61 / 82
6章
61話
しおりを挟む
突如ヤクルの眼前に現れたそれはこの世のものではなかった。比喩ではなく文字通りそうだ。彼はこれまでそのようなものを見たことはなかったが、直観的にそれがなにか認識することができた。ただ驚くべきは、その数が異常であったことだ。野生動物や虫ですらここまで群れることはないだろう。
十や二十ではない。千や万の数の霊たちだ。
ヤクルを球状に囲い込み、まるで魚群のように連なって一斉にぐるぐると回りながら、全員がひとつの方向へと指を指している。先ほどまで壁いっぱいにカプセルを見ていたはずが、霊の壁はその光景を遮った。
どうやらそれらはみな、敵であるヘミュエル四世を指差しているようだ。
「こ、これは……っ?」
「おう、聞こえるか! ヤクル!」
「ナナジマ先生……!? 一体なにが!?」
「治療の甲斐あってな、和久井姉が目を覚ましたぞ。固有スキルは霊話だ。幽霊と会話できるらしい。ヘミュエル四世に殺された三十億人の霊たちが、いまはお前の味方だ!」
「三十億人……っ!?」
そこまで多くの人たちが味方してくれているというのが信じられないが、確かにヘミュエル四世に殺された人たちともなれば、こうして手を貸してくれることも頷ける。人種も種族も関係なし、彼らの考えは一致している。
自分たちが恨むべくヘミュエル四世を倒してほしい。それが幽霊たちの総意であった。
「ヤクルン聞こえる?」
ヒカゲの念話がヒナタと繋がって、ヤクルにもその声が届いた。
「ヒナタ先生! えぇと、ヘミュエル四世が攻めてきて大変なんです……!」
「大丈夫、わかってるから。霊たちから聞いてるから、僕のほうがこの事情について詳しいよ。ヘミュエル四世がヤクルンをおびき寄せて、メイプルへの復讐の道具にしようとしてるんでしょ」
「えっ……すごい……」
「いいから彼らが指を指すほうへ思い切り飛び込んで! みんなを信じて!」
その言葉を聞いてヤクルは飛んだ。先のゴーレムとの戦いを彷彿とさせる突進だ。
最早この世の理に縛られていない幽霊たちとヒナタを信じるしかない。誤ってカプセルに衝突してしまわないかだとか、幽霊を消し飛ばしてしまわないかだとか、そのような杞憂は一切無視だ。
すると、ドン、と……たしかに感触があった。
「ぐぅうううううう……ッ!!!」
「やっ……やった!」
当たった。
ヤクルはヘミュエル四世へ、ようやく一発を返すことができた。
「……くッ……フ、フフフフフフフフ……まぐれ当たりかァ……? なんだそれは……突進? たかだか一発如き……笑わせるなッ!!!」
「ぐわッ……!?」
とはいえフルパラメーター同士の殴り合いができるという訳ではなかった。幽霊たちの指はヘミュエル四世の動きを追いかけてはいたが、それでもヤクルたちの不利は変わらなかった。
「くっ……そんな……どうしたら……?」
一難去ってまた一難。ヘミュエル四世の姿が追えるようになった訳ではないため、とても咄嗟の反応など出来はしない。
幽霊たちの指の動きを追い続けながら攻撃をすることは困難だ。ヤクルの攻撃が当たったとしても、鋭く飛んでくる反撃にはとても対応できない。
つまり、殴るたび、殴り返すチャンスを与えることになる。ヤクルたちには、未来予知に近い先見の明が必要だった。
……ヤクルがどうすれば、と困っていると、のゐるが彼に向け投げかけた。
「ヤクルさん、知っていますか……?」
のゐるは、幽霊たちに報いるためには、自分が更に尽力する必要があるとわかっていた。
「経験値は、ステータスに振ってこそ意味があるんです……!」
種田のいる様――経験値を固有スキルに使用しますか?
