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第二十五話
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ルークは、慌ててぷいと顔を背けた。訝しげなルイーゼは、彼から眼を離さず、なおその熱い眼差しで彼を見つめ、
「ルーク…どうして解ってくれないの? 」
「だ…駄目だよっ。僕は君が嫌いなわけじゃないけど、僕はナタリーが」
そう言い掛けるや否、ルイーゼはその眼に涙を浮かべて、ルークから離れてさめざめと泣き出した。
ルークは、見ていられずに側に寄るが、彼女は泣き止まない。口では拒んでおきながら、いざ相手が泣き出すと罪悪感に苛まれ、慰めたり傍らで励ましたりする。天性の女たらし、或いは割り切れない半端者、それがこのルークなのである。
ルイーゼはきっと彼を見て、涙を散らしつつ飛び付くようにして、
「あたしを可哀想だって思うなら、あたしの気持ちを受け入れてよっ。そういう中途半端な態度だと諦めきれないよっ」
「い、いや、それは…」
と、ルークははっとして跳び退くが、身軽なルイーゼは糸でも繋いでいるかの如く、豹の勢いで追い掛かった。
狭い部屋の中で二つの影は暫くの間、逃げては追い掛け、追い掛けては逃げた。薄暗い灯火に照らし出されるルイーゼは、まるで獲物を追い掛ける魔魅のようである。
恋に狂う少女と凜々しい理想に生きようとする少年とは、しばし如法の闇の中に争い続けた。やがてルークは、隙を見て脱兎の如く部屋から逃げ出し、ルイーゼは一人でぽつりと、
「あたしは諦めないからね…」
翌日、十五人ばかりの剣士が、下町へやって来た。この者達は例の悪漢、マルコの父親が開いている道場の門弟達であり、師範の御曹司に恥をかかせた不埒な輩を討伐せんと息巻いてる。
先頭にいるのは無論、マルコと彼の父親である師範。師範は息子の右腕の仇がルークであると知るや否、先に彼が道場にいた事を思い出し、彼に対する憤懣を爆発させた。
師範は、最初にルークを見た時、彼の自得の妙法と隠れた剣の才を嫉視し、いつしかそれは嫌悪感へと変わっていた。要するに、自分よりも才覚溢れるルークに嫉妬し、どうせなら殺してしまおうと考えているのだ。
「ここか。汚い場所だな」
「そうだよ父さん。あのガキもいるんだ」
「良し。お前の右腕の仇、私が討ってやる。お前達、ルークを捜せっ」
門弟共は、どやどやと汚い箱やら看板やらを蹴飛ばし、下町の入り組んだ路地裏まで捜索した。孤児達は怯えきって脇道でわななと震えるばかりである。さもあろう、親に捨てられ、盗みを働いたり盗品売買をしたりして生きている連中である。大人が目の前で狂奔していれば怯えるのも当然である。
その内、門弟の一人が、剣を抜いてわざとらしく煌めかせながら、五歳程の孤児に向かって曰く、
「おい、お前達の姉貴分は何処だっ。それに同い歳くらいの小僧もだっ」
「…」
「何とか言えっ」
と、その者は孤児を袈裟斬りに真っ二つ。すると、横合いからひゅっと風を切って懐剣が飛んできた。首筋にそれを立てられた男は、血煙を上げて人形のように崩れ落ちた。
あっ、と諸人が見た方向には、柳眉を逆立てるルイーゼがいた。弟妹のような孤児達を殺害され、その怒りは容易に冷める気色も無い。
死ねっ、と一人が抜き打ちに斬り掛かるが、ぱっと地面を蹴ったルイーゼは、宙返りに背中の剣を抜いて縦払いの一閃、唐竹割りに斬り斃す。わっ、と驚く男達、本気の長剣抜きつれて、二人ばかりで躍り掛かる。
