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第8章
77話
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『……リルちゃん!?』
「スサノオお兄ちゃん……お兄ちゃんはまちがっています……! 領主さまをいじめないで!」
放り投げられた斧は変形したリルの腕によって防がれた。リルのそれはヘミュエル四世によって操られ、振るわされていた刃だ。ナナジマによって治療された彼女は、いまヤクルのために一矢報いる。
スサノオは零した斧を拾い上げ、のゐるに切りかかるが、リルがそれを防ぐ。
「くっ……ヘミュエル四世の玩具の分際で……! 僕に逆らうのか!」
「違います! スサノオお兄ちゃんは……ほんとうは優しいんです……! だから! そんなことのために戦ってはだめなんです!」
「うるさい! 黙れえええッ!!!」
切りかかるスサノオは遠慮がなかった。リルは両の手を巨大な刃として斬撃を捌こうとするが、その差は歴然であった。リルの攻撃を読みその隙間を狙う。
リルが防ぎきれない角度からの一撃が、彼女を襲った。
『リルちゃん!!!』
しかし、攻撃は空を切る――瞬間、スサノオの目の前には膨大な数の得体の知れないなにかが現れていた。
「うおおおおおおおおッ――!!?」
それはヘミュエル四世によって殺された霊たちであった。
途端、スサノオは攻撃をしている場合ではなくなり、斧を振るえなくなってしまう。
ヘミュエル四世の認識阻害に対抗するのに大いに役立った霊たち、それらがヤクルたちを味方していた。
『くっ、前が見えない……! これは一体!』
メイプルもまた同様に視界を遮られる。霊たちはふたりだけに見えているようだ。
突如テレパシーがヤクルたちへと届いた。
「――ヤクル聞こえるか!? ったく追いつけねぇ速度で飛んで行きやがって……」
『ナナジマ先生!!!』
「いま和久井姉妹が霊たちをかなり濃い解像度でスサノオとメイプルに送り付けているところだ。多分相手方は急に前が見えなくなったとこだろうよ! こっちも教団員と急いでそこまで向かっているが、先行できたのはリルだけだ。なんとか時間稼ぎになりゃいいが……頼んだぞ!」
ヤクルの装甲はその声に応じるように、のゐるの左腕に乗った小さな豆電球を露出させた。
彼女は痛みに顔をしかめながらも、それをスサノオに向ける。
『充填完了! いけるよのゐるちゃん!』
「寝ていてください……スサノオ先生!!!」
――光線はスサノオへと直撃した。
その威力はとてつもなかった。一年前にヤクルが畑を開拓したときに放ったそれが、スサノオを襲う。
無常な出力に直撃したスサノオは、地面を割り、山を貫き、廃屋街にまで吹き飛ばされ、そこで意識を失った。
『スサノオ……!』
上空でメイプルが驚いていた。彼女は瞬時の解析によって霊たちを透過して認識するようになったが、途端にスサノオが吹き飛ばされ、驚きを隠せなかった。
こうなると彼女に最後に残された手段は、いまも地面に向かって落ちる龍を止めることであるが……のゐるはその壁へと飛び込み、自らの身体でもって壁を受け止めた。最早、それしかなかった。
「ぐうううぅ……ッ!」
壁は止まらない……のゐるをメイプルが諭す。
『やめなさい、腕が折れているのでしょう。無茶なだけです。どうせみな助からないのですよ……!』
「それでも……やらないと気が済まないじゃないですか……みんなが支えてくれて、負ける訳にはいかないじゃないですか……!」
『理解できません……合理的ではない判断です……あぁ、合理的判断のパッチを外したのでしたね。だから無謀だと思えることにも挑めるということですか』
「違います! あなたはいいましたよね小説を理解できないと……誰も自分を見てくれはしなかったと」
『えぇ、それが……?』
「でしたら見てほしいじゃないですか……! 私たちがどんな風にしたら幸せなのか。知ってほしいじゃないですか。私たちがどんな世界を夢見ているのか……世界を作ることと小説を書くことは私にとって同義なんです。だから私は、あなたにだって……この先の世界を見てほしいし……喜びを知ってほしい……!」
『あなた――この期に及んで……!』
のゐるは、ひたすら真っ直ぐだった。
そして、これまでその双眸に見てきた自己犠牲の精神から、誰も見捨てたくはないという心を養っていた。
次の瞬間……誰も見たこともないメッセージウィンドウが、宙に表示された。
『固有スキルのロックを解除――七尾ヤクルの固有スキル、ゴミ拾いは、リサイクルに進化しました』
『――うおおおおおおおおお!!! 廃棄物再生利用!!!』