のゐるはメッセージウィンドウに表示される「はい」を連打した。
十や二十ではない。千や万の数の霊たちだ。
ヤクルを球状に囲い込み、まるで魚群のように連なって一斉にぐるぐると回りながら、全員がひとつの方向へと指を指している。先ほどまで壁いっぱいにカプセルを見ていたはずが、霊の壁はその光景を遮った。
どうやらそれらはみな、敵であるヘミュエル四世を指差しているようだ。
「こ、これは……っ?」
「おう、聞こえるか! ヤクル!」
「ナナジマ先生……!? 一体なにが!?」
「治療の甲斐あってな、和久井姉が目を覚ましたぞ。固有スキルは霊話だ。幽霊と会話できるらしい。ヘミュエル四世に殺された三十億人の霊たちが、いまはお前の味方だ!」
「三十億人……っ!?」
そこまで多くの人たちが味方してくれているというのが信じられないが、確かにヘミュエル四世に殺された人たちともなれば、こうして手を貸してくれることも頷ける。人種も種族も関係なし、彼らの考えは一致している。
自分たちが恨むべくヘミュエル四世を倒してほしい。それが幽霊たちの総意であった。
「ヤクルン聞こえる?」
ヒカゲの念話がヒナタと繋がって、ヤクルにもその声が届いた。
「ヒナタ先生! えぇと、ヘミュエル四世が攻めてきて大変なんです……!」
「大丈夫、わかってるから。霊たちから聞いてるから、僕のほうがこの事情について詳しいよ。ヘミュエル四世がヤクルンをおびき寄せて、メイプルへの復讐の道具にしようとしてるんでしょ」
「えっ……すごい……」
「いいから彼らが指を指すほうへ思い切り飛び込んで! みんなを信じて!」
その言葉を聞いてヤクルは飛んだ。先のゴーレムとの戦いを彷彿とさせる突進だ。
最早この世の理に縛られていない幽霊たちとヒナタを信じるしかない。誤ってカプセルに衝突してしまわないかだとか、幽霊を消し飛ばしてしまわないかだとか、そのような杞憂は一切無視だ。
すると、ドン、と……たしかに感触があった。
「ぐぅうううううう……ッ!!!」
「やっ……やった!」
当たった。
ヤクルはヘミュエル四世へ、ようやく一発を返すことができた。
「……くッ……フ、フフフフフフフフ……まぐれ当たりかァ……? なんだそれは……突進? たかだか一発如き……笑わせるなッ!!!」
「ぐわッ……!?」
とはいえフルパラメーター同士の殴り合いができるという訳ではなかった。幽霊たちの指はヘミュエル四世の動きを追いかけてはいたが、それでもヤクルたちの不利は変わらなかった。
「くっ……そんな……どうしたら……?」
一難去ってまた一難。ヘミュエル四世の姿が追えるようになった訳ではないため、とても咄嗟の反応など出来はしない。
幽霊たちの指の動きを追い続けながら攻撃をすることは困難だ。ヤクルの攻撃が当たったとしても、鋭く飛んでくる反撃にはとても対応できない。
つまり、殴るたび、殴り返すチャンスを与えることになる。ヤクルたちには、未来予知に近い先見の明が必要だった。
……ヤクルがどうすれば、と困っていると、のゐるが彼に向け投げかけた。
「ヤクルさん、知っていますか……?」
のゐるは、幽霊たちに報いるためには、自分が更に尽力する必要があるとわかっていた。
「経験値は、ステータスに振ってこそ意味があるんです……!」
種田のいる様――経験値を固有スキルに使用しますか?
のゐるはメッセージウィンドウに表示される「はい」を連打した。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~
昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
人生フリーフォールの僕が、スキル【大落下】で逆に急上昇してしまった件~世のため人のためみんなのために戦ってたら知らぬ間に最強になってました
THE TAKE
ファンタジー
落ちて落ちて落ちてばかりな人生を過ごしてきた高校生の僕【大楽 歌(オオラク ウタ)】は、諦めずコツコツと努力に努力を積み重ね、ついに初めての成功を掴み取った。……だったのに、橋から落ちて流されて、気付けば知らない世界の空から落ちてました。
神から与えられしスキル【大落下】を駆使し、落ちっぱなしだった僕の人生を変えるため、そしてかけがえのない人たちを守るため、また一から人生をやり直します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる