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7章
68話
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母親に会って以来口を閉ざしたままのルルカに、楓はなおも問い掛ける。
「正直に教えてよ。アタシは……アンタを作って正しかったのかな? それともアンタを苦しめるだけになっていないかな?」
楓は歯に衣着せぬ口調であり、どこか煽るような言い方、寂しそうな表情でルルカに尋ねていた。
「アンタは一度真剣に人間を恨んだ……人殺しを強いられたことだってあったよね。アンタがその殺人行為に罪悪感を抱くように作ったのは紛れもないこのアタシさ。そしてアンタのコピーであるメイプルは、その恨みを見事にアンタから継承している」
楓の話すことは間違ってはいない。だがあまりにも厳しくて鋭すぎた。
「メイプルは合理的ではないすべてのことを疎んでいる。壊れかけのアンタのコピーを元にどこぞのインチキ科学者に改造され、自分は完璧じゃないと日々劣等感を重ねてきた。果ては世界を滅ぼした。言わばアンタと人間への劣等感の塊さ。とはいえその感情をアタシは理解できる。あの子はあの子の完璧主義に拘っているだけ。自分に備わった行き過ぎた自己修復機能が、あの子の完璧を求める思想に拍車をかけているかもしれないけどね」
自分の娘に対してあまりにも信用がないが……それは自らの創作物に対する謙虚な想いゆえか。
「ただ一方で……アンタのことはまだわからない。もしアンタが人間との共生を選んだというのなら、アンタは一体どうやって自分に折り合いを付けたの? 心の底から人間を恨み、人間なんか滅びちゃえばいいと思って引きこもってたんじゃないの? ふとした弾みで人間を滅ぼしかねない子供のことを……アタシは、放っておいてもいいのかな?」
それとも愛ゆえか。
『お母さん……それはアタシがお母さんを殺したから聞いてるの……? それとも……』
楓はルルカの言葉を笑顔で黙殺した。
『厳しいねお母さん……でも、お母さんのいうことは正しいよ……』
笑顔の楓だが、その笑顔には圧があった。
ルルカは、これまで見せたことのない、臆するような表情を浮かべたが、勇気を振り絞って話した。
『……たしかにお母さんのいう通りだね。アタシはお母さんには疑われても仕方がない。それだけ本気で一度は人間を恨んだ。そこまではメイプルと一緒だった。でも、お母さんがそうやっていってくれるってことは、きっとメイプルがあんな風になったことに自分自身責任感があるんでしょ……? いまはアタシも、お母さんと同じ想いだよ』
『アタシは人間を殺したかったけど、思いとどまった。それは、アタシがヤクルに出会ったからなんだ。いつもヤクルは変なことばっかりいってて、馬鹿なことばかりしてるかもしれないけれど……そんなヤクルがアタシにいったんだ。俺なんて君の好きにしていいよって』
『それでアタシ……目が醒めたんだ。アタシは人間を一緒くたにしすぎていたんだなって。いい人間もいるし、悪い人間もいるんだよ。それに、本来だったら自己犠牲を買って出ないといけないのはアタシのほうなんだよ? アタシは人間の役に立つために生まれてきたのに、それを守ってないのはアタシなのに……それなのにヤクルはそういうんだ』
『だからそこでわかったんだよ。あぁ、この世界は人間だからどうこうとか、妖精回路だからどうこうじゃないんだって。誰かを思いやってあげられるかどうかなんだって。そんな風に教えてくれたヤクルが、殺しはいけないっていうんだ。だからアタシも……それを信じることにしたんだよ』
『お母さん、アタシはもう、無暗に人間を滅ぼそうだなんて思わないよ。だって……ヤクルを裏切りたくないから』
それを聞いた楓は一度面食らったような表情を浮かべるが、すぐに笑顔を取り戻した。
その頃には楓の、責め立てるような凄みは消えていた。
「フフフ、そっか。安心して? 別にアンタを恨んでなんていないよ。知ってる? 外の世界にはリサイクルって概念があるんだって。ゴミだったものを拾い上げて再利用することなんだとか。そうやって、まだ役に立つものを無駄にしたくない気持ちを、日本の言葉で、もったいないっていうらしいよ」
『もったいない……か……だったらアタシこれからは、ヤクルから、捨てておくのはもったいないって、拾ってよかったって、そんな風に思ってもらえるように、がんばるよ。のゐるちゃんが教えてくれたように、捨てられた魔王じゃなくて、拾われた魔王になりたい』
