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3章 騎士養成学校
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『はぁ、はっ!』
誰も通ってない道を全速力で駆けていく。生ぬるい風は段々と強まり、どんよりとした暗い雲は、まるで私の心を表したもののようだ。
学内の何処を探してもルドルクを見つけられなかった私は、メモに書いてあった場所に向かっていた。
校舎から騎士門まではかなりの距離がある。全速力で走り続けてどれくらいが経ったのか。周りは木々が生い茂り道もほぼ獣道状態で、森の中を1人でさ迷っているような心細さだ。
(勘違いなら、それでいい。ドッキリでしたって言っても笑って一発くらいで許してあげる。だから、無事でいてよ)
この世界で友と呼べる、呼んでくれる数少ない人物が窮地に立たされているかもしれない。そんな不安が息するのも苦しい体を突き動かしていた。
(あ!あれだっ!!)
木々の間から反りたった高い壁が見えてきた頃、道の先に倉庫代わりに使われている小屋を見つける。そのままの勢いで、扉を力任せに押し開いた。
バァンっ!!!
「早かったじゃないか」
薄暗い室内には、暖炉の灯り。そして、その側に腰掛けているのは意外な人物だった。
『え…グルケル、君?』
未だ息が上がったまま、その名前を呼ぶ。
「はっ!まったく、様を付けろよ貴様は。…こいつがどうなってもいいのか?」
そう言ってパチンとグルケル君が指を鳴らすと暗がりからグルケル君の取り巻き二人が現れ、ズルズルと引きずってこられたのは…
『っっ!?ルドルクっ!!』
「おっと、動くなよ?」
思わず走り寄ろうとした私をグルケル君が制する。
「この状況、分かってるんだろう?とりあえず扉を閉めなよ?話そうじゃないか。なぁ、シュナイゼル?」
ドクドクと心臓が脈打つ。15歳だと甘く見ていた目の前の子が、恐ろしく見えてくる。何を考えているのかが、全く解らず困惑するしかない。
パタンと扉を閉めた。一層深まる室内の闇は誰の心を表しているのか…。
▪▪▪
彼の話を聞いている間、心がスーっと冷めていく。
「大体、入学試験で貴様が勝ってさえいなければ僕が一番だったんだ!しかも、アルドレスト先輩にまで目をかけてもらうなんておかしいだろう!?貴様さえいなければ全てうまくいったのに…」
目隠しと、耳にも魔法がかけられているのか、柱に縛られてるルドルクは、意識はあるもののこちらの声や音には反応がない。そして私は、取り巻きの二人に両腕を押さえられ身動きが取れない状態で、グルケルの独りよがりな考えを延々と聞かされていた。
(入学試験の時も思ったけど、かなりひん曲がった考え方…。しかも、無関係なルドルクまで巻き込むなんて)
ここは一発、ガツンとお仕置きしたいところだが今は丸腰だし、一気に3人相手にするのは流石に分が悪い。
「僕の方が優れているのに、何故周りはそれに気付かず、貴様ばかりっ…!」
すると縛られてるルドルクに、暖炉にかけてあった燃えている鉄の棒を持っていく。
「はっ!こいつも可哀想なやつだよ。貴様の身が危ないと伝えるとのこのこやってきて…。これのどこが2位なんだ?こんなやつ!!」
『っやめて!!』
おもむろに持っていた棒を振り上げたグルケルに叫ぶ。すると、その棒を私の方に向けて怪しい光を帯びた目でこちらを見据えてきた。
「貴様さえ、いなくなればいいんだ、貴様さえ…」
(ダメだ…回りが見えなくなってる。この状態はヤバい…どうする?魔力、解放…?いや!ダメだ!制御出来ない力を使ったらどうなるか…。でも…)
ゆらりゆらりとこちらに向かってくるグルケルを前に、必死に頭を巡らせる。何か、何か方法はないか。そう思えば思うほど、ブラックベアを倒したあの場面が頭をよぎってつい左手の魔法具を見てしまう。
すると突然、グルケルは棒を投げ捨て、私の左手に飛び付いた。
「それか!!やっぱり使ってたんだな!」
彼は私の左手にはまっている魔法具を力ずくで取ろうとする。
『あっ!ダメ!!それを取ったらっ』
必死に抵抗するが、ついに指から奪い取られてしまう。
「あはははっ!!やっぱりな!どこかに魔法具を隠し持ってると思ったんだ!こんなドーピング使ってなければ貴様が僕に勝てるわけがなかったんだ!」
勝ち誇ったように高笑いするグルケル。でも、今の私はそれどころではない。
(っダメ!抑えろ自分!ここにはルドルクもいる!こんな狭いとこで暴走させるわけにはっ…!!)