ルイーゼは、また身軽に刃を躱し躱し、一寸の隙をついて懐剣二つ、相手の首目掛けて投げつけた。ぐざと刺さった喉元から血飛沫を撒き散らし、二人は音も無く斃れた。
「おのれっ。小癪な小娘っ」
と、師範が長剣煌めかせ、ルイーゼ目掛けて斬り付けた。例の如くルイーゼは、さっと躱して懐剣を投げつけるが、相手の剣技は百戦錬磨、咄嗟の返し刃は戛然と暗器を弾く。
仕留めたとばかり思っていた彼女は、素早い斬り上げに剣も弾かれ、そのまま蹴飛ばされた。どうと倒れたルイーゼの瞳に飛び込んで来たのは、ニヤリと笑う敵の師範。
ぶん、と振るわれる刃に彼女は覚悟の眼を閉じた――が、戛とそれを止めた者がいる。
「辞めろっ。僕が相手になってやるっ」
「うぬ、貴様はルーク・ブランシュッ。破門された半端者が猪口才な、二人ともあの世に送ってやるっ」
ルークの姿を見るが早いか、師範はその赫怒の形相をぐっと漲らせ、小癪な小僧を血祭りに、と身構えた。ルークも片手構えに切っ先を敵に向け、我を忘れて睨み付けた。
年長者を見るだけでも怯えがちな下町に、魁偉な剣客と美少年が、果たし合いの白刃を抜いて向き合っているので孤児達は、ただただ人垣を作って見守るばかり。
「ああ、危ない。今にもあのお兄さんが斬られそうだ」
「いくらなんでも無茶だよ。背格好が全然違うじゃないか」
等と、孤児達は上から下までもう様々な慄き声。
その中でも、ルイーゼの憂いは尋常では無い。腹を蹴られた痛みで立ち上がれず、ただルークを案ずるのみである。
その時、師範は長剣を大上段に振りかぶり、炬のように双眸を燃やして必殺の気を漲らせ、おおうっ、と獣の雄叫び轟かせ、いきなりルークを脳天から斬り下げようと躍り掛かった。
来いっ、と既に心得ていたらしいルークの片手払い、鋭い剣風、流電の一颯、自前自得の斬り返し、裂帛一声、息もつかせぬ乱れ斬り。
しかし師範は、(小癪な青二才めっ。人並みな技をっ)と思って、少しも慌てず、鮮やかに受け払い、丁々発止、ルークの疲労を待つ、老獪場慣れの曲者剣。
「ルークッ。汝の面はもはや死相なりっ」
と、轟声周囲を揺るがし、阿修羅の如き猛技、錬磨の剣術を一度に現わし、猛然と反撃の剣を振るった。
ああ、と言う周囲の声に、勝負の形勢は逆転した。今にも危うく見えるはルークの命、𨪙々戛々、光の襷を交わし合う。彼の剣は火だ。気炎万丈たる炎の刃、しかし何の駆け引きも無い。老練の師範は、彼の未熟を既に見抜いている。
「この一剣が受けられるかっ」
得たりと、師範はぱっと踏み込んで、鍔も届けと烈剣を振るった。
憐れ真っ二つ、と思われたが、ルークも非凡、無意識の身をよじって地面に身を投げ、相手の後ろに転がり込む。
えいっ、と跳ね上がり様に、ルークが描く流星の斬り上げ! ぐわっ、と師範は噴血を上げて、脆くもそこに斃れた。
ルークは、師範を喪った残党共を睨み付け、
「お前達っ。頼みの師範は僕が斬ったぞっ。敵うと思うなら来い! 」
剣先を門弟共に向け直すと、彼らは意外の余り色を失い、我先に引き波の如く逃げ出していった。
「ルーク、ルークッ。凄かったよっ」
と、ルイーゼが喜色満面で彼に駆け寄る。ルークは、肩で息をしながら、
「僕も信じられないよ。君や皆を守らなくちゃ、って思ってたから必死で」
「ふふふ。口ではあんな風に言っておきながら、やっぱり本当はそうなのね」
ルイーゼは彼の手を取り、孤児達に示して、大声で曰く、
「皆っ。此処にいるルークが、これからはあたし達を守ってくれるよ。あたし達とずっと一緒に居てくれるよっ」
