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7章
67話
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「お母さん……ということは、あなたが出雲楓さん……!」
またもや三人は驚いた。出雲楓が現れたこと自体驚くべきことであるが、更なる驚くべき事実を、のゐるが見つける。
「……魚人族、だったんですか……!」
楓は、美しい人魚であった。その尾ヒレの一枚一枚が、光を複雑に乱反射させ、プリズムのように輝いている。
透けるドレスとそのヒレは、わずかに地面のうえに浮かび、手が届くほどの宙を遊泳していた。
あまりに美しい容貌。のゐるは、ニヤリと笑う人魚の表情が、ルルカのそれとすこし似ていると感じていた。
彼女こそが出雲楓。魚人族が産んだ、人類最高の科学者である。
「フフフ。ルルカに友だちがたくさんいる……あれから一五〇〇年。長かったねぇ」
「あーごめん楓ちゃん、ビックリする顔が見たくて、三人にいろいろ話しちゃってた」
「いやヘミュエル、アタシに話させる気じゃなかったの? 説明も専門用語出しすぎだし……まぁちょっとみんなウチ来てよ。続き話すから」
「この世界が仮想現実であるということは、カプセルに入ったときから想像がついていましたが……まだ実感が沸きません……ということは、この世界は娯楽のために作られた世界で、私たちはそのなかにいるということなんですね……?」
「のゐるちゃん、そりゃ実感なんて湧かないと思うよ。ステータス、経験値、レベル、ジョブ、魔法、固有スキル……みんなゲームのために作られた設定なのさ。デバッグルームっていうのは簡単にいうと、この世界観に生じている欠陥を見つけ出したりするための空間ってことだね」
楓に招かれるままみな席に着いた。
大豪邸だった。楓が招いたその部屋には、ほら貝のように渦を巻く柱状の間接照明が等間隔に置かれ、大広間を薄く照らしている。楓はというと、こじんまりとしたバスタブに浸かって、気持ちよさそうに話していた。
「この世界に存在する人たちは、元は没入する以前の世界、つまり上位世界によって参入してきている。アンタたちがいた世界はグジパン国って呼ばれているよね? グジパンっていうのはアナグラムで、もともとは日本という国を指すんだよ。日本に住む人も、他所の国の人も、みんなこぞって同じ娯楽世界に入り込んで一緒に遊んでいるのさ。シミュレーターそれぞれが念話で繋がっているようなものだね」
「遊んでいる……ということは、私たちもみんな遊びに来た、参加者たちだと……?」
「いや、ただそれはもう何十世代も前のことだよ。いまさら外の世界がどうなっているかなんて誰も気にしてない。そもそもこのゲームではじめて遊んだ原初の人たちは、もう何千年も前の人たちだよ。とっくにみんな生きてはいないし、デバッグルームに匿われてもいない。いまそっちの世界に生きている人たちは旧プレイヤーの子孫だけさ。外の世界が西暦三千年ころ、この仮想世界ができて、それから外の世界の情報は一切入って来ていない」
楓は、外の世界に出る方法は誰にもわからず、外の世界とこの世界の時間の流れが等しいかどうか、こちらからはわからないため、この世界を俯瞰で見てきた人たちでさえ死んでしまっているかもしれず、既に外の世界も滅びてしまっているかもしれないと、重ねて説明した。
つまり、デバッグルームに存在する人たちを含めて、人々はこのゲームのなかに閉じ込められているということになる。外の世界が滅びているかもしれないというのであれば、この世界のことを現実と同じように捉える必要があるだろう。
「あぁそうそう、のゐるちゃんはここに来る前、転生があるかないかって気になっていたね。さっきもルルカが話してたけど、たしかに直接的に転生をする方法は存在しない。人造人間になるしかないんだよね。だからやっぱりこの世界は、死んだらそれで終わりの世界さ。ただそもそも、転生がヘミュエル四世やメイプルによって掘り下げられてきたのは、どうしてかわかる?」
「……?」
「メイプルは人間になりたいと思っていたんだよ。正確にはそれも、この世界の覇者になるための方法のひとつとして踏襲されてしまったけどね。転生が人造人間になることであるなら、みな人造人間になりたがる訳だし、メイプルはそこに目をつけたんだね」
「どうしてメイプルは……人間になりたいと思っているんですか?」
「ルルカが人間になりたいからだよ。アタシがそうなるように設計したんだけどね。そもそも人間と共生する意志がなければ妖精回路なんて、どれだけ賢くてもあっという間に淘汰されちゃうだろうから、申し訳程度にメイド服を着させてね。人間を羨みながら人間に給仕するように作ったつもりだったんだ。ルルカのなり損ないのメイプルは、いまや人間を滅ぼすことに躍起になっているけれども、それだって元は人間になりたいというルルカの羨望が、変に改造された結果なのさ」
ヘミュエルが楓の言葉に割って入る。
「楓ちゃんはいつもいっているよ。アタシが妖精回路を作ったのは正しかったのかどうか、って。俺はその度正しかったよって応えてはいるけど、どうだろう、君たちからも聞かせては貰えないだろうか? 楓ちゃんが妖精回路を作ったのは正しい、って……」
