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6章
59話
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「ヤクルさん見てください! みなさんメッセージウィンドウの前から動きません……小説を……?」
のゐるが慌てた声でヤクルに告げる。応じたのはヘミュエル四世だ。
「正確には書いているというより体験しているといったほうが近い。シミュレーターが乱数で生み出した世界観に没入させ、一切外に出ることなくその環境で生活し続けている。その体験は作家たちが持っているポテンシャルに伴って自動的に文字列化され、ライターズワールドに投稿される。最高の環境だよ。スランプに陥ることもない」
この世界で名をあげる方法は主に三種存在する。王政が指揮する軍で名をあげるか、ギルドで強さや名前を誇示するか、それか小説を書くかである。小説が評価されれば、それに応じた金額や経験値を得ることができる。
先にヘミュエル四世が作家のヒエラルキーが高すぎると述べていた理由がこれだ。確かに「モンスターの討伐」や「ミッション攻略」の貢献に並ぶほど「小説を書くこと」が評価されるというのは世の道理からすれば不釣り合いだろう。剣士が任務に命を賭けるのと、小説家が自身の筆に命を賭けるのでは、命の賭け方が違い過ぎる。
しかしどうして、小説だけがこれほど世のなかに評価されやすい基盤が整っているのだろうか。例えばgスポーツなどただ大会があるだけで、それだけではとても食べてなどいけはしない。シミュレーターを用いてどれほど遊べど、実際にゴーレムを操縦して王政に従わなければ一銭の利益にもならない、ただの道楽である。だというのに小説は、この世界において評価され過ぎている……ヘミュエル四世にはそのような勘繰りがあった。
この施設はそのように穿って導き出した、彼女の哲学の集大成と呼ぶことができた。そして、彼女がこの王城の中枢へとヤクルを招いていたのは、作家であるという恩恵を受けながらも、いまなお生き延びている彼らに、この光景を見せつけたいという意図があったからかもしれない。
「こんなの……小説を書いているといえるんですか……? おかしいですよ、やはりあなたはおかしい!」
「しかし現にアンタたちはそうやって書かれた小説を楽しんできた。小説が生まれるだけメイプルや私のもとに金と経験値が無限に集まるんだが、どうやら要らないようだからね。恩恵にだけ預からせてもらったよ。そりゃそうだよね、この子たちは小説だけ書いていればいいんだから。私たちは邪魔しちゃいけない。要らないものは全部もらって差し上げないとね」
小説が書籍化されて誰かがそれを購入すると、その金は執筆者の財布に入る。またライターズワールドで小説を評価されると、執筆者は経験値を手にすることができる。しかしそのいずれも誰かに譲渡することができる。つまり取り上げてしまう施設を作ってしまえば、それらを自由に手中に納めることができた。
「最初は赤字だったよ。でもそこを抜け出せば、この世界が滅びるまでは金のなる木だったさ。経験値と金を無限に生み出し、私とメイプルを随分潤わせてくれた。表にいた教団員たちはもともとこの施設の番人でね。よく働いてくれたよ。もっとも、誰に思考を操作されていなくても働き者だったとは知らなかったけれどね。アンタたちもよくこき使っただろう?」
「……っ」
「そうしてここで生まれた利益は人類再起動魔導爆弾の製造や、ゴーレムの製造なんかに還元された……うちの教団員たちも健気だけど、カプセルのなかの連中も健気だよねぇ。いまや誰も読んでいないのに、一生懸命小説を書いててさァ……!」
「ふざけるなぁあああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
のゐるが慌てた声でヤクルに告げる。応じたのはヘミュエル四世だ。
「正確には書いているというより体験しているといったほうが近い。シミュレーターが乱数で生み出した世界観に没入させ、一切外に出ることなくその環境で生活し続けている。その体験は作家たちが持っているポテンシャルに伴って自動的に文字列化され、ライターズワールドに投稿される。最高の環境だよ。スランプに陥ることもない」
この世界で名をあげる方法は主に三種存在する。王政が指揮する軍で名をあげるか、ギルドで強さや名前を誇示するか、それか小説を書くかである。小説が評価されれば、それに応じた金額や経験値を得ることができる。
先にヘミュエル四世が作家のヒエラルキーが高すぎると述べていた理由がこれだ。確かに「モンスターの討伐」や「ミッション攻略」の貢献に並ぶほど「小説を書くこと」が評価されるというのは世の道理からすれば不釣り合いだろう。剣士が任務に命を賭けるのと、小説家が自身の筆に命を賭けるのでは、命の賭け方が違い過ぎる。
しかしどうして、小説だけがこれほど世のなかに評価されやすい基盤が整っているのだろうか。例えばgスポーツなどただ大会があるだけで、それだけではとても食べてなどいけはしない。シミュレーターを用いてどれほど遊べど、実際にゴーレムを操縦して王政に従わなければ一銭の利益にもならない、ただの道楽である。だというのに小説は、この世界において評価され過ぎている……ヘミュエル四世にはそのような勘繰りがあった。
この施設はそのように穿って導き出した、彼女の哲学の集大成と呼ぶことができた。そして、彼女がこの王城の中枢へとヤクルを招いていたのは、作家であるという恩恵を受けながらも、いまなお生き延びている彼らに、この光景を見せつけたいという意図があったからかもしれない。
「こんなの……小説を書いているといえるんですか……? おかしいですよ、やはりあなたはおかしい!」
「しかし現にアンタたちはそうやって書かれた小説を楽しんできた。小説が生まれるだけメイプルや私のもとに金と経験値が無限に集まるんだが、どうやら要らないようだからね。恩恵にだけ預からせてもらったよ。そりゃそうだよね、この子たちは小説だけ書いていればいいんだから。私たちは邪魔しちゃいけない。要らないものは全部もらって差し上げないとね」
小説が書籍化されて誰かがそれを購入すると、その金は執筆者の財布に入る。またライターズワールドで小説を評価されると、執筆者は経験値を手にすることができる。しかしそのいずれも誰かに譲渡することができる。つまり取り上げてしまう施設を作ってしまえば、それらを自由に手中に納めることができた。
「最初は赤字だったよ。でもそこを抜け出せば、この世界が滅びるまでは金のなる木だったさ。経験値と金を無限に生み出し、私とメイプルを随分潤わせてくれた。表にいた教団員たちはもともとこの施設の番人でね。よく働いてくれたよ。もっとも、誰に思考を操作されていなくても働き者だったとは知らなかったけれどね。アンタたちもよくこき使っただろう?」
「……っ」
「そうしてここで生まれた利益は人類再起動魔導爆弾の製造や、ゴーレムの製造なんかに還元された……うちの教団員たちも健気だけど、カプセルのなかの連中も健気だよねぇ。いまや誰も読んでいないのに、一生懸命小説を書いててさァ……!」
「ふざけるなぁあああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
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