心でそう思っても、焦りは更に心拍数を早め、どんどん体から魔力が漏れ出ていく。
「…グ、グルケル様。なんかこいつ変です!」
「なんか熱くなってきたし…。うっ、なんか気持ち悪い…」
窓ガラスがカタカタと揺れだし、暖炉の火が風に煽られるように揺らめく。
「はっ!魔法具のないこいつなど恐れる必要もない!」
そう言って鉄の棒を拾ったグルケルは私に向けて振りかぶった。それを見た瞬間、必死に繋ぎ止めていたものがぷつりと切れた。
ゴォッと巻き起こる風。取り巻きの二人は吹き飛ばされ壁に思いっきりぶつかり、暖炉の火はかき消される。
「くっ!?」
なんとか踏みとどまったグルケルは、信じられないものを見るような目で私を見ている。
幾陣もの風が私の回りを渦巻いていた。
「な、なんなんだ貴様はっ!っ!?」
私に向かってこようとしたグルケルを、一塊の風が後ろへ吹き飛ばした。
(だめ…これ以上は……。誰かを傷付けたくない…)
なんとか制御しようとするが、焦れば焦るほど思った通りに行かない。私の回りの風が一段と大きな塊になっていく。これが当たってしまえば取り返しのつかないことになる。頭では分かっていても魔力は言うことを聞いてくれない。
「うっ…ジオ?」
風で目隠しがずれたのか、ルドルクがこちらに気付く。
『ルドルク…に、げて…』
吹き荒れる風は、縛られて動けないでいるルドルクも容赦なくなぶっていく。
せめてルドルクだけでも守りたい。でも、自分ではどうすることも出来ない。
涙で滲む視界には、戸惑っているルドルクの姿と、怯えた表情のグルケル…そして
バンッ!!
勢いよく開かれた扉が映った。
誰も通ってない道を全速力で駆けていく。生ぬるい風は段々と強まり、どんよりとした暗い雲は、まるで私の心を表したもののようだ。
学内の何処を探してもルドルクを見つけられなかった私は、メモに書いてあった場所に向かっていた。
校舎から騎士門まではかなりの距離がある。全速力で走り続けてどれくらいが経ったのか。周りは木々が生い茂り道もほぼ獣道状態で、森の中を1人でさ迷っているような心細さだ。
(勘違いなら、それでいい。ドッキリでしたって言っても笑って一発くらいで許してあげる。だから、無事でいてよ)
この世界で友と呼べる、呼んでくれる数少ない人物が窮地に立たされているかもしれない。そんな不安が息するのも苦しい体を突き動かしていた。
(あ!あれだっ!!)
木々の間から反りたった高い壁が見えてきた頃、道の先に倉庫代わりに使われている小屋を見つける。そのままの勢いで、扉を力任せに押し開いた。
バァンっ!!!
