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幼馴染が戯れている

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 入学式から3週間が経った月曜日。暁斗が最初の一週間ですでに打ち解けた二人組と、俺はその二人組を紹介されて、今は四人グループみたいな感じだ。

「二人ともおっはよー!」

 校門前で、一緒に登校していた暁斗が反対側から歩いてくる二人を見つけた。うるさいほど元気に声をかけ、後ろから軽く肩を叩く。彼らも幼馴染らしく、今日も二人で登校しているようだ。

「おはよう。」「おう、おはよう。」

 息ぴったりに二人が返事をした。
 癒やし系っぽい雰囲気でマイペースな方が山崎巧やまざきたくみ。たまに、何処のと詳しくはわからないが訛ってたりする。センター分けで…なんかこいつすげー髪サラサラだな。
 落ち着いた雰囲気で好青年っぽい方は樋口孝代ひぐちこうだいだ。いい感じの筋肉に、高めの身長。短髪のツーブロック。なんて好印象な奴だろう。

「日下部おはよう。」「忍おはよう。」
「ん。はよ。」

 息ぴっ(以下略)。フルネームだと日下部忍だから、巧には『日下部』、孝代には『忍』と呼ばれている。暁斗も巧には『吉佐』と呼ばれているが、吉佐きさ、と名字で呼ぶ人間の方が少ない。吉佐暁斗、なので、クラスが同じになると新学期は大抵俺の一個前の席だ。
 合流して、決まりつつある定位置に並ぶ。俺から見て、右隣は暁斗で、その右は孝代、そのさらに右が巧である。

「二人共息ぴったりかよ~♪流石幼馴染コンビだな!」

 暁斗が口を開けて、楽しそうに笑う。
 暁斗は学校で、いつもよりテンション高めに振る舞う。その為若干チャラく思われがちなところがあるが、この二人はそういう色眼鏡で見てこない。だから俺もこいつらとはこれからも上手く付き合っていけたらと思っている。

「いやそっちもじゃん!」
「そうでした☆」

 孝代はツッコミに回ることが多く、暁斗はボケて会話を始める。孝代は、巧がたまに天然ぽい言動をとるからか、しっかりしている。
 俺はというと、たまに笑ったりツッコむが、その後の反応次第ではボケだと思われてツッコまれることもある。少し心外だ。俺はいつでも本気だというのに。

「まぁ、いいから教室行こか。」

 巧がにっこり笑って少し強い口調で促す。遅刻するわけでもないが、早めに行っておいて損はない。
 あれ、心なしか孝代の表情が硬い気がする。どうしたのだろう。春だし、暑くもないのに汗をかいている。
 俺は一歩後ろに下がった。後ろから孝代の肩を引いて暁斗と少し距離を取り、声を潜めて聞いてみた。

「おい、大丈夫か。」
「な、何が?」
「汗かいてる。具合悪いのか。」
「いや…たぶん、大丈夫」

 たぶんとは何ごとだ。含みのある言い方だな。
 まぁ、たぶん本能的に?これ聞いたら駄目なやつだなと思ったので深くは追求しないでおくが、

「無理すんなよ。」
「ありがとう。」

 なんだか、にこにこしてるはずの巧から、異様なまでの圧を感じる。表情は変わってなかったけど舌打ちされたんだから、気の所為ではないはずだ。何だって言うんだ、怖いな。

 そして俺は大股で一歩進み、暁斗の隣へ戻った。




▲巧

 俺と孝代は幼馴染で、且つ恋人。中3の夏休みに俺が押し倒してキスしてもて、なんやかんやで付き合い始めた。そして今俺は妬いている。元から嫉妬深い質なので、心の安定が取れていない今、結構イライラしている。

 実を言うと今孝代とは喧嘩中。学校で空気を悪くしないよう態度には出さんけど、土曜にセックスの回数増やさん?て、営業スマイル作って提案したらキレられただけねんけどな。

 付き合い始めてからは毎週土曜の夜、(夜は看護師の母さんが夜勤、夜景が綺麗な高級レストラン勤務の父が働きに出る時間帯やし。土曜なのは学校とかの影響。)…まぁ俺の家でするのが定番化したから、そろそろ慣れたかな思って言うたんな。はぁッ?て言われてしもたわ。(チッ)

 ぎこちない笑顔で固まる恋人を、俺は能面のような無表情で見つめる。口パクで、「帰ったら」
と言ってニッコリと笑みを作った。



△孝代

 やばい。

 あの顔、相当キレてる…。巧って怒ってる時とか何か企んでる時、いつも営業スマイルなんだよ…。だから危険サインなんだけど、
 じっと見られてるのも笑顔なのもすごいドキドキする!!!