と、喧伝してしまった。ルークは、慌てて彼女の宣言を訂正しようとしたが、孤児達は、わっと彼を蝟集して取り囲み、仲間の輪に入れてしまった。
彼らの笑顔や安堵の顔を見て、ルークは何も言えなくなってしまい、果たし合いの勝祝いの輪の中に取り囲まれた。彼の旅路は、歓喜の下町に塞がれてしまったのである。
ルイーゼは、やっとルークが自分のものになったと、彼の隣で満願の笑みを浮かべているのであった。
――その一日前、衛兵詰所の仮牢に放り込まれていたナタリーは、ルイーゼの手回しでようやく放免された。
ルークを捜す当ても無く、街を彷徨っていると、意外な人物が彼女に声を掛けた。
「ナタリーさん、ナタリーさん。ルークを捜しているの? 」
「貴方は確か、あの時の」
ナタリーに声を掛けたのはルイーゼであった。彼女は、その本心を隠して、さも純粋な様子で彼女と他愛のない話をし、やがて、
「ルークなら、あたしの家で瘡を治していたけど、一昨日出て行ったよ。確か、王都に戻るって言ってたよ」
「本当っ? ルークの瘡はどうなの、治ったの? 」
ナタリーは喜色半面、憂慮半面の複雑な顔色でルイーゼに尋ねた。彼女の心は最早、ルークの身を案じ、彼をその腕に抱き締める事でいっぱいである。
ルイーゼは、単純な人、と内心で舌を出しながら、面には無垢な笑顔を浮かべ、
「瘡は完全には塞がって無いけど、だいぶ治ってるよ。でも、ナタリーさんを捜したいみたいで、止めたんだけど出て行っちゃった」
「ああ、ルークの莫迦っ。早く見つけないとっ。有難うルイーゼ」
そう言ってナタリーは、蒼惶とルークを捜しに、明後日の方向へ向かっていった。ルイーゼは、彼女を見送りながら邪魔者を排除した喜びに浸っていた。
斬り合い果たし合いと同じくらい、いやそれよりも恐ろしいのは、女同士の争いであるのかもしれない。
「ルーク…どうして解ってくれないの? 」
「だ…駄目だよっ。僕は君が嫌いなわけじゃないけど、僕はナタリーが」
そう言い掛けるや否、ルイーゼはその眼に涙を浮かべて、ルークから離れてさめざめと泣き出した。
ルークは、見ていられずに側に寄るが、彼女は泣き止まない。口では拒んでおきながら、いざ相手が泣き出すと罪悪感に苛まれ、慰めたり傍らで励ましたりする。天性の女たらし、或いは割り切れない半端者、それがこのルークなのである。
ルイーゼはきっと彼を見て、涙を散らしつつ飛び付くようにして、
「あたしを可哀想だって思うなら、あたしの気持ちを受け入れてよっ。そういう中途半端な態度だと諦めきれないよっ」
「い、いや、それは…」
と、ルークははっとして跳び退くが、身軽なルイーゼは糸でも繋いでいるかの如く、豹の勢いで追い掛かった。
狭い部屋の中で二つの影は暫くの間、逃げては追い掛け、追い掛けては逃げた。薄暗い灯火に照らし出されるルイーゼは、まるで獲物を追い掛ける魔魅のようである。
恋に狂う少女と凜々しい理想に生きようとする少年とは、しばし如法の闇の中に争い続けた。やがてルークは、隙を見て脱兎の如く部屋から逃げ出し、ルイーゼは一人でぽつりと、
「あたしは諦めないからね…」
翌日、十五人ばかりの剣士が、下町へやって来た。この者達は例の悪漢、マルコの父親が開いている道場の門弟達であり、師範の御曹司に恥をかかせた不埒な輩を討伐せんと息巻いてる。
先頭にいるのは無論、マルコと彼の父親である師範。師範は息子の右腕の仇がルークであると知るや否、先に彼が道場にいた事を思い出し、彼に対する憤懣を爆発させた。
