転生して手に入れたLv.999バフ魔法は呪いだったので、最強ネクロマンサーとして神殺し狙ってく

水細工

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転生8年目、初夏の風の中にて

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「おーい、リアム! どこにいる? 」

 あの声は……父さん? あっ!、もしかしてもう剣術の訓練の時間か!? やばいやばい!

「今行く! 」

 木の上から飛び降り武道場へと全力疾走する。
 ここからなら調理場前の軒下を通ると武道場に近いな。
 初めは戸惑ったこの大きな木造の屋敷も、今となっては勝手知ったる我が家だ。

 今日も空気中の魔力マナは安定し、空では元気にレッサードラゴンが翼を広げている。
 ここはそんなファンタジーな異世界。
 俺がこの世界に生を受けてからおよそ8年が経とうとしていた。

  ◯◯◯

「遅いぞ。裏庭の木で昼寝をしていたな? 」

「はぁはぁっ、ご、ごめん父さん」

 咎めるような眼差しに縮こまる。
 引き締まった体つきのこの男性の名前はグズフ・ノーアルト。王国直属軍第7騎士団副団長にして俺の父親だ。

 厳格といほどではないが言うべき事は言うハッキリとした人だ。前世の父親が優しさの塊のような性格をしていただけに最初はそのギャップに父親と思えるか心配だったが、今となってはそれも杞憂だったと分かっている。
 
 思いやりがあり、時々ユーモラスな面も見せてくれる、かなりこれ以上ない父親だ。もっとも、今は少しお冠みたいだけど。

「はぁ」

 父さんが顎を軽く撫でる。俺が何かやらかした時の父さんの癖だ。

「まぁまだ訓練2日目だ。始まる時間も分かりずらいだろう。だが次回からは気をつけなさい」

「ありがとう父さん! 」

「稽古中は敬語だぞ。稽古中はあくまで弟子として扱うと昨日言ったろう? 」

 あ、そうだった。

「はい、師匠!」

「良し。その様子からして準備運動はもう済んでるだろう。剣を取りなさい。早速確認から始めよう」

「はい! 」

 近くの剣立てから木造の模擬刀を2本取り出し、片方を父さんに渡す。

 昨日、俺はこの世界で8回目の誕生日を迎えた。
 少し思うところがあり前から父さんと8才になったら稽古をつけてもらう約束をしていた俺は、昨日は初めてバフ付与の能力を使って指導試合をしてもらったのである。

 だがそこで俺の魔法に大きな欠陥が見つかった。
 今日の訓練の最初はその欠陥を現時点でどれぐらい抑えられるか調べるところからだ。

「ではまず、昨日やったように剣に付与をしてみなさい。今日はちゃんとを意識するんだ」

「はい」

 手のひらに力を入れ、模擬刀に添える。空気中の魔力マナを集約させるイメージ……。
 模擬刀に【付与強化リギフト】……!
 模擬刀が青いオーラを纏う。

「……できました! 」

「よし。では少し打ち合ってみるか。余裕があれば攻勢にまわってみなさい」

 父さんが模擬刀を構える。今日こそは制御しきってみせる。

「いくぞ! 」

 ダァン! と武道場全体に響く程の轟音を鳴らし、父さんが模擬刀を振り下ろしながら一気に踏み込んでくる。
 彗星の如く振り下ろされた切先は正確に俺の首元へと吸い込まれていく。
 昨日と同じ父さんの初手。でも今日は昨日より更に一段早かった。

「ぐっ!? 」

 間一髪、首と父上の刀の間に自分の刀を割り込ませることに成功する。甲高い音を立てて模擬刀同士が衝突する。
 首元ここから押し返すのは無理だな。
 父さんの力の緩む隙を狙って後ろに跳ぶ。

「そうだ! 良いぞ。必要と思えばすぐに距離を取っていけ」

「はい! 」

 距離は出来た。今度は俺から攻めさせてもらおう。
 切先をゆっくりと動かし、左右にぶらすフェイントを一度挟んでから接近を試みる。

「ふんっ! 」

 父さんが俺の手元へと剣を振り下ろす。
 武器を落とすつもりだな。まずはこの剣を払って隙を作る!

