あやかし研究部

しらたき

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狼耳[3]

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 飛び交う弾丸と触り合う刀や爪。未だ戦場は混沌に満ちていた。床には幾らかの爆発痕が残り、中には未だ崩れた瓦礫が漂う。
「《雨式霊力弾/爆》!」
「くっ…《霊物質反射結界/硬》!」
弾いた爆裂弾が逆向きに軌道を描き、持ち主に戻ろうと再び飛び立つ。無論、途中で六角の半透明な壁に阻まれるが。
「うっ…疲れた…。」
ここに来て思い出す。多少霊力があるからと言って霊符をも使わずに、重い霊術を多用すべきでは無かったかもしれない。だんだんと意識が束ねられず、解けてゆく。
「って、大丈夫⁉︎」
揺らぎ、倒れる体が先輩の手に支えられた。その安心感に甘え、ぐっと体重を掛ける。
「すみません、少し厳しそう…かも。」
やはり連続での霊術使用は厳しいかもしれない。ただ、練習が足らないだけかもしれないけれども。半分ほど閉じた瞳を放棄して、私は眠りについた。
た。

「あ、真白さん!良かった…。」
少しばかり緊迫したリビングに入ると、耳を垂らした音乃先輩が出迎えてくれた。
「私はだいじょぶ。先輩は?」
「支える時と運ぶ時に腕が少し…。でもまぁ、私は大丈夫ですよ!」
先輩は自らの耳を指で指し、少し自信げに答える。半獣人、丁度今朝調べた単語だ。過去に獣との契りを交わした者の血を受け継ぐ種族らしい。その容姿を見るに、音乃先輩はきっと、狼の半獣人だろう。
「そ。なら良かったよ。」
きっと彼女は彼女なりの苦痛も葛藤もあったのだろう。もしも平和に暫くの日常を歩めたなら、その時にでも話が聞きたいと思った。
「…先輩は、去年この部に入部したんだよね?その、どうしてこんな部に?」
少し慎重に言葉を手繰る。まあ、その結果最悪を引いてしまったような気もするが。今になってやっと自分の語彙力が余り無い事を恨めしく思う。
「えぇと、私の場合は…」
しかし先輩は余り気にしていないようだった。そう、穏やかな口調で先輩は昔話を語り出した。

「っと、この調子なら間に合いそうですかね…。」
(入学式の十分くらい前に着く感じで出たんですよ)
(うわ、偉い。)
(?入学式に早めに来るのは普通では?)
(あ、あはは…。)
「えぇと、ここを曲がって…。」
(月橋市の道はどうにも複雑で。慣れていてもつい迷ってしまいそうです。)
(激しく同意。)
「ぐうぅえぇぇぇ!」
「うわっ、こんな所に妖怪が…?」
(で、道中に妖怪が出てきてしまったんですよ。)
(ん…?何か既視感を感じるような…。)
「うぅ…おりゃぁ!」
「ぐぅぅ…」
(当時の私は霊術よりかは格闘がメインでした。まあ、半獣人なので当たり前ですけど。)
(あれ、この調子なら…行けるか…?)
「…あれ、足が急に動かなく…」
「ぐぅえぅぁぇぇぇ!」
[閃光音]
(って感じでピンチになっちゃいまして)
(部長の拘束術式だコレ。)
「大丈夫でしたか?」
「あ、助けてくれてありがとうございます…。」
「何、大丈夫ですよ。それより、時間は大丈夫ですか?」
「あ…まずい、遅刻しちゃいそう!ありがとうございました!」
(ここで助けてもらったんですよね)
(マッチポンプだコレ。部の伝統になってたのかよ。)

「…て感じで、この部にスカウトされたんですよ。」
その瞳を見ると、どうにも自分の意見を言う気にはなれなかった。まあきっと、常に全てを伝える事が正しい訳じゃないし。
「…先輩も、色々あったんですね。」
そうとだけ告げ、私は帰る支度を始めた。まだ痛む体の節々を気掛けながら、私は早々に帰る。身体的な疲労とともかく、精神的にもかなり疲れたようだ。
「また明日!」
「…!また、明日!」
だから帰り道の足が速まったのは決して、その言葉が嬉しかったからではない。…と、無意味な言い訳を宙に放った。
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