最終話

第一世界 物語

　かけがえのない日常。今までの普通の日常がとても大切だと知ったとき、もうすでに遅かった。


「愛ちゃーん！！」
　俺は声のした方向を振り向く。すると幼馴染の香奈太がいた。
　俺は愛川　潤。美濃高校に通う高校三年生だ。
「どうしたんだ？」
「愛ちゃん。お弁当忘れてたよ」
「ごめん……ありがとう」
　俺は香奈太が手に持っていた弁当箱を手に取る。
　——いつもの日常。それが崩れるとは思わなかった。
「すまない。大丈夫か？」
「へ、何が？」
　香奈太はまだ気付いていない、いや、まだ知らない。香奈太が死ぬことを。
　俺はこの世界を三度経験している。一度目に香奈太は交通事故で死んだ。二度目には発癌し、心停止。そして今、この三度目の世界では香奈太がどうなるか。俺は今、とてもビクビクしている。
　死ぬことをカミングアウトするべきか。でも到底そんなことを言っても信じてもらえるはずがない。
「ねぇ、この世界ってときに残獄だよね」
　俺は一瞬、その言葉を呑み込めなかった。どういう意味だ？
　この物語の伏線か？
　——物語？　何のことだ？
　俺は自分で自分のことが時々わからなくなる。

つづく