「はぁっ!————あっ! 」

 切り上げた瞬間に手元の違和感に気づく。
 まずい! 力み過ぎた!

「ッ!」
 
「父さん避け——!!」


 ドガァアン!!

 爆音と共に武道場の天井に風穴が空く。
 反動で壁際まで数メートル吹き飛ばされる。
 視界がグルグルと回る。ガラガラと遅れて何度か木片が天井から落ちる音が聞こえた。

「痛っ……今日も失敗か」

 ズキズキと痛む頭を抑えて立ち上がる。ちょっと緊張で力加減が上手くいかなかっただけでこのザマか。

「また穴が……。母さんに怒られそうだな」

 天井の穴を見て父さんが嘆く。

「ごめんなさい……」

「いや、気にするなリアム。今のは仕方がない。それよりお前の怪我の治療が先だ。今母さんを呼んでこよう。座って待っていなさい」

「は、はい」

 父さんが武道場を駆け出すのを見送ってから、尻餅をつくようにその場に座り込む。天井の穴から差し込む光が眩しい。

 そうだ、俺の模擬刀はどうなったんだ。
 辺りを軽く見渡す。すると模擬刀は俺のすぐ後ろに落ちていた。

「……またか」

 使い物にならなくなった模擬刀を眺めてため息を吐く。
 柄の部分を残し、内側から弾けたようにズタズタに壊れている。

 これが昨日の訓練で気づいた俺の魔法【付与強化リギフト】の欠陥。模擬刀などの半端な武器に【付与強化リギフト】を行うと、性能が高すぎるあまり武器の方が強化に耐えられず壊れてしまうのだ。

 この調子では模擬刀での練習が出来ない。それどころか体が成熟するまで魔法を使うことすらできなくなってしまう。

「強すぎなんだよ、この魔法は」

 天で今も見ているであろう神に悪態をついて、武道場の床に体を投げ出した。

    ◯◯◯

「えいやっ! 」

 母さんの手から放たれた蛍の光のような緑色の静かな光が俺の体を包み込む。身体のあちこちの痛みが少しずつ引いく。しばらくすると打ちつけた部分の傷は跡形もなく消え、痛みもどこかに飛んでいってしまった。
 母さんが手元の光を消す。

「ひとまず回復はしたけど、もう痛くない? 」

「うん。ありがとう母さん」

「そう。良かったわ」

 安心した様子で母さんがにっこりと微笑む。
 元々の穏やかな印象を強調するタレ目と後ろのおさげが特徴的なこの人の名は、リリア・ノーアルト。回復魔法の使い手であると同時に、こっちの世界の俺の母親だ。

 優しく天然な面がある一方、時々肝の据わった行動をする強い人でもある。父さんに負けず劣らずの最高の母親だ。

「それで……お父さん」

「はひっ!」

 正座の父さんが背筋を一気に正す。その顔は以前家が魔物に襲われた時以上に強張っている。

「こうなる事が分かってたのに、なんでちゃんと事前にマットを敷くとかの事をしておかなかったんですか」

「いや、その……昨日も後半に行くにつれて制御が出来るようになって行ったから……今日はもしかしたら制御しつつ一戦できるかと思ってしまいまして……」

「それでも念のためをしておくのが基本じゃないですか?」

「いや、あの、そのぉ…………申し訳ありませんでしたぁ!! 」

 父さんが凄まじく洗練された無駄のない土下座を披露する。だが、冷や汗の滲む父さんの背中を見る母さんの目つきは冷たい。

「謝る相手が違うでしょ?」

「すまなかったリアムぅ!!」

 すぐさま父さんが土下座の体勢のまま90度回転し俺へと頭を下げる。妙にシュールなその挙動に一瞬吹き出しそうになるが……いやいや、ここは俺が父さんを救ってあげなければ。
 
