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1章 はじまりは突然に
閑話 1章のあらまし(スフィア目線)
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(わたくしは、夢を見ているのかしら…)
主人の後ろから、馬車の入り口に立つ人物を見上げる。先ほどわたくしを庇って主人が襲われた時は、ここまでかしらと思ったけど…まさか痛みも感じずにお迎えがくるなんて知らなかったわ。
まだ、あどけなさを残すその子は、にこりと微笑んで、静かに扉の外へ消えていく。
「…フィー、待って。…迎えに来たのなら連れて行って…」
閉じられた扉へ伸ばしかけた手を、主人がそっと握る。
「スフィア、しっかりなさい。彼はフィブジオではないし、我々は生きているよ」
諭すような口調と額の切り傷を視界に捉え、実感がじわじわと戻ってくる。
確かに、3歳までしか成長を見られなかったフィブジオと、12歳くらいの背丈の男の子を見間違えるなんて…。でも何故か、彼が風を纏って現れた瞬間、たしかにフィブジオと重なったの。
その後、ディーンとその男の子二人だけでゴブリンを退けることが出来たそうなの。皆で無事にお家に帰ることが出来て、本当に良かったわ。しかもその男の子は、なんと愛し子で、主人とディーンの傷まで治療してくれて…。優しいところもフィーにそっくり!
主人も何か感じていたようで、この子の面倒を見たいって伝えた時、主人も同じ気持ちだったそうなの。
(きっと…女神様がフィブジオの魂を、もう一度わたくしたちに授けてくださったんだわ)
自分勝手な都合のいい解釈だけれど、この子の事を大切にしたいというこの気持ちを、抑えることができなかったの。
その夜、彼が倒れた時は心臓が止まるかと思ったわ。看病したくても、彼から出される魔力にあてられて思うように動けず、本当に歯痒かった。彼が目覚めて無事な姿を見た時、安堵からこの胸に抱き締めて一緒に泣いてしまったもの。
それからの日々は幸せだった。事情はどうあれ、彼が家で生活するようになったのだから。名前も、フィブジオのもう一つの愛称だった「ジオ」を名乗ってくれるそうなの。
最初の頃は遠慮深くて気を遣っていた彼だけれど、段々と食べ物のリクエストをしてくれたり、わたくしの趣味のハーブ園を一緒にお世話してくれたり…。
フィブジオの…代わりだなんて思わないけれど、二人目の息子のようにこういった時間を重ねていきたい。心からそう思っていたわ。
でも、思い通りになんていかないものね。愛し子という特別な存在の彼は、しっかりとした基盤がないと、いとも簡単に大人の思惑に絡め取られてしまうの。クラリッサさんのお仕事先でも今、良くない方がジオを見つけようとしているらしいわ。魔法省の方が手を出しづらくするには、騎士か冒険者になるしか道はなくて…。
わたくしたちで守れるものなら守ってあげたい。でも…そんな力のないわたくしでは、それが出来ない。
それならばと、せめて頼れる方がいるという騎士になって欲しくて、クラリッサさんにはさりげなく誘導してもらったの。…主人達には内緒ね。
バリエスト家は、位があるお家だからクラリッサさんに引き取られる方が本当は良かったのだけど、これだけは譲れなかった。ジオの帰る場所は、わたくしちのいるここであって欲しかったの…。久しぶりに我が儘を言ってしまったわ。
ほんの2か月ちょっとしか一緒にいられなかったけど、本当はものすごく寂しいけれど…。ちゃんと帰って来てくれるって約束してくれたから、笑顔で送りだす事が出来たわ。
見えなくなるまで手を振ったけれど、見えなくなった途端に涙が出てくるの。誤魔化すように「さぁ、お手紙書かなくちゃ!」と言って、「まだ、今出発したばかりじゃないか」って、主人に笑われてしまったわ。そういう主人も少し涙目になっていることは、気付かないでいてあげるの。
(どうか女神様。あの子の行く先が、光に満ちていますように)
(こんな老いぼれの願いを叶えてくださるならば、ジオにさらなる神のご加護を)
二人して同じようなお願い事をしてることは、今晩の食卓で知ることになるのでしょうね。
主人の後ろから、馬車の入り口に立つ人物を見上げる。先ほどわたくしを庇って主人が襲われた時は、ここまでかしらと思ったけど…まさか痛みも感じずにお迎えがくるなんて知らなかったわ。
まだ、あどけなさを残すその子は、にこりと微笑んで、静かに扉の外へ消えていく。
「…フィー、待って。…迎えに来たのなら連れて行って…」
閉じられた扉へ伸ばしかけた手を、主人がそっと握る。
「スフィア、しっかりなさい。彼はフィブジオではないし、我々は生きているよ」
諭すような口調と額の切り傷を視界に捉え、実感がじわじわと戻ってくる。
確かに、3歳までしか成長を見られなかったフィブジオと、12歳くらいの背丈の男の子を見間違えるなんて…。でも何故か、彼が風を纏って現れた瞬間、たしかにフィブジオと重なったの。
その後、ディーンとその男の子二人だけでゴブリンを退けることが出来たそうなの。皆で無事にお家に帰ることが出来て、本当に良かったわ。しかもその男の子は、なんと愛し子で、主人とディーンの傷まで治療してくれて…。優しいところもフィーにそっくり!
主人も何か感じていたようで、この子の面倒を見たいって伝えた時、主人も同じ気持ちだったそうなの。
(きっと…女神様がフィブジオの魂を、もう一度わたくしたちに授けてくださったんだわ)
自分勝手な都合のいい解釈だけれど、この子の事を大切にしたいというこの気持ちを、抑えることができなかったの。
その夜、彼が倒れた時は心臓が止まるかと思ったわ。看病したくても、彼から出される魔力にあてられて思うように動けず、本当に歯痒かった。彼が目覚めて無事な姿を見た時、安堵からこの胸に抱き締めて一緒に泣いてしまったもの。
それからの日々は幸せだった。事情はどうあれ、彼が家で生活するようになったのだから。名前も、フィブジオのもう一つの愛称だった「ジオ」を名乗ってくれるそうなの。
最初の頃は遠慮深くて気を遣っていた彼だけれど、段々と食べ物のリクエストをしてくれたり、わたくしの趣味のハーブ園を一緒にお世話してくれたり…。
フィブジオの…代わりだなんて思わないけれど、二人目の息子のようにこういった時間を重ねていきたい。心からそう思っていたわ。
でも、思い通りになんていかないものね。愛し子という特別な存在の彼は、しっかりとした基盤がないと、いとも簡単に大人の思惑に絡め取られてしまうの。クラリッサさんのお仕事先でも今、良くない方がジオを見つけようとしているらしいわ。魔法省の方が手を出しづらくするには、騎士か冒険者になるしか道はなくて…。
わたくしたちで守れるものなら守ってあげたい。でも…そんな力のないわたくしでは、それが出来ない。
それならばと、せめて頼れる方がいるという騎士になって欲しくて、クラリッサさんにはさりげなく誘導してもらったの。…主人達には内緒ね。
バリエスト家は、位があるお家だからクラリッサさんに引き取られる方が本当は良かったのだけど、これだけは譲れなかった。ジオの帰る場所は、わたくしちのいるここであって欲しかったの…。久しぶりに我が儘を言ってしまったわ。
ほんの2か月ちょっとしか一緒にいられなかったけど、本当はものすごく寂しいけれど…。ちゃんと帰って来てくれるって約束してくれたから、笑顔で送りだす事が出来たわ。
見えなくなるまで手を振ったけれど、見えなくなった途端に涙が出てくるの。誤魔化すように「さぁ、お手紙書かなくちゃ!」と言って、「まだ、今出発したばかりじゃないか」って、主人に笑われてしまったわ。そういう主人も少し涙目になっていることは、気付かないでいてあげるの。
(どうか女神様。あの子の行く先が、光に満ちていますように)
(こんな老いぼれの願いを叶えてくださるならば、ジオにさらなる神のご加護を)
二人して同じようなお願い事をしてることは、今晩の食卓で知ることになるのでしょうね。
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