上 下
17 / 39
2章 いざ王都。そして学園へ

5

しおりを挟む
「まだ、18か…。ここ最近は獲物も少なかったし、ちょいギリだとは思ってたけど、ちぃとヤバいかもな…」

どうしてか質問すると、逆に驚かれてしまった。

「ディーンから、なんも説明聞ぃてねーのか?…あのな、レベル19問題ってのがあんだよ」

なんでも…基礎レベルは、19まではスムーズに上がるらしい。ただ、19から20に上がる、この間に必要な経験値が半端ないらしく…、受験の基準にレベル20以上とされているのもそれ故、なんだそうだ。

「ルドルクも20に上がるのに、大体1ヶ月かかった。普通に特訓してたら半年は最低かかんだよ。ここを乗り越えれるかが、いわば試験の一環でもあるな」

半年を1ヶ月でという所に驚けばいいのか、ディーンさん達は何故このことを言ってくれなかったのかと疑問に思うべきなのか…。とにかく、自分がかなりギリギリな状況だということだけは分かる。

『間に…合うんですか…?』

う~ん、と腕を組んで悩んでいたガルボさんだが、パッと顔を上げる。

「分からん!」

ばっさりと言い切られた。

「少なくとも今のペースじゃ間に合わん。あと3週間、とにかくジオは狩って狩って狩りまくれ!
俺も仕事で手が空いたら同伴するが、ルドルクと二人でも森の浅いとこくらいなら行っても大丈夫だろ。ここが踏ん張り時だ!やれるだけやってこい」

そして、正に狩りまくる毎日が始まった。いつも行く西門付近だけで狩り続けるわけにもいかず、王都にある別の門にも足を運ぶ。

王都には、全部で門が5つある。ボトム家から一番近い住宅街側の西門、私が初めてきた教会近くの賑やかなメインストリート沿いにある南門、お城の敷地に面した北門。そして、北門と南門の間に騎士養成学校側の騎士門、魔法使いを育てる為のマジックアカデミー側の魔女門がある。北、西、南門は利用頻度も高く、その分定期的に討伐も行われ、比較的安全と言われている。
私も主にこの3門近くで、時にはガルボさんの付き添いの下、時にはルドルクと二人だけで正午から夕方前の間は森に入っていた。

毎日続けていると、最初は持っていた緊張感とか警戒心とかが、徐々に薄れていく。それくらい、危険も少なく順調に経験値を稼いでいたのだ。


▪▪▪


その日も北門近くの森に、ルドルクと二人で来ていた。ここ数日は、ガルボさんの仕事が忙しいみたいで二人で来ることも多く、特になんとも思ってなかった。
モンスターを見つける効率を上げる為、ルドルクと分かれて森を探索していた時、遠くから微かに声が聞こえた。

「……ゃー!…れか、助け……~」

(ん?れかた…?たすけ……助けて!?)

聞こえてきた声が、助けを求めている。私は急いで声のする方へ走り出した。木々の合間をぬって進んでいくと、ギリギリ目視出来る先に動く、黒い物体を発見する。
この木を通り過ぎれば、はっきり見えるという場所まで来て、思わずピタリと足が止まる。見えていた黒い物体が大きな生き物の後ろ姿だとわかったからだ。

ブラックベア。ガルボさんに、森の奥にいる高レベルモンスターについて教えてもらった中にいたのと特徴が一致する。2mを超すその巨体に思わず後退ろうとする…が、しかし見えてしまった。ベアの足の間から、水色のスカートの裾、そして微かに震える小さな白い足が。

(子供が襲われてる!?)

『っやめろ!!』

ブラックベアは私の声にゆっくりとこちらを振り向いたかと思うと、突然飛びかかってきた。

『っ!!』

咄嗟に左に飛ぶが、振りかぶったベアの鋭い爪が右腕の服にかすり、引き裂いていく。ほんの少し痛かった気はしたが、そのまま転がるように先ほどベアがいた位置、子供の所までなんとかたどり着く。赤い血の色だけないことを視界の隅で確認し、子供を背にかばうように剣を構えた。

『だ、大丈夫っ!?動けるなら早く逃げて!!』

「…ぅにゃー、死ぬかと思ったにゃー。おにぃさんナイスタイミングにゃ」

(はい?)