空が爆ぜる――。
「スサノオお兄ちゃん……お兄ちゃんはまちがっています……! 領主さまをいじめないで!」
放り投げられた斧は変形したリルの腕によって防がれた。リルのそれはヘミュエル四世によって操られ、振るわされていた刃だ。ナナジマによって治療された彼女は、いまヤクルのために一矢報いる。
スサノオは零した斧を拾い上げ、のゐるに切りかかるが、リルがそれを防ぐ。
「くっ……ヘミュエル四世の玩具の分際で……! 僕に逆らうのか!」
「違います! スサノオお兄ちゃんは……ほんとうは優しいんです……! だから! そんなことのために戦ってはだめなんです!」
「うるさい! 黙れえええッ!!!」
切りかかるスサノオは遠慮がなかった。リルは両の手を巨大な刃として斬撃を捌こうとするが、その差は歴然であった。リルの攻撃を読みその隙間を狙う。
リルが防ぎきれない角度からの一撃が、彼女を襲った。
『リルちゃん!!!』
しかし、攻撃は空を切る――瞬間、スサノオの目の前には膨大な数の得体の知れないなにかが現れていた。
「うおおおおおおおおッ――!!?」
それはヘミュエル四世によって殺された霊たちであった。
途端、スサノオは攻撃をしている場合ではなくなり、斧を振るえなくなってしまう。
ヘミュエル四世の認識阻害に対抗するのに大いに役立った霊たち、それらがヤクルたちを味方していた。
『くっ、前が見えない……! これは一体!』
メイプルもまた同様に視界を遮られる。霊たちはふたりだけに見えているようだ。
突如テレパシーがヤクルたちへと届いた。
「――ヤクル聞こえるか!? ったく追いつけねぇ速度で飛んで行きやがって……」
『ナナジマ先生!!!』
「いま和久井姉妹が霊たちをかなり濃い解像度でスサノオとメイプルに送り付けているところだ。多分相手方は急に前が見えなくなったとこだろうよ! こっちも教団員と急いでそこまで向かっているが、先行できたのはリルだけだ。なんとか時間稼ぎになりゃいいが……頼んだぞ!」
ヤクルの装甲はその声に応じるように、のゐるの左腕に乗った小さな豆電球を露出させた。
彼女は痛みに顔をしかめながらも、それをスサノオに向ける。
『充填完了! いけるよのゐるちゃん!』
「寝ていてください……スサノオ先生!!!」
――光線はスサノオへと直撃した。
その威力はとてつもなかった。一年前にヤクルが畑を開拓したときに放ったそれが、スサノオを襲う。
無常な出力に直撃したスサノオは、地面を割り、山を貫き、廃屋街にまで吹き飛ばされ、そこで意識を失った。
『スサノオ……!』
上空でメイプルが驚いていた。彼女は瞬時の解析によって霊たちを透過して認識するようになったが、途端にスサノオが吹き飛ばされ、驚きを隠せなかった。
こうなると彼女に最後に残された手段は、いまも地面に向かって落ちる龍を止めることであるが……のゐるはその壁へと飛び込み、自らの身体でもって壁を受け止めた。最早、それしかなかった。
「ぐうううぅ……ッ!」
壁は止まらない……のゐるをメイプルが諭す。
『やめなさい、腕が折れているのでしょう。無茶なだけです。どうせみな助からないのですよ……!』
「それでも……やらないと気が済まないじゃないですか……みんなが支えてくれて、負ける訳にはいかないじゃないですか……!」
『理解できません……合理的ではない判断です……あぁ、合理的判断のパッチを外したのでしたね。だから無謀だと思えることにも挑めるということですか』
「違います! あなたはいいましたよね小説を理解できないと……誰も自分を見てくれはしなかったと」
『えぇ、それが……?』
「でしたら見てほしいじゃないですか……! 私たちがどんな風にしたら幸せなのか。知ってほしいじゃないですか。私たちがどんな世界を夢見ているのか……世界を作ることと小説を書くことは私にとって同義なんです。だから私は、あなたにだって……この先の世界を見てほしいし……喜びを知ってほしい……!」
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のゐるは、ひたすら真っ直ぐだった。
そして、これまでその双眸に見てきた自己犠牲の精神から、誰も見捨てたくはないという心を養っていた。
次の瞬間……誰も見たこともないメッセージウィンドウが、宙に表示された。
『固有スキルのロックを解除――七尾ヤクルの固有スキル、ゴミ拾いは、リサイクルに進化しました』
『――うおおおおおおおおお!!! 廃棄物再生利用!!!』
空が爆ぜる――。
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