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十三話
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ルークは、三日ほどフィリップの家に逗留し、瘡を癒やすと共に彼から剣術の指南を受けた。と言っても、木剣の持ち方すら知らないので、殆ど基礎を学んだだけに終わってしまった。
しかし、足運びや木剣の構え方など、彼の隙だらけの構えは目に見えて良くなった。フィリップも、ルーク自身が気づいていない、秘めたる天才を自分の型に嵌めることは好まず、敢えて技などは指南しなかった。
お世話になりました先生、とルークは四日目の暁天、朝陽を背に旅立っていった。離れて行く若者の背を見送りながらフィリップは、溜息を付き、
「四十年近く生きているが、あのような子には出会った事は無い…。後世、実に恐るべき少年だ」
と、嫉妬半分羨望半分の眼差しで一礼した。朝陽はルークの決意を応援するかの如く輝き、新たなる出発をする彼の後ろで光を放った。
ルークが、ホフマン男爵領の首府であるエスホルツに入ったのはその次の日であった。既に夜に入り、夏の月が一点の曇りも無く夜空に輝いていた。もう住民は店を閉め、仕事場から帰り、酒場などで飲んだくれている様子。
しかしルークの嚢中は宿銭にも乏しかったので、今宵は河原の草を緑の寝床にし、夜を明かそうと心に決めた。
滔々と流れるは穏やかな河水、螺鈿細工のように閃々と銀波を煌めかせ、中天から見下ろす黄金の月は河に移り、志向の職人芸のような河面がルークの心を落ち着かせた。
ルークは、ごろりと身を横たえ、澄み渡る満月を見上げた。どうすれば剣の名人になれるだろう。如何にすればコジロウに一剣を見舞う事が出来るだろう。それに、彼の心を乱す物がもう一つあった。
「ナタリー…何処にいるの…」
彼女とはぐれて以来、ルークの心では剣の悩みと恋の懊悩、この二つが奔流の如く乱れあっていた。彼は静かな涙に毎夜頬を濡らし、剣の道に色恋は不要、と自分の心に言い聞かせはしても、須臾の後、また悶々と悩む苦しむ。
この夜もまた、彼が寝付けない夜を過ごしていると、彼の心を憐れむように河原の草も、風に揺られて露を振りこぼした。
するとそこへ、船が水を切る音が聞こえた。人目を忍ぶかの如く灯火を消し、月明かりに影だけが、六文銭の渡し船の如く不気味に動いていた。やがて草の向こうで真っ黒な影が四つ五つ蠢き、総掛かりで一人の女を引っ担いで来る様子。
はて、とルークが物陰に身を潜めていると、必死にもがく女を至極乱暴に放り投げた。
「おいおいお嬢さん、いくら暴れたって男の力に敵うわけ無いだろ。いい加減諦めろ」
「借金こさえたまま逃げようなんて虫の良い話、笑止千万。返す当てが無いのなら繁華街にでも売り飛ばしてやる。それが嫌なら親分の妾になれ」
何にも言わず、ただ睨み付けているだけの女に男達は、啞女のつんぼめっ、と寄って集って殴る蹴る、見かねたルークは飛び出した。
「おい、男がそんな女の人に四人掛かりで酷いじゃないかっ」
「何だ、小僧っ。邪魔するないっ」
と、一人が腕まくりなどして鬼形相。余計な口をきくな、と詰め寄って言う。ルークは、若干怯みつつも、
「煩いっ。狼藉をしながら脅しても無駄だっ。辞めろっ」
「痴れ者の小僧、大言壮語は片腹痛い。お前から先に河に放り込んでやるっ」
ルークは早くも身構えて、覚悟、と木杖で殴り込んで来た者に体当たり、押された男は河に落ちた。
おのれっ、と一同は月明かりに影を伸ばし、さながら狼の如くルークを取り囲んだ。
「生意気な小僧めっ。死にやがれっ」
と、一人が小剣ぎらと抜き、ルークに一閃振り下ろす。ルークもぱっと跳んでそれを躱し、佩剣を抜き払った。
ルークが飛鳥の如く手元に躍り込んだ途端、ぶうんと唸るは相手の横払い。発止と払えば、真っ向から下りてくる。はっと身を沈めて横へ打ち捨てると、戛然、火華が散り、相手は蹌踉めいた。
「この野郎っ。意外にやるぞ」
と、前後左右にいた男共は、ルークの技を見、嘲っていた余裕を改めた。四方八面から振り下ろされる木杖や鉄拳に、ルークは悶絶し次第に一方的な暴行に晒された。ルークは全身血汐にまみれ、意識は混濁とし、息は荒くなった。河波の鼓、草に歌う虫の鳴き声、月光を受ける河の端で、今やルークの命は風前の灯火であった。
河縁を歩く一つの人影があった。一本結びにした黒漆の髪は風に靡き、月光に照らされた面は美しい月すら霞む程である。涼やかな目元を戴く美丈夫は、かのコジロウ・ミヤモトに紛れもない。
彼もまたこの街に滞在していたのだが、姦しい宿屋の喧噪に嫌気がさし、静寂な河原で眠っていた。不意に彼は眼を覚まし、夜風に散歩していたのだが、
「うん? 何の音だ」
と呟き、その方向へ眼を凝らすと、男が五人掛かりで一人を暴行しているではないか。卑怯なっ、と彼は義憤に燃え、集団に駆け寄って抜き打ちに一人を両断した。
「一人に五人掛かりとは卑怯であろうっ。拙者が彼に助太刀致す。文句は言わせぬぞっ」
と言って、仰向けに倒れるルークを背に、残る四人を睨み付けた。
「何だ青二才っ。やっちまえっ」
と、振り込んでくる木杖にコジロウの一閃! カラリと杖が落ちたかと思うと、首も一緒に落ちてきた。
てめえっ、と横合いからまた一人が殴り掛かるがその腕も、いつの間にか血にまみれて地に落ちている。コジロウは、返す刀で身体の方も袈裟斬りにした。
ぶん、と血振りをし、なおも一切の疲れを見せないコジロウに、後の二人は震え上がってしまった。
「この若造めっ。よくも仲間をやりやがったなっ」
と、二人の内一人が木杖で前から殴り掛かって来た。同時に裏に回り込んだ者は、卑怯な騙し斬り、不意打ちにコジロウを脳天から斬り下げようとした――が、
「殺気が隠し切れておらぬぞ」
と、コジロウは身体を廻して、前後の敵を腰から輪切りにしてしまった。煌めく刀の光、舞い散る血煙は、月光とそれに照らされる牡丹桜のようであった。
コジロウは血刀を拭い、死体共に一礼した後、倒れている少年に向き直った。
「やっ、君は…ルーク殿ではないかっ。大丈夫か、しっかりしろっ」
「…」
「これはいかん」
と、コジロウは気絶した彼を担いで、宿屋の一室に入った。
――次の朝、ルークは、頭をさすりつつ起き出した。コジロウは、彼を見て、
「やっと起きたか、瘡は痛むか」
「あ…コジロウさんっ」
「まあ大人しくしていろ」
と、コジロウは敵意など無く、彼の包帯など変えてやり、にわかに、
「そう言えばルーク殿、君の主人のご令嬢と会ったぞ。君を捜している様子だったが、その後会えたか」
「ナタリーですかっ。何処で見たんですかっ」
コジロウは、ナタリーと会った時の出来事を語り始めた。それは彼の魅力をまた大いに高めるものであった。
-ルークとはぐれたナタリーは、五日ほど前にエスホルツに入り、ルークを捜していた。と言うのも、道行く旅人が、それらしき人物がエスホルツに向かっていた、と言うのを聞いたからだった。
建物の間々に差し込む夏の陽差し、吹き込んで来るそよ風にナタリーが疲れた身体を座らせていると、見知らぬ男が一人やって来て、
「その茶髪の少年なら私共の宿におりますよ」
と言う。当然ナタリーは喜び勇んで、男の案内に不用心にも付いていった。しかし、案内されたのは街外れ、待っているのは十人ほどの荒くれ達。
「ど、どういう事? あたしをルークに会わせてくれるんじゃないの? 」
「何がルークだ、この小娘っ。俺達の山砦を焼いておきながらっ」
何ぞ測らん、その者共は先にルーク達と一悶着起こし、ヨーデルに住処を焼かれ、家を失った鼠のように彷徨う元山賊共であったのだ。彼らは、ナタリーを見ると、待っていたかの如く、駆け寄って行き、
「おや、弟の野郎は一緒じゃねえぞ。まあ良い、先にお前を嬲りものにして殺した後、弟の方も見つけ出してやるっ」
「そんな事出来ると思っているのっ。あたしはルークを捜し出すまでは死なないからっ」
と、彼女は細剣を抜き払い、ぎらと一閃、先頭の一人の首を一突きにした。血煙吹いて斃れる仲間に、他は怒り、ナタリーを取り囲んだ。
「小娘っ。命は貰ったっ」
と、振り込んでくる剣の乱れ打ち、閃々、たばしる雨か、石火の稲妻。
うぬっ、と後ろから踏み込んで来た一人は、躱したナタリーに首を落とされる。わっと血を見た狼共、じりじり慎重に詰め寄せる。
面倒なっ、と命知らずの一人が身構えたナタリーにするどく斬り込んだ。しかし、さっと躱され、前のめりな頭をナタリーに両断されてしまった。
それを見た山賊共は、八面から滅多打ちに詰め寄せる。受けるは一剣、女の身。躱して受けて後退り、後退りしている間に、投げられた小石が顔に当たり、たまらず彼女は、どうと倒れた。
死ね小娘っと、一人が長剣を振り上げ、ナタリーが眼を閉じた瞬間である。
「助太刀致すっ」
と、駆け付けて来た人影、疾風の如き一閃で、ナタリーを屠ろうとした男を斬り捨てた。そのまま群れに突っ込んで、須臾にして、山賊共を物言わぬ肉塊にしてしまった。
血刀を拭い、死骸に一礼してナタリーの方を見、
「麗人、大丈夫ですか」
と、手を伸ばした。男の顔を見、ナタリーは、あっと驚いた。コジロウの方も、思い出したように、
「貴方は…確かルーク殿の姉君でしたな。ルーク殿はご一緒では無いのですか」
「あ、あなたはコジロウさんっ。コジロウさんの方こそルークを見ていませんか」
「はて、どういう事ですかな」
コジロウは、ルークが自分に一剣を見舞う為に旅立ったと知り、会心の笑みを漏らした。
「男というのは、そうでなくてはなりません。ご主人の仇を討つべく、拙者に雪辱の勝負を挑むための修行をするとは感心な事です」
「コジロウさんまでそんな事を…。男の人って本当によく解らない。しかも情けない泣き虫ルークが修行なんて」
「いえいえ、一念発起した男という者は、何が何でも聞かないものです。たとえ貴方の言葉でもです」
「とにかく、助けてくれて有難うございました。あたしはルークを捜しますので、コジロウさんも彼を見つけたら、あたしが捜していたって伝えて下さい」
そう言ってナタリーは、また何処とも知れない旅に出て行った。その眼はただひたすらに、はぐれてしまったルークを見据えていた。
しかし、足運びや木剣の構え方など、彼の隙だらけの構えは目に見えて良くなった。フィリップも、ルーク自身が気づいていない、秘めたる天才を自分の型に嵌めることは好まず、敢えて技などは指南しなかった。
お世話になりました先生、とルークは四日目の暁天、朝陽を背に旅立っていった。離れて行く若者の背を見送りながらフィリップは、溜息を付き、
「四十年近く生きているが、あのような子には出会った事は無い…。後世、実に恐るべき少年だ」
と、嫉妬半分羨望半分の眼差しで一礼した。朝陽はルークの決意を応援するかの如く輝き、新たなる出発をする彼の後ろで光を放った。
ルークが、ホフマン男爵領の首府であるエスホルツに入ったのはその次の日であった。既に夜に入り、夏の月が一点の曇りも無く夜空に輝いていた。もう住民は店を閉め、仕事場から帰り、酒場などで飲んだくれている様子。
しかしルークの嚢中は宿銭にも乏しかったので、今宵は河原の草を緑の寝床にし、夜を明かそうと心に決めた。
滔々と流れるは穏やかな河水、螺鈿細工のように閃々と銀波を煌めかせ、中天から見下ろす黄金の月は河に移り、志向の職人芸のような河面がルークの心を落ち着かせた。
ルークは、ごろりと身を横たえ、澄み渡る満月を見上げた。どうすれば剣の名人になれるだろう。如何にすればコジロウに一剣を見舞う事が出来るだろう。それに、彼の心を乱す物がもう一つあった。
「ナタリー…何処にいるの…」
彼女とはぐれて以来、ルークの心では剣の悩みと恋の懊悩、この二つが奔流の如く乱れあっていた。彼は静かな涙に毎夜頬を濡らし、剣の道に色恋は不要、と自分の心に言い聞かせはしても、須臾の後、また悶々と悩む苦しむ。
この夜もまた、彼が寝付けない夜を過ごしていると、彼の心を憐れむように河原の草も、風に揺られて露を振りこぼした。
するとそこへ、船が水を切る音が聞こえた。人目を忍ぶかの如く灯火を消し、月明かりに影だけが、六文銭の渡し船の如く不気味に動いていた。やがて草の向こうで真っ黒な影が四つ五つ蠢き、総掛かりで一人の女を引っ担いで来る様子。
はて、とルークが物陰に身を潜めていると、必死にもがく女を至極乱暴に放り投げた。
「おいおいお嬢さん、いくら暴れたって男の力に敵うわけ無いだろ。いい加減諦めろ」
「借金こさえたまま逃げようなんて虫の良い話、笑止千万。返す当てが無いのなら繁華街にでも売り飛ばしてやる。それが嫌なら親分の妾になれ」
何にも言わず、ただ睨み付けているだけの女に男達は、啞女のつんぼめっ、と寄って集って殴る蹴る、見かねたルークは飛び出した。
「おい、男がそんな女の人に四人掛かりで酷いじゃないかっ」
「何だ、小僧っ。邪魔するないっ」
と、一人が腕まくりなどして鬼形相。余計な口をきくな、と詰め寄って言う。ルークは、若干怯みつつも、
「煩いっ。狼藉をしながら脅しても無駄だっ。辞めろっ」
「痴れ者の小僧、大言壮語は片腹痛い。お前から先に河に放り込んでやるっ」
ルークは早くも身構えて、覚悟、と木杖で殴り込んで来た者に体当たり、押された男は河に落ちた。
おのれっ、と一同は月明かりに影を伸ばし、さながら狼の如くルークを取り囲んだ。
「生意気な小僧めっ。死にやがれっ」
と、一人が小剣ぎらと抜き、ルークに一閃振り下ろす。ルークもぱっと跳んでそれを躱し、佩剣を抜き払った。
ルークが飛鳥の如く手元に躍り込んだ途端、ぶうんと唸るは相手の横払い。発止と払えば、真っ向から下りてくる。はっと身を沈めて横へ打ち捨てると、戛然、火華が散り、相手は蹌踉めいた。
「この野郎っ。意外にやるぞ」
と、前後左右にいた男共は、ルークの技を見、嘲っていた余裕を改めた。四方八面から振り下ろされる木杖や鉄拳に、ルークは悶絶し次第に一方的な暴行に晒された。ルークは全身血汐にまみれ、意識は混濁とし、息は荒くなった。河波の鼓、草に歌う虫の鳴き声、月光を受ける河の端で、今やルークの命は風前の灯火であった。
河縁を歩く一つの人影があった。一本結びにした黒漆の髪は風に靡き、月光に照らされた面は美しい月すら霞む程である。涼やかな目元を戴く美丈夫は、かのコジロウ・ミヤモトに紛れもない。
彼もまたこの街に滞在していたのだが、姦しい宿屋の喧噪に嫌気がさし、静寂な河原で眠っていた。不意に彼は眼を覚まし、夜風に散歩していたのだが、
「うん? 何の音だ」
と呟き、その方向へ眼を凝らすと、男が五人掛かりで一人を暴行しているではないか。卑怯なっ、と彼は義憤に燃え、集団に駆け寄って抜き打ちに一人を両断した。
「一人に五人掛かりとは卑怯であろうっ。拙者が彼に助太刀致す。文句は言わせぬぞっ」
と言って、仰向けに倒れるルークを背に、残る四人を睨み付けた。
「何だ青二才っ。やっちまえっ」
と、振り込んでくる木杖にコジロウの一閃! カラリと杖が落ちたかと思うと、首も一緒に落ちてきた。
てめえっ、と横合いからまた一人が殴り掛かるがその腕も、いつの間にか血にまみれて地に落ちている。コジロウは、返す刀で身体の方も袈裟斬りにした。
ぶん、と血振りをし、なおも一切の疲れを見せないコジロウに、後の二人は震え上がってしまった。
「この若造めっ。よくも仲間をやりやがったなっ」
と、二人の内一人が木杖で前から殴り掛かって来た。同時に裏に回り込んだ者は、卑怯な騙し斬り、不意打ちにコジロウを脳天から斬り下げようとした――が、
「殺気が隠し切れておらぬぞ」
と、コジロウは身体を廻して、前後の敵を腰から輪切りにしてしまった。煌めく刀の光、舞い散る血煙は、月光とそれに照らされる牡丹桜のようであった。
コジロウは血刀を拭い、死体共に一礼した後、倒れている少年に向き直った。
「やっ、君は…ルーク殿ではないかっ。大丈夫か、しっかりしろっ」