この緊迫した空気感に似合わない台詞と口調に、思わず子供をチラ見する。
そこにいたのは、水色のワンピースを着た白い…ネコのぬいぐるみ、だった。

『は?』

「あにゃ、おにぃさんお若いにゃ。てか、目、逸らしちゃダメにゃ死ぬにょ?」

瞬間、ゾワリと背後に危機を感じ、ネコのぬいぐるみを突飛ばしながら避ける。寸での所にざっくりと爪痕が残った。避ける際に剣を振るったつもりだったが、分厚い毛に阻まれ、傷一つ付けれていないようだ。

間合いをとりつつ、叫ぶ。

『と、とりあえず逃げて!喋れるなら応援呼べるよね!?』

今は、ぬいぐるみが喋るなんてこと気にしてられない。一薙ぎで簡単に人を殺せる生き物が目の前にいるのだから。避けなければ死ぬ。そう思って、ベアと正面からにらみ合った瞬間に、悟った。

(違う…避けなければ、じゃない。次の攻撃で…殺される)

向けられた殺気に息が詰まる。遊びだったのだ。さっきまでは。

「血の匂いで本気になったにゃ!ヤバいにゃ~」

(死にたくない。こんなところで…)

自然と左手から指輪を外していた。ぶわりと空気が熱を持ち、脈が段々速くなっていく。

(大丈夫。魔法は、イメージ…。魔力をちゃんと感じ取って。最初の戦闘のときみたいに。風のように…風の、ように……)

ブラックベアの目に一瞬、戸惑いが浮かぶ。しかし、さっきとは比べ物にならないスピードで突進してきた。

地面を蹴る。視界がスライドし次に見えたのは、少し遠くなったベアの背中。まだ、後ろを取られたことに気づかず困惑しているベアに向かって、両手をかかげた。

(風を…切り裂くようなつむじ風をっ!!)

周りの空気が渦巻いていく。ベアがこちらに気づいて向かってくるところに、幾筋もの風の刃が乱れ飛んだ。断末魔の叫びと共に、巨体がズシンと倒れる。
しかし、私の意識も朦朧としていた。

(いけない…、指輪、しなくちゃ、)

心臓がバクバクと脈うっている。苦しくなる胸を抑えながら、震える手でなんとか指輪を取り出した。霞む視界と今にも飛びそうな意識を奮い立たせ、指輪をはめようとするが、うまくいかない。

そのまま…、プツリと、記憶が途絶えた。


♢♢♢???視点♢♢♢


「にゃーにゃーにゃ~♪あ、ご主人様!」

目の前の愛しい後ろ姿に、とぅっと飛びつく。

「ひどいにゃ!にゃーだけ行かせるなんてっ。お蔭で死にそーになったにゃ」

グリグリと頭を擦り付けながら訴える。でもご主人様の顔色は全く変わらない。

「うざい。生き物じゃないんだから死なないじゃん。てかお前、風魔法使ったの?」

ひょいと首根っこ持たれてぶら下がる。そんなにゃーをご主人様は感情のない目でじーと見つめてきた。

「にゃーじゃにゃいよ。あんにゃん使ったら充電切れちゃうにゃ。助けてくれたイケメンのおにぃさんだにゃ!あ、イケメンって言ってもご主人様の方がにゃん倍もカッコいーにゃ!」

足をパタパタしながら必死にアピールするけど、ご主人様の反応はふーんの一言。流石、クールビューティにゃ。

「まぁ詠唱もせずに魔法使ってにゃけど、暴走してたし、あんま強そーでもにゃかったにゃ。やっぱりご主人様が一番にゃ!!」

「へぇ、無詠唱で…。ここにもちょっとは面白そうなやついるんじゃん。今度、暇な時に会ったら遊んでやるか」

そう言って、ニヤリと笑うご主人様。あのおにぃさんは助けてくれたけど、にゃーはご主人様が楽しいのが一番にゃ。

(おにぃさん、また会ったら御愁傷様にゃ)

ぽいっと投げられたにゃーは、ご主人様の足元にじゃれつきながらアジトへ一緒に帰ったのにゃ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

塩対応の公子様と二度と会わないつもりでした

奏多
恋愛
子爵令嬢リシーラは、チェンジリングに遭ったせいで、両親から嫌われていた。 そのため、隣国の侵略があった時に置き去りにされたのだが、妖精の友人達のおかげで生き延びることができた。 その時、一人の騎士を助けたリシーラ。 妖精界へ行くつもりで求婚に曖昧な返事をしていた後、名前を教えずに別れたのだが、後日開催されたアルシオン公爵子息の婚約者選びのお茶会で再会してしまう。 問題の公子がその騎士だったのだ。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...