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それからのこと

ライバル

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 少ししてから目の前にギムレットと,燻製されたナッツと練り物が載ったプレートが差し出された。頭を下げてギムレットに口をつける。口の中でほどよい酸味と度数の高いアルコールが心地よく広がり,のどを通っていく。
 この環境と上質で繊細な味付けの燻製、こだわり抜かれたカクテルが私をアルコールとは別の理由で酔わせる。
 気持ちよさに浸っていると,距離を挟んで座った女性がトオルさんに声をかけた。大きな声ではなかったが,横目にトオルさんを見ていた私は敏感に反応した。女性が座っているその席は,いつも私が座るお気に入りの席でもあった。
 
「向こうのカウンターに座っている女性が飲んでいるものと同じものを頂けます?」

 かしこまりました,と微笑むと,手早く液体を入れてシェイクした。
 その女性はトオルさんの仕草をうっとりと見つめている。タイトなスカートから覗いている足はすらっとしているが,ただ細いだけではなく運動によって無駄なものをそぎ落としたような色っぽさがある。カウンターの椅子に足を組んで座っているから短めのスカートがいっそうまくり上げられたような形ではなるが,女性でも思わずちらっと目をやってしまうような妖艶さだ。丸首のニットを身に付けているが,素肌を一切出していないにも関わらず,胸の膨らみのせいで余計にいやらしい目で見てしまう。
 この女はトオルさんに惚れている。そのことが私の嫉妬心をかき立てた。同時に,私はこの女よりも魅力的だろうか,自問した。人となりは分からないが,プロポーションは町を歩いていても間違いなく何人ものを男が振り向き,声をかけるだろう。
 膨張色の白色のニットを着ていることすら憎めてくる。人知れず,ふつふつと私の中で何かが湧き上がった。


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