「いいやヘミュエル、アタシが一番聞きたいのはこういうことさ。ねぇ、ルルカはまだみんなに手を貸したいと思う? それとも……」
またもや三人は驚いた。出雲楓が現れたこと自体驚くべきことであるが、更なる驚くべき事実を、のゐるが見つける。
「……魚人族、だったんですか……!」
楓は、美しい人魚であった。その尾ヒレの一枚一枚が、光を複雑に乱反射させ、プリズムのように輝いている。
透けるドレスとそのヒレは、わずかに地面のうえに浮かび、手が届くほどの宙を遊泳していた。
あまりに美しい容貌。のゐるは、ニヤリと笑う人魚の表情が、ルルカのそれとすこし似ていると感じていた。
彼女こそが出雲楓。魚人族が産んだ、人類最高の科学者である。
「フフフ。ルルカに友だちがたくさんいる……あれから一五〇〇年。長かったねぇ」
「あーごめん楓ちゃん、ビックリする顔が見たくて、三人にいろいろ話しちゃってた」
「いやヘミュエル、アタシに話させる気じゃなかったの? 説明も専門用語出しすぎだし……まぁちょっとみんなウチ来てよ。続き話すから」
「この世界が仮想現実であるということは、カプセルに入ったときから想像がついていましたが……まだ実感が沸きません……ということは、この世界は娯楽のために作られた世界で、私たちはそのなかにいるということなんですね……?」
「のゐるちゃん、そりゃ実感なんて湧かないと思うよ。ステータス、経験値、レベル、ジョブ、魔法、固有スキル……みんなゲームのために作られた設定なのさ。デバッグルームっていうのは簡単にいうと、この世界観に生じている欠陥を見つけ出したりするための空間ってことだね」
楓に招かれるままみな席に着いた。
大豪邸だった。楓が招いたその部屋には、ほら貝のように渦を巻く柱状の間接照明が等間隔に置かれ、大広間を薄く照らしている。楓はというと、こじんまりとしたバスタブに浸かって、気持ちよさそうに話していた。
「この世界に存在する人たちは、元は没入する以前の世界、つまり上位世界によって参入してきている。アンタたちがいた世界はグジパン国って呼ばれているよね? グジパンっていうのはアナグラムで、もともとは日本という国を指すんだよ。日本に住む人も、他所の国の人も、みんなこぞって同じ娯楽世界に入り込んで一緒に遊んでいるのさ。シミュレーターそれぞれが念話で繋がっているようなものだね」
「遊んでいる……ということは、私たちもみんな遊びに来た、参加者たちだと……?」
「いや、ただそれはもう何十世代も前のことだよ。いまさら外の世界がどうなっているかなんて誰も気にしてない。そもそもこのゲームではじめて遊んだ原初の人たちは、もう何千年も前の人たちだよ。とっくにみんな生きてはいないし、デバッグルームに匿われてもいない。いまそっちの世界に生きている人たちは旧プレイヤーの子孫だけさ。外の世界が西暦三千年ころ、この仮想世界ができて、それから外の世界の情報は一切入って来ていない」
楓は、外の世界に出る方法は誰にもわからず、外の世界とこの世界の時間の流れが等しいかどうか、こちらからはわからないため、この世界を俯瞰で見てきた人たちでさえ死んでしまっているかもしれず、既に外の世界も滅びてしまっているかもしれないと、重ねて説明した。
つまり、デバッグルームに存在する人たちを含めて、人々はこのゲームのなかに閉じ込められているということになる。外の世界が滅びているかもしれないというのであれば、この世界のことを現実と同じように捉える必要があるだろう。
「あぁそうそう、のゐるちゃんはここに来る前、転生があるかないかって気になっていたね。さっきもルルカが話してたけど、たしかに直接的に転生をする方法は存在しない。人造人間になるしかないんだよね。だからやっぱりこの世界は、死んだらそれで終わりの世界さ。ただそもそも、転生がヘミュエル四世やメイプルによって掘り下げられてきたのは、どうしてかわかる?」
「……?」
「メイプルは人間になりたいと思っていたんだよ。正確にはそれも、この世界の覇者になるための方法のひとつとして踏襲されてしまったけどね。転生が人造人間になることであるなら、みな人造人間になりたがる訳だし、メイプルはそこに目をつけたんだね」
「どうしてメイプルは……人間になりたいと思っているんですか?」
「ルルカが人間になりたいからだよ。アタシがそうなるように設計したんだけどね。そもそも人間と共生する意志がなければ妖精回路なんて、どれだけ賢くてもあっという間に淘汰されちゃうだろうから、申し訳程度にメイド服を着させてね。人間を羨みながら人間に給仕するように作ったつもりだったんだ。ルルカのなり損ないのメイプルは、いまや人間を滅ぼすことに躍起になっているけれども、それだって元は人間になりたいというルルカの羨望が、変に改造された結果なのさ」
ヘミュエルが楓の言葉に割って入る。
「楓ちゃんはいつもいっているよ。アタシが妖精回路を作ったのは正しかったのかどうか、って。俺はその度正しかったよって応えてはいるけど、どうだろう、君たちからも聞かせては貰えないだろうか? 楓ちゃんが妖精回路を作ったのは正しい、って……」
「いいやヘミュエル、アタシが一番聞きたいのはこういうことさ。ねぇ、ルルカはまだみんなに手を貸したいと思う? それとも……」
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