「早かったじゃないか」
薄暗い室内には、暖炉の灯り。そして、その側に腰掛けているのは意外な人物だった。
『え…グルケル、君?』
未だ息が上がったまま、その名前を呼ぶ。
「はっ!まったく、様を付けろよ貴様は。…こいつがどうなってもいいのか?」
そう言ってパチンとグルケル君が指を鳴らすと暗がりからグルケル君の取り巻き二人が現れ、ズルズルと引きずってこられたのは…
『っっ!?ルドルクっ!!』
「おっと、動くなよ?」
思わず走り寄ろうとした私をグルケル君が制する。
「この状況、分かってるんだろう?とりあえず扉を閉めなよ?話そうじゃないか。なぁ、シュナイゼル?」
ドクドクと心臓が脈打つ。15歳だと甘く見ていた目の前の子が、恐ろしく見えてくる。何を考えているのかが、全く解らず困惑するしかない。
パタンと扉を閉めた。一層深まる室内の闇は誰の心を表しているのか…。
▪▪▪
彼の話を聞いている間、心がスーっと冷めていく。
「大体、入学試験で貴様が勝ってさえいなければ僕が一番だったんだ!しかも、アルドレスト先輩にまで目をかけてもらうなんておかしいだろう!?貴様さえいなければ全てうまくいったのに…」
目隠しと、耳にも魔法がかけられているのか、柱に縛られてるルドルクは、意識はあるもののこちらの声や音には反応がない。そして私は、取り巻きの二人に両腕を押さえられ身動きが取れない状態で、グルケルの独りよがりな考えを延々と聞かされていた。
(入学試験の時も思ったけど、かなりひん曲がった考え方…。しかも、無関係なルドルクまで巻き込むなんて)
ここは一発、ガツンとお仕置きしたいところだが今は丸腰だし、一気に3人相手にするのは流石に分が悪い。
「僕の方が優れているのに、何故周りはそれに気付かず、貴様ばかりっ…!」
すると縛られてるルドルクに、暖炉にかけてあった燃えている鉄の棒を持っていく。
「はっ!こいつも可哀想なやつだよ。貴様の身が危ないと伝えるとのこのこやってきて…。これのどこが2位なんだ?こんなやつ!!」
『っやめて!!』
おもむろに持っていた棒を振り上げたグルケルに叫ぶ。すると、その棒を私の方に向けて怪しい光を帯びた目でこちらを見据えてきた。
「貴様さえ、いなくなればいいんだ、貴様さえ…」
(ダメだ…回りが見えなくなってる。この状態はヤバい…どうする?魔力、解放…?いや!ダメだ!制御出来ない力を使ったらどうなるか…。でも…)
ゆらりゆらりとこちらに向かってくるグルケルを前に、必死に頭を巡らせる。何か、何か方法はないか。そう思えば思うほど、ブラックベアを倒したあの場面が頭をよぎってつい左手の魔法具を見てしまう。
すると突然、グルケルは棒を投げ捨て、私の左手に飛び付いた。
「それか!!やっぱり使ってたんだな!」
彼は私の左手にはまっている魔法具を力ずくで取ろうとする。
『あっ!ダメ!!それを取ったらっ』
必死に抵抗するが、ついに指から奪い取られてしまう。
「あはははっ!!やっぱりな!どこかに魔法具を隠し持ってると思ったんだ!こんなドーピング使ってなければ貴様が僕に勝てるわけがなかったんだ!」
勝ち誇ったように高笑いするグルケル。でも、今の私はそれどころではない。
(っダメ!抑えろ自分!ここにはルドルクもいる!こんな狭いとこで暴走させるわけにはっ…!!)
心でそう思っても、焦りは更に心拍数を早め、どんどん体から魔力が漏れ出ていく。
「…グ、グルケル様。なんかこいつ変です!」
「なんか熱くなってきたし…。うっ、なんか気持ち悪い…」
窓ガラスがカタカタと揺れだし、暖炉の火が風に煽られるように揺らめく。
「はっ!魔法具のないこいつなど恐れる必要もない!」
そう言って鉄の棒を拾ったグルケルは私に向けて振りかぶった。それを見た瞬間、必死に繋ぎ止めていたものがぷつりと切れた。
ゴォッと巻き起こる風。取り巻きの二人は吹き飛ばされ壁に思いっきりぶつかり、暖炉の火はかき消される。
「くっ!?」
なんとか踏みとどまったグルケルは、信じられないものを見るような目で私を見ている。
幾陣もの風が私の回りを渦巻いていた。
「な、なんなんだ貴様はっ!っ!?」
私に向かってこようとしたグルケルを、一塊の風が後ろへ吹き飛ばした。
(だめ…これ以上は……。誰かを傷付けたくない…)
なんとか制御しようとするが、焦れば焦るほど思った通りに行かない。私の回りの風が一段と大きな塊になっていく。これが当たってしまえば取り返しのつかないことになる。頭では分かっていても魔力は言うことを聞いてくれない。
「うっ…ジオ?」
風で目隠しがずれたのか、ルドルクがこちらに気付く。
『ルドルク…に、げて…』
吹き荒れる風は、縛られて動けないでいるルドルクも容赦なくなぶっていく。
せめてルドルクだけでも守りたい。でも、自分ではどうすることも出来ない。
涙で滲む視界には、戸惑っているルドルクの姿と、怯えた表情のグルケル…そして
バンッ!!
勢いよく開かれた扉が映った。
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