ライターズワールドオンライン~非戦闘ジョブ「アマ小説家」で最弱スキル「ゴミ拾い」の俺が崩壊世界でなりあがる~

いる

文字の大きさ
上 下
59 / 82
6章

59話

しおりを挟む
「ヤクルさん見てください! みなさんメッセージウィンドウの前から動きません……小説を……?」

 のゐるが慌てた声でヤクルに告げる。応じたのはヘミュエル四世だ。

「正確には書いているというよりといったほうが近い。シミュレーターが乱数でランダムに生み出した世界観に没入させ、一切外に出ることなくその環境で生活し続けている。その体験は作家たちが持っているポテンシャルに伴って自動的に文字列化され、ライターズワールドに投稿される。最高の環境だよ。スランプに陥ることもない」

 で名をあげる方法は主に三種存在する。王政が指揮する軍で名をあげるか、ギルドで強さや名前を誇示するか、それか小説を書くかである。小説が評価されれば、それに応じた金額や経験値を得ることができる。

 先にヘミュエル四世が作家のヒエラルキー身分が高すぎると述べていた理由がこれだ。確かに「モンスターの討伐」や「ミッション攻略」の貢献に並ぶほど「小説を書くこと」が評価されるというのは世の道理からすれば不釣り合いだろう。剣士がに命を賭けるのと、小説家がに命を賭けるのでは、命の賭け方が違い過ぎる。

 しかしどうして、小説だけがこれほど世のなかに評価されやすい基盤インフラが整っているのだろうか。例えばgスポーツなどただ大会があるだけで、それだけではとても食べてなどいけはしない。シミュレーターを用いてどれほど遊べど、実際にゴーレムを操縦して王政に従わなければ一銭の利益にもならない、ただの道楽である。だというのに小説は、この世界において評価され過ぎている……ヘミュエル四世にはそのような勘繰りがあった。

 この施設はそのように穿うがって導き出した、彼女の哲学の集大成と呼ぶことができた。そして、彼女がこの王城の中枢へとヤクルを招いていたのは、作家であるという恩恵を受けながらも、いまなお生き延びている彼らに、この光景を見せつけたいという意図があったからかもしれない。



「こんなの……小説を書いているといえるんですか……? おかしいですよ、やはりあなたはおかしい!」

「しかし現にアンタたちはそうやって書かれた小説を楽しんできた。小説が生まれるだけメイプルや私のもとに金と経験値が無限に集まるんだが、どうやら要らないようだからね。恩恵にだけ預からせてもらったよ。そりゃそうだよね、この子たちは小説だけ書いていればいいんだから。私たちは邪魔しちゃいけない。は全部もらって差し上げないとね」

 小説が書籍化されて誰かがそれを購入すると、その金は執筆者の財布に入る。またライターズワールドで小説を評価されると、執筆者は経験値を手にすることができる。しかしそのいずれも誰かに譲渡することができる。つまり取り上げてしまう施設を作ってしまえば、それらを自由に手中に納めることができた。

「最初はだったよ。でもそこを抜け出せば、この世界が滅びるまではだったさ。経験値と金を無限に生み出し、私とメイプルを随分潤わせてくれた。表にいた教団員たちはもともとこの施設の番人でね。よく働いてくれたよ。もっとも、誰に思考を操作されていなくても働き者だったとは知らなかったけれどね。アンタたちもよくこき使っただろう?」

「……っ」

「そうしてここで生まれた利益は人類再起動魔導爆弾の製造や、ゴーレムの製造なんかに還元された……うちの教団員たちも健気だけど、カプセルのなかの連中も健気だよねぇ。いまや誰も読んでいないのに、一生懸命小説を書いててさァ……!」

「ふざけるなぁあああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...