 だって巧って行動格好いいし性格可愛いし顔綺麗だし俺には基本優しいし、でもたまにちょっと強引な時あって男前っていうかもう…。
 最初、押し倒してキスされた時とかマジで格好良かった…。もっかいしてくれとか絶対言えない。

 あ~でもやばいな、これ。あ、なんか言ってる…

『か、え、った、ら』…………

 ゾクゾクゾクッと悪寒がして一気に背筋を伸ばした俺は、迫りくる試練に覚悟を決めた。





→主→人→公→視→点→ヘ→

 昼休みに、俺達は特にやることもなく、なんとなくで巧の席に集まって談笑していた。

「そんでな~、孝代実はめっちゃくすぐったがりなんよ?意外やろ。」
「え、おい何言って…!!」
「へぇー、意外!!」

 暁斗は、新しい玩具を見つけた子供のように無駄にキラッキラした目で孝代を見た。あ~…こうなったら俺に言えることはただ一つ。
 …頑張れ孝代!!








「忍、孝代抑えて!!」
「ヒッ」
「………ごめんw」
「おい語尾!!それごめんと言っているようで言ってなッ!」

 暁斗はこう見えてくすぐるのがすごく上手い。それに、暁斗は大抵の人がくすぐったいであろう、脇、脇腹、足の裏の何処をくすぐっても笑わない。幼い時は躍起になってそこをくすぐったが、結局弱点は見当たらなかったのだった…。

 まず、暁斗は孝代の脇をくすぐった。

「ひっ、ふっハハッアハッ~~っ、や、めっ~~~~~~!!!!」

 涙まで浮かべて、大爆笑?している。大人っぽい雰囲気が壊れ少し幼い感じがするため、ちょっと親近感が湧かないでもない。待て待て笑い過ぎて声になってない。合間合間にはくはくと痙攣するように口が動いている。息してるか。大丈夫か。
 でもわかるぞ。昔の俺もそうだった。ほぼ呼吸困難だったしマジで苦しかった。あれ実際笑い過ぎて立ってられなかったしな。本気で一種の拷問だよな。

 言いだしっぺの巧は、涙を浮かべて酸欠に喘ぐ孝代をニヤケ混じりに観察している。
 ……………だんだん心配になってきたぞ。呼吸とか。暁斗もそう思ったのか、一拍おいて脇腹に移った。
 孝代は主犯の暁斗には目もくれず、巧をじっと睨んでいる。しかし依然として涙目なので全く怖くない。

「ひゃえっ、ふっ~~~~くっ~~~~ッッッ」

 あ、駄目そうだ。
 窘めるニュアンスを込めて名前を呼ぶと、暁斗はごめんごめんと孝代に笑いかけていた。


 ………そういえば、紅葉さん暁斗母に聞いた暁斗の弱点、まだ試してなかったな…。
 俺は孝代を解放し、彼に無言で暁斗の体を預けてみた。そして案の定孝代は暁斗を固定し、コクリと頷いたのだった。

「え、と…ちょ、忍クン??どした?」

 邪悪に笑う俺を見て、暁斗は困惑気味に俺に笑いかけた。








「ふっ、ふぁっ、ひゃ、ふ、ぅ…っっ~~~~、やめっん~っっくぁ、アハハハハハハハハッ!!」

 いやぁ、母親って偉大だなぁ…。あの暁斗が…。ね。…ふぅ…。可愛いなぁ…、もっとやりたくなってしまう。
 ていうかなんかエロいな。((((
 まぁ、それは置いておいて、今は積年の恨み?晴らせて快感だわ。

(どこが弱点だったかはご想像にお任せします☆)
    
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