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第8章
76話
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「なぜいまになってステータスを振る必要がある……」
スサノオにはその光景が理解できなかった。既にヤクルは人造人間としてステータスを極め切っており、これ以上経験値を配分する必要などないと判断していたからだ。
しかし、のゐるはこれが自分たちの勝利への近道であると確信していた。
話はデバッグルームでのヘミュエルとのやり取りにまで遡る。
「――そこで。実は君たちに会わせたい人がいるんだけど……」
「会わせたい人……って、あなたは!」
のゐるは驚いた。まさかこのデバッグルームに自分たちの宿敵の相手が佇んでいるなど、想像もできないことだった。
『あなたたち……まだ生きていましたか』
それは、ヤクルとルルカが鉄塔を破壊しに赴いた際に撃破したゴーレムであった。
「紹介するよ、人造人間のフィリップス。この子は俺が最初に作った子なんだよ。会ったことはあるよね」
「えっ、人造人間……!? 俺やヘミュエル四世と同じ!? 嘘だよ! だって身体らしきものがないし……」
『失礼ですね。たしかに身体の九十八%はもうありませんがちゃんと人間ですよ……ほら』
ペストマスクの男は、手袋を脱いでヤクルへと見せた。
「あ、ほんとだ……って人差し指だけ!? いやそりゃわかんないでしょ。鑑定持ちのスサノオ先生にも気付かれてなかったし……」
「あとヤクル君ほら、この口ばしマスクは鳥人族のシンボルで俺のマークなんだよ。せめていま気付いてほしかったなー」
ルルカがジトっとした目で応じた。
『アンタそりゃ無理だよ……それよりこの人がなんなのさ? っていうかどうしてデバッグルームに?』
へミュエルが得意げに話す。
「いいこというねルルカちゃん。それはフィリップスが世界発の人造人間でありながら、とある特殊な固有スキルを持っているからだよ。フィリップスはそれを使って、いざというときにみんなの手助けをしてくれるから。ね? フィリップス」
『嫌です』
ヘミュエルがニコニコしながら放つが、フィリップスの返事は辛辣だった。
ヤクルが苦言をいう。
「なっ、この人制作者のいうこと聞かないよ! 修理してよ修理!」
「まぁまぁ。とはいえフィリップスがここにいるってことはもう死んでるってことなんだよね。そこで、ヤクル君のリサイクルは実はスキルを進化させることで、死んだ人の能力を借りることができる。いまのゴミ拾いから、次の段階に至るまでステ振りをしないといけないんだよね」
なおもフィリップスが口を挟む。
『ヘミュエル様、なぜ私がこの人たちの手助けを……!』
「まぁまぁまぁまぁフィリップス。君だってメイプルに操られていただけで彼女の手助けをしたい訳じゃなかったんでしょ? だったらそもそもこの人たちに恨みなんてないじゃない。力を貸してあげてよー……ダメ元でいいから」
『私だって嫌なものは嫌です! どうして私を壊した相手を私が助けなければならないんですか! 遠慮します! お断りです!』
「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ。そもそもヤクル君に壊されたかもしれないけど、最期は自爆だったじゃない。とにかくヤクル君は困ったらステ振りをしてね。これまで振ってなかったものもヘミュエル四世の分も全部だよ。フィリップスは俺が説得しておくから……! あーもー違うってフィリップスちゃんと聞いてよ」
――などとやり取りして、結局いい返事を貰うことなくヤクルたちは戻ってきてしまっていた。とにかくいまは信じてステータスを振るしかない。
「ヤクルさん……! ステ振りいまどんな感じですか!?」
『世界滅亡のときに収集した分の振り分けが半分くらいです! ヘミュエル四世の分がまだ……!』
ヤクルは要領がわるく手こずっていた。空から龍の壁が迫って来ている。ステータスの振り分けが済めばフィリップスが手助けしてくれるという確証もないが、最早これしかないという想いで続けるしかなかった。
「い……急いでください! スサノオ先生がまた!」
「無駄な抵抗はよせ! いい加減負けを認めろッ!!!」
「――」
スサノオがついにのゐるのもとまで戻り、攻撃が再開した。のゐるが装甲を操っているため、なんとか対応できてはいるが、爆弾が落ちてくるこの状況に加えてやはりスサノオの固有スキルがあまりにも厳しい。
このままでは敗色濃厚……いつかスサノオに隙を見せてしまい、やられてしまう。
「くっ……このままではどんなにがんばっても負け……」
そのとき、スサノオが斧から手を離した。それはスサノオが狙ってやったことではない。偶然彼の手から放れたのだ。
しかし斧は、のゐるへ真っ直ぐ飛んでいく。あくまで偶然のことであったため対応が遅れた。
のゐるの顔目掛け斧が飛ぶ。
防ぎきれない……。
「――」
