだけど)
ゲームでの設楽華は、そのおばあちゃん(テンプレ通り、お金持ち)に甘やかされるだけ甘やかされて、とんでもワガママお嬢様に育っていた。
ふう、とため息をついて、今更なことに気がついた。
「ねぇアキラくん、今更なんだけど、ここどこ?」
「どこて……あー、記憶ないんやっけか。神戸やで」
「神戸」
「神戸は分かるんや?」
「あ、うん、あー。個人的なこと以外なら覚えてるよ」
「ほーん」
(神戸。神戸かぁ。前世では観光に来たことがあるくらい、かなぁ)
あまり縁のなかった土地だ。
(中華街の肉まん、美味しかったよな。あとごま団子……、けどほんと、これからどうなるのかな)
唯一の身寄りのはずのおばあちゃんすら、姿を見せない。
「あ、せや、華も退院したら遊ぼうや」
にかっ! と笑うアキラくん。
「あ、うん! 遊びたい」
できれば中華街を食べ歩きしませんか。
脳内で、そう返事したときだった。
どん、と背中を押されたのだ。
「きゃ」
「華っ」
アキラくんは支えようとしてくれたが、何せ松葉杖の身、私は一人でころんと廊下に転がった。
(む、むしろ支えてくれなくて良かった……! ケガ悪化したら大変だもの)
「ちょ、大丈夫か!?」
「う、うん大丈夫大丈夫」
私はすぐに起き上がった。安心させるようにアキラくんに向かって微笑んで見せる。
(いたたた、急に何が……)
振り返ると、そこには女の子が立っていた。
(うぇ、か、かわいい)
押されたことなど、つい忘れてしまいそうなくらい、可愛らしい女の子だった。
年の頃は同じくらい、か……?
艶やかなツインテールの栗色の髪、色白なのに健康的な血の色が透けているような肌、ぱっちりとした二重の目。
「おいコラ、急になにしてくれてんねん」
アキラくんは、その女の子を強く睨みつける。しかし、女の子は意に介すことなく、低い声でこう続けた。
「設楽華。なんであんたが、アキラくんといるワケ?」
憎々しげなその声に、私とアキラくんは顔を見合わせた。
(……誰?)
可愛らしいかんばせを、つい感心して眺めてしまう。が、その瞳には明らかな敵意が満ち満ちていて、思わず一歩引いてしまった。
(怖い)
「華、知り合いか?」
「ううん、……あの、えっと、どこかで会ったことがありましたっけ?」
「は? 会ったことお? 無いわよ」
(無いのかよ!)
脳内ツッコミ。
「無いけど、設楽華。アンタみたいな性悪女が、どうしてアキラくんといるのかって言ってるのよっ」
「しょ、しょーわる」
「あ!? 何やさっきからキーキーキーキーわめきよって、自分なんやねん」
アキラくんは私を庇うように、私と女の子の間に立った。
「や、アキラくん!? そ、そんな女を庇うことないわよ」
「そんな女て何やねん、お前が華の何を知っとるいうんや。会ったことも無い言うてたやないか」
きっ、と女の子を睨みつけるアキラくん。
女の子は困惑したように首を捻った。
「……どういうこと? この2人、幼なじみ設定とかあったっけ?」
女の子は小さく、ポツリと呟いた。
(……、幼なじみ"設定"? もしかして、この子も記憶持ち?)
「きっとそうなんだわ。幼なじみ設定。知らなかったわ、まだまだね、あたしも」
「何をワケの分からんことを、」
「騙されてるのよ、アキラくん!」
「やから、さっきから何やねんお前!」
「あー、もう! 分からず屋ね! ……ま、いいわ」
女の子は薄く笑うと、こう続けた。
「あたしの攻略対象じゃないし」
(……え?)
どういう意味だ。
全く、分からない。
「とにかく、設楽華! アンタが女王様気取りできるのも今のうちだけなんだからねっ」
「いつ華が女王様気取りなんかしたいうんや」
「するのよ!」
叫ぶように言う女の子。
「あたしはヒロインなんだから、知ってるの」
(ヒロイン……!?)
私はまじまじと女の子を見つめた。
(……違う。私の知ってるゲームのヒロインとは)
髪の色も、目鼻立も、何もかも違う。
それに、さっきの発言。
まるで、複数の"ゲーム"が存在するかのような……
(どういうこと!?)
「ねぇ、あの、あなた」
記憶があるの、と言おうとした声は「ルナー!?」という女の人の声にかき消された。
「あ、ママ」
女の子はさっきまでの憎々しい表情が嘘みたいに、可愛らしく変化した。
「もう、どこいってたの。迷子になるわよ」
「ふふ、ごめんなさい」
「パパ待ってるわよ、急いで」
「はぁい」
2人は背を向けて、反対側へ向かっていこうとする。
「オイ、待てや、華に謝らんかい」
アキラくんは追いかけようとするが、私は彼の腕を掴んで止めた。
(あまり、関わらない方がいい、気がしてる)
混乱して考えはまとまらないけど、もし「あの女の子のゲーム」と、「設楽華が悪役令嬢」のゲームが別のものならば、もう関わりもない、だろうし。
(ない、よね?)
明らかに「設楽華」に悪意がある人間と、積極的に関わるのは恐らく悪手なんじゃないだろうか。
うん、と頷き「私は大丈夫だから」と微笑む。
アキラくんは「……なんやったんや?」と悔しそうな顔をした。
「嵐みたいだったねぇ……」
「まぁ学年に1人はおるよな、ああいうトリッキーなやつ」
「あは……」
いるかな?
「せやけど、なんで俺と華の名前を知ってたんや?」
「ね、それ不思議」
「もしかして、俺のファンいうか、そういう奴かもしれん。俺、他校にもファンおって」
「え、そうなの」
どんだけだ。さすが、自分で「俺はモテる(意訳)」発言するだけはある……。
「ほんで、華のことは……なんでやろ?」
「もしかしたら、記憶なくす前にどっかで関わりあったのかな」
適当に理由をつけてみた。
「あー、そうかもしれんな」
アキラくんは、眉をひそめたままに、すんなりと納得してくれた。
「ね」
「もし、またアイツ変なイチャモンつけてきたら、絶対俺に言うんやで」
「うん、ありがと」
答えながら、ふと考えた。
(少なくとも、この世界は2つの乙女ゲームの世界が混じり合ってる可能性がある、ということ?)
これは一体、どういうことなのだろう?
私は明るい日差しが差し込む病院の廊下に立ったまま、小さく唇を噛みしめるのだった。
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