「…」
「これはいかん」
と、コジロウは気絶した彼を担いで、宿屋の一室に入った。
――次の朝、ルークは、頭をさすりつつ起き出した。コジロウは、彼を見て、
「やっと起きたか、瘡は痛むか」
「あ…コジロウさんっ」
「まあ大人しくしていろ」
と、コジロウは敵意など無く、彼の包帯など変えてやり、にわかに、
「そう言えばルーク殿、君の主人のご令嬢と会ったぞ。君を捜している様子だったが、その後会えたか」
「ナタリーですかっ。何処で見たんですかっ」
コジロウは、ナタリーと会った時の出来事を語り始めた。それは彼の魅力をまた大いに高めるものであった。
-ルークとはぐれたナタリーは、五日ほど前にエスホルツに入り、ルークを捜していた。と言うのも、道行く旅人が、それらしき人物がエスホルツに向かっていた、と言うのを聞いたからだった。
建物の間々に差し込む夏の陽差し、吹き込んで来るそよ風にナタリーが疲れた身体を座らせていると、見知らぬ男が一人やって来て、
「その茶髪の少年なら私共の宿におりますよ」
と言う。当然ナタリーは喜び勇んで、男の案内に不用心にも付いていった。しかし、案内されたのは街外れ、待っているのは十人ほどの荒くれ達。
「ど、どういう事? あたしをルークに会わせてくれるんじゃないの? 」
「何がルークだ、この小娘っ。俺達の山砦を焼いておきながらっ」
何ぞ測らん、その者共は先にルーク達と一悶着起こし、ヨーデルに住処を焼かれ、家を失った鼠のように彷徨う元山賊共であったのだ。彼らは、ナタリーを見ると、待っていたかの如く、駆け寄って行き、
「おや、弟の野郎は一緒じゃねえぞ。まあ良い、先にお前を嬲りものにして殺した後、弟の方も見つけ出してやるっ」
「そんな事出来ると思っているのっ。あたしはルークを捜し出すまでは死なないからっ」
と、彼女は細剣を抜き払い、ぎらと一閃、先頭の一人の首を一突きにした。血煙吹いて斃れる仲間に、他は怒り、ナタリーを取り囲んだ。
「小娘っ。命は貰ったっ」
と、振り込んでくる剣の乱れ打ち、閃々、たばしる雨か、石火の稲妻。
うぬっ、と後ろから踏み込んで来た一人は、躱したナタリーに首を落とされる。わっと血を見た狼共、じりじり慎重に詰め寄せる。
面倒なっ、と命知らずの一人が身構えたナタリーにするどく斬り込んだ。しかし、さっと躱され、前のめりな頭をナタリーに両断されてしまった。
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死ね小娘っと、一人が長剣を振り上げ、ナタリーが眼を閉じた瞬間である。
「助太刀致すっ」
と、駆け付けて来た人影、疾風の如き一閃で、ナタリーを屠ろうとした男を斬り捨てた。そのまま群れに突っ込んで、須臾にして、山賊共を物言わぬ肉塊にしてしまった。
血刀を拭い、死骸に一礼してナタリーの方を見、
「麗人、大丈夫ですか」
と、手を伸ばした。男の顔を見、ナタリーは、あっと驚いた。コジロウの方も、思い出したように、
「貴方は…確かルーク殿の姉君でしたな。ルーク殿はご一緒では無いのですか」
「あ、あなたはコジロウさんっ。コジロウさんの方こそルークを見ていませんか」
「はて、どういう事ですかな」
コジロウは、ルークが自分に一剣を見舞う為に旅立ったと知り、会心の笑みを漏らした。
「男というのは、そうでなくてはなりません。ご主人の仇を討つべく、拙者に雪辱の勝負を挑むための修行をするとは感心な事です」
「コジロウさんまでそんな事を…。男の人って本当によく解らない。しかも情けない泣き虫ルークが修行なんて」
「いえいえ、一念発起した男という者は、何が何でも聞かないものです。たとえ貴方の言葉でもです」
「とにかく、助けてくれて有難うございました。あたしはルークを捜しますので、コジロウさんも彼を見つけたら、あたしが捜していたって伝えて下さい」
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