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6章
54話
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『あり得ない……!』
一番驚いていたのは飛翔するヤクルの座標を捉えていたルルカであった。彼女は拘束されたこの環境でも敵と味方の位置関係を捉えることはできるが、微細な操縦ができないため、超集中を固有スキルとして持つ彼女にヤクルの操縦を委ねていた。
ルルカが驚いたのは、のゐるが先の一瞬で数百ページにもわたるヤクルの操縦方法を理解したこともそうだが、そのような付け焼刃の操縦が、ルルカのそれと同等か、あるいはそれ以上に正確であったことだ。ヤクルはこれまでルルカが計測したことのない速度で、ぐんぐん城へと向かっていく。
人工知能であるルルカですら、高速で飛び回るヤクルの操縦ともなれば判断を誤ることもあるが、のゐるがパジャマ姿のままお茶の間で操縦するヤクルは、上空に待つヘミュエル教団員の攻撃を容易に躱していく。
針の穴を通すような繊細な操作の連続。そこにひとつとして悪手はない。
『のゐるちゃん……明らかに人間を越えてる。いや、妖精回路をも越えようとしているの……?』
掘っ立て小屋の窓と、のゐるの目の前に広がるウィンドウからも、その様子は目に見えた。未だ念話で繋がっているヒカゲとナナジマは、ヤクルの驚異の軌跡と、のゐるの横顔を目に焼き付けていた。
「すごすぎるのゐる先生……! なにヤクルンのあの速度……早馬の二十倍、いや、三十倍……? それに、メッセージウィンドウに入力するWASDとスペースキーだけであそこまで急旋回と攪乱できるものなの……? もう肉眼じゃ見えなくなりそう……!」
「なんじゃありゃぁ……! すげぇな……ちょっとやそっとの凄さじゃねぇ。とんでもねぇぞ……!」
教団員の攻撃は空を駆けてぶつかってくるだけではない。火を噴く者もいれば、リルのように身体の一部を武器のようにして攻撃する者もいる。雷が落ち、矢が放たれ、樹木が伸び、槍が舞い、針が飛び、岩が投げられ、毒霧が立ち込める。ただ、数十、数百の固有スキルたちは、ひとつ残らず空を切る。確実にヤクルを捉えた攻撃であるというのに、当たらない、当たらない、当たらなかった。
「……!」
瞬間、のゐるはなにかに気が付いた。ヤクルは既に空の裂け目を越え、宙に浮かぶ城の淵にまで辿り着いていたが、敵の数は一層増えていく。その渦中、彼女はひとつも慌てる素振りを見せずにヤクルへ指示を出した。
「ヤクルさん、アカンさんです……あの人の固有スキルは確か鈍足化です。こちらはビームを撃ちます」
「えっ、ビームですか!? ちょっ……のゐる先生!?」
ヤクルの右腕が縦に開き、豆電球が現れた。それはかつてナナジマの背後のビル群をなぎ倒し、巨大な畑を作り上げたビームの発射口であった。
「ちょっ……のゐる先生そのビームは教団員の方に当たったらヤバいんじゃうわああああああああっ!!!」
光が放たれた。なにかの制御が働いたのか、当時と比べて随分と微小な威力であった。
光は城の床の大理石に当たると跳弾し、さらに大理石でできたアーチに当たって跳ね返る。
次にアーチから時計台へ、時計台から噴水へ、噴水から太い柵、柵から床、そうして最終的に、体の一部を武器として変形させヤクルに切りかかろうとしていた教団員の、その武器へと命中した。
教団員は衝撃に強く押され、鈍足化を放とうとしていたアカンをも巻き込んでそのまま飛んでいった。
ただ、二人は吹き飛ばされただけで、ビームが命中した男も、またアカンも無事であった。
「殺しませんよ。そんなことしたらヤクルさんの主義に反するじゃないですか」
一番驚いていたのは飛翔するヤクルの座標を捉えていたルルカであった。彼女は拘束されたこの環境でも敵と味方の位置関係を捉えることはできるが、微細な操縦ができないため、超集中を固有スキルとして持つ彼女にヤクルの操縦を委ねていた。
ルルカが驚いたのは、のゐるが先の一瞬で数百ページにもわたるヤクルの操縦方法を理解したこともそうだが、そのような付け焼刃の操縦が、ルルカのそれと同等か、あるいはそれ以上に正確であったことだ。ヤクルはこれまでルルカが計測したことのない速度で、ぐんぐん城へと向かっていく。
人工知能であるルルカですら、高速で飛び回るヤクルの操縦ともなれば判断を誤ることもあるが、のゐるがパジャマ姿のままお茶の間で操縦するヤクルは、上空に待つヘミュエル教団員の攻撃を容易に躱していく。
針の穴を通すような繊細な操作の連続。そこにひとつとして悪手はない。
『のゐるちゃん……明らかに人間を越えてる。いや、妖精回路をも越えようとしているの……?』
掘っ立て小屋の窓と、のゐるの目の前に広がるウィンドウからも、その様子は目に見えた。未だ念話で繋がっているヒカゲとナナジマは、ヤクルの驚異の軌跡と、のゐるの横顔を目に焼き付けていた。
「すごすぎるのゐる先生……! なにヤクルンのあの速度……早馬の二十倍、いや、三十倍……? それに、メッセージウィンドウに入力するWASDとスペースキーだけであそこまで急旋回と攪乱できるものなの……? もう肉眼じゃ見えなくなりそう……!」
「なんじゃありゃぁ……! すげぇな……ちょっとやそっとの凄さじゃねぇ。とんでもねぇぞ……!」
教団員の攻撃は空を駆けてぶつかってくるだけではない。火を噴く者もいれば、リルのように身体の一部を武器のようにして攻撃する者もいる。雷が落ち、矢が放たれ、樹木が伸び、槍が舞い、針が飛び、岩が投げられ、毒霧が立ち込める。ただ、数十、数百の固有スキルたちは、ひとつ残らず空を切る。確実にヤクルを捉えた攻撃であるというのに、当たらない、当たらない、当たらなかった。
「……!」
瞬間、のゐるはなにかに気が付いた。ヤクルは既に空の裂け目を越え、宙に浮かぶ城の淵にまで辿り着いていたが、敵の数は一層増えていく。その渦中、彼女はひとつも慌てる素振りを見せずにヤクルへ指示を出した。
「ヤクルさん、アカンさんです……あの人の固有スキルは確か鈍足化です。こちらはビームを撃ちます」
「えっ、ビームですか!? ちょっ……のゐる先生!?」
ヤクルの右腕が縦に開き、豆電球が現れた。それはかつてナナジマの背後のビル群をなぎ倒し、巨大な畑を作り上げたビームの発射口であった。
「ちょっ……のゐる先生そのビームは教団員の方に当たったらヤバいんじゃうわああああああああっ!!!」
光が放たれた。なにかの制御が働いたのか、当時と比べて随分と微小な威力であった。
光は城の床の大理石に当たると跳弾し、さらに大理石でできたアーチに当たって跳ね返る。
次にアーチから時計台へ、時計台から噴水へ、噴水から太い柵、柵から床、そうして最終的に、体の一部を武器として変形させヤクルに切りかかろうとしていた教団員の、その武器へと命中した。
教団員は衝撃に強く押され、鈍足化を放とうとしていたアカンをも巻き込んでそのまま飛んでいった。
ただ、二人は吹き飛ばされただけで、ビームが命中した男も、またアカンも無事であった。
「殺しませんよ。そんなことしたらヤクルさんの主義に反するじゃないですか」
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