その斧を防いだのは――リルであった。
「やめてください……スサノオお兄ちゃん……!」
スサノオにはその光景が理解できなかった。既にヤクルは人造人間としてステータスを極め切っており、これ以上経験値を配分する必要などないと判断していたからだ。
しかし、のゐるはこれが自分たちの勝利への近道であると確信していた。
話はデバッグルームでのヘミュエルとのやり取りにまで遡る。
「――そこで。実は君たちに会わせたい人がいるんだけど……」
「会わせたい人……って、あなたは!」
のゐるは驚いた。まさかこのデバッグルームに自分たちの宿敵の相手が佇んでいるなど、想像もできないことだった。
『あなたたち……まだ生きていましたか』
それは、ヤクルとルルカが鉄塔を破壊しに赴いた際に撃破したゴーレムであった。
「紹介するよ、人造人間のフィリップス。この子は俺が最初に作った子なんだよ。会ったことはあるよね」
「えっ、人造人間……!? 俺やヘミュエル四世と同じ!? 嘘だよ! だって身体らしきものがないし……」
『失礼ですね。たしかに身体の九十八%はもうありませんがちゃんと人間ですよ……ほら』
ペストマスクの男は、手袋を脱いでヤクルへと見せた。
「あ、ほんとだ……って人差し指だけ!? いやそりゃわかんないでしょ。鑑定持ちのスサノオ先生にも気付かれてなかったし……」
「あとヤクル君ほら、この口ばしマスクは鳥人族のシンボルで俺のマークなんだよ。せめていま気付いてほしかったなー」
ルルカがジトっとした目で応じた。
『アンタそりゃ無理だよ……それよりこの人がなんなのさ? っていうかどうしてデバッグルームに?』
へミュエルが得意げに話す。
「いいこというねルルカちゃん。それはフィリップスが世界発の人造人間でありながら、とある特殊な固有スキルを持っているからだよ。フィリップスはそれを使って、いざというときにみんなの手助けをしてくれるから。ね? フィリップス」
『嫌です』
ヘミュエルがニコニコしながら放つが、フィリップスの返事は辛辣だった。
ヤクルが苦言をいう。
「なっ、この人制作者のいうこと聞かないよ! 修理してよ修理!」
「まぁまぁ。とはいえフィリップスがここにいるってことはもう死んでるってことなんだよね。そこで、ヤクル君のリサイクルは実はスキルを進化させることで、死んだ人の能力を借りることができる。いまのゴミ拾いから、次の段階に至るまでステ振りをしないといけないんだよね」
なおもフィリップスが口を挟む。
『ヘミュエル様、なぜ私がこの人たちの手助けを……!』
「まぁまぁまぁまぁフィリップス。君だってメイプルに操られていただけで彼女の手助けをしたい訳じゃなかったんでしょ? だったらそもそもこの人たちに恨みなんてないじゃない。力を貸してあげてよー……ダメ元でいいから」
『私だって嫌なものは嫌です! どうして私を壊した相手を私が助けなければならないんですか! 遠慮します! お断りです!』
「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ。そもそもヤクル君に壊されたかもしれないけど、最期は自爆だったじゃない。とにかくヤクル君は困ったらステ振りをしてね。これまで振ってなかったものもヘミュエル四世の分も全部だよ。フィリップスは俺が説得しておくから……! あーもー違うってフィリップスちゃんと聞いてよ」
――などとやり取りして、結局いい返事を貰うことなくヤクルたちは戻ってきてしまっていた。とにかくいまは信じてステータスを振るしかない。
「ヤクルさん……! ステ振りいまどんな感じですか!?」
『世界滅亡のときに収集した分の振り分けが半分くらいです! ヘミュエル四世の分がまだ……!』
ヤクルは要領がわるく手こずっていた。空から龍の壁が迫って来ている。ステータスの振り分けが済めばフィリップスが手助けしてくれるという確証もないが、最早これしかないという想いで続けるしかなかった。
「い……急いでください! スサノオ先生がまた!」
「無駄な抵抗はよせ! いい加減負けを認めろッ!!!」
「――」
スサノオがついにのゐるのもとまで戻り、攻撃が再開した。のゐるが装甲を操っているため、なんとか対応できてはいるが、爆弾が落ちてくるこの状況に加えてやはりスサノオの固有スキルがあまりにも厳しい。
このままでは敗色濃厚……いつかスサノオに隙を見せてしまい、やられてしまう。
「くっ……このままではどんなにがんばっても負け……」
そのとき、スサノオが斧から手を離した。それはスサノオが狙ってやったことではない。偶然彼の手から放れたのだ。
しかし斧は、のゐるへ真っ直ぐ飛んでいく。あくまで偶然のことであったため対応が遅れた。
のゐるの顔目掛け斧が飛ぶ。
防ぎきれない……。
「――」
その斧を防いだのは――リルであった。
「やめてください……スサノオお兄ちゃん……!」
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