師範は、最初にルークを見た時、彼の自得の妙法と隠れた剣の才を嫉視し、いつしかそれは嫌悪感へと変わっていた。要するに、自分よりも才覚溢れるルークに嫉妬し、どうせなら殺してしまおうと考えているのだ。
「ここか。汚い場所だな」
「そうだよ父さん。あのガキもいるんだ」
「良し。お前の右腕の仇、私が討ってやる。お前達、ルークを捜せっ」
門弟共は、どやどやと汚い箱やら看板やらを蹴飛ばし、下町の入り組んだ路地裏まで捜索した。孤児達は怯えきって脇道でわななと震えるばかりである。さもあろう、親に捨てられ、盗みを働いたり盗品売買をしたりして生きている連中である。大人が目の前で狂奔していれば怯えるのも当然である。
その内、門弟の一人が、剣を抜いてわざとらしく煌めかせながら、五歳程の孤児に向かって曰く、
「おい、お前達の姉貴分は何処だっ。それに同い歳くらいの小僧もだっ」
「…」
「何とか言えっ」
と、その者は孤児を袈裟斬りに真っ二つ。すると、横合いからひゅっと風を切って懐剣が飛んできた。首筋にそれを立てられた男は、血煙を上げて人形のように崩れ落ちた。
あっ、と諸人が見た方向には、柳眉を逆立てるルイーゼがいた。弟妹のような孤児達を殺害され、その怒りは容易に冷める気色も無い。
死ねっ、と一人が抜き打ちに斬り掛かるが、ぱっと地面を蹴ったルイーゼは、宙返りに背中の剣を抜いて縦払いの一閃、唐竹割りに斬り斃す。わっ、と驚く男達、本気の長剣抜きつれて、二人ばかりで躍り掛かる。
ルイーゼは、また身軽に刃を躱し躱し、一寸の隙をついて懐剣二つ、相手の首目掛けて投げつけた。ぐざと刺さった喉元から血飛沫を撒き散らし、二人は音も無く斃れた。
「おのれっ。小癪な小娘っ」
と、師範が長剣煌めかせ、ルイーゼ目掛けて斬り付けた。例の如くルイーゼは、さっと躱して懐剣を投げつけるが、相手の剣技は百戦錬磨、咄嗟の返し刃は戛然と暗器を弾く。
仕留めたとばかり思っていた彼女は、素早い斬り上げに剣も弾かれ、そのまま蹴飛ばされた。どうと倒れたルイーゼの瞳に飛び込んで来たのは、ニヤリと笑う敵の師範。
ぶん、と振るわれる刃に彼女は覚悟の眼を閉じた――が、戛とそれを止めた者がいる。
「辞めろっ。僕が相手になってやるっ」
「うぬ、貴様はルーク・ブランシュッ。破門された半端者が猪口才な、二人ともあの世に送ってやるっ」
ルークの姿を見るが早いか、師範はその赫怒の形相をぐっと漲らせ、小癪な小僧を血祭りに、と身構えた。ルークも片手構えに切っ先を敵に向け、我を忘れて睨み付けた。
年長者を見るだけでも怯えがちな下町に、魁偉な剣客と美少年が、果たし合いの白刃を抜いて向き合っているので孤児達は、ただただ人垣を作って見守るばかり。
「ああ、危ない。今にもあのお兄さんが斬られそうだ」
「いくらなんでも無茶だよ。背格好が全然違うじゃないか」
等と、孤児達は上から下までもう様々な慄き声。
その中でも、ルイーゼの憂いは尋常では無い。腹を蹴られた痛みで立ち上がれず、ただルークを案ずるのみである。
その時、師範は長剣を大上段に振りかぶり、炬のように双眸を燃やして必殺の気を漲らせ、おおうっ、と獣の雄叫び轟かせ、いきなりルークを脳天から斬り下げようと躍り掛かった。
来いっ、と既に心得ていたらしいルークの片手払い、鋭い剣風、流電の一颯、自前自得の斬り返し、裂帛一声、息もつかせぬ乱れ斬り。
しかし師範は、(小癪な青二才めっ。人並みな技をっ)と思って、少しも慌てず、鮮やかに受け払い、丁々発止、ルークの疲労を待つ、老獪場慣れの曲者剣。