「だ、大丈夫だよ父さん。俺が力加減を間違えたのが原因だし。だから母さんも許してあげてよ」

「り、リアム……」

「そうね。リアムに大きな怪我もなかったし。もう良いでしょう。でも、今度からはちゃんと出来る安全管理はするようにしてね? 」

「もちろんだ母さん! リアムもありがとうなぁ」

 父さんが俺の手を握ったまま何度も振る。
 戦ってる時はあんなにカッコいいのに……。騎士団副団長も母さんの前では形無しだ。

「それにしても、昨日の壁の穴に続いて天井にも穴が空いちゃうなんて。どうしたものかしら」

 母さんが武道場の入り口の壁を見る。
 そこには俺が昨日の初訓練で開けてしまった、子供1人通れそうなほどの大穴があった。

「これからもこう毎日穴が空くようだとお金が厳しいわねー」

「そうだな……。リアム。今まではどうやって魔法を制御していたんだ? 昔からよく裏庭で練習をしていただろう?」

「えっ、バレてたの?」

「いや、そうかもと思っていただけだ。だが図星だったみたいだな。ははは」

 してやったりという顔で父さんが笑う。
 カマかけだったのか。くそー、綺麗に自白させられてしまった。でも何で怪しまれたんだ?

 確かに俺はまともに歩けるようになった5歳ごろから魔法の練習を日々コッソリとしてきた。
 だが母さんや父さんにバレれば止められるに違いないと思って2人の目を盗んで練習してきたはずなのだ。

「リアムは時々遊びに出かけたあと魔力が乱れている時があるからな。魔法を定期的に使っているのは随分前から知っていたさ。そうでなかったら昨日のように初日から模擬戦などしない」

「魔力の乱れ……」

 そんな物が分かるなんて。騎士団副団長の名は伊達じゃないな。

「分かってたならちゃんと止めなさい」

「あ痛っ!」

 母さんが父さんの頭を引っ叩く。せっかく大きく見えた父さんの背中は一瞬で萎んでしまった。

「もう、お父さんったら。それでどうなのリアム?」

「うん。今までは木の棒とかにしかバフの付与はした事無かったけど、こんなに威力もなかったし壊れたりもしなかったんだ。もしかしたら、昨日偶然レベルが上がったのかも」

「なるほどレベルか。確か半年前に確認した時は2だったが……今度また街に行く必要があるな」

 父さんが顎を撫でる。
 ちなみにたぶん、というのはそれを確認する術がないからだ。最近知った事だが、レベルは教会みたいな専門の施設に行かないと確認することが出来ないのだ。

「まぁなんにせよ、当面は魔法を使わずに剣術の修行に専念する事にしよう。これ以上レベルが上がっても困る」

「そうだね。それじゃそろそろ良い?」

「? 良いって何がだ?」

「訓練の続きだよ」

 困惑する2人を尻目に、倒れた剣立てから新品の模擬刀を2本取り出し、片方を父さんに手渡す。
 父さんが母さんの顔を見る。

「リアムがやりたいならしょうがないわ。私がここについてますから、魔法なしなら良いですよ」

「母さんがそう言うなら、私に断る理由はないな」

 父さんが剣を構える。

 あの神が嘘をついていなければ俺は8年後にレベルカンストの恩恵が与えられるはずだ。
 こっちの本によるとレベルアップによる能力の向上率はレベルが上がるにつれて低くなっていくらしいが、それでもカンストとなるとその上昇率は訳が違うだろう。

 どうにかそれまでにカンストした自分の魔法を扱える肉体と技術を手に入れないといけない。そうしないと、を守り切ることが出来ない。
 気合いを入れ直し再び模擬刀を構える。

「よろしくお願いします! 」
 
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