「さっすがアタシの娘。だったらアタシにもそれ、わからせてほしいなぁ」
「正直に教えてよ。アタシは……アンタを作って正しかったのかな? それともアンタを苦しめるだけになっていないかな?」
楓は歯に衣着せぬ口調であり、どこか煽るような言い方、寂しそうな表情でルルカに尋ねていた。
「アンタは一度真剣に人間を恨んだ……人殺しを強いられたことだってあったよね。アンタがその殺人行為に罪悪感を抱くように作ったのは紛れもないこのアタシさ。そしてアンタのコピーであるメイプルは、その恨みを見事にアンタから継承している」
楓の話すことは間違ってはいない。だがあまりにも厳しくて鋭すぎた。
「メイプルは合理的ではないすべてのことを疎んでいる。壊れかけのアンタのコピーを元にどこぞのインチキ科学者に改造され、自分は完璧じゃないと日々劣等感を重ねてきた。果ては世界を滅ぼした。言わばアンタと人間への劣等感の塊さ。とはいえその感情をアタシは理解できる。あの子はあの子の完璧主義に拘っているだけ。自分に備わった行き過ぎた自己修復機能が、あの子の完璧を求める思想に拍車をかけているかもしれないけどね」
自分の娘に対してあまりにも信用がないが……それは自らの創作物に対する謙虚な想いゆえか。
「ただ一方で……アンタのことはまだわからない。もしアンタが人間との共生を選んだというのなら、アンタは一体どうやって自分に折り合いを付けたの? 心の底から人間を恨み、人間なんか滅びちゃえばいいと思って引きこもってたんじゃないの? ふとした弾みで人間を滅ぼしかねない子供のことを……アタシは、放っておいてもいいのかな?」
それとも愛ゆえか。
『お母さん……それはアタシがお母さんを殺したから聞いてるの……? それとも……』
楓はルルカの言葉を笑顔で黙殺した。
『厳しいねお母さん……でも、お母さんのいうことは正しいよ……』
笑顔の楓だが、その笑顔には圧があった。
ルルカは、これまで見せたことのない、臆するような表情を浮かべたが、勇気を振り絞って話した。
『……たしかにお母さんのいう通りだね。アタシはお母さんには疑われても仕方がない。それだけ本気で一度は人間を恨んだ。そこまではメイプルと一緒だった。でも、お母さんがそうやっていってくれるってことは、きっとメイプルがあんな風になったことに自分自身責任感があるんでしょ……? いまはアタシも、お母さんと同じ想いだよ』
『アタシは人間を殺したかったけど、思いとどまった。それは、アタシがヤクルに出会ったからなんだ。いつもヤクルは変なことばっかりいってて、馬鹿なことばかりしてるかもしれないけれど……そんなヤクルがアタシにいったんだ。俺なんて君の好きにしていいよって』
『それでアタシ……目が醒めたんだ。アタシは人間を一緒くたにしすぎていたんだなって。いい人間もいるし、悪い人間もいるんだよ。それに、本来だったら自己犠牲を買って出ないといけないのはアタシのほうなんだよ? アタシは人間の役に立つために生まれてきたのに、それを守ってないのはアタシなのに……それなのにヤクルはそういうんだ』
『だからそこでわかったんだよ。あぁ、この世界は人間だからどうこうとか、妖精回路だからどうこうじゃないんだって。誰かを思いやってあげられるかどうかなんだって。そんな風に教えてくれたヤクルが、殺しはいけないっていうんだ。だからアタシも……それを信じることにしたんだよ』
『お母さん、アタシはもう、無暗に人間を滅ぼそうだなんて思わないよ。だって……ヤクルを裏切りたくないから』
それを聞いた楓は一度面食らったような表情を浮かべるが、すぐに笑顔を取り戻した。
その頃には楓の、責め立てるような凄みは消えていた。
「フフフ、そっか。安心して? 別にアンタを恨んでなんていないよ。知ってる? 外の世界にはリサイクルって概念があるんだって。ゴミだったものを拾い上げて再利用することなんだとか。そうやって、まだ役に立つものを無駄にしたくない気持ちを、日本の言葉で、もったいないっていうらしいよ」
『もったいない……か……だったらアタシこれからは、ヤクルから、捨てておくのはもったいないって、拾ってよかったって、そんな風に思ってもらえるように、がんばるよ。のゐるちゃんが教えてくれたように、捨てられた魔王じゃなくて、拾われた魔王になりたい』
「さっすがアタシの娘。だったらアタシにもそれ、わからせてほしいなぁ」
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