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株式会社GEARの裏側2
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安井との面談は既に2時間を超えていた。次回までに利益をあげるというニーズを満たすために、安井のデータ分析技術がどう活用できるか、ということを考えてくるよう課題を与えた上で、一旦区切ることにした。
安井はこの課題を聞いた時に、疑問に思っていた履歴書と職務経歴書がいらない理由がわかった気がした。確かにこの視点から考えて提案資料を作る場合、履歴書と職務経歴書というフォーマットで伝えられることは、それほど重要ではないと想像できたからだ。次回の面談の予定を決めて帰路につくころには、安井は生まれ変わったような気分になっていた。石原に出会えてよかった、心からそう思っていた。
石原と桜井はビルの外まで見送りを済ませ、お茶とお菓子の片づけをしようと面談室に戻ると、既に金城が片づけを始めていた。気が利く金城の良さを褒めつつも、石原はGEARとしては、上司や先輩に余計な気遣いはいらないことを伝えた。おなじ仲間で、家族のようなものなので、相手が喜ぶと思った気遣いはどんどんして欲しいが、一般企業のような上下関係における気遣いは無用で、それよりもお客さんや社会に目を向けて活動をしてほしかったからだ。その気持ちを金城も理解したようだった。
そして各々席に戻ったあと、また桜井は金城に質問攻めにあっていた。質問の内容から察するに面談中の話を、全て聞き耳を立てて聞いていたのだろう。今日はもう桜井は仕事どころではないな、と感じた石原は徐に収納ボックスに歩み寄り、ごそごそと何かを物色し始めて、2人の会話に割って入った。
「今日ってこのあと2人は予定ある?」
「ないです。」
2人の声がシンクロした。金城はポカンとしていたが、桜井は何かを察したようにウキウキとした顔をしていた。
「じゃ、これ。」
石原はそう言うと珍しい缶詰と、無添加の国産高級乾物の詰め合わせをテーブルの上に広げた。そして来客用ではないオフィスの奥にひっそりと鎮座する冷蔵庫からキンキンに冷えた地ビールを取り出して配った。
「社長、まだ15時過ぎですよ、、、それになんでオフィスに地ビールなんて、、、」
驚く金城をよそに、桜井はそそくさとデスクの周りを整理し、テキパキと缶詰と乾物を面談スペースに運び出した。
その姿を横目に、石原はいたずらっ子のような目をして金城に聞いた。
「そうだね、では金城さんに質問です。就業時間内にお酒を飲んではいけない理由はなんでしょう?」
金城は自分が間違っているのか、とふと考えてしまったが、思いついたことを答えてみた。
「もしお客さんから電話があったら、、、」
「電話対応ができなくなるほど泥酔しなければ解決だね。」
「もし急な来客があったら、、、」
「急に来るようなお客さんはいないし、いてもアポなしで来られているので、社内で歓迎会をしていて怒るようなお客さんはうちにはいないよ。」
「もし、、、」
と話始めた時に珍しく石原に遮られた。
「金城さん。ダメな理由を考えてリスクヘッジすることも大切だけど、そこから先に思考を持っていって、どうすれば解決できるか考えた方がワクワクしない?」
金城は意固地になっている自分が馬鹿らしくなった。それと同時に、習慣としてなんとなくダメと思っていたことも、よくよく考えるとダメじゃない、もしくは解決できる方法があるんだ、ということを教わった気がした。
実際はただただ石原が飲みたかっただけのことなのだが、、、
「それに金城さんの歓迎会もまだだったしね。あっ、でもまた正式な歓迎会はおいしいお店でやろうね。」
とまたいたずらっ子のような目をして石原は言い残し、ビール片手に面談室へ消えていった。金城はそう言えば採用面接のときにお酒は好きか聞かれて、大好きと答えたことを思い出していた。
金城も最初は理性で反論していたが、石原がチョイスしたこだわり乾物と、地ビールが金城の好みどストライクだったので、瞬く間に理性がどこかに行ってしまい、酒飲みの本能がニョキニョキと顔を出してきていた。
安井はこの課題を聞いた時に、疑問に思っていた履歴書と職務経歴書がいらない理由がわかった気がした。確かにこの視点から考えて提案資料を作る場合、履歴書と職務経歴書というフォーマットで伝えられることは、それほど重要ではないと想像できたからだ。次回の面談の予定を決めて帰路につくころには、安井は生まれ変わったような気分になっていた。石原に出会えてよかった、心からそう思っていた。
石原と桜井はビルの外まで見送りを済ませ、お茶とお菓子の片づけをしようと面談室に戻ると、既に金城が片づけを始めていた。気が利く金城の良さを褒めつつも、石原はGEARとしては、上司や先輩に余計な気遣いはいらないことを伝えた。おなじ仲間で、家族のようなものなので、相手が喜ぶと思った気遣いはどんどんして欲しいが、一般企業のような上下関係における気遣いは無用で、それよりもお客さんや社会に目を向けて活動をしてほしかったからだ。その気持ちを金城も理解したようだった。
そして各々席に戻ったあと、また桜井は金城に質問攻めにあっていた。質問の内容から察するに面談中の話を、全て聞き耳を立てて聞いていたのだろう。今日はもう桜井は仕事どころではないな、と感じた石原は徐に収納ボックスに歩み寄り、ごそごそと何かを物色し始めて、2人の会話に割って入った。
「今日ってこのあと2人は予定ある?」
「ないです。」
2人の声がシンクロした。金城はポカンとしていたが、桜井は何かを察したようにウキウキとした顔をしていた。
「じゃ、これ。」
石原はそう言うと珍しい缶詰と、無添加の国産高級乾物の詰め合わせをテーブルの上に広げた。そして来客用ではないオフィスの奥にひっそりと鎮座する冷蔵庫からキンキンに冷えた地ビールを取り出して配った。
「社長、まだ15時過ぎですよ、、、それになんでオフィスに地ビールなんて、、、」
驚く金城をよそに、桜井はそそくさとデスクの周りを整理し、テキパキと缶詰と乾物を面談スペースに運び出した。
その姿を横目に、石原はいたずらっ子のような目をして金城に聞いた。
「そうだね、では金城さんに質問です。就業時間内にお酒を飲んではいけない理由はなんでしょう?」
金城は自分が間違っているのか、とふと考えてしまったが、思いついたことを答えてみた。
「もしお客さんから電話があったら、、、」
「電話対応ができなくなるほど泥酔しなければ解決だね。」
「もし急な来客があったら、、、」
「急に来るようなお客さんはいないし、いてもアポなしで来られているので、社内で歓迎会をしていて怒るようなお客さんはうちにはいないよ。」
「もし、、、」
と話始めた時に珍しく石原に遮られた。
「金城さん。ダメな理由を考えてリスクヘッジすることも大切だけど、そこから先に思考を持っていって、どうすれば解決できるか考えた方がワクワクしない?」
金城は意固地になっている自分が馬鹿らしくなった。それと同時に、習慣としてなんとなくダメと思っていたことも、よくよく考えるとダメじゃない、もしくは解決できる方法があるんだ、ということを教わった気がした。
実際はただただ石原が飲みたかっただけのことなのだが、、、
「それに金城さんの歓迎会もまだだったしね。あっ、でもまた正式な歓迎会はおいしいお店でやろうね。」
とまたいたずらっ子のような目をして石原は言い残し、ビール片手に面談室へ消えていった。金城はそう言えば採用面接のときにお酒は好きか聞かれて、大好きと答えたことを思い出していた。
金城も最初は理性で反論していたが、石原がチョイスしたこだわり乾物と、地ビールが金城の好みどストライクだったので、瞬く間に理性がどこかに行ってしまい、酒飲みの本能がニョキニョキと顔を出してきていた。
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