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2話

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依頼内容── 飼い猫、ミーシャにそっくりの猫を見つけて欲しい

事の発端は、母親が亡くなってからの父親の変化からだと言う。

「ミーシャは元々、母が可愛がってた子なの。父は猫に関心なくて触ったり近寄ることもあまりしなかった。
でも、母が亡くなって急にミーシャにかまい出すようになったの。最初は父も寂しい気持ちからなのかと思ったけど…」

仕事の関係で来客がある時にも、わざわざミーシャを部屋に連れていくなど、父の様子と行動に違和感を感じることが増えてく。
日に日に違和感が不信感に変わっていく中、決定的な出来事はつい先日起こった。

「その日、男の人が来てたんだけど、突然家の中を物色しだして。ミーシャを見つけるなり、無理やり連れていこうとしてすごく恐かった」

ミーシャが暴れて自力で逃げ出したが、父は男に大きく抵抗できないようだった。

「父は警察に言うほどじゃないって、仕事上のちょっとしたトラブルだから大事にするなって。
でも、またあんなことが起きるかもって考えたらミーシャを隠さなきゃって思ったの。
その時に友達の家の近くで見つけた子のことを思い出して」

亜美は、自分のスマホを操作して一枚の写真を表示して見せた。その中には、車のボンネットの上でうたた寝している猫の姿が。
ペルシャ猫の雑種なのか長くて白い毛並みに靴下を履いたような灰色の模様。茶色の小さな鼻と、と瓜二つの姿だった。

「…同じ猫じゃないの」

アキの疑問にフルフルと首を振る。

「私も最初見たときはビックリしたよ。でもこの子、ミーシャよりかなり若いみたいで動きが俊敏なの。しかも人が近づくとすぐ逃げるしノラ猫っぽくて」

膝の上のミーシャを優しく撫でる亜美は不安げな表情だ。

「ミーシャ、元々のんびり屋さんなんだけど、年齢の分もあって最近は長時間の運動が苦手になってて…。もし、またあの男の人が来たらミーシャじゃ逃げられないかもしれない…。だからってこの猫を巻き込んでいいってことにはならないんだけど、今はこの方法しか思いつかなくて…」

つまりは、ミーシャの替え玉としてこのノラ猫を探したいとのことだった。

捕獲次第、ミーシャの首輪をつけて逃がし、ミーシャ自体が逃げたことにする、というのが亜美が考えた方法だった。

「…あの男の人がどういう人なのか分からないけど、あの恐さを思い出すと友達とかにミーシャ預けるのも中々できなくて。でも、父は仕事の相手だから迷惑かけたくないみたいだし、警察とか普通の探偵さんにも相談しづらくて」

亜美は言葉を選びながら喋っていた。それはセイもアキも分かっている。

子供騙しな方法ではあるが、亜美なりに必死に考えた結果なのだろう。そして、父親が関わることが表沙汰に出来ない可能性が高いことにも気付いている。
だからこそ自分たちを頼るという選択肢にした。

深く詮索はされず、父親に関わることもなく、後腐れなく他人として手を借りられる存在。

正直なところ、アキは面倒くさい事この上ないこんな依頼を受ける気はなかった。
その父親が関わっている事は、なんとなく察しがつくし、こんな事をしてもなんの解決にもならない無駄な事だ。

だが、セイがどう感じるかも知っている。

「わかった。この依頼、受けるよ」

セイの言葉にパアッと顔を輝かせる亜美。
こうなることは分かっていたので、アキはしっかりと線引きする。

「受けるけど、条件は付けるよ。期日は2週間。僕たちの空いてる時間でしか仕事はしない。2週間以内にその猫が見つからなくても苦情は一切受け付けない。危険な場所はNG。そしてお互いに深く干渉し合わない。この条件は最低。分かった?」

睨みをきかせるアキにコクコクと頷く亜美。

「よろしくお願いいたします!」

こうして猫探しの依頼が開始されることとなった。

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