「ルークッ。汝の面はもはや死相なりっ」
と、轟声周囲を揺るがし、阿修羅の如き猛技、錬磨の剣術を一度に現わし、猛然と反撃の剣を振るった。
ああ、と言う周囲の声に、勝負の形勢は逆転した。今にも危うく見えるはルークの命、𨪙々戛々、光の襷を交わし合う。彼の剣は火だ。気炎万丈たる炎の刃、しかし何の駆け引きも無い。老練の師範は、彼の未熟を既に見抜いている。
「この一剣が受けられるかっ」
得たりと、師範はぱっと踏み込んで、鍔も届けと烈剣を振るった。
憐れ真っ二つ、と思われたが、ルークも非凡、無意識の身をよじって地面に身を投げ、相手の後ろに転がり込む。
えいっ、と跳ね上がり様に、ルークが描く流星の斬り上げ! ぐわっ、と師範は噴血を上げて、脆くもそこに斃れた。
ルークは、師範を喪った残党共を睨み付け、
「お前達っ。頼みの師範は僕が斬ったぞっ。敵うと思うなら来い! 」
剣先を門弟共に向け直すと、彼らは意外の余り色を失い、我先に引き波の如く逃げ出していった。
「ルーク、ルークッ。凄かったよっ」
と、ルイーゼが喜色満面で彼に駆け寄る。ルークは、肩で息をしながら、
「僕も信じられないよ。君や皆を守らなくちゃ、って思ってたから必死で」
「ふふふ。口ではあんな風に言っておきながら、やっぱり本当はそうなのね」
ルイーゼは彼の手を取り、孤児達に示して、大声で曰く、
「皆っ。此処にいるルークが、これからはあたし達を守ってくれるよ。あたし達とずっと一緒に居てくれるよっ」
と、喧伝してしまった。ルークは、慌てて彼女の宣言を訂正しようとしたが、孤児達は、わっと彼を蝟集して取り囲み、仲間の輪に入れてしまった。
彼らの笑顔や安堵の顔を見て、ルークは何も言えなくなってしまい、果たし合いの勝祝いの輪の中に取り囲まれた。彼の旅路は、歓喜の下町に塞がれてしまったのである。
ルイーゼは、やっとルークが自分のものになったと、彼の隣で満願の笑みを浮かべているのであった。
――その一日前、衛兵詰所の仮牢に放り込まれていたナタリーは、ルイーゼの手回しでようやく放免された。
ルークを捜す当ても無く、街を彷徨っていると、意外な人物が彼女に声を掛けた。
「ナタリーさん、ナタリーさん。ルークを捜しているの? 」
「貴方は確か、あの時の」
ナタリーに声を掛けたのはルイーゼであった。彼女は、その本心を隠して、さも純粋な様子で彼女と他愛のない話をし、やがて、
「ルークなら、あたしの家で瘡を治していたけど、一昨日出て行ったよ。確か、王都に戻るって言ってたよ」
「本当っ? ルークの瘡はどうなの、治ったの? 」
ナタリーは喜色半面、憂慮半面の複雑な顔色でルイーゼに尋ねた。彼女の心は最早、ルークの身を案じ、彼をその腕に抱き締める事でいっぱいである。
ルイーゼは、単純な人、と内心で舌を出しながら、面には無垢な笑顔を浮かべ、
「瘡は完全には塞がって無いけど、だいぶ治ってるよ。でも、ナタリーさんを捜したいみたいで、止めたんだけど出て行っちゃった」
「ああ、ルークの莫迦っ。早く見つけないとっ。有難うルイーゼ」
そう言ってナタリーは、蒼惶とルークを捜しに、明後日の方向へ向かっていった。ルイーゼは、彼女を見送りながら邪魔者を排除した喜びに浸っていた。
斬り合い果たし合いと同じくらい、いやそれよりも恐ろしいのは、女同士の争いであるのかもしれない。
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